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第4章 飄々
第5話 窟核
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――――五五階層出口
ツンツクはモンスター達の上空を滑空していた。
ツンツクを見つけ上に手を伸ばし攻撃するがその隙間を嘲笑い、弄ぶかのように通り過ぎる。
高速で近付くと風刃を飛ばし出口付近のモンスターを一気に倒した。
その攻撃を受けたモンスターが黒い煙へと変わり、生まれた空間でツンツクは動きを止める。
それを見て殺到するモンスター達。
ツンツクはホバリングをしながら、瞬間移動するように場所を変えた。
その動きに釣られるモンスターを誘導しコントロールする。
そして――モンスター同士で多重に発生するクロスカウンター。
入り口を固めていたモンスターが仲間同士の打撃で吹き飛び出口周辺にぽっかりと空間が出来上がった。
スタンピードの時にも見た光景だ。
そこへ急降下するオナイギ。
「あなた。お疲れさま」
そう言って下層へつながる階段へ入っていった。
それにツンツクも続く。
――あれ? ……ツンツクさん殲滅戦の流れでは?
ディレイ作戦は全く効果を示さずツンツクに秒で攻略された。
階段を疾風のごとくオナイギが先行し、そして――制動も残さず一瞬でピタリと止まる。
「――あなた。かすみ網よ」
アネリアによって階段へ仕掛けられたトラップを身に纏う風の魔法で感知し瞬時に停止して見せた。
風颶鳥が誇る絶対の防御力だ。
「おうともさっ!」
ツンツクは風刃でかすみ網を切ると羽を畳んでその隙間を飛び通った。
今度はオナイギがその後を追う。
次の階層に行くまでにもう一度かすみ網が仕掛けられていたが、素早く見抜いたツンツクにより無力化された。
最速で最下層を目指すのを辞め、主の指示通り遅延作戦を繰り返すアネリアと最短攻略を目指すツンツクの追いかけっこは暫く続けられる。
§
ノアと連絡が取れなくなって四日。
その報告がギルド長の耳に届いたのは昼過ぎだった。
「なにっ? 小僧を襲った冒険者が自首してきただと? 小僧はどうなった?」
エレオノーラの報告にギルド長は問い返す。
「それは分かりません。十九名のB級冒険者がノアさんを取り囲み何をされたか分からずに倒されたと言っています。ノアさんを襲ったのはもう一人ナナシと名乗るA級冒険者がおり。この者が首謀者のようです」
「A級? そのナナシはどうした?」
「現在捜索中ですが、足取りはつかめていません」
「二十人を返り討ちした本人が行方不明とは……どういうこった。小僧を襲った理由はなんだ?」
「自首してきた者達もその時は酷い殺意をノアさんに持っていたようです。何故そのようは感情を持ったのか、今は分からないと口を揃えています。今は個別にギルドの謹慎部屋に押し込んでいます」
「ダンジョン内での人殺しは重罪だ。それは未遂でもな。だが、状況が分からない。殺すなり襲うなりの覚悟を決めた者が失敗したからって自首してくるか? 普通逃げるだろう」
「全員自分のしたことの責任を取るために出頭しました。その冒険者達は皆、今まで人柄と実績に問題の無い人物です」
「なんだと? どういう意味だ。操られたってことか? そんなことが出来るのか?」
「分かりません。ノアさんが戻ってくればその時の詳しい状況が聞き取り出来るのでしょうが」
「こんなことなら、さっさとB級のギルドカード渡しておけばよかったよ」
「すみません。私の判断が間違っていたかもしれません」
「いやっ。エレンを責めているわけじゃないんだ。判断を任せたのも俺だ。責任は俺にある」
気にかけてやってくれと頼んできた友に、任せとけと大口を叩いた手紙を書いておいてこれだ。
「二一階層の検索部隊を手配しますか?」
「いや。ダンジョンは異常事態中だ。要救助者が増えることになりかねん。――今は静観の時だ」
あいつも若いころはダンジョンで何日も連絡がつかないなんてことが良くあった。
こちらの心配をよそにちゃっかり酒場で酒を飲んでるのをみたときは殺意が湧いて殴りかかった。
当然のように避けられたが。
(――弟子もそうあってくれ)
侵不の棒使いの呼び名が広まりつつあるノア。
(それを聞いて嫌がる顔を俺に見せて意趣返しをさせろ。そして――今の状況を笑い話にしてくれよ)
ギルド長はダンジョンの方向を睨みつけた。
§
少女は慣れない手つきで生体スキャンを操作する。
いつもならヌクレオに頼めばこんな器具を使わずとも済んでいた。
マニュアルを読みながらコマンド端末で入力する。
光と鈍い作動音を伴い空中に浮かび上がる生体スキャン。
男の頭から足をなぞるように移動を始めた。
(――解析結果。……不明。またっ! またなのっ!)
焦れた心で唇をかむ。
(風颶鳥が六〇階層に到達……前回は一羽だったしテイマーがいたからもっとゆっくり攻略して来ていたけど。これが枷のない風颶鳥の本気。アネリアのディレイ作戦でもほとんど一瞬で次の階層に進んでいる。まだ余裕はあるけど。八〇階層を超えたら覚悟を決める必要があるわね)
(他に出来ることは何? ――考えてっ! 考えろっ! 浮かべっ! 思い付けっ!)
焦燥が少女から言葉を零れさせる。
「――ヌクレオッ」
無意識の呟きだった。何十万回と語りかけた口馴染んだ言葉だった。
頼りになる相棒の名だった。今は何も期待していなかった。
それなのに――それは突然現れた。
少女の目の前に透明なダンジョンのヌクレオが唐突に現れる。
そして――
ツンツクはモンスター達の上空を滑空していた。
ツンツクを見つけ上に手を伸ばし攻撃するがその隙間を嘲笑い、弄ぶかのように通り過ぎる。
高速で近付くと風刃を飛ばし出口付近のモンスターを一気に倒した。
その攻撃を受けたモンスターが黒い煙へと変わり、生まれた空間でツンツクは動きを止める。
それを見て殺到するモンスター達。
ツンツクはホバリングをしながら、瞬間移動するように場所を変えた。
その動きに釣られるモンスターを誘導しコントロールする。
そして――モンスター同士で多重に発生するクロスカウンター。
入り口を固めていたモンスターが仲間同士の打撃で吹き飛び出口周辺にぽっかりと空間が出来上がった。
スタンピードの時にも見た光景だ。
そこへ急降下するオナイギ。
「あなた。お疲れさま」
そう言って下層へつながる階段へ入っていった。
それにツンツクも続く。
――あれ? ……ツンツクさん殲滅戦の流れでは?
ディレイ作戦は全く効果を示さずツンツクに秒で攻略された。
階段を疾風のごとくオナイギが先行し、そして――制動も残さず一瞬でピタリと止まる。
「――あなた。かすみ網よ」
アネリアによって階段へ仕掛けられたトラップを身に纏う風の魔法で感知し瞬時に停止して見せた。
風颶鳥が誇る絶対の防御力だ。
「おうともさっ!」
ツンツクは風刃でかすみ網を切ると羽を畳んでその隙間を飛び通った。
今度はオナイギがその後を追う。
次の階層に行くまでにもう一度かすみ網が仕掛けられていたが、素早く見抜いたツンツクにより無力化された。
最速で最下層を目指すのを辞め、主の指示通り遅延作戦を繰り返すアネリアと最短攻略を目指すツンツクの追いかけっこは暫く続けられる。
§
ノアと連絡が取れなくなって四日。
その報告がギルド長の耳に届いたのは昼過ぎだった。
「なにっ? 小僧を襲った冒険者が自首してきただと? 小僧はどうなった?」
エレオノーラの報告にギルド長は問い返す。
「それは分かりません。十九名のB級冒険者がノアさんを取り囲み何をされたか分からずに倒されたと言っています。ノアさんを襲ったのはもう一人ナナシと名乗るA級冒険者がおり。この者が首謀者のようです」
「A級? そのナナシはどうした?」
「現在捜索中ですが、足取りはつかめていません」
「二十人を返り討ちした本人が行方不明とは……どういうこった。小僧を襲った理由はなんだ?」
「自首してきた者達もその時は酷い殺意をノアさんに持っていたようです。何故そのようは感情を持ったのか、今は分からないと口を揃えています。今は個別にギルドの謹慎部屋に押し込んでいます」
「ダンジョン内での人殺しは重罪だ。それは未遂でもな。だが、状況が分からない。殺すなり襲うなりの覚悟を決めた者が失敗したからって自首してくるか? 普通逃げるだろう」
「全員自分のしたことの責任を取るために出頭しました。その冒険者達は皆、今まで人柄と実績に問題の無い人物です」
「なんだと? どういう意味だ。操られたってことか? そんなことが出来るのか?」
「分かりません。ノアさんが戻ってくればその時の詳しい状況が聞き取り出来るのでしょうが」
「こんなことなら、さっさとB級のギルドカード渡しておけばよかったよ」
「すみません。私の判断が間違っていたかもしれません」
「いやっ。エレンを責めているわけじゃないんだ。判断を任せたのも俺だ。責任は俺にある」
気にかけてやってくれと頼んできた友に、任せとけと大口を叩いた手紙を書いておいてこれだ。
「二一階層の検索部隊を手配しますか?」
「いや。ダンジョンは異常事態中だ。要救助者が増えることになりかねん。――今は静観の時だ」
あいつも若いころはダンジョンで何日も連絡がつかないなんてことが良くあった。
こちらの心配をよそにちゃっかり酒場で酒を飲んでるのをみたときは殺意が湧いて殴りかかった。
当然のように避けられたが。
(――弟子もそうあってくれ)
侵不の棒使いの呼び名が広まりつつあるノア。
(それを聞いて嫌がる顔を俺に見せて意趣返しをさせろ。そして――今の状況を笑い話にしてくれよ)
ギルド長はダンジョンの方向を睨みつけた。
§
少女は慣れない手つきで生体スキャンを操作する。
いつもならヌクレオに頼めばこんな器具を使わずとも済んでいた。
マニュアルを読みながらコマンド端末で入力する。
光と鈍い作動音を伴い空中に浮かび上がる生体スキャン。
男の頭から足をなぞるように移動を始めた。
(――解析結果。……不明。またっ! またなのっ!)
焦れた心で唇をかむ。
(風颶鳥が六〇階層に到達……前回は一羽だったしテイマーがいたからもっとゆっくり攻略して来ていたけど。これが枷のない風颶鳥の本気。アネリアのディレイ作戦でもほとんど一瞬で次の階層に進んでいる。まだ余裕はあるけど。八〇階層を超えたら覚悟を決める必要があるわね)
(他に出来ることは何? ――考えてっ! 考えろっ! 浮かべっ! 思い付けっ!)
焦燥が少女から言葉を零れさせる。
「――ヌクレオッ」
無意識の呟きだった。何十万回と語りかけた口馴染んだ言葉だった。
頼りになる相棒の名だった。今は何も期待していなかった。
それなのに――それは突然現れた。
少女の目の前に透明なダンジョンのヌクレオが唐突に現れる。
そして――
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