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第3章  進窟

第12話  拒否

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 朝起床すると眼の前にモルトの顔があった。空中に浮いているモルトとバッチリ眼が合う。

 びっくりするからやめろ! モルト!

 まったく! そんな悪戯まで覚えたのかっ!

 きゃきゃ! きゃきゃ! と可笑しそうに笑ってる。

 でもまぁ。良くも悪くも日々の成長に感慨深い。

 昨日からチャムとカロも元気なようだ。

 朝は挨拶の後に俺の中へ消えるのがいつもの日常だ。

 この頃は数日に一度しか現れなかったから明日また現れるかは分からないが。

 何かモルトが手を引いて外に連れ出そうとする。俺はそれに合わせて歩き出す。

 ――ちょっと待てモルト! 俺は壁を抜けられない。

 扉から外に出ると庭に小さな畑が出来ていて、薬草や毒草などウェン師からもらった植物の芽が出ていた。

 おっ! モルト隊員! 昨日のうちに準備してくれたのかね? ありがとうな! いつも助かるよ。

 そうか! これを見せたくて起きるのを待っていたのか。

 モルトは緑の三角帽をとって、にっこり微笑んで頭を差し出し、撫で撫でのおねだりだ。

 感謝を込めて魔力を注ぎながら、さらさらの猫っ毛をわしゃわしゃと両手で撫でる。

 ――からのっ!

 ロケット高い高いのコンボだ!

 ラ――――♪

 今日はモルトが満足するのに15回かかった。





 朝食をとってギルドへ向かう。

(ツンツク。おはよう。そっちはどうだい?)

(ダンナ。おはようさん。こっちはあと3~4日で仕上がりやす。すいやせんね。子供に付きっきりで)

(こちらは全然平気だよ。最後の仕上げだから気にせずピッピとチッチに集中してね)

(へい。ありがとうござんす)

 人にぶつからないように、空中を楽し気にスキップするモルト。その後をついてギルドの前に到着。


 ――――うげぇ! 面倒くせぇ。

 俺のお得な探知魔法に引っ掛かる気配。

 ――よし! 今日は帰るか。

 俺が踵を返すと男は走り寄って背後から肩に手を掛けようとする。

 触られるのが嫌なので躱わして向き直る。潔癖症な上にパーソナルスペースが広いんだよね。

 スコンと手を空振らせた男。

 シュバインが目を血走らせて立っていた。

 昨日の今日だが人相が変わったように血管が浮き出た憤怒の形相だ。

 そして、丸めた赤い布を投げつけてくるので、それをササッと避ける。

 これはさすがに知っている。

 冒険者同士の決闘の申し込みだ。当たってないから受けなくていいよね?

「避けるな腰抜けっ! 決闘を申し込む!」

「布に当たっていないので申し込む権利がありませんよね?」

「逃げるのかヘタレ野郎!」

「今のあなたは試合の申し込み中です。受けるかどうかの審議待ちですよ。始まっていない試合からどうやって逃げるのでしょうか?」

「口だけ野郎! さっさとその布を拾え」

「自分で落としたんですから、自分で拾って下さい。それが子供でも知っている社会の常識ですよ」

 シュバインは腰を落とすと剣に手をかけた。

 まったく。いい迷惑だ。俺から話しかける。

「そもそも決闘の理由はなんですか? エレンさんとはビジネスな取引相手です。あなたの思っているような事は何もありません」

「エレオノーラを愛称で呼ぶのが腹が立つ」

「分かりました。今後はエレオノーラさんと呼びましょう。ついでに今までの不愉快分もお詫びしましょうか?」

「エレオノーラの周りをチョロチョロするのが目障りだ!」

「それはギルドが決めたんですが、――他の方と担当を変わってもらいます。チェンジで」

 クレームを一つ一つ潰していけば、吹っ掛ける理由がなくなるからね。これが大人のクレーム対応というものさ。
 
「お前をぶちのめさないと気が済まない!」

 おっと! 来ました大暴論!

「その迸る情熱はエレオノーラさんへ告白という形で発露されてはどうでしょう?」

 折よく騒ぎでエレオノーラさんが出て来た。あれだけ名前を大声で叫ばれればねぇ?

「シュバインさんの良いとこ見てみたいっ! あっそれ! お~まかせっ! お~まかせっ! はい!」

 手拍子と共にシュバインから距離をとる。――このまま逃げられるかな。

「うるせぇぞ! 手前ら! お前らの騒ぎの内容は聞かせてもらった」

 おっと! 2階の執務室から窓を開けてギルド長がカットイン。

「――小僧。決闘を受けてやれ!」

「えっ? ――嫌ですけど」
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