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第1章  伏龍

第8話  王都

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 なんやかんやの、てんやわんやを経て、あれからほぼ二ヶ月。

 やっとたどり着きましたよ――王都。

 始めの二週間に比べれば、大変ながら穏やかな旅でした。

 王都に行きたいの文章をずっと指差し続ける。

 たぶん、最短のルートだと思う。

 野盗に襲われるとか大人に騙されるとかすることもなく。

 幸運にも良い人に出会う事が多かった。

 ……何を言っているのかは一切分からんが。。。

 どうやら、ポンコツさんの精神攻撃も打ち止めらしい。

 そのまま、成仏してほしい。ナムナム。

 さすがに、子供一人旅は奇異の目で見られたが、大体は同情的に対応された。

 耳が聞こえないから、親に捨てられた? とか思われたのかもしれない。

 おかげでゴハンのご相伴に与ったり、果物をもらったり良い思いもできた。

 善意で頂いた食事には、感謝しかないが、ジョシュアさんの作った料理の味は段違いだ。

 特にあの謎肉は、もう一度食べてみたい。

 街にたどりつくまでの、村には宿が無かったので、教会には何度か泊まった。

 その時は神父ぽい人の真似して祈りを捧げお茶を濁した。

 チラミで祈りが終わるのを待つ。

 祈りの言葉は今夜泊めてくれてありがとうね仏様だ。信仰心は全くない。

 まぁ。面倒くさければ、テントがあるので野宿でも平気だしね。
 
 泊まったのは宿の方が多い。

 魔法があるせいかどこも風呂はなかった。

 何度目かの宿泊でさすがに薄汚れて見えたのか、おかみさんが体と服がきれいになる例のシャララン魔法をかけてくれた。

 善意というよりベッドが汚れると思ったのかもしれない。

 二人と別れたあの日の朝。

 まだテントにいたシェリルさんは、俺が魔法を使えないことを知らない。

 流石の万能翻訳シートにも、その事は書かれていなかった。

 俺はおかみさんに銅貨を渡し、なんとか意思の疎通を図り、頼み込んでその一文を書き入れてもらった。

 それからは、二~三日に一遍は誰かにシャララン魔法をお願いした。

 魔法が使えないことを訝しがられたが、銅貨を出すと大体発動してもらえた。

 本来なら途中で魔法が使えるように時間を取りたかったが、シェリルさんの教えを忠実に守り一目散で王都まで来たのだ。

 シェリル教の教義には逆らいません。

 ――――そして、今に至る。

 この世界は所謂中世のヨーロッパ的な様子だが、どの街も思いのほか清潔な街並みで、臭いなどという事もない。

 中世ヨーロッパは、窓からごみを捨てて、ごみ処理のため街中を豚が走り回ってるとか聞くよね?

 ハイヒールの初期は汚物除けなのは有名だしね。

 この二ヶ月で一番の変化は心の平穏だろう。

 二人に会った時はストレスやなんやらで、出てはいけない。脳内物質がドバダバ出ていたのだろう。

 思考がラリッてた気がするよ。落ち着いて行こう俺。反省は成長のあかしだ!

 王都内に入るにも乗り合い馬車で、そのまますんなり入れた。

 怪しい者がいないかチェックするだけで、ガバガバだ。

 入場税も取られない。

 後は、シェリルさんの提案通りミッションを実行する。

 ちょうど今は、昼時だから昼飯を食べて、午後いちぐらいの時間に訪問を目指そう。

 さすがに、昼飯時に行ったら空気読めないと思われるからね。

 第一印象を大事にする男!

 薄汚れた服着ていますが。。。

 目に付いた食事処に入り、いつもの指差し注文。

 オーダーは、”私にちょうど良い、おすすめ料理”良いところ見繕って頂戴ね。

 飯を待つ間に情報収集だ。

 店員さんを呼んで銅貨を渡す。

 神聖語研究機関はどこですか? 道順描いて貰えませんか? 両手の人差し指でギャン指し。

 あらあら、店員のお姉さんは、場所が分からないご様子。

 調理場に確認に行っている。

 一般人には関係がないって言ってたから、知らなくても無理はないのかな?

 ちょうりぃ~ば行っても、ワカラナイ。

 お客ぅ~に聞いても、ワカラナイ。

 困ってしまって、姉さん……ワ・ワッ。
 
 あっ! 客のおっさんが知っているみたい。

 お姉さんが、説明して銅貨を渡している。

 ありがとう! お姉さん。

 手間賃だ! 取っときな! お姉さんへ銅貨を渡そうとするが遠慮された。

 そうですよね? すぐ受け取ると、がめついと思われるから三度目で受け取る。例の様式美ですよね?

 ……ん? そんな文化この世界にあったか? って思ったら、本当に断られた。

 いかんっ! おっさんが待っている。

 さすがにこれから食事です。

 それでも時間大丈夫ですか?は万能翻訳機にも記載されていない。

 おっさんに耳が聞こえない設定を先に伝える。

 まぁ、ジェスチャーゲーム! で乗り切るしかないのだがね!

 自分を指差しナイフとフォークで食事をする振りをする。

 時間を表すとき左手首をまげて、右人差し指で手首をトントンしたいが、この世界で腕時計は見たことがない。

 代わりにおっさんを指差し地面を指す。

 手の平を持ち上げ水平にゆっくり下ろす。

 指で丸を作り、軽く頷きながら伺うように見上げる。

 おっさんは、首をかしげるように頷いた。

 自分を指差し手の平をもちあげ、水平にゆっくり下ろした。

 その後、軽くポンポンと肩の横を叩いた。

 意訳『待っててやるから、ゆっくり食え』って感じかな?

 ちょうど料理が配膳される。

 だがしかし! 誰かを待たせてる食事って美味しくないよね?

 心の余裕って大事だな。見られている気がして、振り返ったが、そんなことなかった。

 おっさんは、くつろいで紙に何かを書き込んでいた。

 五分ぐらいでスープとパンをかっ込んだ。

 味? 少なくとも、今日の昼に何を食べたかは、明日には思い出せないだろう。

 二ヶ月も旅をすれば、この国の通貨であるベルの文字表記と数字は理解できるようになった。

 店員のお姉さんに確認した金額をテーブルに置き、支払いを済ませる。

 そして、おっさんの元へ、おっさん待たせたなぁ!

 おっさんは、俺の早食いに少し苦笑いしつつ。

 顎をしゃくってついて来いとばかりに歩き出す。

 たまに振り返り、遅れてないか確認されつつ、歩くことおよそ二十分。

 道がどんどん広くなり、街道の建物もどんどんでかくなる。

 もう、元の場所に自力では戻れないなと思っていると。

 おっさんが立ち止まり、俺を振り返り巨大な建物を指差した。

 どうやら、ここらしい。

 西洋の美術館を思わせる建物だな。こんな立派なところに入れてもらえるのだろうか?

 ――不安で一杯だ。

 門は開かれており、門番が二人立っている。

 その先には20m程の庭があり、建物の入口手前に詰所が立てられているようだ。

 おっさんは門番に軽く挨拶をするとそのまま入門し庭を歩きだした。

 え? 行けんの? 俺は慌ててついて行く。

 おっさんは、詰所の兵? 警備員? そんな感じの人と雑談をすると慣れた様子で窓枠に肘を乗せ俺を見た。

 俺的な意訳『どうした? 坊主? 連れてきたぞ?』

 え? おっさんここの関係者ですか?

 それなら例の手紙を渡すまでだ。

 まぁ、シェリル先生の第一案ですからなるようになるさ!

 届け俺の思い!! (他力本願)

 懐から取り出す振りをしてアイテムボックスから手紙を取り出した。

 それを詰所の人に差し出した。

 ――すると、それを見たおっさんが代わりに受け取り、宛名書きをしみじみと読む。

 その後ジッと俺を見つめる。

 ――そして、手紙をもって建物の中に消えていった。

 正直に言えば、今日は出直す事も考えていたのであっけにとられた。

 どうしたもんかなと、ぼんやり佇んでいると。

 二十分ほどでおっさんが戻ってきて、俺を建物の中に招きいれた。

 ――えっ? 届いた? 俺の思い?

 この日。俺はやっと、この世界で本当のスタートラインに到着した。
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