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プロローグ。

2話、期待値0のユニークスキル。

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一本道の通路を抜けた先、そこには骸骨の魔物二匹が部屋の真ん中で歩いていた。こっちを向いているところを見ると、魔物達はこちらの通路へと歩いて来ているようだ。俺はカメラでそいつらの姿をしっかりと捉える。

 しかし、ユカリンが言っていたレイスの姿が見つからない。俺が左右にカメラを振ったところでユカリンが魔法を使った。

「ホーリーチェーン!」

 しまった、と俺は心の中で歯噛みする。レイスを見つけるのに必死でユカリンのシーンを一つ撮りきることが出来なかった。後で謝っておくとしよう。

 ユカリンが魔法を唱えると、空間が光りを放ち、その中から鎖が現れて何も無い空間に巻き付くのを見ていると、「──キ、キキ」という声が聞こえレイスが姿を現した。

 レイスは腰程まで黒髪を伸ばした幽霊だった。それをユカリンは聖なる鎖で締め上げる。

「皆、レイスは私が食い止めます! 今がチャンスです!」

 ユカリンは声を張り上げて緊迫感を作りあげる。しかし、俺は知っている。このくらいの魔物なら一握りで潰せることを。それをユカリンはあえてしていないのだ。

 俺としてはその方法にはリスクがあると再三言っているのだが、聞きいれてもらえずにいる。全ては画の為にこのパーティーは動いている。

「ナイスユカリン! 行くよ! 聖甲《せいこう》、爆裂拳ばくれつけん!」

 リンリンが真っ白に光る拳で骸骨のアバラを殴った。メキャっと何かがへし折れるような音と共に、骨が何本か消し飛んでいく、しかし、骸骨はそれだけでは止まらない。アバラに拳を突き刺されたまま、右の骨拳をリンリンに振り降ろした。

「あ、これまずい!?」

 リンリンが少しだけ慌てた声を出す。その瞬間、──シュン。と空気が切り裂く音がした。ヒロが投げたショーテルが骸骨の右腕を切り裂いている。

「あぶないよ、リンリン。一人で突っ込まないで」

 面倒になるからとぽそりと零した後、ヒロはそのままアンデットの元に駆け寄り、残ったもう一本のショーテルで首と背骨を切り落とし、そのまま腰にショーテルをしまった。

「ごめんヒロ、ナイス!」

 リンリンはこのパーティーの先陣を切り、そのフォローをヒロがする。そして、最後に残った敵を──。

「──聖剣ホーリーブレイド

 隆史が引き締めた表情で技名を言葉にした。隆史の剣神は武器に様々な能力を与えることが出来る。更に、本人は達人以上の剣の腕を持つ、まさに最強と呼ばれるスキルに相応しいスキルだった。

 剣は隆史のスキルの力でまさに聖剣というに相応しい輝きを得た。それを見た後、隆史は腰を深く落とし、盾を前に構える。

「行くぞ」

 隆史は一瞬の踏み込みで骸骨に肉薄し、そのまま盾で骸骨を殴った。加減をしなければここで決着がついていただろう。

 軽めの力で小突かれた骸骨は上体をよろめかせる。そこを見逃さずに隆史は剣を振り降ろし袈裟斬りにした。

「──キィ」

 骸骨が消滅するのと同時に、レイスの断末魔が聞こえてくる。ユカリンがサラっと白色に染めた髪をかき上げていた。

「よし、とりあえずこのダンジョンの強さはわかったな……一旦カメラを止めろ」

 隆史が剣をしまうのと同時に俺にカメラを止めるように指示をしてくる。それで俺はカメラを止めた。

 その後、隆史は皆を一瞥した。その顔は少しだけ怒りを含んでいるように見えた。これは付き合いが長い俺だからわかることかもしれない。何故なら、表面上は笑っているように見えるからだ

「リンリン、前も言ったがカメラの位置を見た方がいい。君の身体が邪魔で攻撃の瞬間が映えないだろ。正面から攻撃するんじゃなく、左から攻撃するとか、頭を吹き飛ばすとか考えてくれ」

「う、ごめんなさい……」

「ヒロ、助けるのが面倒だからって武器を投げるのはNGだ。今回は案件だということを忘れるんじゃない。武器をぞんざいに扱っていたらこれから案件が頼まれにくくなるかもしれないからな」

「……それはそれで面倒だ。わかった」

「そして、ユカリン。倒す瞬間を俺と被せるな。お前、このパーティーで一番人気があるのは誰か知ってるだろ?」

「タカシ……さんです。すみません」

「いやなに、怒っているわけじゃないさ。皆委縮しないでくれ。こうしたらもっとよくなるよねって改善案だからさ。俺達は現状で満足しないでもっと上を目指すんだから」

 そう言って笑う隆史に皆は頷く。そうだ、上を目指すには改善案を出しあった方がいい。ただ、今のままでは隆史の独裁体制になりそうなのがまずいな。

「隆史、あまり言い過ぎるなよ。俺がなんとか編集してやるから」

「彩斗、何を言ってるんだ? お前の怠慢が一番酷いんだぞ?」

 そう言って、隆史は俺にだけ無表情で語り掛けてくる。

「お前、皆の後ろに付いていってるだけで何をしているんだ? もっと敵の後ろから映すとかあるだろ? そっちの方が俺の突進の迫力も出る。違うか?」

「俺に一人で魔物に突っ込めというのか?」

 確かに、俺は皆に守ってもらいながらしか活動は出来ない。だから、ずっと皆の後ろからしかカメラが撮れないことが気にはなっていた。それを今回隆史に言われてしまった。

 俺の言葉に隆史は「それぐらい出来ないのか? ユニークスキルの癖に」と嘲笑する。俺は世界に一人だけのスキルを持っている。しかし、その使い方は未だにわかっていなかった。普通の撮影者と同じようにカメラを使って動画を編集する。これなら冒険者ならば誰でも出来る。……俺でなくてもだ。

「……すまない。俺には無理だ」

「それなら仕方ないな、ユニークスキルのお守りを皆頑張ろう」

「情けない奴」

「……面倒だな」

「しっかり私達の活躍を取ってくださいね、荷物さん」

 皆から散々に言われるが俺は別に傷ついてすらいなかった。まぁ、言われるのも仕方ないなと思っていたからだ。

 『編集』が期待外れだからか、ギルドも俺に過度な期待をするのは無くなって来ていた。むしろ、ユニークスキルの恥晒しとまで思われているのか態度が雑になってきている。

「そろそろ潮時かな……」

 俺は岩で出来た天井を見上げ、誰にも聞こえない声を零す。このダンジョンをクリアしたらパーティーから抜けようと心に決めたのだった。
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