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『第一章』勇者召喚に巻き込まれてしまった件について。

現状把握。

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「兄貴!」

「お兄様!」

 俺の元にゼロとレイが寄ってくる。その後に赤い姿も付いてきていた。

「ようやくお目覚めか。主よ少々寝坊が過ぎるのではないか?」

「やかましい」

 ネロの相変わらずの物言いに俺は苦笑をしてしまう。俺の従魔が全員集まるのはこれが初めてのことだった。

「兄貴、無茶しないでくれよ……」

「すまない。心配をかけた」

 俺はゼロに謝る。そして、俺はそのままゼロを見続ける。さっきまで考えていたことをゼロに言うべきだろうか? あの暴走がもう一度起きる可能性はあるが……

「どうしたんだ?」

「いや、なんでもない」

 俺は言わないことにした。少なくとも今はその時ではない。安全な場所へと避難してからにするべきだと判断した。

「で、今の状況を教えて欲しい」

「うん~、じゃあ話すね~どこからがいいかな~?」

「そうだな、とりあえずあれから何日経ったかを教えてもらえるか?」

 まず気になることはそこだ。『超回復』の効果が本当に三日なのかを知るいい機会だ。

「え~っと~、ご主人様がやられてからちょうど三日かな~。治るのがどれだけかかるのか心配だったよ~」

「そんなに酷い怪我だったのか?」

「酷かったよ~全身の骨が折れてたからね~」

 かなり手酷い攻撃をくらったと思ったがそこまで重症だとは思わなかった。よく死ななかったな俺。

「コンがこの姿になってなかったら死んでたね~」

 そう言ってコンは俺に人型形態を見せつけるかのようにずずいと前に出てアピールしてくる。なんだ、感想を求めてるのか。あれか、女子が新しい髪形を褒めて欲しいみたいなあれなのか。

 というか服着ろ。俺の周りに服着ない奴多すぎないか? 痴女か、皆痴女なのか? いやまぁ、そのうち二人は人外なんだけども。

「その姿と俺を生かすことって何か関係があるのか?」

 俺は視線を外しながら、コンに続きを促す。

「そうだね~、手が無いと魂扱えないし~」

「なるほど、そういうことか」

 コンが魂を扱うのには手が必要らしい、確かにあの動物形態では細かい作業は無理だろう。

「その後どうしようか悩んでたら今日ご主人様の身体が元に戻ってた~なんで~?」

「あぁ、俺のスキルを伝えてなかったな。『超回復』ってスキルでな、どんな怪我も三日で完治するらしい。それで無茶をしたんだ」

「へ~ご主人様の無茶って自分の命を投げ出すところまでなんだね~」

 ……コンから圧を感じる。これはあれだ、あれをするしかない。

「えー、この度はここまで危険なことになると思わずに、無謀な賭けをしてしまいました。誠に申し訳ありません!」

 俺は思いっきり頭を下げる、それはもう土下座する勢いで地面に手を着いて。これでは主従関係が逆転しているのではないかと疑問が生まれそうになるが抑えておく。

「今度したら面倒みないからね~」

「はい、死なないように善処させてもらいます!」

 俺の言葉にコンは「そもそも大怪我を負ってほしくないんだけどな~」と呟いていた。それは不可能だろう。戦いの手段が乏しい俺は、毎回命懸けで戦うしかない。

 手っ取り早く強くなる方法があればいいが、魔王にレベルという概念がない以上、スキルの組み合わせで戦っていくしかないのは目に見えている。そのスキルを当てる為に身体を張るしかないのだから仕方ない。

「主よ、今回は間に合わなかったが次からは俺も戦う。安心するといい」

 ネロが頼もしい言葉を言ってくれる。ネロがいるなら最悪逃げるという手段も取れる。信頼出来る手札が一枚増えた事が嬉しい。

「ネロ頼むぞ、これからはお前が頼りだ」

「主の一番の従魔として、任務を完璧にこなしてみせよう」

 なんか、周りに見せつけるように一番ってアピールしている気がする。現に他の奴ら不機嫌になってるし。おい、ネロ勝ち誇った顔をするな。

「ぶ~、まぁ巡り合わせだから仕方ないね~で、ご主人様~ほかに聞きたいことは~?」

「そうだな、あの後どうなったのか。それと今の現在地が知りたいかな」

 俺の言葉にコンは顎に手を置いて少し考え事をし始めた。ここ三日のことを頭の中で整理しているのだろうか?

「おっけ~そうだね~ご主人様が落ちてきた後~コンがキャッチしたところからかな~」

「それで頼む」

「ちなみに~ノーマル版と脚色版どっちがいい~?」

 違った、いらないことを考えていただけだった。

「……ノーマル版で頼む」

 いやまぁ、脚色版は脚色版で気になるけども!

「わかった~、じゃあご主人様が倒れてからの話ね~」

 それからコンはゆっくりとわかりやすく説明を始めてくれた。

 ──俺なりに簡潔に要約するとこうだ。

 まず、俺が気絶した後にコンはネロのところへと運んでいく。そこで街を破壊した者として門番から止められたのをネロがキックで撃退。そしてそこから逃亡劇。追手が来るのをレイがレーダーになりつつ、ゼロが撃退。そのまま王宮から少し離れた森の中でこの洞窟を見つけたという流れみたいだった。

「あのさぁ、もっと穏便な方法はなかったのか?」

 俺が起きていたらもっと違う方法を考えていただろう。いやまぁ、済んでしまったことは仕方ないのだけども。

「ご主人様が死にかけてたから考える余裕がなかったの~」

 コンがしゅんと俯く。その姿を見て俺の心に罪悪感がわいてくる。確かに、死にかけた俺が悪いわ。

「すまん、ありがとうな。コン」

 俺はコンを撫でる。すると悲しそうな顔から気持ちよさそうな、とろんとした顔へと変わっていく。……人型の姿でその顔をされると破壊力があるな。俺は咄嗟に手を離した。

「え~、ご主人様もっと~」

「いや、まぁ……そのうちにな……」

 コンの顔から視線を外す。危ない危ない、ケモナーに目覚めてしまうところだった。

「そ、そういえばこの藁はどこから?」

 ベッド代わりに引いてある藁をぽんぽんと手で叩く。こんなに大量の藁をどこから調達してきたのかが謎だった。

「あ~それね~、シリアちゃんからもらった鞄に入ってたよ~」

 そう言ってコンはもぞもぞと自分の尻尾から鞄を取り出した。え、それ物入れになるの?

 俺はコンの尻尾に驚きながらも目の前に出された鞄を手に取る。そういえばマジックバックだったよなこれ。中に何が入っているのかまでは見ていなかった。

「コン、中に何が入っているのか見たのか?

「一応ね~、大体藁だったよ~。多分ネロの餌じゃないかな~? 後は干し肉とか水だったはず~」

 シリアさんは俺の旅の準備もしていてくれたみたいだった。その事に感謝をしながら鞄を開く。ちょうどお腹が空いていたところだ。何しろ三日も食べてないのだから。

「あれ、なんだこれ?」

 俺が鞄を触ると、一枚の紙が現れる。それを見た俺はびっくりした。

「なんて書いてあるのかまったくわかんねぇ……」

 そこには、この世界の文字がびっしりと書かれていた。多分シリアさんが俺に当ててくれた手紙だと思うけど、書いてある内容がさっぱり理解出来なかった。

「コン、お前字って読めるか?」

「魔物語なら~人類語は無理~」

「ゼロとレイは?」

「すまない兄貴、俺達勉強なんて出来なくて……」

「お兄様ごめんなさい……」

 全員が項垂れる、読めないのなら仕方ない。また覚えてから読むとしよう。

 俺は、カバンの底にその手紙をしまおうとした。

「主よ、何故俺に聞かない?」

 その時、ネロが不服そうな声を上げる。いや、聞くまでもないだろう。

「だってお前鳥じゃん」

 魔物だし、鳥だし、人類じゃないし、飼育施設で育ってるし、論外だろう。そもそも数に入れてなかったぞ。

「読めるぞ」

「は、なんだって?」

「読めるぞ、俺」

「なんでだよっっっ!!!」

 俺は盛大なツッコミを入れる。いや、おかしいだろ。なんでネロが読めるんだ。

「スキルがあるからとしか言えんな」

 え、こいつなんなの? 無駄スキルすぎないか?

「そういえば、ネロのステータスを聞いていなかったな……そもそも魔物にステータスがあるのかが謎だったけど」

 そういえば、今まで聞く機会がなかったことだ。これを機に全部把握しておくべきかもしれない。俺はそう思い、言葉を発した。

 だが、こんな言葉が返ってくるとは思っていなかった。それは俺の予想を遥かに越えた答えだった。

「あるぞ。確か俺の能力は速さがSで後はA。スキルは二十個はあったはずだ」

「は、なんなのお前。チートかよ」

 勇者が転生したら鳥でしたってやつか? ふざけるのも大概にしろ。こいついれば勝ちじゃん。

(いや、落ち着け。こんなやつが味方なことに喜ぶべきだろ)

 味方が強くてキレるなんて贅沢にも程がある。生存確率があがったことを喜ぶべきだと割り切れ。

「何しろ俺が生まれたすぐの事だからな、今はどうなっているかはわからないぞ」

「魔物ってステータスを開けないのか?」

「ご主人様~それは無理だよ~。特殊な器具か魔物の能力を見るスキルがいる~」

 コンが補足説明をしてくれる。なら魔物とのスキルを合わせるのは難しそうだ。自分の能力を理解していないやつもいるだろうしな。

「そういえば、主のステータスはどうなのだ?」

「え、聞く?」

「当たり前だ、臣下としては主の力を知らねばならぬ」

 正直言うと言いたくない。ネロの後だとなおさらだ。なんの辱めだこれは。

「言っても笑うなよ。オールEだ」

「ん? 俺の聞き間違えか? まさか、魔王がそこまで弱いわけ」

「オールEだ! 悪かったな最弱の魔王で!」

 俺はキレ気味にそう答えたのだった。
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