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『第一章』勇者召喚に巻き込まれてしまった件について。
謎のお姉さん。
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「こちらが会場です。お疲れ様でした」
そう言ってジャミルさんは頭を下げる。俺達は「ありがとう」と言ってパーティー会場へと足を踏み入れる。
その瞬間、パーティー会場に居た人達はこっちを向き、何やらヒソヒソと話をし始めた。
「あれが今回の勇者様か⋯⋯」
「まだ年若い少女じゃないか⋯⋯大丈夫か?」
「あの美しさ、是非ウチの派閥に」
少し耳に入ってきたのがこういった感じだ。勇那は人の目を気にも止めずに俺の手を掴み引っ張っていく。
(あぁ、勇那はこういうの慣れてるか。学校でもこんな感じだったし、大して変わらないものな)
まぁ、俺は慣れていないから割と緊張してるんだけど。
「あの子、やたら勇者様と近くない?」
「勇者様がお手つきだったとは」
「あいつ殺してもいい?」
うぉおおおおい! 最後のやつ! 殺意剥き出しでこっち見てんじゃねぇ! さっきのトラウマ思い出すだろうがぁあああ!
なんかそのうちに食事に毒でも盛られるんじゃないか? ⋯⋯まぁスキルに毒耐性はあった気がするから食事に気を使う必要がないのはいいけども。
俺はスキルをもう一度思い出す。
『完全耐性』あらゆる状態異常を無効化する。
これと『超回復』が俺の生命線だ。まぁ、生きていく分には大丈夫なんだけど、肝心の戦闘能力がなぁ⋯⋯
俺は勇那に連れられて、会場の端っこに連れられていく。そこにはドレスに身を包んだ麻帆さんがいた。
「勇那ちゃんドレス似合ってるぅ。というより似合いすぎじゃない? お姫様みたいなんだけどぉ」
「麻帆さんこそ似合ってますよ! あぁ、こんな綺麗なドレス夢みたい」
「うん、ありがとうぅ。でも、ちょっとお腹周りが⋯⋯コルセットきつくてぇ⋯⋯」
女子の会話に混ざれずに俺は立ち尽くすしかなかった。暇を持て余した俺は、麻帆さんを横目で見る。
麻帆さんのドレス姿は確かに似合っていた。でも、お腹周りどころか胸周りもきつそうに見えるのはきっと気のせいではないだろう。勇那は逆に余裕が⋯⋯いや、ドレスの作りのせいだな、うん。
「皆の者! よく集まってくれた!!!」
賑わいを見せて来ていた会場が、その一声でシーンと静まり返る。
(だから、声がでけぇって!)
初対面の時も思ったけど、声がでかすぎる。会場には結構人数がいて好き勝手に話していたのにそれを上回る声量でかき消してきやがった。
(もしかすると、あれもスキルなのか?)
スキル『メガホン』とかだったら面白いな。⋯⋯さすがにないか。
「もうすでに知っておる者もいるだろうが、勇者をこの地に呼ぶことに成功した! 名はユサ・イサナだ!」
王様は勇那の名前をここにいる全員に告げた。これで勇那の名前は各地に知れ渡るようになるはずだ。
「では、イサナ。皆に挨拶をしてくれ」
「えー、勇那です! この度は勇者として選ばれたので人々を救います。皆さんよろしくお願いします!」
勇那は言い終えると頭を下げた。周りからは拍手と喝采が巻き起こる。
「勇那は明日より勇者としての特訓を開始する。その仲間にもそれぞれの担当がつく故、その者と特訓に励むがよい!」
ふむ、俺の担当か⋯⋯ジャミルさんみたいな人がいいな⋯⋯
「では、今日は思う存分英気を養ってくれ! 皆のもの乾杯!」
王様が盃を掲げ、パーティーは開始された。
「えーっと、皿とかないのかな?」
俺は今料理を取りに来ているのだけど、とり方がわからない。
手づかみでもいいのだろうか? 周りを見てると貴族達は皿から手づかみで食べていた。その光景は現代っ子として少し抵抗がある。
勇那はというと、貴族らしき奴等に囲まれてて身動きが取れないみたいだ。いやまぁ、やろうと思えば勇者のスキルとやらで抜け出せるんだろうけど。
時折勇那の方を見つつ、自分が食べれそうな物を物色する。そして、パンを見つけ喜んだ
「これなら手づかみでも⋯⋯いただきます!」
俺はパンを一口かじる。⋯⋯正確には噛み千切った。
(かってぇ! なんだこれ!)
このパンの硬さはフランスパンどころの話ではなかった。しかも噛んでると、もそもその食感が飲み込むのを阻害する。
俺はたまらず近くにあった飲み物を口に入れる。その瞬間、得体のしれない苦味を感じて吐き出しそうになる。それでも、会場を汚すのが嫌で無理矢理飲み下した。
(酒じゃねぇかこれ!)
学生に酒を出すなよ! と言いたいところだけどここは異世界だ。多分この年齢で酒を飲めるだのなんだの言われるのがオチだろう。
食べるものがないから仕方なく、最後の手段として
、嫌嫌食べた骨付き肉もやたら香辛料ばっかり鼻につくだけで塩味があまり感じられないし口に合わない。しかも手が汚れたし。
「もういいや⋯⋯」
異世界料理は俺の口に合わない物ばかりだった。家でカレーが待ってた分、尚更落胆が激しい。
俺はこの場から抜け出す為にテラスの方へと足を運ぶことにした。酒を飲んだせいか少し身体が熱く、風に当たりたくなった。
テラスに足を踏み入れると、そこには既に先客がいた。
「あら?」
それは黒のドレスで身を包んだ歳上の女の人だった。俺はその妖艶な美しさに息を飲む。
「ふふ、貴方も風に当たりに?」
「は、はい⋯⋯」
「こっちにいらっしゃいな、お姉さんとお話しましょ?」
俺は誘われるままに足を踏み出した。お姉さんは微笑んでいる。多分、俺の動きがぎこちないからだろう。
「初めて見る顔ね、貴方も勇者の仲間かしら?」
「そ、そうですね。勇者の仲間というか、幼なじみというか」(⋯⋯最後のボスというか、さすがにそれは言えないけど)
「へー、あの子と幼なじみなんだ。勇者と幼なじみで二人揃って召喚されるなんて運命みたいなものね」
「そうなんですかね? よくわかりません」
確かに勇那とは何かと縁を感じることがあるが、そんなハッキリと言われても返事に困ってしまう。
「⋯⋯恋人だったりする?」
「ち、違います!」
そうだ、全然違う。そもそも勇那がそういう目で俺を見てないと思うし、俺も勇那と距離が近すぎて身内としてしか見れていない。
「ふふ、そんなに必死に否定しなくても」
お姉さんの言葉に思った以上に大きな声を出していた事に気付かされてしまった。
「そ、そりゃ恋人とかそんな事言われたら否定しますよ! だって本当に違いますし、そもそもハッキリと言わないで濁すと相手が変に受け取るといけないじゃないですか。だから、こういう風にハッキリと言って変に受け取らないようにするんです」
ここまで言って、お姉さんが微笑みながら温かい眼差しでこちらを見ている事に気付く。
「な、なんですか?」
「貴方、同じ言葉を繰り返してた事に気づいてた?」
「えっ⋯⋯」
頭の中で勇那のことがぐるぐると回っていて思考がうまくまとまらない。これは酒のせいだ、そうに違いない。
「貴方、面白いわね。名前はなんて言うの?」
「お、桜間怜央です」
「レオ⋯⋯ああ、貴方が」
お姉さんは何かに気づいたみたいだった。俺は首を傾げる。
「あ、怜央いた!」バタバタと走ってる音と共に勇那の声が聞こえてくる。ドレス姿なんだからもっとお淑やかにしろよ。
「あら、勇者様も来たみたい。それじゃあお邪魔虫は退散するわね⋯⋯レオ君また明日」
お姉さんは手を振りながらテラスから会場へと戻っていく。
「もう、探したよ! で、さっきの人は?」
「うーん、よくわからない⋯⋯」
そこで俺は気付いてしまう。
「⋯⋯そういや、名前聞いてなかった」
俺は地味に後悔するのであった。
そう言ってジャミルさんは頭を下げる。俺達は「ありがとう」と言ってパーティー会場へと足を踏み入れる。
その瞬間、パーティー会場に居た人達はこっちを向き、何やらヒソヒソと話をし始めた。
「あれが今回の勇者様か⋯⋯」
「まだ年若い少女じゃないか⋯⋯大丈夫か?」
「あの美しさ、是非ウチの派閥に」
少し耳に入ってきたのがこういった感じだ。勇那は人の目を気にも止めずに俺の手を掴み引っ張っていく。
(あぁ、勇那はこういうの慣れてるか。学校でもこんな感じだったし、大して変わらないものな)
まぁ、俺は慣れていないから割と緊張してるんだけど。
「あの子、やたら勇者様と近くない?」
「勇者様がお手つきだったとは」
「あいつ殺してもいい?」
うぉおおおおい! 最後のやつ! 殺意剥き出しでこっち見てんじゃねぇ! さっきのトラウマ思い出すだろうがぁあああ!
なんかそのうちに食事に毒でも盛られるんじゃないか? ⋯⋯まぁスキルに毒耐性はあった気がするから食事に気を使う必要がないのはいいけども。
俺はスキルをもう一度思い出す。
『完全耐性』あらゆる状態異常を無効化する。
これと『超回復』が俺の生命線だ。まぁ、生きていく分には大丈夫なんだけど、肝心の戦闘能力がなぁ⋯⋯
俺は勇那に連れられて、会場の端っこに連れられていく。そこにはドレスに身を包んだ麻帆さんがいた。
「勇那ちゃんドレス似合ってるぅ。というより似合いすぎじゃない? お姫様みたいなんだけどぉ」
「麻帆さんこそ似合ってますよ! あぁ、こんな綺麗なドレス夢みたい」
「うん、ありがとうぅ。でも、ちょっとお腹周りが⋯⋯コルセットきつくてぇ⋯⋯」
女子の会話に混ざれずに俺は立ち尽くすしかなかった。暇を持て余した俺は、麻帆さんを横目で見る。
麻帆さんのドレス姿は確かに似合っていた。でも、お腹周りどころか胸周りもきつそうに見えるのはきっと気のせいではないだろう。勇那は逆に余裕が⋯⋯いや、ドレスの作りのせいだな、うん。
「皆の者! よく集まってくれた!!!」
賑わいを見せて来ていた会場が、その一声でシーンと静まり返る。
(だから、声がでけぇって!)
初対面の時も思ったけど、声がでかすぎる。会場には結構人数がいて好き勝手に話していたのにそれを上回る声量でかき消してきやがった。
(もしかすると、あれもスキルなのか?)
スキル『メガホン』とかだったら面白いな。⋯⋯さすがにないか。
「もうすでに知っておる者もいるだろうが、勇者をこの地に呼ぶことに成功した! 名はユサ・イサナだ!」
王様は勇那の名前をここにいる全員に告げた。これで勇那の名前は各地に知れ渡るようになるはずだ。
「では、イサナ。皆に挨拶をしてくれ」
「えー、勇那です! この度は勇者として選ばれたので人々を救います。皆さんよろしくお願いします!」
勇那は言い終えると頭を下げた。周りからは拍手と喝采が巻き起こる。
「勇那は明日より勇者としての特訓を開始する。その仲間にもそれぞれの担当がつく故、その者と特訓に励むがよい!」
ふむ、俺の担当か⋯⋯ジャミルさんみたいな人がいいな⋯⋯
「では、今日は思う存分英気を養ってくれ! 皆のもの乾杯!」
王様が盃を掲げ、パーティーは開始された。
「えーっと、皿とかないのかな?」
俺は今料理を取りに来ているのだけど、とり方がわからない。
手づかみでもいいのだろうか? 周りを見てると貴族達は皿から手づかみで食べていた。その光景は現代っ子として少し抵抗がある。
勇那はというと、貴族らしき奴等に囲まれてて身動きが取れないみたいだ。いやまぁ、やろうと思えば勇者のスキルとやらで抜け出せるんだろうけど。
時折勇那の方を見つつ、自分が食べれそうな物を物色する。そして、パンを見つけ喜んだ
「これなら手づかみでも⋯⋯いただきます!」
俺はパンを一口かじる。⋯⋯正確には噛み千切った。
(かってぇ! なんだこれ!)
このパンの硬さはフランスパンどころの話ではなかった。しかも噛んでると、もそもその食感が飲み込むのを阻害する。
俺はたまらず近くにあった飲み物を口に入れる。その瞬間、得体のしれない苦味を感じて吐き出しそうになる。それでも、会場を汚すのが嫌で無理矢理飲み下した。
(酒じゃねぇかこれ!)
学生に酒を出すなよ! と言いたいところだけどここは異世界だ。多分この年齢で酒を飲めるだのなんだの言われるのがオチだろう。
食べるものがないから仕方なく、最後の手段として
、嫌嫌食べた骨付き肉もやたら香辛料ばっかり鼻につくだけで塩味があまり感じられないし口に合わない。しかも手が汚れたし。
「もういいや⋯⋯」
異世界料理は俺の口に合わない物ばかりだった。家でカレーが待ってた分、尚更落胆が激しい。
俺はこの場から抜け出す為にテラスの方へと足を運ぶことにした。酒を飲んだせいか少し身体が熱く、風に当たりたくなった。
テラスに足を踏み入れると、そこには既に先客がいた。
「あら?」
それは黒のドレスで身を包んだ歳上の女の人だった。俺はその妖艶な美しさに息を飲む。
「ふふ、貴方も風に当たりに?」
「は、はい⋯⋯」
「こっちにいらっしゃいな、お姉さんとお話しましょ?」
俺は誘われるままに足を踏み出した。お姉さんは微笑んでいる。多分、俺の動きがぎこちないからだろう。
「初めて見る顔ね、貴方も勇者の仲間かしら?」
「そ、そうですね。勇者の仲間というか、幼なじみというか」(⋯⋯最後のボスというか、さすがにそれは言えないけど)
「へー、あの子と幼なじみなんだ。勇者と幼なじみで二人揃って召喚されるなんて運命みたいなものね」
「そうなんですかね? よくわかりません」
確かに勇那とは何かと縁を感じることがあるが、そんなハッキリと言われても返事に困ってしまう。
「⋯⋯恋人だったりする?」
「ち、違います!」
そうだ、全然違う。そもそも勇那がそういう目で俺を見てないと思うし、俺も勇那と距離が近すぎて身内としてしか見れていない。
「ふふ、そんなに必死に否定しなくても」
お姉さんの言葉に思った以上に大きな声を出していた事に気付かされてしまった。
「そ、そりゃ恋人とかそんな事言われたら否定しますよ! だって本当に違いますし、そもそもハッキリと言わないで濁すと相手が変に受け取るといけないじゃないですか。だから、こういう風にハッキリと言って変に受け取らないようにするんです」
ここまで言って、お姉さんが微笑みながら温かい眼差しでこちらを見ている事に気付く。
「な、なんですか?」
「貴方、同じ言葉を繰り返してた事に気づいてた?」
「えっ⋯⋯」
頭の中で勇那のことがぐるぐると回っていて思考がうまくまとまらない。これは酒のせいだ、そうに違いない。
「貴方、面白いわね。名前はなんて言うの?」
「お、桜間怜央です」
「レオ⋯⋯ああ、貴方が」
お姉さんは何かに気づいたみたいだった。俺は首を傾げる。
「あ、怜央いた!」バタバタと走ってる音と共に勇那の声が聞こえてくる。ドレス姿なんだからもっとお淑やかにしろよ。
「あら、勇者様も来たみたい。それじゃあお邪魔虫は退散するわね⋯⋯レオ君また明日」
お姉さんは手を振りながらテラスから会場へと戻っていく。
「もう、探したよ! で、さっきの人は?」
「うーん、よくわからない⋯⋯」
そこで俺は気付いてしまう。
「⋯⋯そういや、名前聞いてなかった」
俺は地味に後悔するのであった。
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