40歳おっさんの冒険譚〜解雇されてからスキルが覚醒したので、世界を旅することにしました〜

真上誠生

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六話、夢。

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『アトラ・リット』を出た後、俺達は住宅街へと向かっていた。閑散とした何もない道を、俺とアメリは歩いている。

 辺りはもう暗くなっており、空に浮かぶ月の光だけが唯一、俺達の道先を照らしてくれている。空を見上げてみると、視界いっぱいの星が映った。

「──リッドさん、そろそろ話をしませんか?」

 星を見上げている俺の背中に、アメリから声が掛かった。

 一度辺りを確認してみるが、辺りには誰の気配も感じない。話すならこの場所だろうと思い、俺は振り向いて彼女と向き合うことにした。

「そうだな⋯⋯何から聞きたい?」

 あまりにも暗かったので、俺はアメリに近づきながら質問を投げかけた。自分から話を始めるよりも、聞いてもらったほうが話しやすいだろう。

 アメリは顎に指を当てて少し悩んだ後、俺を見る。その表情は暗闇できちんとは見えなかったが、少しだけ戸惑いを含んでいるように見えた。

「えっと、あの光はやっぱりリッドさんの?」


 そういえば、料理が来る前に言われていたな。シータとの喧嘩ですっかり忘れていた。

「ああ、そうだ」「──どうやってやったんですか!?」

 俺が頷くと同時に、間髪入れずに質問を入れてくる。近くであの光を見たからなのか、気になって仕方なかったのかもしれない。

「剣にラベルを貼ったんだよ。俺のスキルはラベルに書いた文字を貼った物に付与することが出来るんだ。君が見たのは『エクスカリバー』の光さ」

「エクス、カリバー?」

 彼女は首を傾げる、あまりピンとこないようだ。

「アメリ、本とか読むか?」

「恥ずかしながら……」

 彼女が下を向く。暗くてよく見えないが、多分顔を赤くしているに違いない。

「御伽噺に出てくる伝説の剣だよ。それを再現してみたんだ」

「なるほど、そんなすごい武器を……それなら納得です!」

 彼女はしきりに頷いている。どうやら俺の話を信じてくれたらしい。随分とあっさり信じてくれたことに少しばかり拍子抜けをした。……実際にあの光を近くで見たのが大きいのかもしれない。

「話はそれだけか?」

「いえいえ、今の話で更に疑問が増えました! なんでそんなすごい能力を持ってたのに倉庫番なんかしてたんです!?」

 もっともな疑問をアメリは投げかけてくる。それはそうだ、この能力が前から使えているならもっといい地位に就いていてもおかしくない。少なくとも、倉庫の管理人なんかにしておいていい才能ではないはずだ。

「スキルのレベルが上がったんだ。理由はよくわからない」

「そうなんですか、でもそれな──」

 本当にわからない。スキルのレベルが上がるだなんて初めて聞くことだし、レベルが上がった理由も謎だ。

 確か、倒したスライムにラベルを貼ったのがきっかけになったんだっけ⋯⋯それ以外は何かあったか?

「──ッドさーん、リッドさーん! 聞いてますかー!?」

「あ、ああ、すまない。少し考え事をしていた」

 危うく、思考の迷路に入り込んでしまうところだった。今は彼女と話してる最中、考えるのは後でいい。

「じゃあ、もう一回言いますよ? それをマスターに言ったら解雇を取り消してもらえるんじゃないですか?」

「……そう、だな」

 俺もそれを考えていた。今の俺ならお荷物にはならない。でも、与えられる役割は──

「なぁ、アメリ。一つ俺からも聞いていいか?」

「なんですか?」

「もし俺が戻ったとしてさ。冒険が出来ると思うか?」

 アメリは言葉を返してこない。きっと、俺の言葉に対してしっかりと考えてくれている。その姿を見て、やっぱりこの子はいい子だなと思った。

「……いいえ、それは無理です。リッドさんのスキルは武器の供給係に置くのが一番いい。大量にエクスカリバーを生産出来るんですから、前線に行くとしても補給係だけ。それ以外は荷物持ちですかね……冒険とは限りなく遠くなるかと……」

「ありがとう。俺もそういう考えなんだ」

 彼女がしっかりとした考えを返してくれたことに俺は感謝をする。

「俺さ、実は夢があるんだよ」

「夢?」

 アメリの言葉に俺は頷く。そうだ、それはまるで御伽噺のような夢。だから今までハルトにしか話をしたことはなかった。

「俺はこの世界を一周してみたい、自分の目で色々な物を見てみたい。自分の手で様々な物を触れてみたい。自分の肌で世界中の空気に触れたい」

 本でしか読んだことないような冒険譚、それが俺の夢。こんな歳にもなっても童心の頃に抱いたそれを、大事に抱えたままでいた。

「……世界の果てを知りたいんだ。本で知るだけでは、それは本当に知ったことにはならないから」

「世界の果て、ですか……」

 アメリが呆気に取られたような声を出す。それはそうだろう、こんな唐突もないことを言われても誰だって困る。

「いい夢ですね……私とは違って……」

「アメリ?」

 彼女が辛そうな声を出したので気になり、声を掛けてみた。

「いえいえ、なんでもありません! 応援しますよ、リッドさんの夢! だって、キラキラしてますもん! えっ、リッドさん!?」

「……ありがとう、こんな俺の話を真剣に聞いてくれて」

 俺の胸には熱い物がこみ上げていた。感謝の気持ちから、俺はアメリに向けて頭を下げていた。

「い、いえいえ、あのその。それはどういたしましてなんですが! その、そこまでする必要はないといいますか!」

 俺の行動にアメリは慌てている。まさか年上から頭を下げられるとは思っていなかったのかもしれない。

「……すまない。つい嬉しくなってな」

 顔を上げて頬を掻く。何だか冷静になると気恥ずかしくなってきた、酔いが冷めてきたたはずなのに身体が熱い。年下に夢を語る痛い奴になっていないか、俺?

「と、というわけで、このまま『天空の理想郷』からは抜けようと思う。一応ハルトには伝えておくけどな」

 俺はどもりながら、アメリに俺の意志を伝える。あいつには絶対に話しておかないといけないと思う。俺の夢の応援をしてくれていたのだ、話さなければ筋が通らない。

「そ、そうですか……明日には旅立つんですか?」

「いや、行かないよ?」

「え?」

 俺の言葉にアメリは困惑する。まぁ、夢の話を聞いたらそう思うよな。

「実はな、俺はまだこの能力を使いこなしていない」

「シータさんに勝ったのに?」

「あいつに勝てたのはたまたまさ、あいつが舐めてたから隙をつけただけだ」

 次に戦えば俺は確実に負ける。あんな不意打ちは二度と通用しない、スカイディアのエースの座は伊達ではない。

「なるほど、じゃあしばらくはこの街にいるんですね?」

「ああ、レベル上げとスキルの確認をしないとな」

 それに、俺のラベル貼りはまだレベル1。これからもっと能力が増えていくはずだ。

「これ以上強くなるんですか……」

「いやいや、エクスカリバーって言っても一回振ったらぶっ倒れるんだぞ? 今日だって君がいなければ死んでたしな。本当にありがとう、アメリ」

「ふふ、助けになったのなら嬉しいです」

 その言葉に、アメリは笑ってくれた。俺もつられて笑ってしまう。

「聞きたいことはもうないのか?」

 一息ついたので一度彼女に聞いてみる。すると、彼女は「うーん」と悩んでから、何かを思いついたような表情になった。

「あ、それじゃあもう一つ聞いてもいいですか?」

「ああ、いいぞ! ここまで来たらなんでもこい!」

 俺は何も考えずに、調子に乗った言葉を吐いてしまった。

「すみません、一緒にパーティーを組んでもらえませんか?」

「……え、なんだって?」

 俺の脳は、その言葉にしばしフリーズをするのであった。
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