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無気力王子が気力を使うとこうなる

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ミラと話をした翌日、ウィルが体調を崩したと連絡があった。
たまたま執務があるために学園の寮の部屋ではなく王宮の自室に帰っていたので、そのまま王宮で療養するらしい。

あ、ミラとは話が盛り上がり、アンゼル様との馴れ初めというか出逢いの話も聞かせてもらった。
思った以上に仲良くなれて、今度はアンゼル様の義姉で私とも婚約者選定の件から仲良くしてくれているイルーゼも交えて女子会をすることになっている。

「殿下、心配ねリーゼロッテ」
「そうですね、お見舞に行かれた方がよろしいのでは?リーゼ様」

先の台詞はイルーゼで、後のはミラだ。
二人には敬語を使わず呼び名も愛称でとお願いしたんだけど、イルーゼは愛称呼び捨ては殿下が怖いから、ミラは新興男爵令嬢が由緒ある公爵家と伯爵家のご令嬢たちに敬語無しなんて他人から私刑し放題だと公言するようなものだと固辞された。

「ええ・・・明日は学園の公休日だし、今日の授業が終わったら王宮に行ってみるわ」

イルーゼに気づかれないようにミラに目配せをする。
これは十中八九ウィルに昨日の話は筒抜けたと思っていいでしょうね・・・。


*****


王子の部屋っていうのは、前世でいうタワマンレベルの広さの8LDKみたいなのが丸ごと彼の自室だと思ってもらっていい。
つまり広い。
そして部屋までも遠い。
セ○ウェイみたいなので行きたいくらいだ。
やんごとない方々がそんなん乗ってたら面白シュール過ぎる図だけど。

「殿下、リーゼロッテ様がお見えになりました」
『・・・通せ』

まぁそんだけ広いので内線電話みたいな役割をする魔道具があって、続き部屋の奥からでも返事ができたりする。
私は一緒にここまで来た侍女にお茶の用意を頼んで寝室に向かった。

「ウィル、入るわよ」

ノックをして入ると、ウィルは寝台に横になったままでいた。

「今回は久々だったからかだいぶ酷いみたいね」
「・・・」

何も答えず顔を背けるウィルの手をとったら、ピクリと少しだけ反応した。

「じっとしててね、どうせそんなに動けないだろうけど・・・今、楽にしてあげる」

何だか安楽死させるような台詞になってしまった・・・。
とりあえず、スマラクト家の特有魔力《癒やし》を発現させる。

この世界の魔法というものは、怪我や毒は治せるけど病気はほとんど治せない。
もちろん死者を生き返らせることもできない。
治せない類のものだと対症療法でしかないんだけど、しないよりはマシだから。

「・・・どう?」
「吐き気と頭痛と関節痛がなくなっただけでかなり楽になった・・・ありがとう」
「どういたしまして・・・それで、何を《視た》の?そんなに苦しい代償を払ってまで」
「・・・どうせ、わかってるんだろう」

はー、と思いっきり溜め息をつくウィル。
昔みたいな無愛想な顔がちょっと懐かしかわいい。

実は、ウィルと正式に婚約者になったのは約一年前だけど、面識自体はずっと以前からあった。
ウィルは王家の特有魔力《慧眼》に加え、初代シュテルンザフィーア王の先祖返りとされる、瞳に六条の光が入る者だけの固有魔力《千里眼》を持っている。
《慧眼》は魔力を使って一時的にとか、ある事柄にだけとか勘を良くするみたいな感じで、それでも十分凄いんだけど効果は自分の魔力量に比例し、魔力以上のことをしようとしてもただ魔力を消費するだけでリスクはあまりない。
対して《千里眼》は、本来知り得ない事柄を魔力で以てして知ることが出来るというものだけど、その代償に事柄の大きさ(使用者の立場で知るのがどのくらい難しいかって感じかな)により使用者の身体を蝕む。
幼い頃はコントロールが難しくて、知的好奇心が旺盛だったウィルは無意識に力を使いよく体調を崩していたのだ。
特有の力に代償があることは国家機密で、その関係でウィルの治療はスマラクト家の者に一任されていた。
私はよく父に連れられて来ていたし、その頃から魔力が高かったからよくサポートに入ったりしていた。
多分、ゲームでもリーゼロッテが婚約者だったのはこのことも理由の一つだったのだろう。
ついでに言うと、ウィルが無気力になったのも無意識に力を使わないようにした結果なのかなと思う。

「《視た》のは・・・リーゼとアイゼン男爵令嬢が言っていた物語のこと」
「訊いてくれたらちゃんと教えたのに」
「どうだか・・・」

あら、これは・・・拗ねてる?

「わかってるわ・・・私の一線を引いた態度のせいで訊けなかったんでしょう?それと、私に内緒で“影”を付けていることが後ろめたいのもあったのかしら?」
「・・・本当、リーゼは《慧眼》も《千里眼》もないのにどうしてわかるんだ・・・あの物語のせい?」
「それもあるけど・・・」

私は覚悟を決めて言う。
信じてもらえなくても。

「私が、ウィルのことを好きだからよ」



***
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