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謎の接触 ※王子視点
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***
「ヤーデか」
「ご報告に参じました」
王家の“影”と呼ばれる者。
王族を守る近衛の中でもその存在を秘匿され、素性も顔も何人いるのかすら現国王しか把握を許されない部隊。
慧眼を持つ王太子である自分でも、凡その見当はついているが確証はないくらいの。
その中でも王太子付の、自由に使役できる数名の中で女性であるヤーデをリーゼの専任にしていた。
王太子の婚約者といえど、まだ正式に近衛は付かない。
聞こえは悪いが監視兼護衛として一人自分から出すしかなかった。
もちろん監視より護衛の意味合いが殆どで、ヤーデの報告の中から監視の内容を深く掘り下げることはあまりない。
しかし今回は。
「アイゼン男爵令嬢ミラ・・・?」
「はい。学科別授業と全科共通授業の間の休憩時間にアイゼン男爵令嬢の方から話し掛け、リーゼロッテ様が西の小中庭の目立たない場所へ誘導し、話を」
「・・・内容は」
「アイゼン男爵令嬢が物語の題名だという言葉を言い、それを知っているかとリーゼロッテ様に問いかけたところ、リーゼロッテ様はご存じだったようで談話室を押さえるからそこで放課後詳しくという約束を取り付け一度別れました」
「それで放課後俺の教えた女子寮のあの部屋を使った訳か」
「そのようです」
その物語がただの小説や歌劇のことならあんな人払いのようなことをしてまで話すまでもない。
自分から話しかけたという男爵令嬢がリーゼとの身分差により他からの詮索や嫌がらせを受けないようにするためであってもやや仰々しすぎる感は否めない。
「その題名の物語はどんなものなのかわかるか?」
「いえ、今王都で流通している中にそのような物語は見つけられませんでした。題名そのものも話の内容をわかりやすく示唆する類のものではないですね・・・申し訳ありません」
「謝る必要はない。部屋での話も同様か?」
「それが、あまりよく・・・」
「お前ほどの者が聞き取れなかったのか?他国語か?」
「言語はこの国のもので間違いないのですがお二人が仰ることの半分もわかりませんでした。物語のことを話しているはずなのに、内容はお二人やその周囲の方々など実在の人物のことで」
「・・・へえ?」
「私がお二人の会話からはっきりと汲み取ることができたのは、“アイゼン男爵令嬢はモーントシュタイン伯爵令息アンゼル様に恋慕している故にウィルフリード殿下とリーゼロッテ様の仲を脅かす存在ではない、と申し出るためにリーゼロッテ様に接触した”ということだけです」
「・・・」
普通、下級貴族と言える男爵令嬢が王太子と公爵令嬢の婚約を脅かす存在となるとは考えにくい。
例え婚約が政略的なものであってもだ。
その上自分と男爵令嬢の関係はただの同級生、顔見知り程度でしかない。
リーゼロッテと男爵令嬢の関係もだ。
なのにお互いにそれが不自然と思わないさも共通の認識があるような・・・
「そうか、あの物語」
恐らくだが、ヤーデの報告にあった【きらめく星の導きで】という物語は実在の人物か明らかにそれとわかるモデルがいる人物のことを描いたものだ。
“影”でも探れなかったそれがどんな内容で、どういう経緯で彼女らが目にしたのかはわからないが、そうであれば二人の言動に説明がつく。
しかも人払いをするからには、秘匿したい相応の理由が存在するはすだ。
自分のことを好いてくれてはいると感じるものの、どこか薄膜のような一線をリーゼが引くのはこのせいなのだと妙な確信があった。
「・・・久々に、やってみるか」
愛しいリーゼの心も全部手に入れたいというエゴが《千里眼》の代償の苦痛を甘んじて受ける気にさせるとは、本当にリーゼには敵わない。
そんなことを思いながら、ヤーデが執務室から退出した後準備を整えて、続き部屋の寝室で久方ぶりに自分の意思で《視る》ために目を伏せた。
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「ヤーデか」
「ご報告に参じました」
王家の“影”と呼ばれる者。
王族を守る近衛の中でもその存在を秘匿され、素性も顔も何人いるのかすら現国王しか把握を許されない部隊。
慧眼を持つ王太子である自分でも、凡その見当はついているが確証はないくらいの。
その中でも王太子付の、自由に使役できる数名の中で女性であるヤーデをリーゼの専任にしていた。
王太子の婚約者といえど、まだ正式に近衛は付かない。
聞こえは悪いが監視兼護衛として一人自分から出すしかなかった。
もちろん監視より護衛の意味合いが殆どで、ヤーデの報告の中から監視の内容を深く掘り下げることはあまりない。
しかし今回は。
「アイゼン男爵令嬢ミラ・・・?」
「はい。学科別授業と全科共通授業の間の休憩時間にアイゼン男爵令嬢の方から話し掛け、リーゼロッテ様が西の小中庭の目立たない場所へ誘導し、話を」
「・・・内容は」
「アイゼン男爵令嬢が物語の題名だという言葉を言い、それを知っているかとリーゼロッテ様に問いかけたところ、リーゼロッテ様はご存じだったようで談話室を押さえるからそこで放課後詳しくという約束を取り付け一度別れました」
「それで放課後俺の教えた女子寮のあの部屋を使った訳か」
「そのようです」
その物語がただの小説や歌劇のことならあんな人払いのようなことをしてまで話すまでもない。
自分から話しかけたという男爵令嬢がリーゼとの身分差により他からの詮索や嫌がらせを受けないようにするためであってもやや仰々しすぎる感は否めない。
「その題名の物語はどんなものなのかわかるか?」
「いえ、今王都で流通している中にそのような物語は見つけられませんでした。題名そのものも話の内容をわかりやすく示唆する類のものではないですね・・・申し訳ありません」
「謝る必要はない。部屋での話も同様か?」
「それが、あまりよく・・・」
「お前ほどの者が聞き取れなかったのか?他国語か?」
「言語はこの国のもので間違いないのですがお二人が仰ることの半分もわかりませんでした。物語のことを話しているはずなのに、内容はお二人やその周囲の方々など実在の人物のことで」
「・・・へえ?」
「私がお二人の会話からはっきりと汲み取ることができたのは、“アイゼン男爵令嬢はモーントシュタイン伯爵令息アンゼル様に恋慕している故にウィルフリード殿下とリーゼロッテ様の仲を脅かす存在ではない、と申し出るためにリーゼロッテ様に接触した”ということだけです」
「・・・」
普通、下級貴族と言える男爵令嬢が王太子と公爵令嬢の婚約を脅かす存在となるとは考えにくい。
例え婚約が政略的なものであってもだ。
その上自分と男爵令嬢の関係はただの同級生、顔見知り程度でしかない。
リーゼロッテと男爵令嬢の関係もだ。
なのにお互いにそれが不自然と思わないさも共通の認識があるような・・・
「そうか、あの物語」
恐らくだが、ヤーデの報告にあった【きらめく星の導きで】という物語は実在の人物か明らかにそれとわかるモデルがいる人物のことを描いたものだ。
“影”でも探れなかったそれがどんな内容で、どういう経緯で彼女らが目にしたのかはわからないが、そうであれば二人の言動に説明がつく。
しかも人払いをするからには、秘匿したい相応の理由が存在するはすだ。
自分のことを好いてくれてはいると感じるものの、どこか薄膜のような一線をリーゼが引くのはこのせいなのだと妙な確信があった。
「・・・久々に、やってみるか」
愛しいリーゼの心も全部手に入れたいというエゴが《千里眼》の代償の苦痛を甘んじて受ける気にさせるとは、本当にリーゼには敵わない。
そんなことを思いながら、ヤーデが執務室から退出した後準備を整えて、続き部屋の寝室で久方ぶりに自分の意思で《視る》ために目を伏せた。
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