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王子来襲
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***
「リーゼロッテお嬢様、お客様がお見えになると先触れが」
「あら・・・」
お伺いではなく断定。
「ウィルフリード殿下・・・かしら?」
「左様でございます。お支度を」
やっぱりね。
娘といえど三大公爵家の者に会うのにお伺いが不要な相手なんて王族くらいだ。
近いうちに来るとは思っていたしね。
にしても翌日とか早すぎないか。
王子暇か?
「ようこそいらっしゃいました、ウィルフリード殿下」
「ああ」
「お父様、お帰りなさいませ」
「ただいまリーゼロッテ。殿下を先に応接室へご案内してくれるかい」
「はい。殿下、どうぞこちらへ」
お父様が王城で公務だったので、王子を連れて戻ってきたようだ。
殿下を案内して着席すると、優雅にお茶をいただきながらお父様を待つ。
「リーゼロッテ嬢、聞いたと思うけど君と俺は婚約することになった」
「存じております」
「昨日と同じようにしてくれて構わない」
「そうは参りません」
「別にいいけど、今さらつまらないご令嬢を装ってももう手遅れだよ」
くそ、バレてたか。
「俺はきっと一生君への興味を失うことはないだろう。“力”を使ったわけじゃないけどね、何となくそう思う」
“力”というのはスターサファイア特有の慧眼のことかな。
「お待たせしました、殿下。リーゼロッテも」
「いや・・・リーゼロッテ嬢と話すのは楽しい」
「これはこれは。さて、ウィルフリード殿下」
お父様が本題を促すと、王子はソファから立ち告げた。
「・・・グスタフ・スマラクト公爵。貴殿の娘を我が婚約者に迎えたい」
「貴方のお立場なら書状一つで済ませられるところを、こうしてお越しいただき態々立してお申し入れくださった。昨日の様子も耳に入っています。仕方なくではなく、多少なりとも望んで娘をお選びいただいたとわかります」
「スマラクト公爵、多少なりともではない。私はリーゼロッテ嬢でなければと心から思っている」
王子の言葉にお父様も立ち上がり、二人は握手を交わした。
「ありがとうございます・・・さ、リーゼロッテ」
渋々私も立ってカーテシーをする。
「・・・身に余る光栄でございます」
「ふふ、本当に身に余るから今からでも取り消してくれとでも言いたそうだ」
「そん、な、とんでも・・・ごさいません」
何でわかるのよ。
読心術か?
「殿下、娘は緊張しているのですよ。リーゼロッテ、殿下は敏くお優しい方だ。わかるね」
「はい・・・」
わかってる。
この完璧王子様は、私が本心から拒絶する態度を見せたら婚約は解消してくれるだろう。
そもそも申し込みすらしなかったかもしれない。
王族故か慧眼故か、いやそのどちらもか。
他者の感情にも敏感だ。
そんな相手に、私如きの嘘なんか通用しない。
今までのリーゼロッテの記憶も、前世の知識や性格も全てごちゃまぜになった今の私は、まだ彼に恋とまでは断言できなくても、その気持ちを拒めない。
・・・いつかヒロインに、心変わりしてしまうかもしれなくても。
「さて、それでは私はそろそろ席を外します。殿下、またお送りさせていただく頃家令がお声掛けします」
「わかった」
お父様が退席したけども、この人いつまでいらっしゃるのかしら。
ちらりと盗み見るようにすると、バチッと目が合ってしまった。
しかもゲームのスチルでしか見たことないような笑み。
「今、王子のくせに暇なのかって思っているだろう」
「・・・さっきから心を読むのやめてもらえませんか」
「慧眼使ってないよ。今の君がわかりやすすぎるだけ」
「左様ですか・・・」
「今は表に出る公務以外やることないんだ。来年には学園に通うしね・・・ところで」
「?」
「リーゼって呼んでいい?」
「はあ、お好きなように」
「リーゼも俺のこと、ウィルと呼んで」
「致しません」
「えー・・・何で」
「理由は・・・特にありませんけど」
「なら呼んで。リーゼに呼ばれたい」
「・・・しょうがないですね」
「うん、しょうがないんだ。ありがとう、リーゼ」
「・・・ずるいわ」
そんなことで、あの無気力無表情王子がこんなに嬉しそうに笑うなんて。
「ずるいのはリーゼの方だ。こんなに面白くてかわいい面を隠してたなんてさ」
「私そんなに面白くもかわいくもないですけど・・・」
「俺だけが知ってればいいんだ。本人すらわからなくてもね」
無気力どこいった?
この押せ押せの王子、誰?
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「リーゼロッテお嬢様、お客様がお見えになると先触れが」
「あら・・・」
お伺いではなく断定。
「ウィルフリード殿下・・・かしら?」
「左様でございます。お支度を」
やっぱりね。
娘といえど三大公爵家の者に会うのにお伺いが不要な相手なんて王族くらいだ。
近いうちに来るとは思っていたしね。
にしても翌日とか早すぎないか。
王子暇か?
「ようこそいらっしゃいました、ウィルフリード殿下」
「ああ」
「お父様、お帰りなさいませ」
「ただいまリーゼロッテ。殿下を先に応接室へご案内してくれるかい」
「はい。殿下、どうぞこちらへ」
お父様が王城で公務だったので、王子を連れて戻ってきたようだ。
殿下を案内して着席すると、優雅にお茶をいただきながらお父様を待つ。
「リーゼロッテ嬢、聞いたと思うけど君と俺は婚約することになった」
「存じております」
「昨日と同じようにしてくれて構わない」
「そうは参りません」
「別にいいけど、今さらつまらないご令嬢を装ってももう手遅れだよ」
くそ、バレてたか。
「俺はきっと一生君への興味を失うことはないだろう。“力”を使ったわけじゃないけどね、何となくそう思う」
“力”というのはスターサファイア特有の慧眼のことかな。
「お待たせしました、殿下。リーゼロッテも」
「いや・・・リーゼロッテ嬢と話すのは楽しい」
「これはこれは。さて、ウィルフリード殿下」
お父様が本題を促すと、王子はソファから立ち告げた。
「・・・グスタフ・スマラクト公爵。貴殿の娘を我が婚約者に迎えたい」
「貴方のお立場なら書状一つで済ませられるところを、こうしてお越しいただき態々立してお申し入れくださった。昨日の様子も耳に入っています。仕方なくではなく、多少なりとも望んで娘をお選びいただいたとわかります」
「スマラクト公爵、多少なりともではない。私はリーゼロッテ嬢でなければと心から思っている」
王子の言葉にお父様も立ち上がり、二人は握手を交わした。
「ありがとうございます・・・さ、リーゼロッテ」
渋々私も立ってカーテシーをする。
「・・・身に余る光栄でございます」
「ふふ、本当に身に余るから今からでも取り消してくれとでも言いたそうだ」
「そん、な、とんでも・・・ごさいません」
何でわかるのよ。
読心術か?
「殿下、娘は緊張しているのですよ。リーゼロッテ、殿下は敏くお優しい方だ。わかるね」
「はい・・・」
わかってる。
この完璧王子様は、私が本心から拒絶する態度を見せたら婚約は解消してくれるだろう。
そもそも申し込みすらしなかったかもしれない。
王族故か慧眼故か、いやそのどちらもか。
他者の感情にも敏感だ。
そんな相手に、私如きの嘘なんか通用しない。
今までのリーゼロッテの記憶も、前世の知識や性格も全てごちゃまぜになった今の私は、まだ彼に恋とまでは断言できなくても、その気持ちを拒めない。
・・・いつかヒロインに、心変わりしてしまうかもしれなくても。
「さて、それでは私はそろそろ席を外します。殿下、またお送りさせていただく頃家令がお声掛けします」
「わかった」
お父様が退席したけども、この人いつまでいらっしゃるのかしら。
ちらりと盗み見るようにすると、バチッと目が合ってしまった。
しかもゲームのスチルでしか見たことないような笑み。
「今、王子のくせに暇なのかって思っているだろう」
「・・・さっきから心を読むのやめてもらえませんか」
「慧眼使ってないよ。今の君がわかりやすすぎるだけ」
「左様ですか・・・」
「今は表に出る公務以外やることないんだ。来年には学園に通うしね・・・ところで」
「?」
「リーゼって呼んでいい?」
「はあ、お好きなように」
「リーゼも俺のこと、ウィルと呼んで」
「致しません」
「えー・・・何で」
「理由は・・・特にありませんけど」
「なら呼んで。リーゼに呼ばれたい」
「・・・しょうがないですね」
「うん、しょうがないんだ。ありがとう、リーゼ」
「・・・ずるいわ」
そんなことで、あの無気力無表情王子がこんなに嬉しそうに笑うなんて。
「ずるいのはリーゼの方だ。こんなに面白くてかわいい面を隠してたなんてさ」
「私そんなに面白くもかわいくもないですけど・・・」
「俺だけが知ってればいいんだ。本人すらわからなくてもね」
無気力どこいった?
この押せ押せの王子、誰?
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