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サイクロプス撃退戦3(一旦撤収)
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サイクロプス達は西方面にどたどた走って撤退して行った。
俺は脇腹の痛みと、援軍の到来に安著して座り込んでしまった。
そんな俺の所にアーロフさんが駆けて来た。
「使徒様、ご無事でしたか!ロップ殿もご無事の様ですな、良かったです!」
「うにゃ~。不甲斐ないご主人を持つとボクも苦労するんすよ。大体レイ様は....」
俺は右手をワキワキさせてロップを黙らせた。
「助かりましたよ、アーロフさん。ちょっと油断していました。おかげでこの
有様です」
「何を言っているんですか!我等が今まで倒す事が出来なかった一つ目巨人を
二頭も倒してくれて感謝しておりますぞ」
「はあ、でも鬼人族の弓はヤツらに効果的だった様ですが?おかげで俺も助かり
ましたし」
「ヤツらは目に対する攻撃を非常に嫌がるのです。今までも、ヤツらをこうして
弓で目を狙って追い払うのが精一杯でした。接近戦ではどうしてもヤツらの怪力
には対抗出来ません。それに、ある程度の数を揃えて弓を大量に射かけないと
効果は薄いのです。なので人数の少ない遠征隊や、自警団の数が足りなかった
南方の集落が蹂躙されてきたのです」
成程、目が弱点なのか。まあ、そりゃそうだろうな。頭も槍に罅が入る位
石頭だったし、身長5メートルのゴリマッチョじゃ身体にも致命傷を与える
のは難しいだろう。現に俺のアハト・アハトの近接射撃を食らっても、
ピンピンして丸太をぶん投げて来やがったし。
まともに攻撃が通りそうなのは、柔らかそうな目位だろう。
ヤツらもそれを分かってるから、目に対する攻撃に神経質になるんだろうな。
だが、弓では初撃で目を撃ち抜かないと腕で防御されて、今回の様に撤退させる
事しか出来ないのだろう。
ゴレロフさんとか、ココエラさんでも接近戦は無理なのだろうか?あの人達は
かなり強そうだが。アーロフさんにその点を訪ねてみると、
「村にも何人かは、ヤツらと接近戦で一対一なら対抗出来得る者がおります。
今はゴレロフ村長、ココエラ長老、それとベルザロフでしょう。鬼人族は稀に
怪力を持って生まれる者がおります。ただ一つ目巨人共は五頭で連携して戦うの
で厳しいでしょう。それに、ゴレロフ村長もココエラ長老も立場上なかなか前線
には出られませんからな。ベルザロフも遠征中にヤツらと遭遇していますが、
弓で追い払うのがやっとだったと言っていましたな。それにベルザロフは今は
左腕を失っておりますからな....」
そうか、やっぱりゴリマッチョとココエラさんは強かったんだね。
そして、鬼人族に怪力を持って生まれる者がいると言う事が気になる。
リリもそうなんじゃないか?鬼人族は人間より身体能力が優れているようだが、
最近のリリの怪力っぷりは到底7歳児とは思えない。いずれココエラさんか
ベルザロフさんに相談してみよう。
もしそうだったら、リリは金太郎みたいになるのかね?熊さんと相撲したり、
鉞を担ぎ出すのか? なんか嫌だぞ。
「レイ兄ちゃああああん!びええええん!」
座り込んでいる俺に、煩いヤツが低空タックルで飛び掛かって来た。やめろ!
俺は今アバラが折れているんだ!
俺はエーラの頭を片手で押さえた。エーラは両腕を振り回してジタバタしている。
新喜劇か!
「なんだよう!アタシは心配したんだぞ!もっと優しくしろ~!」
「俺は今アバラが折れているんだ!エーラ姉ちゃんこそ怪我人には優しくしろ!」
「....レイ兄ちゃん、怪我してるのか?大丈夫なのか?」
「エーラちゃん。こんなのは大した事無いっすよ。レイ様がヘタレなだけっす。
何日かすれば元通りっすよ」
え、そうなの?骨折もそんなにすぐに治るんだ。
俺はロップの頭を絞り上げながら、今後の事を考えた。
怪我は数日で治る。カジキとダツもドルロフさんに任せれば問題ないだろう。
疑問が残るのは猛毒ガスが不発だった件だ。どういう事だろう?
後でロップに聞こう。キリーネさんから他にも何か聞いているかもしれない。
まあ、別にこの能力が無くなってくれたのなら、別にそれで構わない。
口臭とか腋臭なんて嫌すぎるからな。
ゴレロフさんとベルザロフさんがやって来た。
他の自警団や狩人衆は、倒壊した建物に生き残りがいないか捜索する組と、
周囲警戒組に分かれて作業しているようだ。
「使徒様、一つ目巨人を二頭も倒してくれて感謝する。避難民は村に回収済だ」
「怪我をされた様ですな、使徒様。宜しければ戦いの経緯を教えてくれますかな?」
「油断して一撃食らってしまいましたよ。戦いの経緯の説明はゴレロフ村長と
アーロフさん、ベルザロフさんだけで人払いして貰えますか?あまり知られたく
ない事もありますので」
「やだ、アタシも一緒に聞くんだ!アタシを仲間外れにするのか!」
「エイエラ!使徒様が仰っている事だ、我儘も大概にしろ!」
ベルザロフさんの一喝でエーラが塩垂れた。効果はバツグンだ。
「....うん、分かったよ。アタシはあっちで生き残りの捜索を手伝うよ」
悪いなエーラ。俺の嫌すぎる身体の事はあまり知られたくないのだ。
レイ兄ちゃんは口と腋が臭いとか言われたくないからな。
エーラは捜索組の方に走って行った。
「さて、一つ目巨人との戦いの顛末を説明しましょうか。まず俺は集落への道で、
一つ目巨人と交戦している鬼人族を発見しました。それから....」
・避難民を追いかけていたサイクロプス二頭はカジキの急降下爆撃とダツの騎兵槍突撃で倒した事。
・その際にカジキとダツが故障したので、禁じ手を使おうとした事。
・禁じ手とはバシリスクの魔石から得た猛毒ガスである事。
・残りの三頭のサイクロプスを猛毒ガスで倒そうと思ったが、サイクロプスの
丸太ぶん投げ攻撃で苦戦し、負傷した事。
・何故か分からないが猛毒ガスが不発だった事。
等の経緯を、特殊能力の事も含めて説明した。
ゴレロフさんとアーロフさん、ベルザロフさんは無言で考えている。
そりゃ、こんな危険な能力を持った男が村にうろついていれば心配だよな。
「うにゃ~。レイ様、バシリスクの特性も得ていたんすね!ボク知らなかったっすよ。これで痰とオナラに加えて、口臭と腋臭を....」
俺は再びロップの頭を掴んで黙らせた。そうか、あの時はロップも連れずに、
新能力を試す為に一人でバシリスクの枯れ林に行ったからな。
まず、ベルザロフさんが尋ねてきた。
「使徒様、バシリスクと言うのは毒トカゲの事ですな?あの強力な毒を使徒様は使えるという事ですね?何故それを秘密にしていたのですか?」
「俺にとってあまり好ましい能力ではなかったからです。強力過ぎますし、
よっぽどの事が無い限り封印しようと考えていました。ただ今回は武器が壊れて
しまいましてね。使わざるを得ないと判断したのです。決局不発でしたけどね」
続けてアーロフさんが質問してきた。
「使徒様、何故不発だったのですか?心当たりはありますか?その能力があれば、
今日でヤツらを始末出来たかもしれないですよね?」
「俺にも理由はさっぱり分からないです。ロップ、何か心当たりはないか?」
「そんなの決まってるっすよ。キリーネさんが言ってたっすからね。
バシリスクが毒のあるものを食べるのは、毒を身体に貯める為っす。
レイ様はお試しで毒を吐いちゃったから、毒がスッカラカンだったんすよ」
「オマエ!前に聞いた時、そんな事言ってなかったじゃないか!」
「何言ってんすか!あの時はボクにバシリスクの好物は何かって聞いたんじゃ
ないっすか!ボクはそれに答えただけっすよ!」
むう、確かにそうだったな。だが、ついでに毒を好む理由を教えてくれても
いいじゃないか!まあコイツにそんな気の利いた事を期待する俺がバカだったん
だろう。そもそも、あの時はこんな能力を得るなんて思ってもいなかったしな。
「そうだな、悪かったよ。ロップ君。だが、何で俺の身体に毒が貯まってたんだ?
俺って毒は効かないんだろ?」
「キリーネさんがコウエイ様を研究した結果、星母神様の使徒は毒を身体の何処
かに貯めこんで、ゆっくり分解するって言ってたっす。それを確認しようとして
コウエイ様を解剖しようとしたっすけど、コウエイ様に逃げられてたっす」
キリーネさんは相変わらずのマッドっぷりだ。俺が貯めこんでいた毒は主に
ワスプの実だろう。ムシャムシャ食いまくっていたからな。
バシリスクにも毒煙を食らったし。
でも、毒素を貯めこむって事は恐らくキャパがあるだろう。俺の毒無効化能力
にも限界があるかもしれないな。気を付けよう。
ゴレロフさんが声を上げた。
「あー、使徒様、ロップ殿との問答中に割り込ませてもらうぞ。
要するに、今は毒トカゲの毒煙は使えんのだな?我等としては村に尽くして
くれた使徒様をどんな能力を持っていようが、今更、危険視する気は毛頭無い。
だが我等としては、この際に一気に一つ目巨人共を駆逐したいと思う。
ヤツらはかなり執拗で、恐らくまたこの集落に現れる可能性が高い。
何か他に方策はないだろうか?」
まずは俺が家に戻ってワスプの実やドクツルタケをドカ食いする方法があるな。
だが、どの位食べればいいのかが不明だ。それにワスプの実は良く分からないが、ドクツルタケにびらん性毒素は期待出来ないのではないだろうか?
これはカエンタケを探すしかないのか?もしかすると、びらん性毒素を含む未知の何かががあるのかもしれない。謎すぎるなバシリスクの生態は。
しかし、前回の猛毒ガス噴射試行の時の貯蓄毒素が、バシリスクの猛毒煙に
突っ込んだ時に貯めこんだ物だった場合、今知っている毒物の摂取だけでは威力
が未知数だ。これでは博打になるな、なるべく避けたい。
そういえば、まだ魔法を試していなかった。サイクロプスは目が弱点なんだよな。
俺が編み出した生命魔法の"チカチカ"(対象の目がチカチカして視界を遮る)は
有効ではないだろうか?
「ロップ、ヤツらには生命魔法は効くのか?」
「うにゃ、コウエイ様も試したっすけど、基本的に身体の自由を奪うような魔法
やダーク系もレジストされるっすよ。嫌がらせ系の魔法も、連中は感覚が鈍い
ので、あまり効果は無かったみたいっす」
そうか、確かに"小指ガツン"とか"痒い痒い"とかは効きそうにない。
あんな不潔なヤツらは常に痒いだろう。恐らく疥癬とかインキン持ちだ。
だが、コウエイ様が持っていなかった魔法、"チカチカ"ならヤツらの弱点である
目に作用する魔法だ。効果はあるのではないだろうか?試す価値はある。
それと、有効そうな手段は催涙弾だ。カスレの実とピリピリの実の微細粉末を弓射でヤツらの顔に炸裂させたら効果覿面だろう。
俺の考えを三人に披露すると、ベルザロフさんが呵々と大笑した。
「わははははは!使徒様、面白い案ですな。カスレの実とピリピリの実ですか。
確かにあれは目に入ると酷い事になりますからな。俺はいい案だと思いますぞ。
それに狩人衆も弓射という重要な仕事が与えられますからな。村の宿敵討伐を
使徒様頼みにするのも口惜しいですぞ」
アーロフさんは慎重な意見だ。。
「ですが、ヤツらの目を塞ぐだけではこれまでと同じで、また逃げられるのでは
ないでしょうか?何か止めを刺す方策が必要です」
俺はカジキとダツがあれば、二頭は急降下爆撃か騎兵槍突撃で仕留められると思うが、残り一頭とは接近戦になるだろう。
あのパワーを実体験したからな。なるべく接近戦はしたくない。
何かヤツらを混乱させ、行動不能にする方策は無いだろうか?
待てよ、唐辛子か。催涙スプレーとか熊除けスプレーに使われていたよな。
家に熊除けスプレーはあっただろうか?一度戻って探してみるか。
だが、村にもあるかもしれない。キャロライナ・リーパーを越える激烈唐辛子が。
ふふふ。
「ゴレロフ村長、村で栽培しているピリピリの実は一種類だけですか?
物凄く辛い品種とかありませんか?」
「ん?辛いピリピリの実か。確かティエラの所にいる変な子供が育てていた様な気がする、アイツは何て言ったかな?アーロフ」
「確かメドロフですね。食べられないような物ばかり趣味で育てているので、
ティエラにも呆れられていましたな」
....変な子供?何か嫌な予感がするが、一度村に戻ってティエラさんに相談しよう。催涙弾を作成するのだ!
俺は激烈唐辛子の効果を説明した。場合によっては熊をも撃退可能だという話を
すると、三人とも首を捻って半信半疑の様だったが、取り合えず作って試して
みようとの結論になった。あるといいな、キャロライナ・リーパー級の唐辛子。
まあ、あそこまで強力じゃなくても何とかなるだろう。熊除けスプレーとかも
スコヴィル値はキャロライナ・リーパーよりずっと低かったはずだ。
俺はハバネロなら食べた事あるから、その経験と比較して判断するしかないな。
と言うか、キャロライナ・リーパーなんて俺は食えないだろう。死んでしまう!
その後方針が決まった。狩人衆と自警団の3分の2を集落跡地に残し、
ゴレロフさんとアーロフさん、それに俺は一度村に戻って衆議を行う事になった。
エーラは道の途中で待機する伝令組に配属された。
俺と一緒に村に戻ると駄々を捏ねたが、ベルザロフさんの一喝で大人しくなった。
「村長。後の事は俺に任せてくだされ。片腕でもヤツらには遅れはとりませんぞ」
残留部隊の指揮はベルザロフさんが採る事になった。倒壊した家屋は速やかに
取り壊して、ヤツらの丸太ぶん投げ攻撃にも対処するそうだ。
残念ながら、遺体は荼毘にする事になった。サイクロプスに食い散らかされて
とても遺族に引き渡せない状況らしい。残留組が行ってくれる事になった。
だが、倒壊した建物から子供が二人救出されたのは不幸中の幸いだった。
身体が小さかったので倒れた柱と崩落した茅葺屋根の間で丸まっていたらしい。
怪我もかすり傷程度だった。当然、一緒に本村に連れて行く事になる。
親戚がいるようなので、そこに預ける事になるだろう。
俺達帰還組は、惨たらしい集落の光景を後にして村に戻った。
俺は脇腹の痛みと、援軍の到来に安著して座り込んでしまった。
そんな俺の所にアーロフさんが駆けて来た。
「使徒様、ご無事でしたか!ロップ殿もご無事の様ですな、良かったです!」
「うにゃ~。不甲斐ないご主人を持つとボクも苦労するんすよ。大体レイ様は....」
俺は右手をワキワキさせてロップを黙らせた。
「助かりましたよ、アーロフさん。ちょっと油断していました。おかげでこの
有様です」
「何を言っているんですか!我等が今まで倒す事が出来なかった一つ目巨人を
二頭も倒してくれて感謝しておりますぞ」
「はあ、でも鬼人族の弓はヤツらに効果的だった様ですが?おかげで俺も助かり
ましたし」
「ヤツらは目に対する攻撃を非常に嫌がるのです。今までも、ヤツらをこうして
弓で目を狙って追い払うのが精一杯でした。接近戦ではどうしてもヤツらの怪力
には対抗出来ません。それに、ある程度の数を揃えて弓を大量に射かけないと
効果は薄いのです。なので人数の少ない遠征隊や、自警団の数が足りなかった
南方の集落が蹂躙されてきたのです」
成程、目が弱点なのか。まあ、そりゃそうだろうな。頭も槍に罅が入る位
石頭だったし、身長5メートルのゴリマッチョじゃ身体にも致命傷を与える
のは難しいだろう。現に俺のアハト・アハトの近接射撃を食らっても、
ピンピンして丸太をぶん投げて来やがったし。
まともに攻撃が通りそうなのは、柔らかそうな目位だろう。
ヤツらもそれを分かってるから、目に対する攻撃に神経質になるんだろうな。
だが、弓では初撃で目を撃ち抜かないと腕で防御されて、今回の様に撤退させる
事しか出来ないのだろう。
ゴレロフさんとか、ココエラさんでも接近戦は無理なのだろうか?あの人達は
かなり強そうだが。アーロフさんにその点を訪ねてみると、
「村にも何人かは、ヤツらと接近戦で一対一なら対抗出来得る者がおります。
今はゴレロフ村長、ココエラ長老、それとベルザロフでしょう。鬼人族は稀に
怪力を持って生まれる者がおります。ただ一つ目巨人共は五頭で連携して戦うの
で厳しいでしょう。それに、ゴレロフ村長もココエラ長老も立場上なかなか前線
には出られませんからな。ベルザロフも遠征中にヤツらと遭遇していますが、
弓で追い払うのがやっとだったと言っていましたな。それにベルザロフは今は
左腕を失っておりますからな....」
そうか、やっぱりゴリマッチョとココエラさんは強かったんだね。
そして、鬼人族に怪力を持って生まれる者がいると言う事が気になる。
リリもそうなんじゃないか?鬼人族は人間より身体能力が優れているようだが、
最近のリリの怪力っぷりは到底7歳児とは思えない。いずれココエラさんか
ベルザロフさんに相談してみよう。
もしそうだったら、リリは金太郎みたいになるのかね?熊さんと相撲したり、
鉞を担ぎ出すのか? なんか嫌だぞ。
「レイ兄ちゃああああん!びええええん!」
座り込んでいる俺に、煩いヤツが低空タックルで飛び掛かって来た。やめろ!
俺は今アバラが折れているんだ!
俺はエーラの頭を片手で押さえた。エーラは両腕を振り回してジタバタしている。
新喜劇か!
「なんだよう!アタシは心配したんだぞ!もっと優しくしろ~!」
「俺は今アバラが折れているんだ!エーラ姉ちゃんこそ怪我人には優しくしろ!」
「....レイ兄ちゃん、怪我してるのか?大丈夫なのか?」
「エーラちゃん。こんなのは大した事無いっすよ。レイ様がヘタレなだけっす。
何日かすれば元通りっすよ」
え、そうなの?骨折もそんなにすぐに治るんだ。
俺はロップの頭を絞り上げながら、今後の事を考えた。
怪我は数日で治る。カジキとダツもドルロフさんに任せれば問題ないだろう。
疑問が残るのは猛毒ガスが不発だった件だ。どういう事だろう?
後でロップに聞こう。キリーネさんから他にも何か聞いているかもしれない。
まあ、別にこの能力が無くなってくれたのなら、別にそれで構わない。
口臭とか腋臭なんて嫌すぎるからな。
ゴレロフさんとベルザロフさんがやって来た。
他の自警団や狩人衆は、倒壊した建物に生き残りがいないか捜索する組と、
周囲警戒組に分かれて作業しているようだ。
「使徒様、一つ目巨人を二頭も倒してくれて感謝する。避難民は村に回収済だ」
「怪我をされた様ですな、使徒様。宜しければ戦いの経緯を教えてくれますかな?」
「油断して一撃食らってしまいましたよ。戦いの経緯の説明はゴレロフ村長と
アーロフさん、ベルザロフさんだけで人払いして貰えますか?あまり知られたく
ない事もありますので」
「やだ、アタシも一緒に聞くんだ!アタシを仲間外れにするのか!」
「エイエラ!使徒様が仰っている事だ、我儘も大概にしろ!」
ベルザロフさんの一喝でエーラが塩垂れた。効果はバツグンだ。
「....うん、分かったよ。アタシはあっちで生き残りの捜索を手伝うよ」
悪いなエーラ。俺の嫌すぎる身体の事はあまり知られたくないのだ。
レイ兄ちゃんは口と腋が臭いとか言われたくないからな。
エーラは捜索組の方に走って行った。
「さて、一つ目巨人との戦いの顛末を説明しましょうか。まず俺は集落への道で、
一つ目巨人と交戦している鬼人族を発見しました。それから....」
・避難民を追いかけていたサイクロプス二頭はカジキの急降下爆撃とダツの騎兵槍突撃で倒した事。
・その際にカジキとダツが故障したので、禁じ手を使おうとした事。
・禁じ手とはバシリスクの魔石から得た猛毒ガスである事。
・残りの三頭のサイクロプスを猛毒ガスで倒そうと思ったが、サイクロプスの
丸太ぶん投げ攻撃で苦戦し、負傷した事。
・何故か分からないが猛毒ガスが不発だった事。
等の経緯を、特殊能力の事も含めて説明した。
ゴレロフさんとアーロフさん、ベルザロフさんは無言で考えている。
そりゃ、こんな危険な能力を持った男が村にうろついていれば心配だよな。
「うにゃ~。レイ様、バシリスクの特性も得ていたんすね!ボク知らなかったっすよ。これで痰とオナラに加えて、口臭と腋臭を....」
俺は再びロップの頭を掴んで黙らせた。そうか、あの時はロップも連れずに、
新能力を試す為に一人でバシリスクの枯れ林に行ったからな。
まず、ベルザロフさんが尋ねてきた。
「使徒様、バシリスクと言うのは毒トカゲの事ですな?あの強力な毒を使徒様は使えるという事ですね?何故それを秘密にしていたのですか?」
「俺にとってあまり好ましい能力ではなかったからです。強力過ぎますし、
よっぽどの事が無い限り封印しようと考えていました。ただ今回は武器が壊れて
しまいましてね。使わざるを得ないと判断したのです。決局不発でしたけどね」
続けてアーロフさんが質問してきた。
「使徒様、何故不発だったのですか?心当たりはありますか?その能力があれば、
今日でヤツらを始末出来たかもしれないですよね?」
「俺にも理由はさっぱり分からないです。ロップ、何か心当たりはないか?」
「そんなの決まってるっすよ。キリーネさんが言ってたっすからね。
バシリスクが毒のあるものを食べるのは、毒を身体に貯める為っす。
レイ様はお試しで毒を吐いちゃったから、毒がスッカラカンだったんすよ」
「オマエ!前に聞いた時、そんな事言ってなかったじゃないか!」
「何言ってんすか!あの時はボクにバシリスクの好物は何かって聞いたんじゃ
ないっすか!ボクはそれに答えただけっすよ!」
むう、確かにそうだったな。だが、ついでに毒を好む理由を教えてくれても
いいじゃないか!まあコイツにそんな気の利いた事を期待する俺がバカだったん
だろう。そもそも、あの時はこんな能力を得るなんて思ってもいなかったしな。
「そうだな、悪かったよ。ロップ君。だが、何で俺の身体に毒が貯まってたんだ?
俺って毒は効かないんだろ?」
「キリーネさんがコウエイ様を研究した結果、星母神様の使徒は毒を身体の何処
かに貯めこんで、ゆっくり分解するって言ってたっす。それを確認しようとして
コウエイ様を解剖しようとしたっすけど、コウエイ様に逃げられてたっす」
キリーネさんは相変わらずのマッドっぷりだ。俺が貯めこんでいた毒は主に
ワスプの実だろう。ムシャムシャ食いまくっていたからな。
バシリスクにも毒煙を食らったし。
でも、毒素を貯めこむって事は恐らくキャパがあるだろう。俺の毒無効化能力
にも限界があるかもしれないな。気を付けよう。
ゴレロフさんが声を上げた。
「あー、使徒様、ロップ殿との問答中に割り込ませてもらうぞ。
要するに、今は毒トカゲの毒煙は使えんのだな?我等としては村に尽くして
くれた使徒様をどんな能力を持っていようが、今更、危険視する気は毛頭無い。
だが我等としては、この際に一気に一つ目巨人共を駆逐したいと思う。
ヤツらはかなり執拗で、恐らくまたこの集落に現れる可能性が高い。
何か他に方策はないだろうか?」
まずは俺が家に戻ってワスプの実やドクツルタケをドカ食いする方法があるな。
だが、どの位食べればいいのかが不明だ。それにワスプの実は良く分からないが、ドクツルタケにびらん性毒素は期待出来ないのではないだろうか?
これはカエンタケを探すしかないのか?もしかすると、びらん性毒素を含む未知の何かががあるのかもしれない。謎すぎるなバシリスクの生態は。
しかし、前回の猛毒ガス噴射試行の時の貯蓄毒素が、バシリスクの猛毒煙に
突っ込んだ時に貯めこんだ物だった場合、今知っている毒物の摂取だけでは威力
が未知数だ。これでは博打になるな、なるべく避けたい。
そういえば、まだ魔法を試していなかった。サイクロプスは目が弱点なんだよな。
俺が編み出した生命魔法の"チカチカ"(対象の目がチカチカして視界を遮る)は
有効ではないだろうか?
「ロップ、ヤツらには生命魔法は効くのか?」
「うにゃ、コウエイ様も試したっすけど、基本的に身体の自由を奪うような魔法
やダーク系もレジストされるっすよ。嫌がらせ系の魔法も、連中は感覚が鈍い
ので、あまり効果は無かったみたいっす」
そうか、確かに"小指ガツン"とか"痒い痒い"とかは効きそうにない。
あんな不潔なヤツらは常に痒いだろう。恐らく疥癬とかインキン持ちだ。
だが、コウエイ様が持っていなかった魔法、"チカチカ"ならヤツらの弱点である
目に作用する魔法だ。効果はあるのではないだろうか?試す価値はある。
それと、有効そうな手段は催涙弾だ。カスレの実とピリピリの実の微細粉末を弓射でヤツらの顔に炸裂させたら効果覿面だろう。
俺の考えを三人に披露すると、ベルザロフさんが呵々と大笑した。
「わははははは!使徒様、面白い案ですな。カスレの実とピリピリの実ですか。
確かにあれは目に入ると酷い事になりますからな。俺はいい案だと思いますぞ。
それに狩人衆も弓射という重要な仕事が与えられますからな。村の宿敵討伐を
使徒様頼みにするのも口惜しいですぞ」
アーロフさんは慎重な意見だ。。
「ですが、ヤツらの目を塞ぐだけではこれまでと同じで、また逃げられるのでは
ないでしょうか?何か止めを刺す方策が必要です」
俺はカジキとダツがあれば、二頭は急降下爆撃か騎兵槍突撃で仕留められると思うが、残り一頭とは接近戦になるだろう。
あのパワーを実体験したからな。なるべく接近戦はしたくない。
何かヤツらを混乱させ、行動不能にする方策は無いだろうか?
待てよ、唐辛子か。催涙スプレーとか熊除けスプレーに使われていたよな。
家に熊除けスプレーはあっただろうか?一度戻って探してみるか。
だが、村にもあるかもしれない。キャロライナ・リーパーを越える激烈唐辛子が。
ふふふ。
「ゴレロフ村長、村で栽培しているピリピリの実は一種類だけですか?
物凄く辛い品種とかありませんか?」
「ん?辛いピリピリの実か。確かティエラの所にいる変な子供が育てていた様な気がする、アイツは何て言ったかな?アーロフ」
「確かメドロフですね。食べられないような物ばかり趣味で育てているので、
ティエラにも呆れられていましたな」
....変な子供?何か嫌な予感がするが、一度村に戻ってティエラさんに相談しよう。催涙弾を作成するのだ!
俺は激烈唐辛子の効果を説明した。場合によっては熊をも撃退可能だという話を
すると、三人とも首を捻って半信半疑の様だったが、取り合えず作って試して
みようとの結論になった。あるといいな、キャロライナ・リーパー級の唐辛子。
まあ、あそこまで強力じゃなくても何とかなるだろう。熊除けスプレーとかも
スコヴィル値はキャロライナ・リーパーよりずっと低かったはずだ。
俺はハバネロなら食べた事あるから、その経験と比較して判断するしかないな。
と言うか、キャロライナ・リーパーなんて俺は食えないだろう。死んでしまう!
その後方針が決まった。狩人衆と自警団の3分の2を集落跡地に残し、
ゴレロフさんとアーロフさん、それに俺は一度村に戻って衆議を行う事になった。
エーラは道の途中で待機する伝令組に配属された。
俺と一緒に村に戻ると駄々を捏ねたが、ベルザロフさんの一喝で大人しくなった。
「村長。後の事は俺に任せてくだされ。片腕でもヤツらには遅れはとりませんぞ」
残留部隊の指揮はベルザロフさんが採る事になった。倒壊した家屋は速やかに
取り壊して、ヤツらの丸太ぶん投げ攻撃にも対処するそうだ。
残念ながら、遺体は荼毘にする事になった。サイクロプスに食い散らかされて
とても遺族に引き渡せない状況らしい。残留組が行ってくれる事になった。
だが、倒壊した建物から子供が二人救出されたのは不幸中の幸いだった。
身体が小さかったので倒れた柱と崩落した茅葺屋根の間で丸まっていたらしい。
怪我もかすり傷程度だった。当然、一緒に本村に連れて行く事になる。
親戚がいるようなので、そこに預ける事になるだろう。
俺達帰還組は、惨たらしい集落の光景を後にして村に戻った。
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