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ぼくたちの失敗
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翌日以降は、ルーチンワークをそれぞれこなした。今日は三日目だ。塩の量が
凄いぞ!既に土嚢袋で6袋分だ、概算で144キロだよ。
急降下爆撃もほぼ必中になった。今まで特に改修の必要
もない。ワイルフさんがメネメネ液で強化した柄は凄いね!
ベルルフさんは海に潜りだしたよ。磯でゴーグルを着けて自前の銛で魚を突いて
いた。デカいハタは美味しく頂きました。ウニも採って来てもらったが、
潮溜まりのウニとは違って中身がみっちり詰まっているよ!
大量に捕獲を依頼し3瓶程、塩ウニにした。三人で分けよう。
今日も午前中は塩作りをした後、俺は水平射撃の練習をした。アハト・アハトの
出番ですよ。ワイルフさんのお弟子さんが競作した投槍器(アトラトル)を試してみる。
投げ槍といっても長さ80cmの槍先だ、重量も槍先だけで10キロは
あるだろう。俺は投槍器(アトラトル)を構えて砂山に向けてアハト・アハトを投射した!
ふんぬ!あれ?槍は大幅に外れて彼方に飛んで行った。おい、待てや!
槍は200メートル位のところに突き刺さっていた。これはまず近距離から
練習していかなきゃダメだな。
俺は砂山から10メートル位から始め、徐々に距離を伸ばしていった。
投槍器(アトラトル)は色々試したが一番武骨なものが一番しっくりきた。
投げ槍にも段々慣れて来たぞ。50メートル位で砂山に必中するようになった。
その度に砂山が爆散するので盛り直すのが面倒臭かった。
よし、この投げ槍攻撃を近接射撃と名付けよう。
俺は上に乗っているロップに、
「ヴォル君、俺がこの攻撃を繰り出す時は、『ふん、もう勝ったと思ってるな』と
言いたまえ。そうしたら俺が『そうらしい。では教育してやるか』と返すのが
戦場での美しい掟だ」
「....ヴォルって誰っすか?ガーデルマンさんはどうなったんすか?」
「うるさいな~、飛んでる時はガーデルマンで、地上にいる時はヴォルなんだよ。
漢のロマンを理解しろ!」
「....多分、人に聞いたら滅茶苦茶を言ってるのはレイ様だって皆言うと思うっすよ」
所詮、アホ猫には漢のロマンは分からないのだろう。いずれ上方後背急襲も習得
せねばなるまいな。ふふふ。
明日もう1日海で過ごして、明後日は村へ帰ろう。
そして海へ来て5日目の朝だ、今回は大量の塩と急降下爆撃、近接射撃のコツを習得した。
塩は概算で192キロだ。当分塩には困らないだろう。お土産用にコノワタを3瓶用意した。ドルロフさんとベルルフさんには個別に1瓶ずつ渡してある。
干しナマコや干し牡蠣は希望者には分けてもいいかな。大量に余ってるし。
魚の干物も村に提供しよう。
「では、村に戻りましょうか。最初はドルロフさんとリリです」
これは戦闘力がありそうなベルルフさんと、物知りなロップを組み合わせた人選だ。俺がいない間に何が起こるか分からないからね。
「では、すぐに戻りますので待っていてください」
俺はドルロフさんを乗せ、リリを抱えて村へ向かって飛んだ。そういえば槍の
メンテナンスは全く必要無かったな。でもドルロフさんを連れて来て良かったよ。
こんなに塩が採れるとは思わなかった。ゴリマッチョも驚くだろう。
最高速で飛んだので1時間半位で村に着いた。どんどん速くなってるね。
村長宅の庭に二人を置いて、ゴリマッチョへの挨拶はドルロフさんに任せた。
そして俺はトンボ帰りで海に戻った。
現在10時。ベルルフさん達には特に問題はないようだ。さあ、村に帰ろう。
「使徒様、今回は俺の我儘を聞いてもらってありがとうございました。
俺はココ婆様に海というものがある事を聞いてから、
ずっと海に来てみたかったのです。今回は素晴らしい経験でした。
以前、使徒様が言っていた海への道の開拓を本気で考えてみたいと思います」
「いえ、こちらこそ助かりました。海への道に関しては俺も協力しますよ」
俺達はがっちり握手をした。漢くさいな、だがそれがいいんだよ。
分かるかねロップ君!まあアホ猫には分かんねーだろうな。
案の定、ロップは座って毛づくろいをしている。この野郎。
それから1時間半。俺達は村長の庭に着いた。何故か頭衆が勢ぞろいしている。
「使徒様、やっと戻ったか。軽く昼飯を食ったら、午後は臨時会合だ」
え、そうなの?まさか昼飯を俺に作らせる気なのか?俺が若干引いていると、
「はっはっは、使徒様、心配するな。昼飯は黒芋だ。粗末で申し訳ないがな」
俺は頭衆と村長宅の庭で黒芋を食べながら、海での話をしてまったり過ごした。
後でギギロフさんとワイルフさんにコノワタを渡そう。
そして会合だ。今回はリリは呼ばれていないので、フリスビーを渡してロップと
遊んでいるように伝えた。ベルルフさんが羨ましそうに見ている。
アンタは散々海で遊んでたよね、まだ遊び足りないの?
やはり炭焼き頭のキーロフさんと、鍛冶頭の人はいないようだ。
もう鍛冶頭はドルロフさんにしちゃえばいいのにね。本人は嫌がるだろうけど。
「さあ、皆の衆。今回は使徒様とドルロフ、ベルルフに海へ行ってもらった。
まずはその報告を聞こうか」
頭衆が俺に注目している。
「はい、今回の海への遠征は、第一に毒トカゲ討伐の為の武器の修練でした。
これは何とかものになったと思って下さい。そして今回、ドルロフさんと
ベルルフさんに海へ帯同して頂きましたが、おかげで前回を上回る塩が作れました。ご覧ください」
俺は収納袋から8袋の土嚢袋を取り出した。
おおー、頭衆が歓声を上げた。まあドルロフさんのおかげなんだけどね。
ココエラさんは困惑した様子だ、
「これは使い道に困ってしまう量じゃの。どうするかの?アーロフ、ベルルフ、
ティエラ?保存食にはどの位必要かのう?」
アーロフさんが真っ先に答えた。
「現在、狩人衆で動ける者は20数人しかおりません。なので獲物も保存食に
回す余裕は残念ながら無いのです」
ベルルフさんも続いて回答した。
「川漁は南の大河に行けない状態では大漁は見込めません。塩は現状で十分
でしょうな」
ティエラさんが後に続く。
「塩漬けの保存食にはベサル菜が必要です。南の大河に行けない状態ではなんともなりません。ただ先日使徒様に大量のベサル菜を頂き、塩を使わない保存食の作り方も教えて貰いましたわ。それに新しい作物も提供して頂きました。畑守衆としては現状、塩は必要ないです」
おおー、また歓声が上がったよ。照れるね。
「ふむ、ゴレロフ。どうするかの?」
「....しばらくは備蓄して、様子を見る事にしよう。皆の衆、宜しいか?」
全員一致で異議は無かった。
「次の議題は毒トカゲの件だ、使徒様。説明をお願いする」
「はい、今回の海遠征で、毒トカゲを討伐する武器の修練をして来ました。
いけると思います。今後は毒トカゲをおびき寄せる毒物の収集をお願いしたいと思います」
「ふむ、アーロフ、ティエラ、毒物の収集にはどの位掛かる?」
「毒キノコなら、そうですねえ。3日後にはある程度の量が揃うと思います。
今、狩人衆の半数が狩りに行っているので現状ではこれが精一杯です」
「ワタクシ達は明日にでも毒草を用意出来ますわ。ただ、キノコと比べて毒は
大分弱いと思いますけど大丈夫でしょうか?」
ふふふ。俺は強烈な毒物を確保出来るのですティエラさん。俺はこの世界に来てからこんなにゾクゾクした食べ物はないですぞ!そう、ワスプの実だ。
「ティエラさん大丈夫です。俺は強力な毒物を用意出来ますので」
頭衆達がドン引きしている。え、何これ?俺は毒を盛ったりしませんよ。
「....では3日後にもう一度会合の場を設けようか、では今回は解散しよう」
その後ギギロフさんとワイルフさんにコノワタを渡して、頭衆と雑談をした。
鍛冶頭はまだ揉めているようで、ややこしい事になっているらしい。
炭焼き衆はあれ以来、引きこもって誰とも接触していないそうだ。
面倒臭え爺だな。
いろいろやっかいだね。俺はリリを連れて家に帰った。
次の会合は3日後だから、今日から2日はワスプの実を集めよう。まだあるよな?無かったら困るぞ。
ワスプの実の森に来ると、下の方の実は完熟して下に落ちている。だけど上の方にはまだまだ食べ頃の実と、さらに上には青い未成熟の実がある。
梅干しゲット!今回は結構、乱獲した。熟したワスプの実を3袋と、未成熟のワスプの実を1袋分採った。
ワスプの実は1袋分は絞ってワイン?に仕込もう。青い実は赤スカレン草と塩漬けにしておく。梅干しになるといいな。梅じゃないけど。
わっくー夫婦達は穏やかに過ごしているようだ。俺が様子を見に行くと、
『くえっくえっ』と纏わりついて来た、相変わらず人懐っこい奴らだな。
ワシャワシャして欲しいのか?
リリが頻繁に面倒を見ているようで、リリとはすっかり仲良しさんだ。
アヒるんるん。
そんな感じで2日をまったり過ごした。婦人達に強奪されたポレポレ茸も補充済だ。今回は守り切るぞ!
そして、3日目。決戦会議だ。場合によっては、このままバシリスク討伐に行くかもしれない。サバゲ用のゴーグルやプロテクターも持って行こう。
そしてカジキとダツ、アハト・アハト1号、2号の具合もチェックする。
よし出陣だ。俺達は村へ向かった。
現在8時。村長宅の庭に直接飛んで行くと、侍女が既に頭衆は衆議堂に集まっていると伝えてくれた。
「皆さん、遅くなってすみません」
「いや使徒様、問題ない。では毒トカゲ討伐について話をしようか」
以降、バシリスク討伐について具体的な提案がされた。
アーロフさんやベルルフさんからは勢子を出すと提案されたが俺は却下した。
バシリスクがマスタードガスみたいなものを噴出するなら下手に人数を増やすと
被害が増大する。
今回は俺が単独で討伐する事が最善だと力説した。俺だって本当はこんな命がけ
の仕事は嫌なんだけどね。でも知ってしまったからな~。この村には良いヤツも
悪いヤツもいる。俺の前世でもそれは同じだった。俺は出来るだけ良いヤツの為
に仕事をしたい、でも、その結果を悪いヤツが受けても俺には関係ない。
善人も悪人も貧しい社会と、善人も悪人も豊かな社会を選べと言われれば俺は
即座に後者を選ぶね。俺はこの時、村の良い人達の為に命を懸ける心境になって
いた。かつてのヘタレSEが凄い変化だね。
だが、リリをイジメていたヤツらは探し出して肥溜めに漬ける。絶対にだ!
ふふふふふ。
「分かった。心苦しいが今回は使徒様に一任しよう。皆の衆宜しいか?」
皆、項垂れているが異議は無いようだ。
「ではアーロフさん、ティエラさん毒キノコと毒草を渡して貰えますか?」
二人は背後に隠していたズタ袋を俺に差し出した。アーロフさんの毒キノコは
禍々しい紫色だ、明らかに毒キノコだな。ティエラさんが提供してくれた毒草は
一見普通だが、匂いが酷い。何だこれ!パクチーにおばさんのキツイ香水を混ぜた様な匂いがする。
「ケホッ、では今から毒トカゲ討伐に行ってきます。吉報をお待ちください」
「今から行くんですの?明日になさったらどうですか?」
「使徒様、そんなに慌てなくても良いのではないですかな?もっと戦略を....」
「いえ、今から行ってきます!」
ティエラさんとギギロフさんが俺を引き留めたが俺はこの時、猛狂っていたのだ。
俺はワスプの実の土嚢袋に、アーロフさんのキノコと、ティエラさんの臭い草を
半分入れて踏みつぶした、バシリスク討伐用装備は頭部はサバゲのゴーグル。
肘までのプロテクター。迷彩パンツ、安全靴。左腰には剣鉈。
右腰には作業用ポーチとナイフ。あれ?全然重武装じゃないよね?
だが、仕方がない上半身は服を着れないんだよ。
でも俺にはカジキとダツがある!両手にカジキとダツを持って、
ロップを跨がせて俺は決戦場に向かった。
「レイ兄ちゃん!オラ、レイ兄ちゃんの帰りを待ってるだよ!」
「おう!待ってろリリ。兄ちゃんが毒トカゲの首を持って帰るからな!」
枯死した森の残骸に俺は降り立った、酷い有様だな。俺は毒物の詰まった土嚢袋
を見渡しの良い場所に設置して、周りの木の上から監視した。
現在14時過ぎだ。飽きて来たところに、森から変な動きをするトカゲが
現れた。何かカクカク動いてるなカメレオンみたいだ。全長8メートル位あるぞ。
足が六本ある、コイツがバシリスクだろう。動きは鈍いな。ふふふ。急降下爆撃の
いい標的だ。ヤツは毒袋にむしゃぶりついている。
今がチャンスだろう!俺は右手にカジキを握り締め、300メートル上昇した。
よし行こう!村人の心を乗せて!渾身の急降下爆撃だ!
心のダイブブレーキを咆哮させて、ヤツの高度50メートルに迫った時、
ヤツの頭がギョロリと開いた。何これ?まずいぞ!アレは目だ!
俺が回避しようとする前に、紫色の毒ガスを足の脇から噴出した!
俺は急爆しようとしていたので、躱し切れずに毒煙に突っ込んでしまった。
急いで離脱したが、まともに毒を食らった。マズイ、マズイぞこれは。
『おげえええええ』
バシリスクは口から毒煙を撒き散らし始めた。俺はかなり離れた場所まで避難する。ぐうう、身体が痛いというか熱い。
「レイ様大丈夫ですか?こんな処で死なないでください!、ボクとの約束は
どうなったんすか!」
「大丈夫だロップ。だけど少し休ませてくれ」
大失敗だった、少し調子に乗っていたのかもしれない。まさか頭の上に目がある
とは思わなかった。確か前世でもニュージーランドのムカシトカゲは頭頂に目の
痕跡があったらしいな。
ダメだ 、身体中が痛くて熱い、そして眠い....
はっ!ここは何処だ!今何時だ!俺は森の中で目を覚ましたようだ。ロップが
泣きながら抱き着いて来た。
「うわ~ん。レイ様、目を覚ましてくれたんですね。ぐすぐす」
ごめんな相棒、もうちょっと慎重にするべきだったよ。初見で突っ込むのはアホ
だよな。
世界最高の撃墜王、エーリッヒ・ハルトマンは最初は敵機を観察し、
自分が有利な状況になるまで無茶な攻撃はしなかったという。
俺もヤツをまず観察するべきだった。
「ロップ、あれからどの位経ったんだ?」
「レイ様は2晩意識が無かったっすよ」
そうか、村に戻って作戦を立て直さなくてはならないな。
だが俺は見たぞ。毒を噴出している時、そして口から毒煙を吐いている時に
全ての目を閉じているのをな!
これからリベンジだ!待ってろ、腋臭野郎!
凄いぞ!既に土嚢袋で6袋分だ、概算で144キロだよ。
急降下爆撃もほぼ必中になった。今まで特に改修の必要
もない。ワイルフさんがメネメネ液で強化した柄は凄いね!
ベルルフさんは海に潜りだしたよ。磯でゴーグルを着けて自前の銛で魚を突いて
いた。デカいハタは美味しく頂きました。ウニも採って来てもらったが、
潮溜まりのウニとは違って中身がみっちり詰まっているよ!
大量に捕獲を依頼し3瓶程、塩ウニにした。三人で分けよう。
今日も午前中は塩作りをした後、俺は水平射撃の練習をした。アハト・アハトの
出番ですよ。ワイルフさんのお弟子さんが競作した投槍器(アトラトル)を試してみる。
投げ槍といっても長さ80cmの槍先だ、重量も槍先だけで10キロは
あるだろう。俺は投槍器(アトラトル)を構えて砂山に向けてアハト・アハトを投射した!
ふんぬ!あれ?槍は大幅に外れて彼方に飛んで行った。おい、待てや!
槍は200メートル位のところに突き刺さっていた。これはまず近距離から
練習していかなきゃダメだな。
俺は砂山から10メートル位から始め、徐々に距離を伸ばしていった。
投槍器(アトラトル)は色々試したが一番武骨なものが一番しっくりきた。
投げ槍にも段々慣れて来たぞ。50メートル位で砂山に必中するようになった。
その度に砂山が爆散するので盛り直すのが面倒臭かった。
よし、この投げ槍攻撃を近接射撃と名付けよう。
俺は上に乗っているロップに、
「ヴォル君、俺がこの攻撃を繰り出す時は、『ふん、もう勝ったと思ってるな』と
言いたまえ。そうしたら俺が『そうらしい。では教育してやるか』と返すのが
戦場での美しい掟だ」
「....ヴォルって誰っすか?ガーデルマンさんはどうなったんすか?」
「うるさいな~、飛んでる時はガーデルマンで、地上にいる時はヴォルなんだよ。
漢のロマンを理解しろ!」
「....多分、人に聞いたら滅茶苦茶を言ってるのはレイ様だって皆言うと思うっすよ」
所詮、アホ猫には漢のロマンは分からないのだろう。いずれ上方後背急襲も習得
せねばなるまいな。ふふふ。
明日もう1日海で過ごして、明後日は村へ帰ろう。
そして海へ来て5日目の朝だ、今回は大量の塩と急降下爆撃、近接射撃のコツを習得した。
塩は概算で192キロだ。当分塩には困らないだろう。お土産用にコノワタを3瓶用意した。ドルロフさんとベルルフさんには個別に1瓶ずつ渡してある。
干しナマコや干し牡蠣は希望者には分けてもいいかな。大量に余ってるし。
魚の干物も村に提供しよう。
「では、村に戻りましょうか。最初はドルロフさんとリリです」
これは戦闘力がありそうなベルルフさんと、物知りなロップを組み合わせた人選だ。俺がいない間に何が起こるか分からないからね。
「では、すぐに戻りますので待っていてください」
俺はドルロフさんを乗せ、リリを抱えて村へ向かって飛んだ。そういえば槍の
メンテナンスは全く必要無かったな。でもドルロフさんを連れて来て良かったよ。
こんなに塩が採れるとは思わなかった。ゴリマッチョも驚くだろう。
最高速で飛んだので1時間半位で村に着いた。どんどん速くなってるね。
村長宅の庭に二人を置いて、ゴリマッチョへの挨拶はドルロフさんに任せた。
そして俺はトンボ帰りで海に戻った。
現在10時。ベルルフさん達には特に問題はないようだ。さあ、村に帰ろう。
「使徒様、今回は俺の我儘を聞いてもらってありがとうございました。
俺はココ婆様に海というものがある事を聞いてから、
ずっと海に来てみたかったのです。今回は素晴らしい経験でした。
以前、使徒様が言っていた海への道の開拓を本気で考えてみたいと思います」
「いえ、こちらこそ助かりました。海への道に関しては俺も協力しますよ」
俺達はがっちり握手をした。漢くさいな、だがそれがいいんだよ。
分かるかねロップ君!まあアホ猫には分かんねーだろうな。
案の定、ロップは座って毛づくろいをしている。この野郎。
それから1時間半。俺達は村長の庭に着いた。何故か頭衆が勢ぞろいしている。
「使徒様、やっと戻ったか。軽く昼飯を食ったら、午後は臨時会合だ」
え、そうなの?まさか昼飯を俺に作らせる気なのか?俺が若干引いていると、
「はっはっは、使徒様、心配するな。昼飯は黒芋だ。粗末で申し訳ないがな」
俺は頭衆と村長宅の庭で黒芋を食べながら、海での話をしてまったり過ごした。
後でギギロフさんとワイルフさんにコノワタを渡そう。
そして会合だ。今回はリリは呼ばれていないので、フリスビーを渡してロップと
遊んでいるように伝えた。ベルルフさんが羨ましそうに見ている。
アンタは散々海で遊んでたよね、まだ遊び足りないの?
やはり炭焼き頭のキーロフさんと、鍛冶頭の人はいないようだ。
もう鍛冶頭はドルロフさんにしちゃえばいいのにね。本人は嫌がるだろうけど。
「さあ、皆の衆。今回は使徒様とドルロフ、ベルルフに海へ行ってもらった。
まずはその報告を聞こうか」
頭衆が俺に注目している。
「はい、今回の海への遠征は、第一に毒トカゲ討伐の為の武器の修練でした。
これは何とかものになったと思って下さい。そして今回、ドルロフさんと
ベルルフさんに海へ帯同して頂きましたが、おかげで前回を上回る塩が作れました。ご覧ください」
俺は収納袋から8袋の土嚢袋を取り出した。
おおー、頭衆が歓声を上げた。まあドルロフさんのおかげなんだけどね。
ココエラさんは困惑した様子だ、
「これは使い道に困ってしまう量じゃの。どうするかの?アーロフ、ベルルフ、
ティエラ?保存食にはどの位必要かのう?」
アーロフさんが真っ先に答えた。
「現在、狩人衆で動ける者は20数人しかおりません。なので獲物も保存食に
回す余裕は残念ながら無いのです」
ベルルフさんも続いて回答した。
「川漁は南の大河に行けない状態では大漁は見込めません。塩は現状で十分
でしょうな」
ティエラさんが後に続く。
「塩漬けの保存食にはベサル菜が必要です。南の大河に行けない状態ではなんともなりません。ただ先日使徒様に大量のベサル菜を頂き、塩を使わない保存食の作り方も教えて貰いましたわ。それに新しい作物も提供して頂きました。畑守衆としては現状、塩は必要ないです」
おおー、また歓声が上がったよ。照れるね。
「ふむ、ゴレロフ。どうするかの?」
「....しばらくは備蓄して、様子を見る事にしよう。皆の衆、宜しいか?」
全員一致で異議は無かった。
「次の議題は毒トカゲの件だ、使徒様。説明をお願いする」
「はい、今回の海遠征で、毒トカゲを討伐する武器の修練をして来ました。
いけると思います。今後は毒トカゲをおびき寄せる毒物の収集をお願いしたいと思います」
「ふむ、アーロフ、ティエラ、毒物の収集にはどの位掛かる?」
「毒キノコなら、そうですねえ。3日後にはある程度の量が揃うと思います。
今、狩人衆の半数が狩りに行っているので現状ではこれが精一杯です」
「ワタクシ達は明日にでも毒草を用意出来ますわ。ただ、キノコと比べて毒は
大分弱いと思いますけど大丈夫でしょうか?」
ふふふ。俺は強烈な毒物を確保出来るのですティエラさん。俺はこの世界に来てからこんなにゾクゾクした食べ物はないですぞ!そう、ワスプの実だ。
「ティエラさん大丈夫です。俺は強力な毒物を用意出来ますので」
頭衆達がドン引きしている。え、何これ?俺は毒を盛ったりしませんよ。
「....では3日後にもう一度会合の場を設けようか、では今回は解散しよう」
その後ギギロフさんとワイルフさんにコノワタを渡して、頭衆と雑談をした。
鍛冶頭はまだ揉めているようで、ややこしい事になっているらしい。
炭焼き衆はあれ以来、引きこもって誰とも接触していないそうだ。
面倒臭え爺だな。
いろいろやっかいだね。俺はリリを連れて家に帰った。
次の会合は3日後だから、今日から2日はワスプの実を集めよう。まだあるよな?無かったら困るぞ。
ワスプの実の森に来ると、下の方の実は完熟して下に落ちている。だけど上の方にはまだまだ食べ頃の実と、さらに上には青い未成熟の実がある。
梅干しゲット!今回は結構、乱獲した。熟したワスプの実を3袋と、未成熟のワスプの実を1袋分採った。
ワスプの実は1袋分は絞ってワイン?に仕込もう。青い実は赤スカレン草と塩漬けにしておく。梅干しになるといいな。梅じゃないけど。
わっくー夫婦達は穏やかに過ごしているようだ。俺が様子を見に行くと、
『くえっくえっ』と纏わりついて来た、相変わらず人懐っこい奴らだな。
ワシャワシャして欲しいのか?
リリが頻繁に面倒を見ているようで、リリとはすっかり仲良しさんだ。
アヒるんるん。
そんな感じで2日をまったり過ごした。婦人達に強奪されたポレポレ茸も補充済だ。今回は守り切るぞ!
そして、3日目。決戦会議だ。場合によっては、このままバシリスク討伐に行くかもしれない。サバゲ用のゴーグルやプロテクターも持って行こう。
そしてカジキとダツ、アハト・アハト1号、2号の具合もチェックする。
よし出陣だ。俺達は村へ向かった。
現在8時。村長宅の庭に直接飛んで行くと、侍女が既に頭衆は衆議堂に集まっていると伝えてくれた。
「皆さん、遅くなってすみません」
「いや使徒様、問題ない。では毒トカゲ討伐について話をしようか」
以降、バシリスク討伐について具体的な提案がされた。
アーロフさんやベルルフさんからは勢子を出すと提案されたが俺は却下した。
バシリスクがマスタードガスみたいなものを噴出するなら下手に人数を増やすと
被害が増大する。
今回は俺が単独で討伐する事が最善だと力説した。俺だって本当はこんな命がけ
の仕事は嫌なんだけどね。でも知ってしまったからな~。この村には良いヤツも
悪いヤツもいる。俺の前世でもそれは同じだった。俺は出来るだけ良いヤツの為
に仕事をしたい、でも、その結果を悪いヤツが受けても俺には関係ない。
善人も悪人も貧しい社会と、善人も悪人も豊かな社会を選べと言われれば俺は
即座に後者を選ぶね。俺はこの時、村の良い人達の為に命を懸ける心境になって
いた。かつてのヘタレSEが凄い変化だね。
だが、リリをイジメていたヤツらは探し出して肥溜めに漬ける。絶対にだ!
ふふふふふ。
「分かった。心苦しいが今回は使徒様に一任しよう。皆の衆宜しいか?」
皆、項垂れているが異議は無いようだ。
「ではアーロフさん、ティエラさん毒キノコと毒草を渡して貰えますか?」
二人は背後に隠していたズタ袋を俺に差し出した。アーロフさんの毒キノコは
禍々しい紫色だ、明らかに毒キノコだな。ティエラさんが提供してくれた毒草は
一見普通だが、匂いが酷い。何だこれ!パクチーにおばさんのキツイ香水を混ぜた様な匂いがする。
「ケホッ、では今から毒トカゲ討伐に行ってきます。吉報をお待ちください」
「今から行くんですの?明日になさったらどうですか?」
「使徒様、そんなに慌てなくても良いのではないですかな?もっと戦略を....」
「いえ、今から行ってきます!」
ティエラさんとギギロフさんが俺を引き留めたが俺はこの時、猛狂っていたのだ。
俺はワスプの実の土嚢袋に、アーロフさんのキノコと、ティエラさんの臭い草を
半分入れて踏みつぶした、バシリスク討伐用装備は頭部はサバゲのゴーグル。
肘までのプロテクター。迷彩パンツ、安全靴。左腰には剣鉈。
右腰には作業用ポーチとナイフ。あれ?全然重武装じゃないよね?
だが、仕方がない上半身は服を着れないんだよ。
でも俺にはカジキとダツがある!両手にカジキとダツを持って、
ロップを跨がせて俺は決戦場に向かった。
「レイ兄ちゃん!オラ、レイ兄ちゃんの帰りを待ってるだよ!」
「おう!待ってろリリ。兄ちゃんが毒トカゲの首を持って帰るからな!」
枯死した森の残骸に俺は降り立った、酷い有様だな。俺は毒物の詰まった土嚢袋
を見渡しの良い場所に設置して、周りの木の上から監視した。
現在14時過ぎだ。飽きて来たところに、森から変な動きをするトカゲが
現れた。何かカクカク動いてるなカメレオンみたいだ。全長8メートル位あるぞ。
足が六本ある、コイツがバシリスクだろう。動きは鈍いな。ふふふ。急降下爆撃の
いい標的だ。ヤツは毒袋にむしゃぶりついている。
今がチャンスだろう!俺は右手にカジキを握り締め、300メートル上昇した。
よし行こう!村人の心を乗せて!渾身の急降下爆撃だ!
心のダイブブレーキを咆哮させて、ヤツの高度50メートルに迫った時、
ヤツの頭がギョロリと開いた。何これ?まずいぞ!アレは目だ!
俺が回避しようとする前に、紫色の毒ガスを足の脇から噴出した!
俺は急爆しようとしていたので、躱し切れずに毒煙に突っ込んでしまった。
急いで離脱したが、まともに毒を食らった。マズイ、マズイぞこれは。
『おげえええええ』
バシリスクは口から毒煙を撒き散らし始めた。俺はかなり離れた場所まで避難する。ぐうう、身体が痛いというか熱い。
「レイ様大丈夫ですか?こんな処で死なないでください!、ボクとの約束は
どうなったんすか!」
「大丈夫だロップ。だけど少し休ませてくれ」
大失敗だった、少し調子に乗っていたのかもしれない。まさか頭の上に目がある
とは思わなかった。確か前世でもニュージーランドのムカシトカゲは頭頂に目の
痕跡があったらしいな。
ダメだ 、身体中が痛くて熱い、そして眠い....
はっ!ここは何処だ!今何時だ!俺は森の中で目を覚ましたようだ。ロップが
泣きながら抱き着いて来た。
「うわ~ん。レイ様、目を覚ましてくれたんですね。ぐすぐす」
ごめんな相棒、もうちょっと慎重にするべきだったよ。初見で突っ込むのはアホ
だよな。
世界最高の撃墜王、エーリッヒ・ハルトマンは最初は敵機を観察し、
自分が有利な状況になるまで無茶な攻撃はしなかったという。
俺もヤツをまず観察するべきだった。
「ロップ、あれからどの位経ったんだ?」
「レイ様は2晩意識が無かったっすよ」
そうか、村に戻って作戦を立て直さなくてはならないな。
だが俺は見たぞ。毒を噴出している時、そして口から毒煙を吐いている時に
全ての目を閉じているのをな!
これからリベンジだ!待ってろ、腋臭野郎!
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