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バシリスク討伐計画4(カジキ、ダツ、そしてアハト・アハト)
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昨夜はあれから大宴会になった。酔っぱらったゴレロフさんの愚痴を聞いたり、
酔っぱらったベルルフさんに海に連れて行けと絡まれたり、
アーロフさんから魔石を8個貰ったり、キーロフさんの美食理論をあくびを噛み
殺しながら聞いてる振りをしたり、色々大変だった。
ただ、ドルロフさんに余った鋼材の使い道について相談を受けた時は真剣に話を
した。残っている鋼材は槍先に穴を開けた分の8cm×8cm×25cmが二つ分だ。
体積は合計で約1600立方cm×2。結構な量だね。結論として、急降下爆撃用ではなく、水平投擲用に小型の槍先の作成依頼をした。
ワイルフさんにも話して柄の作成も頼んだ。かなり魔樫を削らなければならない
ようだが、なんとかしてくれるらしい。明日モックアップを作ろう。
その後、キーロフさんがこのような晩餐会を定期的に開こうと提案したが、
俺は断固として拒否した。なんで俺が定期的に飯を作らなければならないんだ!
俺が口調は限りなく柔らかくキーロフさんの提案を拒否すると、
「ではコノワタも、もう頂けないんですかのう?」
俺は結構イライラして答えた。
「物々交換でお願いします。そもそもなんで俺が定期的に貴方達に飯を作らなければならないんですか?」
キーロフさんは首を傾げている。
「いや使徒様はこの村の守り神様みたいなもんじゃろ?じゃったら少しくらいワシらの為に....」
「黙らっしゃい、キーロフ!」
ココエラさんが怒り心頭で立ち上がった。
「お主は何を心得違いをしとるんじゃ!使徒様はワシらの守り神様ではない!
この世界を守ろうとしているんじゃ!
そもそも使徒様にご馳走を強請るなどあり得ん事じゃ。
どこまで増長しておるんじゃ、お主は!
それに、お主ら炭焼き衆は村に収める炭を随分と滞納しておるようじゃな!
先日、炭を使徒様に無理やり渡しておった時は相手が使徒様じゃから目を瞑っておったが、使徒様からのお返し品を目当てにしとったんじゃろう!
もう我慢ならん。大体お主は先代長老様の説法にも碌に顔を出さなんだな!
じゃから、己の都合のいい様に使徒様を利用しようとしとるんじゃろ。
失せろ!この罰当たりめ!」
「ふん、ならばワシら炭焼き衆はこれから村には炭を一切収めんからな!」
キーロフさんは立ち上がると足早に去って行った。え、大丈夫なの?
どっちかって言うと困るのはキーロフさんじゃないの?
炭はあると便利かもしれないけど、必須って訳でもないよな。
俺もあんまり使ってないし。
俺のキーロフさんへの評価はこんな感じで推移している。
気難しい爺 → 実は気さくな爺 → 食い意地の張った爺 → 真っ黒爺
まだ頭衆と会って間もないけど、どんな人か見抜くのは難しいね。
「使徒様、申し訳ないですじゃ。あのような不心得者を炭焼き衆の頭に据えたのはワシらの責任じゃよ」
「いや、俺はいいんですが、キーロフさんの方が不味く無いですか?炭を収めない代わりに村から食料を供給して貰えなくなったら生きていけないでしょう?」
「奴は歳はとっておるが、中身は甘っちょろいガキなんじゃよ。己が炭を収めなくなったら、ワシらが音を上げて、頭を下げてくると思っておるんじゃ。
今までも奴の我儘には腹が据えかねておったが、今回ばかりは堪忍ならん!
アーロフ、ベルルフ、ティエラ!奴が詫びを入れるまで、炭焼き衆への食料は
最小限にするのじゃ!」
「「「了解しました。ココ婆様」」」
夜郎自大か、なんか前世での、ある国を思い起こす一幕だったな。
さて、今日は水平投擲用の槍先のモックアップの作成をしよう。水平投擲用の
槍先は直径8.8cmで長さ60cmの円錐と、同直径の長さ20cmの双円錐だ。これに厚さ3ミリで長さ10cmの四角柱の接続部を設ける形でモックアップを作った。2本とも同型だ。柄の角材部分は2.5cm×2.5cmで設計した。今回は槍先に開ける穴の体積も考慮してある。急降下爆撃だけでなく、槍の投擲も練習しないとな。
ドルロフさんの家を訪れて、投擲用の槍のモックアップを渡した後、ワイルフさんの木工所を訪ねて、2.5cm×2.5cm×30cmの魔樫の角材加工を
依頼した。
ついでに、投槍器(アトラトル)の構造を説明し作成を依頼した。これはそれほど強度は必要
ないので、お弟子さん達に競作させるようだ。
その後ティエラさんの農場を訪れ、青紫蘇と赤紫蘇を地下茎ごと採取させてもらった。上手く根付くといいのだが。
帰宅後、プランターに紫蘇を植えたり、鳥達に餌をやったりしつつ、まったりと
過ごした。
翌日は水平投擲用の槍先の形成をした。前回よりは小型の六角ボルトを使う。
ワイルフさんが削りだした柄は見事だった。白木の真っ直ぐで滑らかな棒だ。
「ワイルフさん!これは凄いですね。尊敬しますよ!流石、木工頭です!」
「ガハハ!ワシも久々に本気になってしまいましたぞ、ただこれと同じものは4本しか作れなかったぞい」
「充分です。ありがとうございます!」
「だから、使徒様に礼を言われるような事ではないですぞ!ワシは村の為にやってるだけじゃ!」
そうだった、キーロフの爺とは全然違うな。今度何かお礼が出来ればいいんだが。
その後の3日間は村には行かずに過ごした。リリは、わっくーと、くーわと
遊んでいる。ロップは鳥達に手を出したら一生飯抜きの刑を俺から宣告されているのでつまらなそうにしていた。俺はポレポレ茸を採りにいったり、
久々にカギムシ君やヘッピリ虫君達と遊んで過ごした。
そして、今日!対バシリスク兵器が完成するのだ!俺達は朝食を済ませた後、
早々に村へ向かった。直接ワイルフさんの木工所へ向かう。
木工所に着くと、ワイルフさんが既に待っていた。
「使徒様、大槍の柄は完成してますぞ!ただ小槍の方は、もう一日待って欲しいですな」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます。今からドルロフさんの所に行こうと思うんですが、ワイルフさんは大丈夫ですか?」
「ガハハ!村を救う武器が完成する瞬間にワシも立ち会わなければなりませんのう。オイ、テメーラ!サボらずにしっかり働けよ!」
「親方うぇーい」
「親方うぇーいっす」
「親方うぇーいだよ」
....ロップとリリには言っていないぞ。
全ての工程を終えた槍の柄を見せてもらったが、これは凄い、角材加工した白木の部分は真っ黒に染まり、金属みたいな光沢がある。
柄の部分もニスを塗ったようにツルツルだ。凄いぞワイルフさん!
凄いぞ木工衆!俺が見事な仕事を褒め称えると、
「使徒様、あんまり褒めないでくだされ。ワシのようなお調子者は褒められると
すぐに天狗になるでの。多少厳しく意見を言ってもらえる位が丁度いいんじゃよ。
ガハハ」
熱血で、謙虚なお調子者。俺のワイルフさんへの評価はうなぎ上りだ。
人って第一印象だけじゃ判断できないよね。心のメモに記しておこう。
大槍の柄を収納袋に入れて、ドルロフさんの家へ向かった。
「ドルロフ、ワシと使徒様が来たぞ!今日が毒トカゲ殺しの完成の日じゃ!」
ドルロフさんが小屋から出て来て、俺達を工房に迎え入れた。
「お待ちしていました、使徒様、ワイルフ殿、さあ使徒様、柄を留め具で固定してください」
俺はワイルフさんの渾身の作品を槍先に装着した。六角ボルトを差し込み、ナットをレンチで締めあげる。完成だ!
長さは槍先を含めて2.5メートル、柄の太さは9cm~10cm、
総重量50キロ位だろう。
もう一本の貫通特化の槍先も同様に柄を装着した。振り回してみても全くガタツキがない。完璧だ!
「ドルロフさん、ワイルフさん、素晴らしい出来です。必ず毒トカゲを討伐してみせます」
「いえ、面白い仕事をさせて頂きました。でもまだ投擲用の槍の仕上げが残っていますよ」
「そうじゃな。気を抜かずに仕上げに掛かるとするかの。ガハハ!」
「この二振りの槍に銘を付けようを思うのですが、お二人の名前を頂いても
いいですか?こちらの標準仕様が"ドルロフ"で貫通特化型が"ワイルフ"で
どうでしょう?」
俺が提案すると二人とも首をぶんぶん横に振って嫌がった。
「とんでもない!この槍は使徒様の持ち出しで作った物です。それにワシの名前
なんて付けられたら恥ずかしくて死にたくなります!」
「そうじゃよ。柄だって使徒様が採ってきたもんじゃ。ワシらは恥というものを
知っておる。どうか別の名前にしてくだされ」
ふ~ん、そうなの?ドルロフ&ワイルフなんていいと思うんだけどな。
よし思い切って中二的な名前を付けようか。急爆のルーデル閣下にちなんで
ドイツの伝説の武器名を....
知らねー!剣ならフルンティングとかバルムンクとかあるけど槍は知らねー!
じゃあ北欧神話だ。
....グングニルしか知らない。
確かケルト神話には槍がいろいろあったな。
ゲイ・ボルグとかブリューナクとか。でもこれ、ただの重いだけの槍なんだよな、
魔槍とかじゃないし。あまり大仰な名前を付けるのは恥ずかしいな。
ここはコウエイ様に倣おう。
「では、こちらの標準仕様の槍を"カジキ"、こちらの貫通特化仕様の槍を"ダツ"に
します!(ふんすっ)」
「....いいんじゃないでしょうか」
「言葉の意味はよくわからんが、とにかく凄い自信じゃな」
....二人ともテンション低いね。ワイルフさんなんて屁のつっぱりが要らない人
への返しだよ。
取り合えず、メイン武器の準備は出来た。明日投擲用の槍の完成を待って、
海へ向かうのは明後日にしよう。
この件はワイルフさんには話しておこう。
「ワイルフさん、明日、投擲用の槍が完成したら、俺は海へ向かおうと思っています。その際にドルロフさんに一緒に来てもらおうと思っています。
本当はワイルフさんにも来て頂きたいのですが....」
「ほう、ドルロフを海へ連れて行くのですか、この男は小柄ですからのう。
ワシはご覧の通りのガタイじゃ、ワシを連れて行くのはしんどいと思いますぞ。
それにワシは木工所の小僧どもの面倒を見なくてはならんので、長く暇を取る事
は出来ないんじゃ。残念ながらワシは無理ですぞ。土産は期待していますがな、
ガハハ!」
ああ、そうだよね。ボッチ鍛冶のドルロフさんに作成を依頼出来たのは、
幸運だったな。ワイルフさんにはいっぱい土産を用意しよう。
「分かりました。引き続き柄の製作をお願いします。明日また伺いますので」
「明日は直接ドルロフの工房へ来てくだされ。ワシもここで使徒様をお待ちしていますぞ」
俺は二人に別れを告げ、村長宅に向かった。ドルロフさんを海に連れて行く事を伝えておく必要があるからな。しかし鍛冶頭はまだ決まらないのかね?
「ゴレロフ村長こんにちわ。槍が完成しましたよ」
「ほう、見せてもらえるか。使徒様」
庭に出て、カジキとダツを取り出してゴレロフさんに渡した。
「むう、重いな使徒様。こんなもの使えるのか?」
俺が片手でぶんぶん振り回して見せるとゴレロフさんはちょっと引いていた。
「うんわ~、レイ兄ちゃんは力持ちだなや~」
「ふん!まだまだっすよ。ヘタレのレイ様」
リリには、なでなでしておこう。ロップには、こめかみグリグリをしておこう。
「基本的にはこれを振るって戦う訳ではないです。上から投げ下ろすだけですよ。という訳でまた海に行きます。今回はドルロフさんを整備士として連れて行きますが宜しいですか?」
「ドルロフを?まあアヤツは小柄だし痩せておるからのう。今回は塩を作ってくれんのか?」
「いえ、塩は作りますよ。ただその他はあまり期待しないでください」
「そうか、残念だ。実は妻が干し牡蠣とナマコを食べたいと言っておってな」
前に渡した干し牡蠣20個はもう食べちゃったのか。どっちもかなり余ってるしな。ナマコなんてあれから食べてない。でも本当はゴレロフさんが食べたいんじゃないの?
「分かりました。明日持ってきますよ。ナマコの調理の仕方も教えましょう」
「おお、助かるぞ使徒様!」
「いいお話を聞きましたわ」
「ああ、丁度いい時に来たようだな、ティエラ」
振り返ると、ティエラさんとベルルフさんがいた。これはまずいな、
特にベルルフさんが。
「あの、お二人は何故ここに?」
「頭衆が村長の家に来るなんて普通ですわ。ワタクシとベルルフは炭焼き衆への
食料の供給量について詳細を決めに参りましたの」
ベルルフさんが俺に詰め寄る、
「使徒様、ドルロフを海に連れて行くそうですな?ドルロフと俺はそんなに体格も変わらないはず。何故こんなに海へ行くことを切望している俺ではなくドルロフを海へ連れて行くのですかな。納得がいく返事を頂けるまで俺は引き下がりませんぞ!」
ティエラさんも俺を冷たい目で見ている、
「ダリエラさんには干し牡蠣とナマコを提供するのですか?
ふ~ん、使徒様。ワタクシは干し牡蠣を子供達に振舞ったので一晩で食べきってしまいましたわ。あの晩の子供達の笑顔が忘れられませんの。それなのに村長婦人には気軽に干し牡蠣もナマコも提供するのですね。ワタクシ悲しくなってきましたわ」
あー!面倒臭くなってきたぞ。ティエラさんの方はなんとかなるが、ベルルフさんが面倒臭いぞ。
「分かりました。ティエラさん、明日干し牡蠣と干しナマコを持ってきます。調理方法はダリエラさんと一緒に聞いてください。そしてカザエラちゃん達に振舞ってくださいね。あれ?リリをイジメていたクソガキ達にも振舞うんですか?
俺的には嫌だな~」
「使徒様、子供達は子供達ですよ。クソガキなんていません!めっ!」
....またお母さんに怒られた。だが、まあいい肥溜め漬けの刑は必ず執行する。
必ずだ!ふふふふふ。
「....使徒様。また悪い顔になっていますよ。何を考えているのですか?」
「いーえ、明日の天気を考えていたのですよ」
ティエラさんの方はなんとかなったが問題はベルルフさんだ。この人はフリスビーで遊んでいたりしてたけど。漁師頭としての仕事はないの?海に長期出張とか
大丈夫なのかね?
「ベルルフさん、今回ドルロフさんを海へ連れて行くのは毒トカゲ討伐の練習の為なんです。今日毒トカゲ討伐用の武器が完成しましたが俺の練習も必要です。武器の整備にドルロフさんは必要なんですよ」
「では日々の食料調達などはどうされるおつもりか?ドルロフは鍛冶しか出来ませんぞ!その点、俺なら漁師としての経験で魚を沢山獲れると思いますぞ!」
「いや、川と海は相当違うと思いますよ。それに漁師頭としての仕事もあるでしょう?」
「大丈夫です!漁師魂が俺の中で吠えているのです。猛け狂っているのです。
俺なら気合で海を乗り越えられると!それに俺がいなくても妹がおります。
妹がいれば川漁は大丈夫ですぞ!」
「だったら、妹さんを海に連れていった方が....」
「....使徒様?もしかして我が妹を狙っておられるのですかな?ならば俺に一騎打ちで勝たなければなりませんな」
あー!面倒臭え!なんだこの暑苦しいポンコツは!俺が仲裁を求めてゴレロフさんをチラ見すると、ロップとリリと一緒に小鳥にエサをあげていた。
絶対普段はそんな事してないよね?
「いや、俺が運べる人員にも限度がありましてね。ドルロフさんを肩車して、
リリを抱えるのが精一杯なんですよ」
「ならば、2往復すれば良いではないですか?使徒様はどのくらいで海まで行けるのですか?」
「う~ん普通の速度で一刻(2時間)くらいですね」
ゴリマッチョは相変わらず小鳥にエサをやっている。俺がゴリマッチョをチラチラ見てるのに気付いてるはずだ!何がチチチだ、ムカつく!
「ならばまず俺を乗せて飛んでみるのはどうですか?大丈夫そうなら俺も海へ行きます!ダメなら俺も諦めましょう。ただしその時はドルロフも連れていけないでしょうなあ、だって俺とドルロフはそんなに体格に差はないですからな。
ふふふ」
クソ、策士め!仕方がない。だが俺が塩作りや投擲の練習中に作業をしてくれる
なら有難いかもしれないな。エーラの上位互換バージョンと思えばいいだろう。
問題はこの人から漂うポンコツ臭だ。
「....分かりました。じゃあ首に跨ってください」
「了解ですぞ、使徒様、そしてこのまま海へ!」
行かねーよ。だが飛んでみると、それ程負荷は感じられない。
結構魔石を吸収しているしな。この数日でアーロフさんに貰った魔石とカギムシ君やヘッピリ虫君の魔石を合計24個吸収している。
ちょっと最高速を試してみよう。体感時速100キロ位で北の石河原まで
往復してみた。約一時間の行程だ。ベルルフさんはずっと無言だ。
気絶してないよな?
村長の庭に戻って、ベルルフさんを降ろした。
「使徒様、素晴らしい経験でした。ありがとうございます。そして俺の海行きは
決定ですな!ふふふ」
「....分かりましたよ。では明後日海へ行きます。着替えとか準備しておいてください。あと川漁の道具は大規模の網とかは、使えるか分かりませんので持ってこなくていいです、銛とかは使えるかもしれませんね」
「分かりました。ヒャッハー!こんなに嬉しい事はないですぞ!では明後日ここで待ち合わせましょう」
ベルルフさんはダッシュで帰って行った。村長に用があって来たはずじゃなかったか?しかもヒャッハーって、エーラと似た匂いがするぞ。
ティエラさんは俺がベルルフさんを乗せて飛んでいる間に帰ったらしい。
それにしても面倒臭い、ここにエーラが関わってくると、さらに面倒臭い事になるな。アイツには会わないようにしよう。
その後、帰宅してまったりと過ごした。海へ行ってる間、わっくーとくーわの飯は大丈夫かな?まあ、わっくーも自分で蟹を獲ってたし、なんとかするだろう。
翌日、バケツに廃棄された芋類と牡蠣殻と蟹を入れたバケツを入れて、わっくー達に与えた後、村のドルロフさんの家へ向かった。
「ドルロフさん、いますか~}
俺が声をあげると、ドルロフさんとワイルフさんが小屋から出て来た。
「お待ちしてましたぞ。使徒様」
「ワシにとっては改心の作ですぞ!使徒様、見てくだされ!」
ワイルフさんの手で磨き上げられた柄は、全ての工程を終えて黒檀の様だ。5本を槍先に装着してみたが、全てが完璧に嵌る!これは素晴らしい。
俺はボルトを挿入しナットで締め上げた。ここに二振りの水平投擲用の名槍が生まれた。銘はもう決めてある。アハト・アハト1号、2号だ!
設計時に8.8cmに拘ったのは俺の趣味なのだよ。でも随分短い槍になったね。槍先が80cmもあるからな。柄は太さ4cm、
長さは槍先を含めて1.8メートルだ。まあ投げ槍だからいいよね。投槍器(アトラトル)は使ってみてから判断しよう。
「ドルロフさん、明日海へ行きます。早朝に村長さんの家の庭に来て頂けますか?それと、いろいろ事情があってベルルフさんも一緒に行くことになりました。
宜しいですかね?」
「ベルルフ殿ですか?あまり話した事はないですが大丈夫ですよ。
使徒様の宜しい様にして下さい。ワシは年甲斐もなく海に行ける事を楽しみにしているのですよ」
「ドルロフ、この機会にお主の人見知りな性を直せ!お主はどう考えてもこの村で一番の鍛冶じゃ。本村のアホ鍛冶どもに今後も仕切られたらたまったもんじゃないわい。ベルルフはアホだが真っ直ぐな漢だ。これはいい機会だとワシは思うぞ」
「....そうですね。努力してみますよ。宜しくお願いします。使徒様」
俺は一応ドルロフさんの足のサイズを測らせてもらった。ベルルフさんは漁師だから大丈夫だと思うが、ドルロフさんも午前中は磯に来てもらう事になるだろうからな。スニーカーを用意しておく必要がある。
「ではドルロフさん、着替え等を用意して明日の早朝に村長さんの庭に来て下さい」
俺は一旦ワイルフさんに貸与していた道具類を返して貰った。海でドルロフさんに観てもらえれば、この村の木工道具も進化するかもしれない。
さあ、家に帰って、海遠征の準備をしよう!
酔っぱらったベルルフさんに海に連れて行けと絡まれたり、
アーロフさんから魔石を8個貰ったり、キーロフさんの美食理論をあくびを噛み
殺しながら聞いてる振りをしたり、色々大変だった。
ただ、ドルロフさんに余った鋼材の使い道について相談を受けた時は真剣に話を
した。残っている鋼材は槍先に穴を開けた分の8cm×8cm×25cmが二つ分だ。
体積は合計で約1600立方cm×2。結構な量だね。結論として、急降下爆撃用ではなく、水平投擲用に小型の槍先の作成依頼をした。
ワイルフさんにも話して柄の作成も頼んだ。かなり魔樫を削らなければならない
ようだが、なんとかしてくれるらしい。明日モックアップを作ろう。
その後、キーロフさんがこのような晩餐会を定期的に開こうと提案したが、
俺は断固として拒否した。なんで俺が定期的に飯を作らなければならないんだ!
俺が口調は限りなく柔らかくキーロフさんの提案を拒否すると、
「ではコノワタも、もう頂けないんですかのう?」
俺は結構イライラして答えた。
「物々交換でお願いします。そもそもなんで俺が定期的に貴方達に飯を作らなければならないんですか?」
キーロフさんは首を傾げている。
「いや使徒様はこの村の守り神様みたいなもんじゃろ?じゃったら少しくらいワシらの為に....」
「黙らっしゃい、キーロフ!」
ココエラさんが怒り心頭で立ち上がった。
「お主は何を心得違いをしとるんじゃ!使徒様はワシらの守り神様ではない!
この世界を守ろうとしているんじゃ!
そもそも使徒様にご馳走を強請るなどあり得ん事じゃ。
どこまで増長しておるんじゃ、お主は!
それに、お主ら炭焼き衆は村に収める炭を随分と滞納しておるようじゃな!
先日、炭を使徒様に無理やり渡しておった時は相手が使徒様じゃから目を瞑っておったが、使徒様からのお返し品を目当てにしとったんじゃろう!
もう我慢ならん。大体お主は先代長老様の説法にも碌に顔を出さなんだな!
じゃから、己の都合のいい様に使徒様を利用しようとしとるんじゃろ。
失せろ!この罰当たりめ!」
「ふん、ならばワシら炭焼き衆はこれから村には炭を一切収めんからな!」
キーロフさんは立ち上がると足早に去って行った。え、大丈夫なの?
どっちかって言うと困るのはキーロフさんじゃないの?
炭はあると便利かもしれないけど、必須って訳でもないよな。
俺もあんまり使ってないし。
俺のキーロフさんへの評価はこんな感じで推移している。
気難しい爺 → 実は気さくな爺 → 食い意地の張った爺 → 真っ黒爺
まだ頭衆と会って間もないけど、どんな人か見抜くのは難しいね。
「使徒様、申し訳ないですじゃ。あのような不心得者を炭焼き衆の頭に据えたのはワシらの責任じゃよ」
「いや、俺はいいんですが、キーロフさんの方が不味く無いですか?炭を収めない代わりに村から食料を供給して貰えなくなったら生きていけないでしょう?」
「奴は歳はとっておるが、中身は甘っちょろいガキなんじゃよ。己が炭を収めなくなったら、ワシらが音を上げて、頭を下げてくると思っておるんじゃ。
今までも奴の我儘には腹が据えかねておったが、今回ばかりは堪忍ならん!
アーロフ、ベルルフ、ティエラ!奴が詫びを入れるまで、炭焼き衆への食料は
最小限にするのじゃ!」
「「「了解しました。ココ婆様」」」
夜郎自大か、なんか前世での、ある国を思い起こす一幕だったな。
さて、今日は水平投擲用の槍先のモックアップの作成をしよう。水平投擲用の
槍先は直径8.8cmで長さ60cmの円錐と、同直径の長さ20cmの双円錐だ。これに厚さ3ミリで長さ10cmの四角柱の接続部を設ける形でモックアップを作った。2本とも同型だ。柄の角材部分は2.5cm×2.5cmで設計した。今回は槍先に開ける穴の体積も考慮してある。急降下爆撃だけでなく、槍の投擲も練習しないとな。
ドルロフさんの家を訪れて、投擲用の槍のモックアップを渡した後、ワイルフさんの木工所を訪ねて、2.5cm×2.5cm×30cmの魔樫の角材加工を
依頼した。
ついでに、投槍器(アトラトル)の構造を説明し作成を依頼した。これはそれほど強度は必要
ないので、お弟子さん達に競作させるようだ。
その後ティエラさんの農場を訪れ、青紫蘇と赤紫蘇を地下茎ごと採取させてもらった。上手く根付くといいのだが。
帰宅後、プランターに紫蘇を植えたり、鳥達に餌をやったりしつつ、まったりと
過ごした。
翌日は水平投擲用の槍先の形成をした。前回よりは小型の六角ボルトを使う。
ワイルフさんが削りだした柄は見事だった。白木の真っ直ぐで滑らかな棒だ。
「ワイルフさん!これは凄いですね。尊敬しますよ!流石、木工頭です!」
「ガハハ!ワシも久々に本気になってしまいましたぞ、ただこれと同じものは4本しか作れなかったぞい」
「充分です。ありがとうございます!」
「だから、使徒様に礼を言われるような事ではないですぞ!ワシは村の為にやってるだけじゃ!」
そうだった、キーロフの爺とは全然違うな。今度何かお礼が出来ればいいんだが。
その後の3日間は村には行かずに過ごした。リリは、わっくーと、くーわと
遊んでいる。ロップは鳥達に手を出したら一生飯抜きの刑を俺から宣告されているのでつまらなそうにしていた。俺はポレポレ茸を採りにいったり、
久々にカギムシ君やヘッピリ虫君達と遊んで過ごした。
そして、今日!対バシリスク兵器が完成するのだ!俺達は朝食を済ませた後、
早々に村へ向かった。直接ワイルフさんの木工所へ向かう。
木工所に着くと、ワイルフさんが既に待っていた。
「使徒様、大槍の柄は完成してますぞ!ただ小槍の方は、もう一日待って欲しいですな」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます。今からドルロフさんの所に行こうと思うんですが、ワイルフさんは大丈夫ですか?」
「ガハハ!村を救う武器が完成する瞬間にワシも立ち会わなければなりませんのう。オイ、テメーラ!サボらずにしっかり働けよ!」
「親方うぇーい」
「親方うぇーいっす」
「親方うぇーいだよ」
....ロップとリリには言っていないぞ。
全ての工程を終えた槍の柄を見せてもらったが、これは凄い、角材加工した白木の部分は真っ黒に染まり、金属みたいな光沢がある。
柄の部分もニスを塗ったようにツルツルだ。凄いぞワイルフさん!
凄いぞ木工衆!俺が見事な仕事を褒め称えると、
「使徒様、あんまり褒めないでくだされ。ワシのようなお調子者は褒められると
すぐに天狗になるでの。多少厳しく意見を言ってもらえる位が丁度いいんじゃよ。
ガハハ」
熱血で、謙虚なお調子者。俺のワイルフさんへの評価はうなぎ上りだ。
人って第一印象だけじゃ判断できないよね。心のメモに記しておこう。
大槍の柄を収納袋に入れて、ドルロフさんの家へ向かった。
「ドルロフ、ワシと使徒様が来たぞ!今日が毒トカゲ殺しの完成の日じゃ!」
ドルロフさんが小屋から出て来て、俺達を工房に迎え入れた。
「お待ちしていました、使徒様、ワイルフ殿、さあ使徒様、柄を留め具で固定してください」
俺はワイルフさんの渾身の作品を槍先に装着した。六角ボルトを差し込み、ナットをレンチで締めあげる。完成だ!
長さは槍先を含めて2.5メートル、柄の太さは9cm~10cm、
総重量50キロ位だろう。
もう一本の貫通特化の槍先も同様に柄を装着した。振り回してみても全くガタツキがない。完璧だ!
「ドルロフさん、ワイルフさん、素晴らしい出来です。必ず毒トカゲを討伐してみせます」
「いえ、面白い仕事をさせて頂きました。でもまだ投擲用の槍の仕上げが残っていますよ」
「そうじゃな。気を抜かずに仕上げに掛かるとするかの。ガハハ!」
「この二振りの槍に銘を付けようを思うのですが、お二人の名前を頂いても
いいですか?こちらの標準仕様が"ドルロフ"で貫通特化型が"ワイルフ"で
どうでしょう?」
俺が提案すると二人とも首をぶんぶん横に振って嫌がった。
「とんでもない!この槍は使徒様の持ち出しで作った物です。それにワシの名前
なんて付けられたら恥ずかしくて死にたくなります!」
「そうじゃよ。柄だって使徒様が採ってきたもんじゃ。ワシらは恥というものを
知っておる。どうか別の名前にしてくだされ」
ふ~ん、そうなの?ドルロフ&ワイルフなんていいと思うんだけどな。
よし思い切って中二的な名前を付けようか。急爆のルーデル閣下にちなんで
ドイツの伝説の武器名を....
知らねー!剣ならフルンティングとかバルムンクとかあるけど槍は知らねー!
じゃあ北欧神話だ。
....グングニルしか知らない。
確かケルト神話には槍がいろいろあったな。
ゲイ・ボルグとかブリューナクとか。でもこれ、ただの重いだけの槍なんだよな、
魔槍とかじゃないし。あまり大仰な名前を付けるのは恥ずかしいな。
ここはコウエイ様に倣おう。
「では、こちらの標準仕様の槍を"カジキ"、こちらの貫通特化仕様の槍を"ダツ"に
します!(ふんすっ)」
「....いいんじゃないでしょうか」
「言葉の意味はよくわからんが、とにかく凄い自信じゃな」
....二人ともテンション低いね。ワイルフさんなんて屁のつっぱりが要らない人
への返しだよ。
取り合えず、メイン武器の準備は出来た。明日投擲用の槍の完成を待って、
海へ向かうのは明後日にしよう。
この件はワイルフさんには話しておこう。
「ワイルフさん、明日、投擲用の槍が完成したら、俺は海へ向かおうと思っています。その際にドルロフさんに一緒に来てもらおうと思っています。
本当はワイルフさんにも来て頂きたいのですが....」
「ほう、ドルロフを海へ連れて行くのですか、この男は小柄ですからのう。
ワシはご覧の通りのガタイじゃ、ワシを連れて行くのはしんどいと思いますぞ。
それにワシは木工所の小僧どもの面倒を見なくてはならんので、長く暇を取る事
は出来ないんじゃ。残念ながらワシは無理ですぞ。土産は期待していますがな、
ガハハ!」
ああ、そうだよね。ボッチ鍛冶のドルロフさんに作成を依頼出来たのは、
幸運だったな。ワイルフさんにはいっぱい土産を用意しよう。
「分かりました。引き続き柄の製作をお願いします。明日また伺いますので」
「明日は直接ドルロフの工房へ来てくだされ。ワシもここで使徒様をお待ちしていますぞ」
俺は二人に別れを告げ、村長宅に向かった。ドルロフさんを海に連れて行く事を伝えておく必要があるからな。しかし鍛冶頭はまだ決まらないのかね?
「ゴレロフ村長こんにちわ。槍が完成しましたよ」
「ほう、見せてもらえるか。使徒様」
庭に出て、カジキとダツを取り出してゴレロフさんに渡した。
「むう、重いな使徒様。こんなもの使えるのか?」
俺が片手でぶんぶん振り回して見せるとゴレロフさんはちょっと引いていた。
「うんわ~、レイ兄ちゃんは力持ちだなや~」
「ふん!まだまだっすよ。ヘタレのレイ様」
リリには、なでなでしておこう。ロップには、こめかみグリグリをしておこう。
「基本的にはこれを振るって戦う訳ではないです。上から投げ下ろすだけですよ。という訳でまた海に行きます。今回はドルロフさんを整備士として連れて行きますが宜しいですか?」
「ドルロフを?まあアヤツは小柄だし痩せておるからのう。今回は塩を作ってくれんのか?」
「いえ、塩は作りますよ。ただその他はあまり期待しないでください」
「そうか、残念だ。実は妻が干し牡蠣とナマコを食べたいと言っておってな」
前に渡した干し牡蠣20個はもう食べちゃったのか。どっちもかなり余ってるしな。ナマコなんてあれから食べてない。でも本当はゴレロフさんが食べたいんじゃないの?
「分かりました。明日持ってきますよ。ナマコの調理の仕方も教えましょう」
「おお、助かるぞ使徒様!」
「いいお話を聞きましたわ」
「ああ、丁度いい時に来たようだな、ティエラ」
振り返ると、ティエラさんとベルルフさんがいた。これはまずいな、
特にベルルフさんが。
「あの、お二人は何故ここに?」
「頭衆が村長の家に来るなんて普通ですわ。ワタクシとベルルフは炭焼き衆への
食料の供給量について詳細を決めに参りましたの」
ベルルフさんが俺に詰め寄る、
「使徒様、ドルロフを海に連れて行くそうですな?ドルロフと俺はそんなに体格も変わらないはず。何故こんなに海へ行くことを切望している俺ではなくドルロフを海へ連れて行くのですかな。納得がいく返事を頂けるまで俺は引き下がりませんぞ!」
ティエラさんも俺を冷たい目で見ている、
「ダリエラさんには干し牡蠣とナマコを提供するのですか?
ふ~ん、使徒様。ワタクシは干し牡蠣を子供達に振舞ったので一晩で食べきってしまいましたわ。あの晩の子供達の笑顔が忘れられませんの。それなのに村長婦人には気軽に干し牡蠣もナマコも提供するのですね。ワタクシ悲しくなってきましたわ」
あー!面倒臭くなってきたぞ。ティエラさんの方はなんとかなるが、ベルルフさんが面倒臭いぞ。
「分かりました。ティエラさん、明日干し牡蠣と干しナマコを持ってきます。調理方法はダリエラさんと一緒に聞いてください。そしてカザエラちゃん達に振舞ってくださいね。あれ?リリをイジメていたクソガキ達にも振舞うんですか?
俺的には嫌だな~」
「使徒様、子供達は子供達ですよ。クソガキなんていません!めっ!」
....またお母さんに怒られた。だが、まあいい肥溜め漬けの刑は必ず執行する。
必ずだ!ふふふふふ。
「....使徒様。また悪い顔になっていますよ。何を考えているのですか?」
「いーえ、明日の天気を考えていたのですよ」
ティエラさんの方はなんとかなったが問題はベルルフさんだ。この人はフリスビーで遊んでいたりしてたけど。漁師頭としての仕事はないの?海に長期出張とか
大丈夫なのかね?
「ベルルフさん、今回ドルロフさんを海へ連れて行くのは毒トカゲ討伐の練習の為なんです。今日毒トカゲ討伐用の武器が完成しましたが俺の練習も必要です。武器の整備にドルロフさんは必要なんですよ」
「では日々の食料調達などはどうされるおつもりか?ドルロフは鍛冶しか出来ませんぞ!その点、俺なら漁師としての経験で魚を沢山獲れると思いますぞ!」
「いや、川と海は相当違うと思いますよ。それに漁師頭としての仕事もあるでしょう?」
「大丈夫です!漁師魂が俺の中で吠えているのです。猛け狂っているのです。
俺なら気合で海を乗り越えられると!それに俺がいなくても妹がおります。
妹がいれば川漁は大丈夫ですぞ!」
「だったら、妹さんを海に連れていった方が....」
「....使徒様?もしかして我が妹を狙っておられるのですかな?ならば俺に一騎打ちで勝たなければなりませんな」
あー!面倒臭え!なんだこの暑苦しいポンコツは!俺が仲裁を求めてゴレロフさんをチラ見すると、ロップとリリと一緒に小鳥にエサをあげていた。
絶対普段はそんな事してないよね?
「いや、俺が運べる人員にも限度がありましてね。ドルロフさんを肩車して、
リリを抱えるのが精一杯なんですよ」
「ならば、2往復すれば良いではないですか?使徒様はどのくらいで海まで行けるのですか?」
「う~ん普通の速度で一刻(2時間)くらいですね」
ゴリマッチョは相変わらず小鳥にエサをやっている。俺がゴリマッチョをチラチラ見てるのに気付いてるはずだ!何がチチチだ、ムカつく!
「ならばまず俺を乗せて飛んでみるのはどうですか?大丈夫そうなら俺も海へ行きます!ダメなら俺も諦めましょう。ただしその時はドルロフも連れていけないでしょうなあ、だって俺とドルロフはそんなに体格に差はないですからな。
ふふふ」
クソ、策士め!仕方がない。だが俺が塩作りや投擲の練習中に作業をしてくれる
なら有難いかもしれないな。エーラの上位互換バージョンと思えばいいだろう。
問題はこの人から漂うポンコツ臭だ。
「....分かりました。じゃあ首に跨ってください」
「了解ですぞ、使徒様、そしてこのまま海へ!」
行かねーよ。だが飛んでみると、それ程負荷は感じられない。
結構魔石を吸収しているしな。この数日でアーロフさんに貰った魔石とカギムシ君やヘッピリ虫君の魔石を合計24個吸収している。
ちょっと最高速を試してみよう。体感時速100キロ位で北の石河原まで
往復してみた。約一時間の行程だ。ベルルフさんはずっと無言だ。
気絶してないよな?
村長の庭に戻って、ベルルフさんを降ろした。
「使徒様、素晴らしい経験でした。ありがとうございます。そして俺の海行きは
決定ですな!ふふふ」
「....分かりましたよ。では明後日海へ行きます。着替えとか準備しておいてください。あと川漁の道具は大規模の網とかは、使えるか分かりませんので持ってこなくていいです、銛とかは使えるかもしれませんね」
「分かりました。ヒャッハー!こんなに嬉しい事はないですぞ!では明後日ここで待ち合わせましょう」
ベルルフさんはダッシュで帰って行った。村長に用があって来たはずじゃなかったか?しかもヒャッハーって、エーラと似た匂いがするぞ。
ティエラさんは俺がベルルフさんを乗せて飛んでいる間に帰ったらしい。
それにしても面倒臭い、ここにエーラが関わってくると、さらに面倒臭い事になるな。アイツには会わないようにしよう。
その後、帰宅してまったりと過ごした。海へ行ってる間、わっくーとくーわの飯は大丈夫かな?まあ、わっくーも自分で蟹を獲ってたし、なんとかするだろう。
翌日、バケツに廃棄された芋類と牡蠣殻と蟹を入れたバケツを入れて、わっくー達に与えた後、村のドルロフさんの家へ向かった。
「ドルロフさん、いますか~}
俺が声をあげると、ドルロフさんとワイルフさんが小屋から出て来た。
「お待ちしてましたぞ。使徒様」
「ワシにとっては改心の作ですぞ!使徒様、見てくだされ!」
ワイルフさんの手で磨き上げられた柄は、全ての工程を終えて黒檀の様だ。5本を槍先に装着してみたが、全てが完璧に嵌る!これは素晴らしい。
俺はボルトを挿入しナットで締め上げた。ここに二振りの水平投擲用の名槍が生まれた。銘はもう決めてある。アハト・アハト1号、2号だ!
設計時に8.8cmに拘ったのは俺の趣味なのだよ。でも随分短い槍になったね。槍先が80cmもあるからな。柄は太さ4cm、
長さは槍先を含めて1.8メートルだ。まあ投げ槍だからいいよね。投槍器(アトラトル)は使ってみてから判断しよう。
「ドルロフさん、明日海へ行きます。早朝に村長さんの家の庭に来て頂けますか?それと、いろいろ事情があってベルルフさんも一緒に行くことになりました。
宜しいですかね?」
「ベルルフ殿ですか?あまり話した事はないですが大丈夫ですよ。
使徒様の宜しい様にして下さい。ワシは年甲斐もなく海に行ける事を楽しみにしているのですよ」
「ドルロフ、この機会にお主の人見知りな性を直せ!お主はどう考えてもこの村で一番の鍛冶じゃ。本村のアホ鍛冶どもに今後も仕切られたらたまったもんじゃないわい。ベルルフはアホだが真っ直ぐな漢だ。これはいい機会だとワシは思うぞ」
「....そうですね。努力してみますよ。宜しくお願いします。使徒様」
俺は一応ドルロフさんの足のサイズを測らせてもらった。ベルルフさんは漁師だから大丈夫だと思うが、ドルロフさんも午前中は磯に来てもらう事になるだろうからな。スニーカーを用意しておく必要がある。
「ではドルロフさん、着替え等を用意して明日の早朝に村長さんの庭に来て下さい」
俺は一旦ワイルフさんに貸与していた道具類を返して貰った。海でドルロフさんに観てもらえれば、この村の木工道具も進化するかもしれない。
さあ、家に帰って、海遠征の準備をしよう!
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