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バシリスク討伐計画3(槍先の完成)&晩餐会

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翌朝、ラジオ体操をしていると、寝ぐせの"わっくー"が浅瀬で蟹を獲っていた。
よたよた歩いていくので付けていくと、卵を温めてる"くーわ"に蟹を与えていた。
いい夫婦だね。今日は多分、村に泊まるから多めに餌を用意しておこう。
芋類を鳥に与えるのはティエラさんに悪いから、自前で採ったものだけにして
おこう。黒芋で朝食を済ませた後、リリに蟹獲りを頼んだ。
「リリ、今日は村から帰れないかもしれないから、"わっくー"と、"くーわ"の
ご飯を獲ってきてくれるか?」
「うん!オラ、"わっくー"と、"くーわ"のご飯いっぱい獲るだよ!」
リリはバケツを持って河原に走っていった。俺は牡蠣殻を砕いておく。
村に行ったらティエラさんに相談して廃棄物を分けてもらえるか相談しよう。

そして食材と持ち物をチェックする。今回はデカい中華鍋と寸胴鍋を追加しよう。
人数が多いからな。

バケツにリリが獲ってきた蟹と牡蠣殻とノビルを入れて"わっくー"達の巣の近く
に置いた後、村に向かった。
途中で石河原で少しノビルを採った。これはティエラさんへのお土産だ。
ノビルはデカいメインの球根の脇に小さい球根がぶら下がっているのだ。
これを植えるとノビルが生えてくる仕組みだ。ノビルは割とどこでも生えるので、
村の新しい作物になるんじゃないだろうか?

現在9時。俺は直接ワイルフさんの木工所に向かった。木工所に降り立つと
ワイルフさんが現れた。
「使徒様、お早いですな。あれから6本仕込みましたぞ。見てくだされ」
ワイルフさんが先端を角材加工した6本の柄を披露した。
うん、流石職人だ、素人目には寸分違わぬ出来栄えに見える。素晴らしい!
「ありがとうございます!これは素晴らしい出来栄えですね。最初に作った見本と見分けがつきませんよ!」
「ガハハ。これがワシらの仕事ですからのう。それに使徒様から借りた、
星母神様の神器のおかげですぞ」
「では、これから俺はドルロフさんの家に行こうと思うんですが、
場所が分かりません。教えて頂けますか?」
「いや、これからワシも一緒に行きますぞ。オイ!テメーラ、ワシはちょっと
留守にするからしっかり仕事しやがれ!」
「親方うぇーい」

木工衆はやる気があるのか、ないのか良く分からないな。まあいいや。
俺はワイルフさんとドルロフさんの工房へ向かった。
木工所からドルロフさんの住む東の集落へは徒歩30分程の距離だった。
こじんまりした高床式住居と普通の小屋がある。ここがドルロフさんの家か。
「おーい、ドルロフ!ワイルフだ。使徒様を連れてきたぞ」
外からワイルフさんが声を掛けると、小屋からドルロフさんが現れた。
「これは使徒様、ワイルフ殿、その様子だと柄の方は出来た様ですな。
ワシの準備は整っております。では槍の穂先の形成を始めましょうか」

リリとロップに外で遊んでいるように指示し、俺とワイルフさんはドルロフさん
の工房に入った。中は殺風景で机の様な台しかない。
俺は鋼材6本をを収納袋から出して、台の上に3本ずつ積み上げた。
ドルロフさんは愛おしそうに鋼材を撫でていたが、モックアップを睨みながら
両手に魔力を込め始めた。

しばらくすると鋼材3本がうにょうにょしながら融合していった。
なにこれスゴイぞ。見る見るうちに鋼材がモックアップと同じ形に変形していく。
「ワイルフ殿!その柄を接続口に挿入してくだされ!」
「おう、わかったぜ、ドルロフ!」
ワイルフさんが柄の角材部分を15cmの四角柱の接続部分に40cm挿入する。
槍先の穴が開いた部分の鋼材、つまり8cm×8cm×25cm分はどういう
仕組みか分からないが、ドルロフさんの左手の上にモリモリと盛られていく。
結構な量だね。これは最初から考慮すべきだったな。質量が大分減ってしまった。
それでも40キロ以上はあるだろうから、取り合えずは良しとしよう
「仮形成は完了です。ワイルフ殿、一旦柄を引き抜いてくだされ。次は使徒様、
留め具を接続部に横から差し込んでください!」
俺はボルトを四角柱の接続部分に差し入れた。粘土みたいに柔らかいぞ。
正確に計測し、1本目は穂先から2cmの部分に平行になる様に慎重に右から
突き刺しボルトの六角形部分を3ミリ程めり込ませた、
2本目は穂先から10cmの所に左から同様に突き刺した。
「使徒様、留め具を抜いて下さい!硬化を始めます!」
俺はボルトを抜き、成り行きを見守る。最後に発光した後、穂先から湯気が立ち
上っている。
「完成です。ワイルフ殿、もう一度柄を差し入れてみてください」
「おう!行くぜ、ドルロフ!」
柄の四角柱部分はピタリと穂先に収まった!俺が持ち上げてみたが、
これだけでもピタリと嵌っていて、がたつきもない、凄いぞ職人!
7本全て試してみたが全てピッタリだった。これはドルロフさんも凄いが、
ワイルフさんの腕も相当なものだ。俺は7本の柄のボルトを貫通させる部分に
鉛筆で丸く印を描いた。
その後もう一本の穂先も同様の工程で作成し、7本の柄は二つの穂先にピタリと
収まった。スゴイな~職人って。
「お二人とも、ありがとうございます。これで毒トカゲ討伐の目途が付きました」
ワイルフさんが突然、怒声を上げた、え?何、俺地雷踏んだ?
「使徒様、何を言われるか!この件はワシらの問題で、本来はワシらがなんとか
しなければならない事なんじゃ!ワシは会合で使徒様から話を聞いた時、
情けなくて涙が出そうになりましたぞ!使徒様に礼を言われるような事では、
ぐうう....」

ワイルフさんがうつむいて男泣きを始めた。
俺もまだまだ人を見る目がないな、利に聡くて調子のいいおっさんだと思っていたが、熱い漢だった。俺に魔樫をたくさん採ってきてくれと頼んだのも村の事を想っての事なのだろう。反省。
「ワイルフさん、貴方の様な方がいればこの村は大丈夫でしょう。俺はちょっと
手助けをするだけです。まだ作業工程は残っています。一緒に頑張りましょう!」

その後、ハンドドリルで柄にボルト用の穴を開け、柄の部分は最終工程を施す為
に、ワイルフさんに託した。メネメネ液に漬けるのに1日、乾燥で1日かかるそうだ。その後、撥水加工をする必要があるらしく、この工程も2日程掛かるらしい。なんか違う"液"があるんだろうな。投げ槍の完成は5日後になりそうだ。
俺は二人に別れを告げてドルロフさんの工房を後にした。
二人とも今夜の晩餐に呼ばれているので、また夜に挨拶しよう。

現在11時。さて昼飯を食べてから、晩餐の準備をしよう。
その前にティエラさんの所に行こうか。
ロップとリリを抱えて、畑に飛んで行くとティエラさんと子供達が俺が採って
きたベサル菜を叩いていた。グンドゥルックを作っているのだろう。
ティエラさんの前に舞い降りて、ロップとリリを下ろした。
「あらまあ、使徒様。どうされたのですか?」
「いえ、ちょっとティエラさんに見て貰いたいものがありまして、この野草を
ご存じですか?」
俺がノビルを見せると、ティエラさんは首を傾げた。
「うーん?見た事ない野草ですね。これは食べられるのでしょうか?」
ノビルなんて結構そこら辺に生えてるもんだと思っていたけど知らないのか。
「これは栽培も簡単です。この小さい球根があるでしょう、これを植えて置けば
勝手に増えます。生でも食べられますし、栽培を試してみてはいかがでしょうか?
まずは味見をしてみてください」
俺は水筒の水でノビルを洗ってティエラさんに渡した。ティエラさんがポリポリ
とノビルを齧っている。なんか可愛いね、お母さん。
「使徒様、これは良い野草ですね。是非、栽培させて頂きますわ。
この小さい球根を植えればいいのですね?丁度空いてる畑があるので試してみますわ」
「水は遣りすぎない方がいいですよ。土が乾いたら水を遣る程度にして下さい」

ふと周りを見ると、子供達が遠巻きで俺達を見てヒソヒソ話している。
『あの赤い人が使徒様なの?なんか怖いよ』
『本当に使徒様なのかな?魔物じゃないの?羽が生えてるし』
『なんで角無しリリがいるんだよ。あいつ村からいなくなったんじゃないの?』
『オイラ、足の親指の爪の匂いが好きなんだよ』
『角なしリリのくせに使徒様やティエラ母さんの近くにいるなんて生意気だ」
『なんだアレ、角無しリリが変な恰好しているぞ!また服を破いてやろうぜ。
ギャハハ』
『いや、それよりもウンコを掛けてやりましょうぜ、アニキ!』

制裁決定!一人変なヤツがいたけど無視しよう。
俺がぐりんと顔を向けて睨みつけるとクソガキが二人、
白目を剥いてひっくり返って失禁した。
よく見ると、前に俺が肥溜めに漬けた二人じゃないか。
ウンコがよっぽど好きなのだろう。子供に優しい俺はティエラさんに提案した。
「ティエラさん、コイツらを肥溜めに漬けようと思うんですが、許可を頂け ....」
「使徒様!堪忍して下さい!まだ子供なんですよ!めっ!」

....お母さんに怒られてしまった。でも俺は悪くない。

「こほん、ところでこの村では栽培する作物に偏りがあるように感じるんですが、
何故、葉野菜を育てないんです?」
「食べでがある葉野菜は南の大河に生えるベサル菜くらいなのです。他にも周り
に食べられる野草はあるんですが、アクが強かったり、食べでが無くて不人気なのです。でも村人たちにはもっと野菜を食べて欲しいとワタクシは思っているのです。ワタクシの叔父も肉と芋しか食べない人でしたが、若くして病を患って死んでしまいましたわ。関係があるかわかりませんが、やっぱり野菜を食べたほうがいいとワタクシは考えていますの。使徒様にも無理を言ってベサル菜を採ってきていただきました。本当にありがとうございます」

そうか、この人も本当に村の事を考えている人なんだな。俺を便利屋扱いしている狡い人だと思っていたよ。反省。
しかし村の周りの野草は興味深いな。俺が知っている野草があるかも知れない。
「この村の周りの野草を教えてくれませんか?」
「いいですわ、ご案内します。使徒様」

ティエラさんに従って畑の周りを歩くと、見慣れた葉っぱが!これは....
「ティエラさん!これは?」
「青スカレン草ですね。匂いはいいのですけど、食べでがないので味付けに
使われるくらいです。ぐんどぅるっくにも葉が薄すぎて使えませんでした」

これは青紫蘇じゃないか!素晴らしい!
「....これを頂いてもよろしいですか?」
「どうぞどうぞ、この草は放って置くと、どんどん畑の方まで浸食してきて
結構厄介者なのです」

家に帰る前に地下茎ごと頂いていこう。プランター栽培で十分だ。その後、
赤スカレン草赤紫蘇も発見した。ワスプスズメバチの実の青い果実で梅干しが作れるかもしれない。

「ティエラさん、非常に良い物を発見できました。今日は晩餐会なので明日、
帰宅前に採集させて頂きます。これらは確かに食べではないですが、香草としては非常に優秀ですよ。でも肉料理に合わせるのは難しいかもしれませんね」
「あらあら、まあまあ。こんな野草で使徒様に喜んで頂けるとは思いませんでしたわ」

「いえ、非常に有難い発見でした。それに毎回たくさん農作物を頂いて
感謝してますよ。そこで、ご相談なんですが....」

俺はティエラさんと交渉して、割れたり干からびた黒芋と赤芋を土嚢袋一杯に
ゲットする事が出来た。無論、鳥達の餌用だ。
俺はティエラさんに別れを告げ、村長宅に向かう事にした。
リリはずっと俺の側にいたが、ロップは子供達と遊んでいたようだ。

「ロップ、そろそろ村長さんの所にいくぞ。こっちに来なさい」
「うにゃ~、分かったっすよ。レイ様」

ロップが駆け寄って来ると、一緒に鬼っ子達も駆け寄って来た。
一人がおずおずと俺に話しかけてきた。
「使徒様は村を助けてくれるんだろ?なんで角無しリリと一緒にいるの?」
俺はカチンときたが、我慢して答えた。
「俺は村の手伝いをしているだけだよ。なんでリリが一緒にいるとダメなの?」

「えー、だってコイツ役に立たないじゃん。角無しだし」
リリがうつむいている。このガキの言ってる事は子供らしい無邪気で残酷な
滅茶苦茶めちゃくちゃだ。『コイツ○○菌だ~、えんがちょ』と一緒だな。

「キミはリリより役に立っていると、どういう根拠で言っているのかな?
リリは俺にとって非常に役に立っているよ。
俺が塩を村に提供してるのは知ってるよね?リリはそれを助けてくれてるんだよ。
キミがリリ以上に村に貢献しているならそれを俺に教えて欲しい」

「....だって、角無しリリだし、オレも畑で頑張ってるし」

「いやキミがリリより村に貢献しているという事を証明してくれよ。
早く!詳しく!出来ないの?あと角がないとなんでダメなの?ねえ説明してよ。
説明できないの?早く説明してよ、早く、早く~、まだなの?早く答えてよ」

俺がマシンガンの様にまくし立てると、
「びええええん、母ちゃ~ん」
泣きながら駆け去っていった。大人気なかったかな、だが後悔はしていない。
「使徒様!あまり子供達をイジメないでください!めっ!」

....またお母さんに叱られた。でも俺は悪くない。反省なんかしない。

トコトコと女の子が近づいてきた。
「リリちゃんごめんね。男の子たちがリリちゃんをイジメてた時、ワタシ怖くて
何もできなかったの。リリちゃんの服を男の子たちが破いてた時もワタシ見てた。
見てたけど怖くて何も出来なかったの、ごめんなさい。うわ~ん」

「大丈夫だよカザエラちゃん。オラ気にしてねえだよ。泣かないでくんろ」

ガキ共の中にもいいやつはいるじゃないか。だがリリの服を破いて棄てたヤツは、
二人は特定できた。残りの連中も内定して肥溜め漬けの刑を執行してやる。
ふふふふふ。
「....あの、使徒様。今何を考えているのですか?」
「いえ、特に何も」

俺はカザエラちゃんの頭に手を置き、
「キミはいい子だね、カザエラちゃん。これからもリリと仲良くしてやってくれよな」

カザエラちゃんは最初ビクッと身体を強張らせたが、
「はい!使徒様。ワタシ、リリちゃんと仲良くしたかったの」
ええ子や~。俺はカザエラちゃんの頭をワシャワシャ撫でてやった。

その後、俺達はゴレロフ村長の元へ向かった。

村長宅に降り立つとすぐにゴリマッチョゴレロフ村長が出て来た。
「使徒様、早い到着だな。計画は順調そうだな」
「ええ、ただ完成は5日後になりそうです。また庭を借りてもいいですか?
昼飯と晩飯の支度がありますので」

「....昼飯は何を食べるのかのう?」
「黒芋です!」

また面倒が起こると困る。ゴレロフさんは残念そうに立ち去っていった。
ロップには干物、俺とリリは黒芋で簡単な昼食を済ませた後、ロップとリリには
遊んでいるように言っておいた。

現在13時。ちょっと早いが晩飯の仕込みをしようとしていると。ベルルフさん
がやって来た。
「使徒様、もう晩餐の支度ですか?早いですな、期待しておりますぞ!
おっと俺はロップ殿とリリに用があるので、これにて失礼!」
ベルルフさんはフリスビーで遊んでいるロップ達の元へダッシュで駆けて行った。
仕事しないでいいの?漁師頭。

確かにまだ早すぎだな。15時位までは重力魔法の練習をしよう。
しかし俺って結構ストイックだよな。この世界に来て全然遊んでないぞ。
しばらく瞑想しながら石を落として持ち上げる訓練をしていると、
「あ、レイ兄ちゃん!そんなとこで何してんだ!」

....やかましいポンコツが来た。
「スゲーだろ、アタシはアーロフ達と黒熊を狩ってきたんだ!大変だったけど
皆で一頭丸ごと運んできたんだぜ!」
「へー、凄いじゃないか。アーロフさんは何処にいるんだ?」
「今は解体場だ、今日の晩飯会は黒熊の肉だぜ!」

「今夜の晩餐にエーラ姉ちゃんは呼ばれてるのか?
前の会合では頭衆の晩餐ってキーロフさんが言っていたが」
エーラの動きが止まった。まずいぞ。
「アタシ、ゴレロフのおっちゃんの所に行ってくる!」

ポンコツがすっ飛んでいった。まあ修練を続けよう。勿論リリは参加に決まって
いる。ロップもな、エサは干物だけど。

しばらくすると、エーラがすっ飛んで戻ってきた。
「へへん、アタシも参加だよ。レイ兄ちゃん参ったか!」

いや、参るとか意味分かんねーし。邪魔だから追い払おう。
「エーラ姉ちゃん、向こうでリリ達がベルルフさんとフリスビーしてるぞ。
行かなくていいのか?」
「なんだって!行くに決まってるだろ!」
エーラはリリ達のところへすっ飛んで行った。

よし煩いポンコツを追い払えたぞ。今は15時だ。そろそろ晩飯の仕込みを始めよう。
今日の料理は干しナマコの煮込み改と、猪犬のレバー&ハツのショウガニンニクニラ炒めだ。
まず大型ボールを三つ取り出して、干し牡蠣と、煮干し、ポレポレ茸、
行者ニンニクのグンドゥルックの戻しを始める。しかし頭衆に振舞う料理を
こんな庭先で胡坐で作っていいのか?

レバーとハツを切り分けて塩コショウをしておいた。クレソンはざっと湯がいて、生の行者ニンニクとノビルと共にザクザク切っておく。ナマコは輪切りでいいだろう。しかし竈は何処にあるんだろう?ナマコの煮込みは魔法で何とかなるが、
大量の炒め物は流石にロケットストーブでは火力が足りないぞ。

乾物が戻るまで時間が空いてしまった。重力魔法の修練をしていると。
「使徒様、お料理中ですの?」
声を掛けてきたのはティエラさんだ。
「ええ、ただ乾物が戻るまで手が空いてしまいましてね。グンドゥルック作成の方は順調ですか?」
「はい、頂いた8袋分全てを乾燥中ですわ。あっ、これは干し牡蠣ですね。
先日頂いた物を食べましたが大変美味しゅうございました。村の皆にも食べさせてあげたいですわ」

う~ん?それは難しいな。今は供給元が俺だけだしな。俺がいなくなったら手に入らなくなるものを気軽に提供する訳にはいかない。それに養殖でもしない限り、
獲り続ければ、あの磯の牡蠣が絶滅するだろう。

俺がそのように説明すると。
「わかっておりますわ。ワタクシ達は使徒様に頼り切ってはいけないのです。
今回の件が解決した後は、ワタクシ達自身で生活環境の改善をしていかなければなりませんね」
うん、ティエラさんは聡明な人だな。
「物質的な協力には限度がありますが、知識や助言はその限りではありません。
俺もそれほど物知りではないですが、ご相談はいつでも受け付けますので」
「まあ、使徒様ありがとうございます」

その後、ティエラさんと雑談を続けた。前々から知りたかった身体の洗浄方法だが、小川で水浴びをしたり、水を汲んで身体を拭く程度らしい。
ムクロジ的な物がないか聞いてみたが、そのような物は無いらしい。

ウンコ等は各家庭で甕に貯めて畑の肥料にしているようだ。少し遠方の東西の集落でも小規模の畑があるのでそこで利用しているらしい。
いろいろ村での生活について話を聞いていると、頭衆が集まってきたようだ。
衆議堂の前でゴレロフさんと話をしている。

現在16時半。ゴレロフさんがやって来た。
「使徒様、そろそろ料理のほうを頼むぜ。アーロフが熊肉を持って来たんで、
裏の竈で焼くところだ。使徒様も使うだろ?」
「はい、分かりました。後で使わせてもらいますよ」

ます、ナマコの煮込みの方を作ろう。冷めても魔法で温め直せるからな。
寸胴鍋に干し牡蠣と、煮干し、ポレポレ茸の戻し汁を5:2:3の割合で注ぎ、
ナマコを入れる。グンドゥルックの戻し汁は気化させ濃縮する。これは酸味が欲しいだけなので、少量でいい。寸胴鍋を沸騰させないようにしばらく炊いた後、
濃縮グンドゥルックの戻し汁とガンガスの根ショウガの絞り汁、ピリピリの実唐辛子、湯がいた
クレソン、戻したポレポレ茸と行者ニンニクのグンドゥルックをざっくり切ったものを投入して、またしばらく炊いた。塩で味を調えた後、味見をしてみる。
うん、前回よりも数段上の味だ、特にポレポレ茸の出汁が凄い。ナマコも適度に味が染み込んでプルプルで美味いぞ。だが俺はちょっと後悔をしている。
これは前日に仕込んで一晩おいた方が良かったかもしれない。まあ過ぎた事は仕方がない。赤芋のデンプンを溶いたものを入れてレードルでかき混ぜると理想的な
とろみ汁になった。

よし、ナマコの煮込みはこれで良いだろう。後は炒め物だ。
庭を見ると既に頭衆が勢ぞろいしていて、車座になってこちらをニコニコ
しながら見ている。
しかし、何故俺が飯を振舞わなければならないのだろうか?釈然としない。
次回はないからな!絶対だ!

俺は裏の竈で中華鍋を使って、猪犬のレバー&ハツのショウガニンニクニラ炒めを作った。
以前に熊さんのレバーとハツで作ったものと同じだ。ざっと炒めて頭衆の待つ庭に中華鍋ごと持っていった。
車座になった頭衆の中心には既に大皿に黒熊の焼き肉が山盛りになっている。
「おお、やっと出来たか使徒様、では本日の晩餐を開始する。今回は使徒様が
海で採って来た食材の試食会である。使徒様の料理を堪能しようではないか。
それに加えて使徒様が狩った未知の魔物と、アーロフ達が狩ってきた黒熊の肉も
ある。皆の衆、存分に楽しんでくれ」

このゴリマッチョゴレロフ村長!何を偉そうに演説してやがるんだ?そもそもアンタが口を滑らせたから、こんな面倒な事になったんだろうが!
俺はムカムカしながらナマコの煮込みと猪犬の炒め物を皆に配った。

食い意地爺のキーロフさんが感嘆の声を上げた、
「ほう、これは素晴らしい味わいですな。このプルプルした物がナマコですか。
今まで食べた事の無い食感ですな」

ワイルフさんは炒め物をガツガツ食らっている
「使徒様、これは凄いですぞ!何か身体の奥底から力がみなぎってくるようですぞ!」

ベルルフさんはナマコの煮物を慎重に味わっている。
「使徒様、これはどのような生き物ですかな?川にいる生き物からは想像が出来ないですな」
「ベルルフさん!それはウンコみたいな....」
ポンコツが全部言う前にココエラさんに引っ叩かれている。食事中にウンコとか言うな!

ティエラさんが質問してきた。
「使徒様、この煮込みは前回より深い味わいです。それに煮汁がとろとろして非常に美味ですわ。前回と比べてどういう工夫を加えたのでしょうか?」
「はい、前回のメリル茸とは違うキノコが手に入ったので、それを使いました。
ポレポレ茸と言うそうです。そして赤芋からトロミ成分を抽出して追加しています」
「まあ!赤芋からそのようなものが抽出できるのですね。後で教えて頂けませんか?」
「ええ、いいですよ。手間は掛かりますが、特別難しい作業ではありません」
「ありがとうございます。使徒様。それと炒め物に入っている見知らぬ野菜はなんですの?一つはちょっと苦味があってベサル菜に似ていますけど、もう一つは
独特の食欲をそそる香りがしますわ」

「苦味がある方はクレソンという、川のほとりで育つ植物です、この辺りでもありそうですよ。後で現物をお見せします。もう一つの独特の香りがするのは行者ニンニクといいます。これは多分、俺の家の辺りでしか採れないでしょうね」
「そうですか、使徒様、ありがとうございます」

アーロフさんが質問してきた。
「使徒様、この炒め物は未知の魔物との事でしたが、私がお伝えした3種類の魔物の内の一匹でしょうか?」
「多分そうだと思います。体色は灰色ですが、顔つきは黒狼と黒猪を混ぜたような感じで、身体は足の長い黒猪みたいでしたね。後ろから突然襲われたので、
ちょっと手傷を負ってしまいましたよ」

アーロフは腕を組んで考えこんでいる。その後、雑談をしながら食事を続け、
俺が提供した料理はすぐに無くなってしまった。

エーラが声を上げた。
「ちょっと、みんな!アタシ達が獲って来た黒熊の肉も食べてくれよ!
一匹丸ごと運ぶのは大変だったんだぞ!」

「そうだな、黒熊の肉は俺達にとってはご馳走だ。皆の衆、狩人衆に感謝して
黒熊の肉を食らおうぞ」
ゴレロフさんの一声で皆、黒熊の肉に手を伸ばした。俺も食ってみよう。

うん、血生臭いし獣臭い。血抜きが上手くいかなかったのだろう。
しかしアーロフさんやエーラが命がけで獲って来た貴重な肉だ、
贅沢は言っていられない。ありがたくいただこう。
皆が無言で食べているのもそれを分かっているからだろう。
だが獲って来た当人のポンコツが空気を読まずに喚きだした。
「うげっ、血生臭せー、今までは気にしなかったけど、レイ兄ちゃんが血抜き
した黒熊は肝臓も心臓も美味かったぜ。今回は血抜きできなかったからなー。
アーロフ、やっぱ血抜きは大事だぜ」

「そうだな。確かにエーラや使徒様が狩って来た黒熊は村の衆にも評判が
良かったようだ。使徒様はどのように血抜きをしているのでしょうか?」
「俺は基本魔法で血を抜いてます。狩人衆には基本魔法を使える人はいないんですか?」
「半分くらいは火付け程度は出来ます。私も多少は使えますが、血抜きが出来る
とは思っていませんでした。使徒様、今度血抜きの方法を教えて頂けませんか?」
「いいですよ。ただ向き不向きがあると思うので、全員が出来るようになるかは
保障出来ませんね。それと毒トカゲ討伐まではお待ちください」」
「それで結構です。ありがとうございます!使徒様」
「アタシにも教えてくれよな!レイ兄ちゃん」

その後、酒宴になり夜は更けて行くのであった。
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三矢さくら
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【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

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