29 / 50
ポンコツが以外と普通だった件
しおりを挟む
鬼人族の村で午前中結構長く過ごしたので、かなり飛ばしてきたが石河原で正午過ぎになった。ここで一旦昼飯にするか。
「みんな、ここで昼飯でいいか?食材も採りたい。飯は黒芋になっちゃうけどな。
ロップは煮干しな」
「オラ、黒芋大好きだ」
「アタシもいいぜ」
「ボクは茶鱒がいいっす」
独りだけ我儘を言うロップにデコピンをした後、黒芋を茹でた。まあ甘いし単体
で食べる分にはいいオヤツになるんだよな。
食後は少しだけ食材を集めよう。例の如く茶鱒釣りだ。今回の目標は晩飯と朝飯分で16匹は欲しい。一時間を目途に足りなかったら家に戻ってからだな。
釣り具と念のため長いバールを取り出しておく。ダイアベアやダイアウルフ対策だ。
ロップには索敵を命じ、エーラには、あまり森の奥へ行かないように厳命しカスレの実採取を頼んだ。
リリには小さなシャベルを渡してノビルを採らせた。
今回は警戒のため、あまり釣り歩き出来ない。5匹程釣った頃、ロップが警戒の
声を上げた。
「レイ様、森の奥から何か来るっす!」
「エーラーッ!早くこっちに戻れ!今すぐにだ!」
エーラが顔を強張らせて逃げて来た。
「レイ兄ちゃん!黒熊だ!」
森からノシノシと巨体が現れた。前のよりデカいかもしれない。
心臓がバクバク言っている。まともにコイツと対峙するのは初めてだ。鬼人族の
一流狩人でも一人では相手にしないというコイツに俺で対抗出来るのか?
しかし、娘たちを守らなければ!お父ちゃん頑張る。俺はバールを握りしめ、
熊に向かって行った。
「ゴアアアアッ」
吠えながら熊が後足で立ちあがった。でけえええ!俺の身長の倍くらいねえか?
熊さんが右前足を振るってきた。バックステップで避けざま、
「お小手!」
バールで右前足をぶん殴った。ちなみに俺は剣道などやった事ない。
ただ見えるのだ、相手の動きがゆっくりと。さらに左前足を振るってきたので、
さらに小手。もう1セット繰り返すと熊が痛そうにしている。なぜ小手かと言うと面には届かないし、胴は効かなそうだからだ。熊が両前足をだらんと垂らしてちょっと動きが止まった。ここで生命魔法の"小指ガツン"で畳み込む。
結構この魔法は痛いのだ。
「ゴウッ」
熊が怯んだその隙に潜り込んで、後ろ左足の膝の辺りを思いっきりバールで引っ叩いた!
「ゴアーッ」
かなり痛そうな声で鳴いているが、無視して生命魔法の"眩暈"とかの小技系+バールで前脚、後ろ脚を引っ叩くを繰り返していると、
「オウンッ」
と悲し気な声で鳴き、狩りゲーの青い熊が逃げ出す時の様に、こちらを振り返り
つつ4つ足で逃げ始めた。
逃がしませんよ!ここで生命魔法の大技系を使うとパラライズが簡単に掛かってべしゃんと崩れ落ちた、相当精神的に追い詰められていたのだろう。
そうだ、エーラに止めを刺させてやろう。
「エーラ姉ちゃん、止め刺す?」
「アタシやる!」
エーラに剣鉈を渡して、熊を仰向けにするとエーラは手際よく頸動脈を切断した。しかし、やっぱりバールの方が破壊力はあるな。でも汎用性だと剣スコップなんだよな。どこかに重い剣スコップは無いものか。
熊さんは暫くしてお亡くなりになったようだ。
「はい、エーラ姉ちゃん。これでキミは真の【黒熊殺し】だ!」
エーラは高揚した表情をしている。リリはポカーンとしている。
ロップがぴょんぴょん跳ねた。
「うにゃ~、レイ様結構強くなってるっすよ!魔石のおかげっす」
俺はコウエイ様の収納袋を展開し、ダークフレイムスローでダニを焼く。
これ、中の寄生虫も焼けるのかな?
血抜きはエーラが頸動脈を切ってくれたので、続きは魔法でやっておいた。
ワタ抜きは帰ってからにしよう。また、うんしょうんしょと収納袋に収納する。
入るかな?入るといいな。
それっ、ちょっとギュウギュウ押し込めて収納完了。
さて帰るか。荷物を片付けてから再びフライトだ。ロップは何故か自分から袋に入った。エーラにひっ捕まえられるのが嫌なのかもしれない。
背中のエーラに聞いてみた。
「どうだ?黒熊を倒した気分は?」
「ん?何言ってんだ?黒熊を倒したのはレイ兄ちゃんだろ?死んだ父ちゃんが
言ってたんだ。偉いのは止めを刺したヤツじゃない、止めを刺させたヤツだって」
あー、そういう事ね。誰もが止めを刺せるような状況を作るのが一番大変だって事か、前回の言動も納得だ。見直したぞポンコツ。
エーラに景色を見せるため、ややゆっくり目に渓谷沿いに飛ぶ。エーラは珍しく大人しく廻りをキョロキョロしている。一時間程すると滝に辿り着いた。
「うおー、凄い滝だ高いぞ!この上がレイ兄ちゃんの家か」
俺が滝を飛び越え、岩畳の壺中天を目にすると、はしゃぎだした。
「ここが全部レイにいちゃんの家か、スゲーな」
いや全部じゃねーし。そうだエーラに聞いてみよう。
「俺は魚釣りをするが、エーラ姉ちゃんはワタ抜きは出来るか?」
「あー、今日狩りしないって聞いたから道具持ってきてないや。
ごめんなレイ兄ちゃん」
「何が必要だ?」
「ワタを抜くだけでいいんだよな?鉈と鋸と手頃なナイフと熱湯だけでいいぜ」
よしちょっと待ってろ、俺は洞窟から鉈とハンディ鋸とナイフとタライを二つ持ってきた。
「あそこがレイ兄ちゃんの家か~」
「俺がいない時に入るのは禁止です」
「分かってるよ~。あ、そうだ、リリも手伝ってくれよな」
「うんオラ手伝うだよ」
「村では内臓はどこを食べるんだ?」
「何言ってんだ?レイ兄ちゃん、内臓は普通は村までなんて持って行けねーよ。
腐っちまうだろ?」
「そりゃそうか、じゃあ狩人は何処を食べてるんだ?」
「やっぱ肝臓と心臓だな、後、黒熊の胆嚢は薬になるらしいから貴重だな、
なかなか村まで持っていけねーけどな」
「じゃあ今日の夜は肝臓半分と心臓を食べよう。熊の脂も少し取っといてくれるか?残りの肝臓と胆嚢は冷やして村に持って行くか。それと中に石があるだろ?
アレは俺にくれ。代わりにエーラ姉ちゃんには角をやるよ。残りの内臓は残念ながら諦めよう」
「本当か!黒熊の角は貴重なんだぜ!短いけど皮剥ぎ刀に拵えるのに丁度いいんだぜ。中にある石なんて皆捨ててるぜ、レイ兄ちゃんは変ってるな」
なぬ!これは村に戻ったらアーロフさんと交渉しよう。俺には何よりも大事だ!
「じゃあ、俺は後少しだけ魚を釣ってくるからワタ抜きよろしく。
エーラ姉ちゃんは洞窟入るなよ!」
俺はタライに湯を沸かしてから熊を仰向けにひっくり返してから、
下流の滝壺に降りた。
茶鱒を5匹釣って戻ると、腹を割り終わってワタを抜いているところだった。
エーラがいれば大丈夫だろうが、膀胱とか破るなよ。
肝臓と腎臓と胆嚢はタライに取り分けてある。残りの内臓が岩畳に盛られている
が凄い量だな。どうしよう?そうだこんな時こそディスポーザー君達に
任せよう。そう、カギムシ君達だ。
「エーラ姉ちゃん、リリ、俺はそのワタを捨ててくるから肝臓とかを洗っていて
くれ。胆嚢は慎重にな」
「レイ兄ちゃん、誰に向かって言ってんだ!アタシは狩人だぞ」
そうでしたね。俺はタライに廃棄するモツを入れてカギムシ広場を目指した。
ついでに鎌と土嚢袋を持って行く。行者ニンニクの採取をしよう。
飛んで行くとカギムシ広場も10分位だ。以外と近いね。今
日は誰もいないみたいだ。熊さんのモツをぶちまける。
一応明日の早朝に確認しに来よう。
帰りに前と違う行者ニンニクの大群生地を見つけたので袋一杯に採取した。
ホクホク。
リリ達の元に戻ると岩畳に座って足を川に漬けておしゃべりをしている。
エーラがデカいので姉妹ではなく親子のようだ。
「あ、レイ兄ちゃんおかえりだよ。オラお手伝いするだよ」
「おう、内臓洗っといたぜ。あとこれが熊から取れた石だ。そんで次は何をやればいいんだ?」
この魔石はテニスボール位あるぞ。エーラもお手伝いをちゃんとする気なんだな。
マラカスを振っているアホ猫とは段違いだ。
「そうだな、俺は夕飯の支度をするから。エーラ姉ちゃんとリリはは今から出すものを干し網に入れて欲しい。終わったら声を掛けてくれ」
俺は昨日採ったメリン茸とカスレの実の入った土嚢袋を取り出した、今取って来た行者ニンニクは鉈の背で軽く叩いてから干し網に入れるように指示をした。
結構量があるから三段干し網が三つくらい必要かな。エーラに干し網の開け方を説明しておく。
現在15時過ぎ。レバーとハツを切り分け、残りのレバーはビニール袋に入れて、
クーラーに氷と塩と一緒に入れとく。茶鱒はバケツに塩氷で十分だ。
クーラーがもう一個欲しかったよコウエイ様。
今日の晩飯は熊さんのレバーとハツのノビルニンニクショウガ炒めだ。
それに赤芋をふかしたものでいいだろう。
レバーとハツを塩とグリーンペッパーとブラックペッパーを混ぜて塗しておく。
炒める時にティエラさんからもらったピリピリの実とガンガスの根の擦りおろしを入れてみよう。しかし量が多いな、スキレットでは一気には無理かダッチオーブンで炒めよう。俺は岩棚にロケットストーブを置いて薪割を始めた。側ではエーラとリリが干し網を吊るしている。原始人の家族はこういう感じだったのだろうか。あ!忘れておった。俺は収納袋から海からの戦利品の3つの干し網を取り出した。煮干しと干し牡蠣と干しナマコが入っている。特に干しナマコは初代から含めて詰め込まれているのでみっちりだ。
そろそろ完全乾燥させて瓶に保管しよう。たしか業務用乾燥材の箱があったはずだ。
俺はビニールシートを岩棚に広げて、干物に乾燥魔法を20分位掛けた。
エーラ達も興味深そうに見ている。
「はい、君たちの次のお仕事です。この三種類の乾物をこの瓶に分けて入れてください。あまり詰めて入れてはだめですよ」
「レイ兄ちゃんこの黒いウンコみたいなのは何だ?食えるのか?」
「エーラ姉ちゃん、女の子がウンコとか言ってはいけません。実は俺もまだ食べた事がありません。でもきっと美味いはずなのです」
「レイ兄ちゃん、さっきからなんでそんな口調なんだ?普通に話せよ」
「エーラ姉ちゃん、レイ兄ちゃんはお仕事を頼む時はあんなしゃべり方になるだよ」
「ふ~ん?まあいいけどよ」
「それと、エーラ姉ちゃん。ウンコやおしっこがしたい時は下流の川の中でするように、決して上流でしてはいけませんよ」
エーラが顔を真っ赤にして俯いた。
「はい、お仕事開始~」
俺は収納袋から魚醤を仕込んだ甕を取り出し、物置に運んだ、しかしこのサイズの甕は残り2個しかない。ここは統合だ、そんなに日にちのずれも無いし大丈夫だろう。
20リットル位の甕に、ワタ入り魚醤とワタ抜き魚醤をそれぞれ統合した。
おうふっ、発酵が始まっているようで酷い匂いがする。あと2回位継ぎ足したら
一年様子をみよう。
毒ワインをかき回してから、魚醤を入れてた小さい甕を川で洗った。
次回の遠征で一気に4甕仕込むのも有りだな。
さて薪割再開だ。せっかくの炭を試してみたかったが今回は薪の方がいいだろう。
「レイ兄ちゃん終わっただよ」
「君たち、良く出来ました」
乾燥材を入れて物置にしまって置いたが、気が変わって干しナマコを一瓶だけ持ち出した。海で戻して食べてみよう。
現在16時過ぎ、飯の支度をしよう。塩コショウして置いたレバーとハツを切り分け、行者ニンニクとノビルの葉もある程度細かく切る。ノビルの球根は四つ割りでいいだろう。
リリがいるのでピリピリの実は少なめにしよう。ガンガスの根は摺り下ろすと真っ赤になった。紅ショウガみたいだが、これはこれでいい感じだな。
そしてロケットストーブに火を入れ、ダッチオーブンを乗せる。熊さん脂を入れて最初にノビルの根を炒めた後はモツ、葉っぱ、香辛料の順で投入し、適当に炒める。同時に大型のステンレス鍋に赤芋6個と水を入れ魔法で沸かす。炒め物はモツに火が通れば十分だ。塩で味を調えて完成!皿に取り分け、フォークと一緒
にサーブした。芋の皿に乗せて脇に塩を盛っておいた。塩味でいいだろ。
ロップはいつもどおりバケツに茶鱒だ。
「それでは、みなさん....」
「「「頂きま~す」」」
俺は箸でがっつく、こういうスタミナ飯はモリモリ頬張るのが美味いのだ。
ちょっと獣臭いがもう慣れた。ニンニク、胡椒、ショウガ、唐辛子の無敵カルテットの前には多少の獣臭では相手にならない。しかもそこにノビルの援軍まであるのだ!あとはネギ、玉ねぎでもあれば香味野菜系は十分だな。レバーもハツも身体からパワーが漲ってくる感じがする。だがリリにはレバーは大人の味かもな。
大丈夫かな?リリを見ると、お皿を持って、グー握りでフォークを持って美味そうに食べている。後で口の周りを拭いてあげよう。
「レイ兄ちゃん、美味しいだ!」
それは良かった。俺も赤芋を齧りながら残りを完食した。
大変美味しゅうございました。エーラはとっくに食べ終わっていた。
「レイ兄ちゃんは料理がうめーな。アタシもここに住もうかな」
恐れていた事を言い出した。まあ確かに良く働きはするんだけどな。
俺の心の平穏が得られない、直球で断ろう!
「駄目だ。ココエラさんも言っていただろう!それに、ここでは村に持ち帰るような食べられる獲物は獲れない。却下だ」
「ちぇー、レイ兄ちゃんのケチ!まあ明日は海だしな。楽しみだぜ」
大変な事を思い出した。俺がいずれこの島を出るという事をココエラさんに、
口止めしなければならない!
知ればこのポンコツは自分も行くと言い出すに決まっている。そしていつの間にか約束した事になっているのだ。
マズいぞ、もう誰かに話してないだろうな?ココエラさんの口が堅い事を祈る。
さて、ご馳走様の後は、俺が川の方へ行って食器を洗う。二人とも手伝うと言ってくれたが、暗いので夜目の効かない二人では危ない。
ロップと三人でトランプでもしている様に言っておいた。食器を洗い終え、俺は茶鱒の塩辛作りにチャレンジする。氷バケツの茶鱒8匹のワタを抜き、
ちょっとこだわって胃と腸をカッターナイフで開き、中を洗った。ざっと包丁で叩いてから塩をして生臭い水を切ってから瓶詰にした。これでいいのかな?
さて、明日の準備をしてから晩酌をしよう。基本的には前回と同じだがデカい漬物樽をもう一つ持って行く。二つ同時で気化できるか試そう、出来れば効率が二倍になる。それと水筒を二つ追加しよう。今まではリリには俺の水筒から与えて
いたが、エーラがいるから、それぞれに持たせた方がいいだろう。
それと例の物を探す。確かあったはずだ。物置の整理中は何に使うか分からなかったので、隅に放っておいたのだ。おおあったぞ10cm×10cm×25cm位の鉄?か何かのインゴットと言うか、鋼材の切り離しみたいなのが6本、
結構重い。最初は何かの部品かと思ったんだが結局分からなかったので放っておいたのだ。明日はこれをドルロフさんに見せてみよう。これ一本で20キロぐらいありそうだ。それとスケッチブックと筆記用具、定規類やコンパス、分度器等や糊、テープも追加した。銛の設計に必要かもしれないからな。
あ、麦わら帽子がある。海は暑いからリリに被せよう。
エーラはタオルでいいな、角あるし。それと短いバールをもう一本追加しておく。
エーラの足元はあのサンダルで大丈夫かな?一応スニーカーを貸そう。
「エーラ姉ちゃん、ちょっとこっちに来なさ~い」
「なんだよ、レイ兄ちゃん」
また涙目になっている。いちいち遊びに本気になるヤツだな。
「ちょっとサンダル脱いでみて」
「えー、これ一度脱ぐと、履くの面倒くせーんだぞ」
「いいから、海に行くためだぞ」
エーラはぶーぶー言いながらサンダルを脱いだ。恐らくコイツの足はデカい、
25cm位のサイズのスニーカーを履かせてみた。
「その辺を歩いて履き心地を試してみてくれ」
エーラがノシノシ歩いている間、エーラのサンダルの裏を確認する。
止まりは良さそうだが、やっぱ露出が多いから磯場は危険だな。
「レイ兄ちゃん、スゲー歩きやすいぞ。これをアタシにくれるのか?」
「貸すだけだ、貸すだけ。それから海に行ってから履くように。村にはちゃんとサンダルで行くんだぞ」
また駄々を捏ねようとしたので、言う事を聞かないなら海に連れて行かないと
宣言すると渋々スニーカーを脱いだ。いちいち面倒臭いヤツだ。
そして、問題がある。水着だ!リリにはスク水があるからいいが、
こんなデカい女用の水着は無い、と言うか水着自体が殆ど無い。
リリには悪いが、今回は海水浴は無しにしようかと思っていたら、
良い物が見つかった。男用のウェットスーツだ。これならエーラでも
着れるだろう。それとエーラの海用の服としてスパッツとTシャツを
何枚か入れとく。下着なんぞは男物のブリーフで十分だ。
潜水用のゴーグルも見つけたので、入れといてやろう。
それにしても何故こんなにレジャー用品が多いのだろう?
ふう、こんなもんかな?そろそろ晩酌をしようかな。
あー、まだ水汲みが残ってたよ。ひー!
水タンクに、滝壺で水を補充した。
俺、これが終わったら晩酌するんだ。
やっと梱包が済んだよ。遊んでる三人を見ながら晩酌を始める。肴はコノワタだ。
ティエラさんは結構大きな土器の甕に入った酒を二つもくれた。
結構、貴重な物だと思う。村の皆の期待に応えなければ!
昨夜、三人が寝た後、魔石を吸収し、俺は魔法の練習を続けた。
新しい生命魔法を閃いたからだ。
そして新たな魔法を三つも編み出した。凄くね?即ち、
・チカチカ:対象の目がチカチカして視界を遮る
・キーン :対象の耳に不快な高音が響き渡り耳が聞こえなくなる
・鼻詰まり:対象の鼻が効かなくなる
チカチカは全般に有効そうだし、他の二つはその感覚に特化した魔物には有効だと思う。
あれ?空が白み始めたぞ。また徹夜をしてしまった様だ。朝飯の支度をするか、魚だけでいいよな。七輪で炭火で焼いてみよう。火おこしをして七輪に火を入れた後、ロップを叩き起こして火の番をさせて、昨日熊のモツを撒いたカギムシ広場を見に行った。あくまで見るだけ。そして俺はすぐに引き返した。
何匹いるか分からない大カギムシの地獄曼荼羅が目に入ったからだ。倒せない事もないだろうが到底やる気が出ない。さて飯を食って早々に村に向かおう。
炭を火消ツボに入れて、七輪セットと共にに梱包する。干し網も中身ごと梱包した忘れ物はないよな。よし、村に行こう。現在6時半。
エーラはロップ用の背負い紐を作った様だ。流石にいつも袋詰めじゃロップも気の毒だしな。
「よし、皆さん、村に向かいますよ」
「うにゃー」
「分かっただ」
「いいぜ!いつでもいいぜ!」
結構エーラは働いてくれたし、悪さも全くしなかった。甘えん坊で、言動が変なだけで結構いいヤツなのかもしれないな。俺はエーラの評価を上方修正した。
そして、俺達は再び鬼人族の村に向かったのだった。
「みんな、ここで昼飯でいいか?食材も採りたい。飯は黒芋になっちゃうけどな。
ロップは煮干しな」
「オラ、黒芋大好きだ」
「アタシもいいぜ」
「ボクは茶鱒がいいっす」
独りだけ我儘を言うロップにデコピンをした後、黒芋を茹でた。まあ甘いし単体
で食べる分にはいいオヤツになるんだよな。
食後は少しだけ食材を集めよう。例の如く茶鱒釣りだ。今回の目標は晩飯と朝飯分で16匹は欲しい。一時間を目途に足りなかったら家に戻ってからだな。
釣り具と念のため長いバールを取り出しておく。ダイアベアやダイアウルフ対策だ。
ロップには索敵を命じ、エーラには、あまり森の奥へ行かないように厳命しカスレの実採取を頼んだ。
リリには小さなシャベルを渡してノビルを採らせた。
今回は警戒のため、あまり釣り歩き出来ない。5匹程釣った頃、ロップが警戒の
声を上げた。
「レイ様、森の奥から何か来るっす!」
「エーラーッ!早くこっちに戻れ!今すぐにだ!」
エーラが顔を強張らせて逃げて来た。
「レイ兄ちゃん!黒熊だ!」
森からノシノシと巨体が現れた。前のよりデカいかもしれない。
心臓がバクバク言っている。まともにコイツと対峙するのは初めてだ。鬼人族の
一流狩人でも一人では相手にしないというコイツに俺で対抗出来るのか?
しかし、娘たちを守らなければ!お父ちゃん頑張る。俺はバールを握りしめ、
熊に向かって行った。
「ゴアアアアッ」
吠えながら熊が後足で立ちあがった。でけえええ!俺の身長の倍くらいねえか?
熊さんが右前足を振るってきた。バックステップで避けざま、
「お小手!」
バールで右前足をぶん殴った。ちなみに俺は剣道などやった事ない。
ただ見えるのだ、相手の動きがゆっくりと。さらに左前足を振るってきたので、
さらに小手。もう1セット繰り返すと熊が痛そうにしている。なぜ小手かと言うと面には届かないし、胴は効かなそうだからだ。熊が両前足をだらんと垂らしてちょっと動きが止まった。ここで生命魔法の"小指ガツン"で畳み込む。
結構この魔法は痛いのだ。
「ゴウッ」
熊が怯んだその隙に潜り込んで、後ろ左足の膝の辺りを思いっきりバールで引っ叩いた!
「ゴアーッ」
かなり痛そうな声で鳴いているが、無視して生命魔法の"眩暈"とかの小技系+バールで前脚、後ろ脚を引っ叩くを繰り返していると、
「オウンッ」
と悲し気な声で鳴き、狩りゲーの青い熊が逃げ出す時の様に、こちらを振り返り
つつ4つ足で逃げ始めた。
逃がしませんよ!ここで生命魔法の大技系を使うとパラライズが簡単に掛かってべしゃんと崩れ落ちた、相当精神的に追い詰められていたのだろう。
そうだ、エーラに止めを刺させてやろう。
「エーラ姉ちゃん、止め刺す?」
「アタシやる!」
エーラに剣鉈を渡して、熊を仰向けにするとエーラは手際よく頸動脈を切断した。しかし、やっぱりバールの方が破壊力はあるな。でも汎用性だと剣スコップなんだよな。どこかに重い剣スコップは無いものか。
熊さんは暫くしてお亡くなりになったようだ。
「はい、エーラ姉ちゃん。これでキミは真の【黒熊殺し】だ!」
エーラは高揚した表情をしている。リリはポカーンとしている。
ロップがぴょんぴょん跳ねた。
「うにゃ~、レイ様結構強くなってるっすよ!魔石のおかげっす」
俺はコウエイ様の収納袋を展開し、ダークフレイムスローでダニを焼く。
これ、中の寄生虫も焼けるのかな?
血抜きはエーラが頸動脈を切ってくれたので、続きは魔法でやっておいた。
ワタ抜きは帰ってからにしよう。また、うんしょうんしょと収納袋に収納する。
入るかな?入るといいな。
それっ、ちょっとギュウギュウ押し込めて収納完了。
さて帰るか。荷物を片付けてから再びフライトだ。ロップは何故か自分から袋に入った。エーラにひっ捕まえられるのが嫌なのかもしれない。
背中のエーラに聞いてみた。
「どうだ?黒熊を倒した気分は?」
「ん?何言ってんだ?黒熊を倒したのはレイ兄ちゃんだろ?死んだ父ちゃんが
言ってたんだ。偉いのは止めを刺したヤツじゃない、止めを刺させたヤツだって」
あー、そういう事ね。誰もが止めを刺せるような状況を作るのが一番大変だって事か、前回の言動も納得だ。見直したぞポンコツ。
エーラに景色を見せるため、ややゆっくり目に渓谷沿いに飛ぶ。エーラは珍しく大人しく廻りをキョロキョロしている。一時間程すると滝に辿り着いた。
「うおー、凄い滝だ高いぞ!この上がレイ兄ちゃんの家か」
俺が滝を飛び越え、岩畳の壺中天を目にすると、はしゃぎだした。
「ここが全部レイにいちゃんの家か、スゲーな」
いや全部じゃねーし。そうだエーラに聞いてみよう。
「俺は魚釣りをするが、エーラ姉ちゃんはワタ抜きは出来るか?」
「あー、今日狩りしないって聞いたから道具持ってきてないや。
ごめんなレイ兄ちゃん」
「何が必要だ?」
「ワタを抜くだけでいいんだよな?鉈と鋸と手頃なナイフと熱湯だけでいいぜ」
よしちょっと待ってろ、俺は洞窟から鉈とハンディ鋸とナイフとタライを二つ持ってきた。
「あそこがレイ兄ちゃんの家か~」
「俺がいない時に入るのは禁止です」
「分かってるよ~。あ、そうだ、リリも手伝ってくれよな」
「うんオラ手伝うだよ」
「村では内臓はどこを食べるんだ?」
「何言ってんだ?レイ兄ちゃん、内臓は普通は村までなんて持って行けねーよ。
腐っちまうだろ?」
「そりゃそうか、じゃあ狩人は何処を食べてるんだ?」
「やっぱ肝臓と心臓だな、後、黒熊の胆嚢は薬になるらしいから貴重だな、
なかなか村まで持っていけねーけどな」
「じゃあ今日の夜は肝臓半分と心臓を食べよう。熊の脂も少し取っといてくれるか?残りの肝臓と胆嚢は冷やして村に持って行くか。それと中に石があるだろ?
アレは俺にくれ。代わりにエーラ姉ちゃんには角をやるよ。残りの内臓は残念ながら諦めよう」
「本当か!黒熊の角は貴重なんだぜ!短いけど皮剥ぎ刀に拵えるのに丁度いいんだぜ。中にある石なんて皆捨ててるぜ、レイ兄ちゃんは変ってるな」
なぬ!これは村に戻ったらアーロフさんと交渉しよう。俺には何よりも大事だ!
「じゃあ、俺は後少しだけ魚を釣ってくるからワタ抜きよろしく。
エーラ姉ちゃんは洞窟入るなよ!」
俺はタライに湯を沸かしてから熊を仰向けにひっくり返してから、
下流の滝壺に降りた。
茶鱒を5匹釣って戻ると、腹を割り終わってワタを抜いているところだった。
エーラがいれば大丈夫だろうが、膀胱とか破るなよ。
肝臓と腎臓と胆嚢はタライに取り分けてある。残りの内臓が岩畳に盛られている
が凄い量だな。どうしよう?そうだこんな時こそディスポーザー君達に
任せよう。そう、カギムシ君達だ。
「エーラ姉ちゃん、リリ、俺はそのワタを捨ててくるから肝臓とかを洗っていて
くれ。胆嚢は慎重にな」
「レイ兄ちゃん、誰に向かって言ってんだ!アタシは狩人だぞ」
そうでしたね。俺はタライに廃棄するモツを入れてカギムシ広場を目指した。
ついでに鎌と土嚢袋を持って行く。行者ニンニクの採取をしよう。
飛んで行くとカギムシ広場も10分位だ。以外と近いね。今
日は誰もいないみたいだ。熊さんのモツをぶちまける。
一応明日の早朝に確認しに来よう。
帰りに前と違う行者ニンニクの大群生地を見つけたので袋一杯に採取した。
ホクホク。
リリ達の元に戻ると岩畳に座って足を川に漬けておしゃべりをしている。
エーラがデカいので姉妹ではなく親子のようだ。
「あ、レイ兄ちゃんおかえりだよ。オラお手伝いするだよ」
「おう、内臓洗っといたぜ。あとこれが熊から取れた石だ。そんで次は何をやればいいんだ?」
この魔石はテニスボール位あるぞ。エーラもお手伝いをちゃんとする気なんだな。
マラカスを振っているアホ猫とは段違いだ。
「そうだな、俺は夕飯の支度をするから。エーラ姉ちゃんとリリはは今から出すものを干し網に入れて欲しい。終わったら声を掛けてくれ」
俺は昨日採ったメリン茸とカスレの実の入った土嚢袋を取り出した、今取って来た行者ニンニクは鉈の背で軽く叩いてから干し網に入れるように指示をした。
結構量があるから三段干し網が三つくらい必要かな。エーラに干し網の開け方を説明しておく。
現在15時過ぎ。レバーとハツを切り分け、残りのレバーはビニール袋に入れて、
クーラーに氷と塩と一緒に入れとく。茶鱒はバケツに塩氷で十分だ。
クーラーがもう一個欲しかったよコウエイ様。
今日の晩飯は熊さんのレバーとハツのノビルニンニクショウガ炒めだ。
それに赤芋をふかしたものでいいだろう。
レバーとハツを塩とグリーンペッパーとブラックペッパーを混ぜて塗しておく。
炒める時にティエラさんからもらったピリピリの実とガンガスの根の擦りおろしを入れてみよう。しかし量が多いな、スキレットでは一気には無理かダッチオーブンで炒めよう。俺は岩棚にロケットストーブを置いて薪割を始めた。側ではエーラとリリが干し網を吊るしている。原始人の家族はこういう感じだったのだろうか。あ!忘れておった。俺は収納袋から海からの戦利品の3つの干し網を取り出した。煮干しと干し牡蠣と干しナマコが入っている。特に干しナマコは初代から含めて詰め込まれているのでみっちりだ。
そろそろ完全乾燥させて瓶に保管しよう。たしか業務用乾燥材の箱があったはずだ。
俺はビニールシートを岩棚に広げて、干物に乾燥魔法を20分位掛けた。
エーラ達も興味深そうに見ている。
「はい、君たちの次のお仕事です。この三種類の乾物をこの瓶に分けて入れてください。あまり詰めて入れてはだめですよ」
「レイ兄ちゃんこの黒いウンコみたいなのは何だ?食えるのか?」
「エーラ姉ちゃん、女の子がウンコとか言ってはいけません。実は俺もまだ食べた事がありません。でもきっと美味いはずなのです」
「レイ兄ちゃん、さっきからなんでそんな口調なんだ?普通に話せよ」
「エーラ姉ちゃん、レイ兄ちゃんはお仕事を頼む時はあんなしゃべり方になるだよ」
「ふ~ん?まあいいけどよ」
「それと、エーラ姉ちゃん。ウンコやおしっこがしたい時は下流の川の中でするように、決して上流でしてはいけませんよ」
エーラが顔を真っ赤にして俯いた。
「はい、お仕事開始~」
俺は収納袋から魚醤を仕込んだ甕を取り出し、物置に運んだ、しかしこのサイズの甕は残り2個しかない。ここは統合だ、そんなに日にちのずれも無いし大丈夫だろう。
20リットル位の甕に、ワタ入り魚醤とワタ抜き魚醤をそれぞれ統合した。
おうふっ、発酵が始まっているようで酷い匂いがする。あと2回位継ぎ足したら
一年様子をみよう。
毒ワインをかき回してから、魚醤を入れてた小さい甕を川で洗った。
次回の遠征で一気に4甕仕込むのも有りだな。
さて薪割再開だ。せっかくの炭を試してみたかったが今回は薪の方がいいだろう。
「レイ兄ちゃん終わっただよ」
「君たち、良く出来ました」
乾燥材を入れて物置にしまって置いたが、気が変わって干しナマコを一瓶だけ持ち出した。海で戻して食べてみよう。
現在16時過ぎ、飯の支度をしよう。塩コショウして置いたレバーとハツを切り分け、行者ニンニクとノビルの葉もある程度細かく切る。ノビルの球根は四つ割りでいいだろう。
リリがいるのでピリピリの実は少なめにしよう。ガンガスの根は摺り下ろすと真っ赤になった。紅ショウガみたいだが、これはこれでいい感じだな。
そしてロケットストーブに火を入れ、ダッチオーブンを乗せる。熊さん脂を入れて最初にノビルの根を炒めた後はモツ、葉っぱ、香辛料の順で投入し、適当に炒める。同時に大型のステンレス鍋に赤芋6個と水を入れ魔法で沸かす。炒め物はモツに火が通れば十分だ。塩で味を調えて完成!皿に取り分け、フォークと一緒
にサーブした。芋の皿に乗せて脇に塩を盛っておいた。塩味でいいだろ。
ロップはいつもどおりバケツに茶鱒だ。
「それでは、みなさん....」
「「「頂きま~す」」」
俺は箸でがっつく、こういうスタミナ飯はモリモリ頬張るのが美味いのだ。
ちょっと獣臭いがもう慣れた。ニンニク、胡椒、ショウガ、唐辛子の無敵カルテットの前には多少の獣臭では相手にならない。しかもそこにノビルの援軍まであるのだ!あとはネギ、玉ねぎでもあれば香味野菜系は十分だな。レバーもハツも身体からパワーが漲ってくる感じがする。だがリリにはレバーは大人の味かもな。
大丈夫かな?リリを見ると、お皿を持って、グー握りでフォークを持って美味そうに食べている。後で口の周りを拭いてあげよう。
「レイ兄ちゃん、美味しいだ!」
それは良かった。俺も赤芋を齧りながら残りを完食した。
大変美味しゅうございました。エーラはとっくに食べ終わっていた。
「レイ兄ちゃんは料理がうめーな。アタシもここに住もうかな」
恐れていた事を言い出した。まあ確かに良く働きはするんだけどな。
俺の心の平穏が得られない、直球で断ろう!
「駄目だ。ココエラさんも言っていただろう!それに、ここでは村に持ち帰るような食べられる獲物は獲れない。却下だ」
「ちぇー、レイ兄ちゃんのケチ!まあ明日は海だしな。楽しみだぜ」
大変な事を思い出した。俺がいずれこの島を出るという事をココエラさんに、
口止めしなければならない!
知ればこのポンコツは自分も行くと言い出すに決まっている。そしていつの間にか約束した事になっているのだ。
マズいぞ、もう誰かに話してないだろうな?ココエラさんの口が堅い事を祈る。
さて、ご馳走様の後は、俺が川の方へ行って食器を洗う。二人とも手伝うと言ってくれたが、暗いので夜目の効かない二人では危ない。
ロップと三人でトランプでもしている様に言っておいた。食器を洗い終え、俺は茶鱒の塩辛作りにチャレンジする。氷バケツの茶鱒8匹のワタを抜き、
ちょっとこだわって胃と腸をカッターナイフで開き、中を洗った。ざっと包丁で叩いてから塩をして生臭い水を切ってから瓶詰にした。これでいいのかな?
さて、明日の準備をしてから晩酌をしよう。基本的には前回と同じだがデカい漬物樽をもう一つ持って行く。二つ同時で気化できるか試そう、出来れば効率が二倍になる。それと水筒を二つ追加しよう。今まではリリには俺の水筒から与えて
いたが、エーラがいるから、それぞれに持たせた方がいいだろう。
それと例の物を探す。確かあったはずだ。物置の整理中は何に使うか分からなかったので、隅に放っておいたのだ。おおあったぞ10cm×10cm×25cm位の鉄?か何かのインゴットと言うか、鋼材の切り離しみたいなのが6本、
結構重い。最初は何かの部品かと思ったんだが結局分からなかったので放っておいたのだ。明日はこれをドルロフさんに見せてみよう。これ一本で20キロぐらいありそうだ。それとスケッチブックと筆記用具、定規類やコンパス、分度器等や糊、テープも追加した。銛の設計に必要かもしれないからな。
あ、麦わら帽子がある。海は暑いからリリに被せよう。
エーラはタオルでいいな、角あるし。それと短いバールをもう一本追加しておく。
エーラの足元はあのサンダルで大丈夫かな?一応スニーカーを貸そう。
「エーラ姉ちゃん、ちょっとこっちに来なさ~い」
「なんだよ、レイ兄ちゃん」
また涙目になっている。いちいち遊びに本気になるヤツだな。
「ちょっとサンダル脱いでみて」
「えー、これ一度脱ぐと、履くの面倒くせーんだぞ」
「いいから、海に行くためだぞ」
エーラはぶーぶー言いながらサンダルを脱いだ。恐らくコイツの足はデカい、
25cm位のサイズのスニーカーを履かせてみた。
「その辺を歩いて履き心地を試してみてくれ」
エーラがノシノシ歩いている間、エーラのサンダルの裏を確認する。
止まりは良さそうだが、やっぱ露出が多いから磯場は危険だな。
「レイ兄ちゃん、スゲー歩きやすいぞ。これをアタシにくれるのか?」
「貸すだけだ、貸すだけ。それから海に行ってから履くように。村にはちゃんとサンダルで行くんだぞ」
また駄々を捏ねようとしたので、言う事を聞かないなら海に連れて行かないと
宣言すると渋々スニーカーを脱いだ。いちいち面倒臭いヤツだ。
そして、問題がある。水着だ!リリにはスク水があるからいいが、
こんなデカい女用の水着は無い、と言うか水着自体が殆ど無い。
リリには悪いが、今回は海水浴は無しにしようかと思っていたら、
良い物が見つかった。男用のウェットスーツだ。これならエーラでも
着れるだろう。それとエーラの海用の服としてスパッツとTシャツを
何枚か入れとく。下着なんぞは男物のブリーフで十分だ。
潜水用のゴーグルも見つけたので、入れといてやろう。
それにしても何故こんなにレジャー用品が多いのだろう?
ふう、こんなもんかな?そろそろ晩酌をしようかな。
あー、まだ水汲みが残ってたよ。ひー!
水タンクに、滝壺で水を補充した。
俺、これが終わったら晩酌するんだ。
やっと梱包が済んだよ。遊んでる三人を見ながら晩酌を始める。肴はコノワタだ。
ティエラさんは結構大きな土器の甕に入った酒を二つもくれた。
結構、貴重な物だと思う。村の皆の期待に応えなければ!
昨夜、三人が寝た後、魔石を吸収し、俺は魔法の練習を続けた。
新しい生命魔法を閃いたからだ。
そして新たな魔法を三つも編み出した。凄くね?即ち、
・チカチカ:対象の目がチカチカして視界を遮る
・キーン :対象の耳に不快な高音が響き渡り耳が聞こえなくなる
・鼻詰まり:対象の鼻が効かなくなる
チカチカは全般に有効そうだし、他の二つはその感覚に特化した魔物には有効だと思う。
あれ?空が白み始めたぞ。また徹夜をしてしまった様だ。朝飯の支度をするか、魚だけでいいよな。七輪で炭火で焼いてみよう。火おこしをして七輪に火を入れた後、ロップを叩き起こして火の番をさせて、昨日熊のモツを撒いたカギムシ広場を見に行った。あくまで見るだけ。そして俺はすぐに引き返した。
何匹いるか分からない大カギムシの地獄曼荼羅が目に入ったからだ。倒せない事もないだろうが到底やる気が出ない。さて飯を食って早々に村に向かおう。
炭を火消ツボに入れて、七輪セットと共にに梱包する。干し網も中身ごと梱包した忘れ物はないよな。よし、村に行こう。現在6時半。
エーラはロップ用の背負い紐を作った様だ。流石にいつも袋詰めじゃロップも気の毒だしな。
「よし、皆さん、村に向かいますよ」
「うにゃー」
「分かっただ」
「いいぜ!いつでもいいぜ!」
結構エーラは働いてくれたし、悪さも全くしなかった。甘えん坊で、言動が変なだけで結構いいヤツなのかもしれないな。俺はエーラの評価を上方修正した。
そして、俺達は再び鬼人族の村に向かったのだった。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~
トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。
旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。
この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。
こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜
EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」
優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。
傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。
そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。
次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。
最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。
しかし、運命がそれを許さない。
一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか?
※他サイトにも掲載中

セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる