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会合の顛末

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そしてココエラさんの先導で衆議堂に向かった。まずはココエラさんが入場して、
口上を述べた。
「皆の衆、本日は忙しい中、急な呼びかけに応えてもらって有難く思う。
使いの者からあらましは聞いておると思うが、星母神様の使徒様がこの村にご来臨なされた。そして有難い事に、村に対して塩を提供して頂いたのじゃ。
今日の衆議は星母神様の使徒様から、村に対しての援助の提案があるとの事なので皆に集まってもらったのじゃ。皆の衆。順に名乗りを挙げてくれんか」

まず俺が挨拶するのが筋だと思うのだが、鬼人族の慣習なのかも知れない。
頭衆は順に自己紹介を始めた。俺は既に名前と役職は頭に入っているので、
後は風体をマッチングさせるだけだ。

・ゴレロフ村長:もう知ってるからいいや。赤髪長髪のゴリマッチョ。
年齢は30~40代に見える。

・ゲドルフ狩人頭:ゴレロフさんよりは小柄だが横幅は結構ある。
というかデブ?ハゲで髭を生やしている。年齢は40代か?

・ベルルフ漁師頭:結構小柄だ、といっても180cm位はあるだろう。
引き締まった身体の若者だ。30代前半位?

・デゼロフ鍛冶頭:でっぷりとして脂ぎった爺、臭そうだ。

・ギギロフ陶工頭:すらりとした痩身の初老の男。俺を見た時の眼光が鋭かった。

・ワイルフ木工頭:結構ガタイのいい初老の男、名乗った時はダミ声で、
何言ってるのか良く分からなかったが気さくな人らしい。

・キーロフ炭焼き頭:かなり高齢であろう、頑固そうな爺。

・ティエラ畑守頭:優しそうなおばさん。物腰が非常に柔和な人だ。
お母さんと呼びたい。

そして俺が挨拶をする。
「最長老ココエラさんと、ゴレロフ村長とは既に顔合わせはしておりますが、
星母神様の当代使徒、レイと申します。皆さん始めまして」
「この度は鬼人族の皆さんとの、お近づきの印として些少ではありますが、
塩を持参しました。友好の証としてお納めください」

ゴレロフ村長が土嚢袋の塩をお披露目すると反応はそれぞれだった。
・ゲドルフ狩人頭
「たったそれだけか?干し肉作りには全然足らんな」

・ベルルフ漁師頭
「もう少しあると保存食作りには助かるが、村中で塩が足りておらんのだ。
少しでも足しになれば助かるだろう」

・デゼロフ鍛冶頭  
「ワシらで山分けしたら村に配る分は無くなるのう」

・ギギロフ陶工頭
「村中に配るには足るまい。村全体として有効的な使い方を考えるべきであろう」

・ワイルフ木工頭
「なんにせよ、悪い事続きだった村に久々の朗報じゃ。喜ぶべきじゃろう。
がはは」

・キーロフ炭焼き頭
「(無言)」

・ティエラ畑守頭
「保存食を作るには到底足りないけど、村の皆も味のない食事には飽き飽きしてるのよね。ありがとうございます、使徒様」

はい、発言で敵味方を判定出来ました!敵は自分達の事しか考えていない人。
味方は村の事を考えている人で~す。一人だけ良く分からない人がいたけど。

「話には続きがあります。条件次第ですが現時点で、これと同量の塩、
そしてある程度の食料を提供する事が可能です」
おおっ場が少しどよめいた。ティエラ畑守頭が真っ先に質問した。
「使徒様、条件とはどのようなものでしょうか?」

「はい、条件は三つあります。一つ目は追加提供する物資については村人全員に平等分配するか、村全体として何かしらの目的に使用するかしてください。
二つ目は俺にも対価を頂きたい。この対価は同量ではなくて結構です。
農作物や炭を俺に必要な量だけ分けて頂ければ結構です。
三つ目は鍛冶職人衆には毒トカゲ退治の為に協力して頂きたい。この三つの条件を今後も継続して頂ければ、俺は海に自由に行けるので、定期的に塩と魚を提供しましょう。いかがですか?」

おおーっ、今度こそ大きなどよめきが巻き起こった。
そしてベルルフ漁師頭が質問してきた。
「使徒様、提供して頂ける食料とは如何様な物ですか?」
「今回はご挨拶位に考えていたものですから、海の魚の干物100枚程です。
出来れば家族単位で抽選で分配して欲しいですね」

ゲドルフ狩人頭が声をあげた。
「もし、使徒殿の条件を呑めなかったらその時はどうなるのだ?」
「その時は俺はこのままこの村を去り、二度と関わらないでしょう。
皆さんでご相談が必要でしょうから俺は衆議堂を一旦出ますね。
ご検討よろしくお願いします」

衆議堂を出ると、ちょっといざこざがあったがエーラを呼んで適当に対処した。
ふふふ。
そして、俺にはデビルイヤーがあるのだ!胡坐で瞑想している振りをして聞き耳を立てた。
『ワシは使徒様の提案に大賛成じゃ!大体最近は狩人衆の増長が酷すぎる!
食料は少しでも必要じゃろ?』
このダミ声はワイルフ木工頭だな。

『そうだな、俺も賛成だ。出来れば俺も海へ連れて行ってもらいたいものだ。
いや、必ず行こう!』
この若々しい声はベルルフ漁師頭だろう。オマエもか!

『ワタクシも大賛成ですわ。
最近は塩が足りなくて味気ない食事ばかりでしょう?使徒様はご自分で必要と
される量の作物しか要求されなかったですし、こんな良い条件ないでしょう?』
この柔和な声はティエラ畑守頭だな、お母さん!

『私も賛成だ。使徒様は毒トカゲ退治についても条件に入れていた。
鍛冶衆は協力する事は可能なのか?』
この錆びた感じのシブい声はギギロフ陶工頭だろう。

『ふむ、だが今は南の大河に行くのが困難であろう?砂鉄が全然足らぬ。
狩人衆の装備の保全で手一杯じゃよ』
これはあの臭そうな爺、デゼロフ鍛冶頭だろう。成程、砂鉄も足りないのか。
俺が南の大河に飛んで行って砂鉄が採れたらいいんだが一人では厳しいか。

ここでゲドルフ狩人頭が発言した。
『皆の衆どうだろう、あの使徒を名乗る魔物を捕らえて我らの奴隷にしては?
ヤツは飛べる様だしな、昼間にヤツが現れた様子を見た部下から報告を受けていて、既に手配済みなのだよ。翼があるから手足の健を切れば我らの騎獣として
使役できるだろう?ヤツは外に出ていったが、今頃我が手の者がヤツを捕らえているだろうよ』

そしてデゼロフ鍛冶頭も頷いた。
『ふ~む。それは妙案かもしれませんな。南の山や海に自由に行ける手段を得られるなら素晴らしい事ですな』

ハイ!アウト~!ゲドルフ狩人頭とデゼロフ鍛冶頭は、退場が決定致しました!
我が手の者って、ぷぷっ。とっくに拘束済なんですけど~。

少し前に俺が衆議堂を出ると性懲りも無く矢が飛んできた。
全部キャッチして置いておく。大事だろ矢は?その後、山刀マシエトを抜いた鬼人族の狩人が襲ってきた。
あれ?俺ケンカもした事が無いヘタレのはずなんだけどな、妙に冷静だ。
敵の動きがゆっくりに見える。5人位いたが全員アゴへの掌底アッパーで気絶させた。周りを探ると狩人装束の不審者が16名もいたので、全て掌底アッパーの刑を執行した。無実だったら謝ろう。速攻でエーラを呼んできて拘束させた後。
デビルイヤー状態になったのさ。ふふふ。

『ゲドルフ、何を言っておるのじゃ、使徒様に何という不敬な!
お主は放逐じゃ、この村から出ていって野垂れ死ぬが良い!』
ココエラさんが激高している。

『はっはっは、ココ婆様、何を言っているのですかな?今夜は俺がこの村の支配者になる日だ。アンタ達は今日で退場なんだよ!殺っちまえ、オマエラ!』
『ゲドルフ!貴様~!』
ゴレロフさんも激高しているようだ。

『はん!ゴレロフ、オマエは確かに強いが、俺が何人部下達を配置したと思う?
何と21人だぜ!よし、デゼロフ以外皆殺しだ!殺っちまえ、オマエラ!』

だが誰も来ない。虚しいね。
『殺っちまえ~、オマエラ?』

あれれ、寂しくなったのかな?廻りをキョロキョロしてるよ。
『殺っちまえよ、オマエラ?あれ、オマエラ?どうした?』

ババーン!そこで俺とエーラが登場する。
「話は全て聞かせてもらった!」
一度このセリフを言ってみたかったのだ!く~っ、気持ちいい~!

「はい反乱分子は全て拘束しました。そこのゲドルフさんとデゼロフさんの
始末は皆さんで決定して下さいね。個人的にはゴレロフさんとゲドルフさんの
ガチンコ殴りあいが見たいですね~。そうだ村の広場でやってはどうですか?」

ゴレロフ村長が雄叫びを挙げた。
「おおし、使徒様ありがてえ!俺は昔からコイツには拳で語りてえ事が一杯あったんだ!おい村に触れを出せ。これから俺とゲドルフの殴り合いだってな!
ガハハ!」

ゲドルフが震えている。
「おい、ゴレロフ止めろよ!俺が本気を出したらオマエは無事にはすまねえぞ」

デゼロフ鍛冶頭がそっと立ち去ろうとしていたので拘束しておいた。

そして一時間後には大勢の村人が広場に集まって来た。300人以上いるだろう。
ほぼ全ての村人が集まっているらしい。ココエラさんと相談して、干物と黒熊、
黒狼の肉はここで放出することにした。広場に急遽、竈を幾つか作って貰い、
女衆が干物を炙ったり、大鍋で熊汁を煮込んでいる。黒狼は焼いて食べるようだ。
この量なら全員に行きわたるだろう。場は盛り上がっていたが、ゴレロフさんとゲドルフさんのケンカはあっけなかった。ゴレロフさんの左ボディーブローからの右アッパーであっけなく終わった。狩人衆は何故あんなヘタレを担いでいたのだろう?

その後は俺の歓迎会となった。会合がゴタゴタで中断し、まだ決を取っていなかったと思うのだが、狩人頭と鍛冶頭以外は、俺の提案に賛成したので、多数決で仮決定という事らしい。その後、新たな狩人頭と鍛冶頭を交えて詳細を詰めて行くようだ。取り合えずは壇上でゴレロフさんが挨拶をした。
「皆の衆。今夜は急な招集で済まない。こちらにいるのが星母神様の使徒様だ。
今回、村の窮状を憐れみ援助の提案をして下さった!だがその使徒様に対して、
元狩人頭のゲドロフと元鍛冶頭のデゼロフは、邪まな考えから使徒様を捕らえ、
己が意のままに従えようと企んだ!あまつさえ、会合に同席した頭目衆の暗殺も行おうとしたが、使徒様によって暗殺者は全て捕らえられた。ヤツラの罪は、
今後衆議する事になるだろうが。使徒様の提案で、オレがゲドロフの野郎を
ぶん殴る事になった。案の定、腑抜けであったがな!ガハハ」

「そして、これから使徒様の歓迎会を行う!使徒様から海の魚と黒狼、狩人衆のエイエラから黒熊を丸々一頭の提供があった。皆使徒様とエイエラに感謝して
たらふく食べろ!それと重要な事を宣言する。これからは角の本数に関わらず全ての村人を平等に扱うように。現時点では様子見で罰則は特に設けないが、これは村長である俺の直々の布告である事を肝に銘じて欲しい。では使徒様、ご挨拶を」

え?ここで俺?でもやっぱゴレロフ村長、良い漢じゃないか。
すごく良い顔をしている。ゲドルフをぶん殴れてスッキリしたのかもしれない。
「えー、鬼人族の皆さん。こんばんわ。レイと申します。今夜は皆さん楽しんでください」

ロップが何か言いたげな目で見ている。うるさいな、俺はスピーチとか苦手なんだよ!

その後は広場で酒宴となった。謎のケモノのロップは大人気だった、マラカスで変なモンキーダンスをしているだけなんだがな。これでまた天狗になるだろう。
エーラは狩人仲間と話している。元凶のゲドルフは失脚したが、今後狩人衆がどうなるかは俺には分からない。
ゴレロフさんの宣言もあったし、一本角はそれ程差別は受けていない様だ。
取り合えずエーラはこの村でなんとかやっていけそうな気はするな。
俺は広場の隅でリリと黒芋を食べていた。見た目は細長いアボカドにそっくりだ。
茹でただけなのだろうが皮は簡単にずるりと剥けて、黄色い芋本体が現れる。
芋はねっとりとした歯触りで甘い。だがオヤツやデザートとしてはいいが、
食事としてはちょっと甘すぎるな。
俺が黒芋の料理方を考えていると。たまにリリに向かって石が飛んで来る。
もちろん全部掴んで投げ返した二指真空把
クソガキがビービー泣いて逃げていったが知らん。ゴレロフさんがイジメはダメって宣言しただろ。

エーラが大皿を持って数人の狩人と共にやって来た。
「オイ、レイ兄ちゃん、こんな隅っこで何してるんだよ!アタシが獲った黒熊の
肝を持って来てやったぜ。これは日持ちがしないから狩った狩人の特権だ!
特別にレイ兄ちゃんとリリにもお裾分けしてやるよ」

だから狩ったのは、まあいいや。釈然としないがご馳走になろう。
狩人には最初に槍を付けた人に権利があるとかのルールがあるのかも知れない。
レバーは炒めてあるようだ、胡椒の美味そうな匂いがする。すると狩人の一人が前に進み出た。

「使徒様、初めまして。私は狩人衆のアーロフと申します。この度はゲドルフの陰謀を阻止して頂き、ありがとうございます」
身長は190cm位。眼と髪はくすんだ茶色ですらりとした姿態のイケメンだ。
クソ、俺はこんな化物なのに!だが非常にきれいな言葉をしゃべるね。
何故、エーラやリリはこういう風にしゃべれないのだろう?

「いえいえ、偶々成り行きですよ。気にしないでください。でもこれで狩人衆も村に協力的になりますね」

アーロフは難しい顔をして考え込んでいる。
「元々の発端はベルザロフと言う狩人衆なんです。この男は優れた狩人で、
狩人衆にはとても人気があります。本当は狩人頭にはベルザロフが推されたのですが、ベルザロフは雑事に煩わらされるのを嫌がり、ゲドルフが名乗りを上げたんです。とにかく狩猟至上主義な男で狩りの事しか考えていません。
今回南に魔物が現れ、南の狩場が使えなくなった事に相当イライラしていた様で、ゴレロフ村長に直訴したんです」

ふーん?戦闘狂みたいなもんか。理屈とか通じなさそうだな。
しかもポンコツ臭がするぞ、関わりたくない。
「直訴とはどういう内容です?」

「魔物のせいで、狩場が使えなくなるなら村を移動させれば良い。むしろ全員が狩人になって村を捨てれば良い、狩人以外は不必要だと主張し始めたんです」

うわー、多分ポンコツだ。農耕社会から狩猟採集生活に退行しようとしてるよね。
「でも、鍛冶場や木工等の生産施設が無いと狩人衆も困るでしょうに?」

「ベルザロフが言うには、全員で力を合わせて持っていけば問題ない。窯場や炭焼き等は必要ないって言う主張です。当然ゴレロフ村長に一蹴されましたが、
一部のベルザロフ信者はこれに共感して、自分達の意見を通す為に肉を出し渋る事で村に圧迫を加え始めたのです。ゲドルフの一党はこれに便乗して私腹を
肥やしていたに過ぎません」

「私腹を肥やすって言ってもこの村でどうするんです?肉を抱え込んでいてもしょうがないでしょう?」

「主に酒の配当です。酒の製造は畑守衆が行っていますが、一部で独占されないように会合で配当を決めているんですよ。ゲドルフは肉の供給を出し渋る事で
酒を多めに貰っていたのです」

あらら、ショボいよ。ゲドルフさん。
「ベルザロフもそうなんですか?」

「いえ、ベルザロフ一党は肉を長期遠征で消費するようになったのです。つまり村に殆ど帰って来なくなりました。今も遠征中です。もしかしたらもう帰らない
かも知れません。

半ば村から離反した状態って事か、装備のメンテとかどうしてるんだろうね?
「ベルザロフ一党は何人位なんですか?今の遠征はどの位前から行ってるんですか?」

「ベルザロフ含めて24人です。遠征に出かけたのは20日程前でしょうか?
今日ゲドルフ一党も拘束されたので、村にいる狩人の数が深刻です。
20数人しか残っていないでしょう」

俺も関与したからな~。機会があったら獣肉を提供しよう。
「レイ兄ちゃんもアーロフも難しい話は止めて早く食べようぜ!」

エーラがイライラし始めたので、早速熊さんレバーの炒め物を頂く事にしよう。
後ろにいる狩人衆も呼んで皆で頂く事にする。名前は敢えて聞かない。
熊肉が何かの乾燥野菜とソテーされている。
味見をしてみよう。きちっと血を抜いたからか、それ程獣臭さは感じない。
昨日は血を抜いただけだったから、ちょっと心配だったのだ。やっぱ胡椒は万能調味料だな、これ無しだとやっぱり多少は臭かったかもしれない。
リリも狩人達もガツガツ食べている。
この乾燥野菜はなんだろう?味はからし菜のような感じでちょっと苦味がある。
「アーロフさん?この乾燥野菜は何ですか?」
アーロフがもしゃもしゃしながら答えた。
「もぎゅもぎゅ、それはベサル菜という植物で、南の大河の岸に沢山生えています。枯れると採れる実も辛い調味料になりますね」

恐らくからし菜だろう、マスタードが取れるぞ。早くバシリスクを倒そう!

キーロフ炭焼き頭以外の頭衆が酒壺を持ってやって来た。

まずギギロフさんが穏やかな顔でリリを見た。
「リリ、元気そうじゃな。あの時は済まなかったな。ワシも二日間、飯を抜いておってな、病弱な妻の為にお前に分けるゆとりがなかったのじゃよ」
「ううん、オラ、レイ兄ちゃんに拾ってもらって美味しい物一杯もらっただよ。気にしないでくんろ」
ギギロフさんはリリを優し気に撫でている。バシリスクを倒したらこの人にリリ
を任せられないかな?

ベルルフさんが酒壺を掲げて俺を誘った。
「使徒様、ちょっと良いですかな?一献どうです?」
「酒ですか?喜んで頂きましょう!」

俺はお礼に収納袋から肴になりそうな物を取り出した。煮干しとコノワタ位しかないが。コノワタはまず味見をしてみる。うん美味いよ。初めて造ったから不安だったんだよね。ただ鬼人族に受け入れられるかは分からない。取り合えず、
プラの小皿にコノワタと煮干しを乗せて皆に勧めた。
「俺が作った酒の肴です。よかったら試してみて下さい」

ベルルフさんは流石漁師。躊躇なく煮干しもコノワタも口に入れた。
「うむ、これが海の魚の味ですか。先程食べた干物もそうですが、やはり川の魚とは風味が違いますな。このドロリとした物も海の生き物ですかな?我等も茶鱒
の内臓を塩辛にしますが似ています。う~ん!これは酒に会いますな。使徒様もどうぞ一献」
土器のぐい飲みに注いでくれたのでありがたく頂いた。
匂いも味もどぶろくの様な感じだ。度数はそんなに高くないなビール位だろう。
「なかなか美味い酒ですね。何から作られてるのですか?」

ティエラさんが答えてくれた。
「マーケルの実と言って、地面に直接実を着ける大きな植物から作ります。
村に畑もありますよ」

へえ、竜舌蘭みたいなもんかな?テキーラの原料だ。機会があったら畑を見せてもらおう。
なかなかコノワタを口に入れなかった、ワイルフさんも恐る恐る口にすると、
「おお!成程、茶鱒の塩辛をこってりさせたような味わいじゃわい、
ワシは気にいりましたぞ!使徒様」
どうやら気にいって貰えたようだ。しかし茶鱒の塩辛か興味深いぞ。
後で作り方を教えてもらおう。

ティエラさんは平気でコノワタも煮干しも口にし、酒をぐいぐい飲んでいる。
かなりの酒豪らしい。

ギギロフさんはプラの小皿をじっと見ている。やっぱそっちに興味が行くんだね。
「使徒様、この皿はどの様に作られているのですかな?軽くてこんなに滑らかな皿は初めて見ました」

「リリにも同じ事を聞かれましたが、星母神様の恩恵と答えておきます。
今はまだこの世界にはない技術で作られています」

「ほう、ではいずれ作る事も可能になるのですかな?」
「そうですねえ?相当遠い先の未来ならもしかしたら作れるかも知れませんね」

その後歓談を続けていると、ゴレロフさんとココエラさんが熊汁を持ってがやって来て。どんちゃん騒ぎになった。
ゴレロフさんがしつこくゲドルフとのケンカの話を繰り返すので、ココエラさん
がイライラしてボディブローを入れると以後は大人しくなった。
一番強いのはこの婆さんなのかもしれない。

こうして会合、転じて歓迎会の夜は更けて行くのだった。
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