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鬼人族の村
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ハイテンションポンコツが、俺の角を握って押したり、引いたり、擦ったり、
酷い扱いだ!
「おい!エーラ姉ちゃん、俺の角は軽く掴む位にしろ!放り落とすぞ!」
「うん、分かったよ。レイ兄ちゃん」
俺が怒鳴ると、急に塩垂れるこの落差に俺はまだ慣れない。村に行けば事情は分かるのかもな。でも俺が踏み込んでいいかどうかは分からない。
リリの件もエーラの件も取り合えず置いておこう。ココエラさんと話してみるしかない。
頑張って俺は高度を200メートル位にまで上がった。
「ヒャッハー!」
「うんわー。高すぎてオラ怖いだよ」
「モガモガ」
三者三様の反応だったが、エーラに聞いてみた。
「エーラ姉ちゃん、村の方向は分かるか?」
「あー、あっちだ!あそこにちょっと開けた所が見えるだろ?あれは池なんだよ。あそこまで行けば村はすぐそこだぜ!」
ロップが袋詰めにされているので、方位磁石で確認すると、ほぼ南だな2時間位
で着くかもな。今回は最高速度に挑戦してみるか!高度を50メートル以下に落とした。
「よし、行くぜ!俺行くぜ!」
「ヒャッハー!それでこそアタシのレイ兄ちゃんだぜ!」
だから俺の角をぐりぐりするのはやめろ!
俺は段々加速しつつ、エーラが指示した池に向かって直進した!
俺は風になるんだ!
「ヒャッハー!バリバリだぜ!レイ兄ちゃん」
「....」
「キュー」
三者三様の反応だったが、ロップ袋を振り回すのは止めろと言っておいた。
ごめんなロップ。
なんと1時間程で池の畔に着いた。エーラは興奮しているが、リリは放心状態、
ロップは目がバッテンでひっくり返っている。
まだ午前9時前だ。
「エーラ姉ちゃん、俺達がいきなり乗り込むより、エーラ姉ちゃんが先ぶれとして行った方がいいだろう。村までどの位の距離なんだ?」
「そうだな?アタシの足で半日もあれば着くだろうな。レイ兄ちゃん達はちょっと待っていてくれ!今から一っ走り行ってくるぜ!」
「ちょ、ちょっと待てや!ならこのまま村のすぐ近くまで飛んで行った方が速いだろ?」
「それもそうだな!狩人衆の間ではここが目印だったんだ。
また飛んで行こうぜ!ヒャッハー!」
またエーラはロップ袋を担いで俺の首に跨った、俺は愛車なのか?
ぐったりしたリリを抱えて、今度はゆっくり飛んで行った。
だから俺の角をぐりぐりするのは止めろ!アクセルじゃねーんだよ!
1時間程飛ぶともう村は目と鼻の先だ。ちょっと大きな木の下に俺は降りた。
「じゃあ、エーラ姉ちゃん、俺達はここで待ってるから先ぶれ頼むよ」
「おう!任しとけ、レイ兄ちゃん!ちょっくら行って来るぜ!」
エーラはスゴイ速さで駆けていった。鬼人族の身体能力は凄いみたいだな。
ぐったりしているリリと、ひっくり返っているロップを介抱していると、
1時間位経っただろうか?エーラが走って戻って来た。速いなコイツ!
「レイ兄ちゃん!ココ婆様が是非会いたいって!今から飛んで行くぜ!」
コイツは村の皆の中に愛車オレで飛んで行って、着陸して目立とうと思っているのだろう。まあ時間が勿体ない。今回はリリとロップを片手ずつで抱えて飛んで行こう。
ゆっくり飛んで行ったが、5分程で村の広場の上空に辿り着いた。
ゆっくり広場に着地する。エーラ達を下ろして廻りを確認しようとしたが、
一人の白髪の老婆が真っ先に前に進み出た。杖を持っているが、腰も曲がっておらず、非常に矍鑠かくしゃくとしている。側には2メートル位ある赤髪で強面の大鬼が腕を組んでこちらを睨んでいる。
「おお!ワシの生がある内に星母神様の使徒様にお会い出来るとは!ワシはこの村の長老ココエラと申しますじゃ。隣にいるのはワシの息子で村長のゴレロフ
じゃ。使徒様、厚かましいとは思いますが、この村の窮状を救って頂けませぬか?」
「初めまして、ココエラさん、ゴレロフさん、俺の名前はレイと言います。
この黒猫はロップ。同じく星母神様の使いです。この村の状況はリリとエーラ
から大体は聞いています。どこか詳しくお話出来る場所は無いですか?
それとエーラが狩った黒熊を丸ごと持って来ております。解体出来る狩人衆は
いますか?」
おおーっと歓声が挙がった。5人程非番の狩人が居たみたいだ。一旦小川沿いの解体場に熊さんと狼さんの死骸を放りだして、後は狩人衆に任せた。
村の広場に戻ると、ココエラさんがニコニコして待っていた。
「夜に衆議堂で使徒様を村の代表者達に紹介しましょう。
それまでは拙宅で休んで下され。こりゃ、ゴレロフ!早く触れを出さんかい
星母神様の使徒様のご来臨じゃぞ」
ココエラさんは、杖?でゴレロフさんをボカボカ殴っている。
「わ、分かったよ、母ちゃん、オイ!早く触れを回せ!」
ゴレロフさんは凄く厳つい大男なんだが、涙目で側近に指示をしている。
なんか聞いてたイメージと違うぞ。
俺はココエラさんに聞いてみた。
「今回、俺が話したい件は俺からの援助の件です。取り合えず、ココエラさん、
ゴレロフさん、エーラ、リリ、そして俺で事前にお話出来ませんか?」
「分かりました。では今すぐに拙宅に来て下さいませ。こりゃ、ゴレロフ!
早く家に戻って準備をせい!」
ココエラさんは、棍棒?でゴレロフさんをガンガン殴っている。
「わ、分かったよ、母ちゃん、オイ!早く客人をもてなす準備をしろ!」
ゴレロフさんは凄く厳つい大男なんだが、涙目で側近に指示をしている。
なんか最初見た時と人相が違うぞ。
30分程して、村長宅の衆議堂に案内してもらった。行く途中で村の建物を確認
すると高床式住居の様だ、屋根は茅葺かやぶきになっている。
衆議堂は大きな高床式住居で大体20畳位。中に椅子等の家具は無い。
皆、胡坐あぐらで話合うのだろう。
今回のメンバーは、
・ゴレロフ村長(ジャイ〇ン?)
・ココエラ長老(ジャイ〇ン?の母ちゃん)
・リリ (癒し系、素直幼女)
・エーラ (ヒャッハー!なポンコツ女)
・俺 (ヘタレ使徒)
・ロップ (雑音係ポンコツ猫)
胡坐あぐらで着席すると、侍女が粗末な土器の椀に入った茶の様な物を給仕した。色は茶色で飲んでみるとほんのり甘くてなかなか美味い。
前世だとアマチャズル茶に近いのかな。後で詳しく聞いてみよう。
取り合えず俺から切り出した。
「リリとエーラから聞きました。この村は魔物の出現で困窮しているそうですね。
差し当たって、俺からの鬼人族への友好の証として塩を提供しようと思うのですがいかがでしょう?」
俺は予めエーラに持たせておいた土嚢袋の塩を見せた。
ココエラさんは手に取って確認した。
「これは、ひょっとして海の塩ですかな?」
「その通りです。俺は海に自由に行けるので塩を作れます。今回その袋の分は
差し上げます。ただ次回以降の提供は質問への回答如何によると思って下さい。
よろしいですか?」
ココエラさんは頭を下げて
「分かりました、使徒様。ワシらを糾弾してくだされ。ワシにはここにリリエラ
とエイエラがいる時点でなんとなく分かっているのですじゃ」
エイエラ?エーラの本名はエイエラなのか。まあ確かにエーラの方が呼びやすいよな。
「では聞きますが、何故、鬼人族は角の本数で差別されるのですか?角無しや
一本角のヤツは存在価値が無いんですか?そんならこれから俺が大暴れして、
一人残らず角を叩き折ってやんよ!」
ちょっと興奮してしまった!大人気ないな。ただこの村に来てから、
ざっと廻りを観ると大体二本角ばかりで角無しも一本角も一人も見かけなかったんだよ。俺はリリとエーラへの差別の元凶をはっきり意識したよ。
「使徒様の仰るとおり、角を全員叩き折った方が良いのかもしれませんな。で
も角は鬼人族にとって伝統的に誇りでもあるんですじゃ。でもワシはリリエラも
エイエラも平等に扱うように何度も言ったよな!小僧!」
急にココエラさんが鬼婆の表情になって、側にあった大金棒に手を伸ばした。
ゴレロフさんが非常に怯えている。効果はバツグンだ!
「ひいっ!母ちゃんそれだけは止めてくれよ!俺死ぬだろ!俺も何度も布告は出したけど、これは鬼人の伝統と慣習であって難しいんだよ!」
俺が割り込ませてもらった。
「そうですか?リリがココエラさんに会いに行こうと思ってもゴレロフさんに
追っ払われて、ココエラさんに会わせて貰えなかったって聞いてますよ」
「ゴ~レ~ロ~フ~!」
「母ちゃん、勘弁してくれよ!もうしねーから!」
ゴレロフさんは両手で頭を防御している。ココエラさんは金棒で打擲してるけど。素手で防御できるのかね?凄いね鬼人族!
だが、そろそろ仲裁しよう。
「分かりました。角が鬼人族の誇りであるなら、俺が出しゃばるのも変ですよね。
ただ迫害や差別は止めて欲しいと申し上げたいだけです。
俺がリリと出会った時は、魔物だらけの北の森を越えた河原で汚い服で独りで
虫を食べていました。俺がエーラと出会った時は同じ河原で黒熊と独りで戦って
いました。アンタ達がヌクヌクこの村で美味い物を食っている間、
コイツらは死と直面しながら必死で生き抜こうと戦っていたんですよ。
リリは村から弾き出されて独りで生きていく決意をした。
エーラは食料不足の村に少しでも食料を持ち帰ろうと、危険な北の森で独りで狩りをしていた。アンタ達は今の窮状に対して何か対策したんですか?」
ココエラさんも、ゴレロフさんも無言で俯いている。リリは静かに泣いている。エーラは涙を流しながら誇らしげな笑みを浮かべている。
「情けないですじゃ、残念ながら対策はなんも出来てないんですじゃ。毒トカゲに立ち向かっても狩人衆が命を失うだけ。使徒様なんとか助けていただけないじゃろうか?」
「なんで、誰かに助けて貰おうと思うんですか!自分達で何とかしようとは思わないんですか?バシリスクは現状俺でも危険な魔物です、しばらくは無理と思ってください。ただ物資の提供なら協力できると思います。今回も塩に加えて提供できる食材があると思います。ただし条件があります。村人全てに平等に提供する事が条件です、抽選でも構いません。ただ特権を持った人達だけが占有するようなら俺はこの村に二度と関わらないと思って下さい。別に俺はこの村に関わらずとも問題無いのですから」
「分かりましたじゃ、もう触れを回しておるので、夜には代表者が集まりますだ。
今の話を夜にもう一度して頂けませぬか?」
「了解しました。では夜までは村を見学させていただいてもよろしいですか?」
「構いませぬよ、でも食事を用意させようと思っていたのじゃが」
「結構です。自前で持って来ていますので。案内はエーラとリリに頼みます」
するとココエラさんが進み出た。
「いや、ワシも一緒に行きますじゃ。まだ、村人全てが使徒様を知ってる訳ではないですからのう、驚く者達もいるじゃろう。ワシが一緒にいれば大丈夫ですじゃ」
ココエラさんが大金棒を握りしめてゴレロフさんを睨みつけた。
「こりゃ!ゴレロフ!ワシはこれから使徒様を村に案内する。今夜の会合の準備をちゃんとしておくんじゃぞ!」
「ひいっ!分かったよ母ちゃん、ちゃんとするよ!」
ゴレロフさんは慌てて何処かへ走りさった。
「恥ずかしいところをお見せしましたな。では村をご案内しますじゃ。
まず何処にいきますかな?」
「取り合えずは近場を歩きながら鬼人族の生活を観察させてください」
頷きながら、鬼婆は金棒から杖に持ち替えた。
「分かりましたぞ。さあエイエラ、リリエラ、使徒様を案内するぞ」
「任せておけよ、ココ婆様」
「うん分かっただ、ココ婆ちゃん」
懐かれていますな、ココエラさんは。
衆議堂を出てしばらく村を散策した。普通の村人の服装を確認してみると、
亜麻色の麻のような素材で腿位までの長さのチュニック筒型衣を着ている人が多い。腰の辺りで帯状の布で縛っている。リリが着ていたのはズタ袋に頭と両腕の穴を開けた様な代物だったが、きちんと服として作られているようだ。下半身は作務衣みたいなズボンを穿はいている。
男と女でデザインの差は無いようだ。足は草で編んだ草履のような物を履いているな。ココエラさんもゴレロフさんも質は良さそうだが、同じような服装だ。
たまに毛皮を着た人も見かける。上半身はチュニック筒型衣の上に黒い毛皮のベストの様な物を着て、下半身はなめし皮のハーフパンツのような物を穿はいている。足のサンダルは膝ぐらいまで皮で縛ったローマのサンダルみたいなヤツだ。エーラも同じような恰好だな。狩人の標準装備なのかも知れない。
歩いていると村人達が不審気にこちらを見てくる。ココエラさんがニコニコ挨拶しているので問題は起きていないが、ココエラさんが居なかったら諍いが起きていたかもしれない。やっぱり、体操着とブルマーのリリの姿は倫理的に問題だったのかもしれないな。
「なあ、エーラ姉ちゃん。やっぱリリは着替えさせた方がいいかな?なんかジロジロ見られているよな?」
「ハア?何言ってんだレイ兄ちゃん、皆がジロジロ見てるのはレイ兄ちゃんと
ロップだぜ!」
そうだ、忘れていたが俺は肌が赤くて、翼があって、眼が白目の化物なんだった!
ロップは直立して歩いてしゃべる謎のケモノなのだった!
ロップには昨夜リコーダーの破門(笛禁止)を言い渡したので、今はココエラさんと手をつないでタンバリンをシャリシャリしながら歩いている。ココエラさんに気に入られたらしい。
まあ俺の外見はすぐにどうにか出来るものじゃない。堂々としていよう!
しばらく歩くと、開けた畑区画に着いた。俺はココエラさんに聞いてみた。
「畑ではどんな作物を育てているんですか?」
「主食となるのは赤芋と黒芋ですじゃ。他にはピリピリの実やガンガスの根、
ロパスの実等も育てていますな」
「ちょっと見せて頂く事はできますか?」
「ロパスの実はまだ実ってないので無理ですな。他の物は倉庫にあるじゃろう」
案内された倉庫の中でそれぞれの作物を見せてもらった。
・赤芋:サツマイモを丸くした様な見た目、だが試食させてもらったら中身はジャガイモに酷似する味だった!これは是非欲しい!
・黒芋:外見は長いアボカドの様な感じ、試食させてもらったら中身は金時芋をねっとり濃厚にしたようなサツマイモだった!これは是非欲しい!
・ピリピリの実:はい、これは分かります、唐辛子ですね。勿論欲しいですよ。
・ガンガスの根:何か赤くて歪な形の根。試食させてもらったら、これは....。
ショウガだー!こんなに嬉しい事はないぞ!
今夜の会合でこれらの作物と、残りの塩や干物との交換を申し出てみよう。
ふふふ。
酷い扱いだ!
「おい!エーラ姉ちゃん、俺の角は軽く掴む位にしろ!放り落とすぞ!」
「うん、分かったよ。レイ兄ちゃん」
俺が怒鳴ると、急に塩垂れるこの落差に俺はまだ慣れない。村に行けば事情は分かるのかもな。でも俺が踏み込んでいいかどうかは分からない。
リリの件もエーラの件も取り合えず置いておこう。ココエラさんと話してみるしかない。
頑張って俺は高度を200メートル位にまで上がった。
「ヒャッハー!」
「うんわー。高すぎてオラ怖いだよ」
「モガモガ」
三者三様の反応だったが、エーラに聞いてみた。
「エーラ姉ちゃん、村の方向は分かるか?」
「あー、あっちだ!あそこにちょっと開けた所が見えるだろ?あれは池なんだよ。あそこまで行けば村はすぐそこだぜ!」
ロップが袋詰めにされているので、方位磁石で確認すると、ほぼ南だな2時間位
で着くかもな。今回は最高速度に挑戦してみるか!高度を50メートル以下に落とした。
「よし、行くぜ!俺行くぜ!」
「ヒャッハー!それでこそアタシのレイ兄ちゃんだぜ!」
だから俺の角をぐりぐりするのはやめろ!
俺は段々加速しつつ、エーラが指示した池に向かって直進した!
俺は風になるんだ!
「ヒャッハー!バリバリだぜ!レイ兄ちゃん」
「....」
「キュー」
三者三様の反応だったが、ロップ袋を振り回すのは止めろと言っておいた。
ごめんなロップ。
なんと1時間程で池の畔に着いた。エーラは興奮しているが、リリは放心状態、
ロップは目がバッテンでひっくり返っている。
まだ午前9時前だ。
「エーラ姉ちゃん、俺達がいきなり乗り込むより、エーラ姉ちゃんが先ぶれとして行った方がいいだろう。村までどの位の距離なんだ?」
「そうだな?アタシの足で半日もあれば着くだろうな。レイ兄ちゃん達はちょっと待っていてくれ!今から一っ走り行ってくるぜ!」
「ちょ、ちょっと待てや!ならこのまま村のすぐ近くまで飛んで行った方が速いだろ?」
「それもそうだな!狩人衆の間ではここが目印だったんだ。
また飛んで行こうぜ!ヒャッハー!」
またエーラはロップ袋を担いで俺の首に跨った、俺は愛車なのか?
ぐったりしたリリを抱えて、今度はゆっくり飛んで行った。
だから俺の角をぐりぐりするのは止めろ!アクセルじゃねーんだよ!
1時間程飛ぶともう村は目と鼻の先だ。ちょっと大きな木の下に俺は降りた。
「じゃあ、エーラ姉ちゃん、俺達はここで待ってるから先ぶれ頼むよ」
「おう!任しとけ、レイ兄ちゃん!ちょっくら行って来るぜ!」
エーラはスゴイ速さで駆けていった。鬼人族の身体能力は凄いみたいだな。
ぐったりしているリリと、ひっくり返っているロップを介抱していると、
1時間位経っただろうか?エーラが走って戻って来た。速いなコイツ!
「レイ兄ちゃん!ココ婆様が是非会いたいって!今から飛んで行くぜ!」
コイツは村の皆の中に愛車オレで飛んで行って、着陸して目立とうと思っているのだろう。まあ時間が勿体ない。今回はリリとロップを片手ずつで抱えて飛んで行こう。
ゆっくり飛んで行ったが、5分程で村の広場の上空に辿り着いた。
ゆっくり広場に着地する。エーラ達を下ろして廻りを確認しようとしたが、
一人の白髪の老婆が真っ先に前に進み出た。杖を持っているが、腰も曲がっておらず、非常に矍鑠かくしゃくとしている。側には2メートル位ある赤髪で強面の大鬼が腕を組んでこちらを睨んでいる。
「おお!ワシの生がある内に星母神様の使徒様にお会い出来るとは!ワシはこの村の長老ココエラと申しますじゃ。隣にいるのはワシの息子で村長のゴレロフ
じゃ。使徒様、厚かましいとは思いますが、この村の窮状を救って頂けませぬか?」
「初めまして、ココエラさん、ゴレロフさん、俺の名前はレイと言います。
この黒猫はロップ。同じく星母神様の使いです。この村の状況はリリとエーラ
から大体は聞いています。どこか詳しくお話出来る場所は無いですか?
それとエーラが狩った黒熊を丸ごと持って来ております。解体出来る狩人衆は
いますか?」
おおーっと歓声が挙がった。5人程非番の狩人が居たみたいだ。一旦小川沿いの解体場に熊さんと狼さんの死骸を放りだして、後は狩人衆に任せた。
村の広場に戻ると、ココエラさんがニコニコして待っていた。
「夜に衆議堂で使徒様を村の代表者達に紹介しましょう。
それまでは拙宅で休んで下され。こりゃ、ゴレロフ!早く触れを出さんかい
星母神様の使徒様のご来臨じゃぞ」
ココエラさんは、杖?でゴレロフさんをボカボカ殴っている。
「わ、分かったよ、母ちゃん、オイ!早く触れを回せ!」
ゴレロフさんは凄く厳つい大男なんだが、涙目で側近に指示をしている。
なんか聞いてたイメージと違うぞ。
俺はココエラさんに聞いてみた。
「今回、俺が話したい件は俺からの援助の件です。取り合えず、ココエラさん、
ゴレロフさん、エーラ、リリ、そして俺で事前にお話出来ませんか?」
「分かりました。では今すぐに拙宅に来て下さいませ。こりゃ、ゴレロフ!
早く家に戻って準備をせい!」
ココエラさんは、棍棒?でゴレロフさんをガンガン殴っている。
「わ、分かったよ、母ちゃん、オイ!早く客人をもてなす準備をしろ!」
ゴレロフさんは凄く厳つい大男なんだが、涙目で側近に指示をしている。
なんか最初見た時と人相が違うぞ。
30分程して、村長宅の衆議堂に案内してもらった。行く途中で村の建物を確認
すると高床式住居の様だ、屋根は茅葺かやぶきになっている。
衆議堂は大きな高床式住居で大体20畳位。中に椅子等の家具は無い。
皆、胡坐あぐらで話合うのだろう。
今回のメンバーは、
・ゴレロフ村長(ジャイ〇ン?)
・ココエラ長老(ジャイ〇ン?の母ちゃん)
・リリ (癒し系、素直幼女)
・エーラ (ヒャッハー!なポンコツ女)
・俺 (ヘタレ使徒)
・ロップ (雑音係ポンコツ猫)
胡坐あぐらで着席すると、侍女が粗末な土器の椀に入った茶の様な物を給仕した。色は茶色で飲んでみるとほんのり甘くてなかなか美味い。
前世だとアマチャズル茶に近いのかな。後で詳しく聞いてみよう。
取り合えず俺から切り出した。
「リリとエーラから聞きました。この村は魔物の出現で困窮しているそうですね。
差し当たって、俺からの鬼人族への友好の証として塩を提供しようと思うのですがいかがでしょう?」
俺は予めエーラに持たせておいた土嚢袋の塩を見せた。
ココエラさんは手に取って確認した。
「これは、ひょっとして海の塩ですかな?」
「その通りです。俺は海に自由に行けるので塩を作れます。今回その袋の分は
差し上げます。ただ次回以降の提供は質問への回答如何によると思って下さい。
よろしいですか?」
ココエラさんは頭を下げて
「分かりました、使徒様。ワシらを糾弾してくだされ。ワシにはここにリリエラ
とエイエラがいる時点でなんとなく分かっているのですじゃ」
エイエラ?エーラの本名はエイエラなのか。まあ確かにエーラの方が呼びやすいよな。
「では聞きますが、何故、鬼人族は角の本数で差別されるのですか?角無しや
一本角のヤツは存在価値が無いんですか?そんならこれから俺が大暴れして、
一人残らず角を叩き折ってやんよ!」
ちょっと興奮してしまった!大人気ないな。ただこの村に来てから、
ざっと廻りを観ると大体二本角ばかりで角無しも一本角も一人も見かけなかったんだよ。俺はリリとエーラへの差別の元凶をはっきり意識したよ。
「使徒様の仰るとおり、角を全員叩き折った方が良いのかもしれませんな。で
も角は鬼人族にとって伝統的に誇りでもあるんですじゃ。でもワシはリリエラも
エイエラも平等に扱うように何度も言ったよな!小僧!」
急にココエラさんが鬼婆の表情になって、側にあった大金棒に手を伸ばした。
ゴレロフさんが非常に怯えている。効果はバツグンだ!
「ひいっ!母ちゃんそれだけは止めてくれよ!俺死ぬだろ!俺も何度も布告は出したけど、これは鬼人の伝統と慣習であって難しいんだよ!」
俺が割り込ませてもらった。
「そうですか?リリがココエラさんに会いに行こうと思ってもゴレロフさんに
追っ払われて、ココエラさんに会わせて貰えなかったって聞いてますよ」
「ゴ~レ~ロ~フ~!」
「母ちゃん、勘弁してくれよ!もうしねーから!」
ゴレロフさんは両手で頭を防御している。ココエラさんは金棒で打擲してるけど。素手で防御できるのかね?凄いね鬼人族!
だが、そろそろ仲裁しよう。
「分かりました。角が鬼人族の誇りであるなら、俺が出しゃばるのも変ですよね。
ただ迫害や差別は止めて欲しいと申し上げたいだけです。
俺がリリと出会った時は、魔物だらけの北の森を越えた河原で汚い服で独りで
虫を食べていました。俺がエーラと出会った時は同じ河原で黒熊と独りで戦って
いました。アンタ達がヌクヌクこの村で美味い物を食っている間、
コイツらは死と直面しながら必死で生き抜こうと戦っていたんですよ。
リリは村から弾き出されて独りで生きていく決意をした。
エーラは食料不足の村に少しでも食料を持ち帰ろうと、危険な北の森で独りで狩りをしていた。アンタ達は今の窮状に対して何か対策したんですか?」
ココエラさんも、ゴレロフさんも無言で俯いている。リリは静かに泣いている。エーラは涙を流しながら誇らしげな笑みを浮かべている。
「情けないですじゃ、残念ながら対策はなんも出来てないんですじゃ。毒トカゲに立ち向かっても狩人衆が命を失うだけ。使徒様なんとか助けていただけないじゃろうか?」
「なんで、誰かに助けて貰おうと思うんですか!自分達で何とかしようとは思わないんですか?バシリスクは現状俺でも危険な魔物です、しばらくは無理と思ってください。ただ物資の提供なら協力できると思います。今回も塩に加えて提供できる食材があると思います。ただし条件があります。村人全てに平等に提供する事が条件です、抽選でも構いません。ただ特権を持った人達だけが占有するようなら俺はこの村に二度と関わらないと思って下さい。別に俺はこの村に関わらずとも問題無いのですから」
「分かりましたじゃ、もう触れを回しておるので、夜には代表者が集まりますだ。
今の話を夜にもう一度して頂けませぬか?」
「了解しました。では夜までは村を見学させていただいてもよろしいですか?」
「構いませぬよ、でも食事を用意させようと思っていたのじゃが」
「結構です。自前で持って来ていますので。案内はエーラとリリに頼みます」
するとココエラさんが進み出た。
「いや、ワシも一緒に行きますじゃ。まだ、村人全てが使徒様を知ってる訳ではないですからのう、驚く者達もいるじゃろう。ワシが一緒にいれば大丈夫ですじゃ」
ココエラさんが大金棒を握りしめてゴレロフさんを睨みつけた。
「こりゃ!ゴレロフ!ワシはこれから使徒様を村に案内する。今夜の会合の準備をちゃんとしておくんじゃぞ!」
「ひいっ!分かったよ母ちゃん、ちゃんとするよ!」
ゴレロフさんは慌てて何処かへ走りさった。
「恥ずかしいところをお見せしましたな。では村をご案内しますじゃ。
まず何処にいきますかな?」
「取り合えずは近場を歩きながら鬼人族の生活を観察させてください」
頷きながら、鬼婆は金棒から杖に持ち替えた。
「分かりましたぞ。さあエイエラ、リリエラ、使徒様を案内するぞ」
「任せておけよ、ココ婆様」
「うん分かっただ、ココ婆ちゃん」
懐かれていますな、ココエラさんは。
衆議堂を出てしばらく村を散策した。普通の村人の服装を確認してみると、
亜麻色の麻のような素材で腿位までの長さのチュニック筒型衣を着ている人が多い。腰の辺りで帯状の布で縛っている。リリが着ていたのはズタ袋に頭と両腕の穴を開けた様な代物だったが、きちんと服として作られているようだ。下半身は作務衣みたいなズボンを穿はいている。
男と女でデザインの差は無いようだ。足は草で編んだ草履のような物を履いているな。ココエラさんもゴレロフさんも質は良さそうだが、同じような服装だ。
たまに毛皮を着た人も見かける。上半身はチュニック筒型衣の上に黒い毛皮のベストの様な物を着て、下半身はなめし皮のハーフパンツのような物を穿はいている。足のサンダルは膝ぐらいまで皮で縛ったローマのサンダルみたいなヤツだ。エーラも同じような恰好だな。狩人の標準装備なのかも知れない。
歩いていると村人達が不審気にこちらを見てくる。ココエラさんがニコニコ挨拶しているので問題は起きていないが、ココエラさんが居なかったら諍いが起きていたかもしれない。やっぱり、体操着とブルマーのリリの姿は倫理的に問題だったのかもしれないな。
「なあ、エーラ姉ちゃん。やっぱリリは着替えさせた方がいいかな?なんかジロジロ見られているよな?」
「ハア?何言ってんだレイ兄ちゃん、皆がジロジロ見てるのはレイ兄ちゃんと
ロップだぜ!」
そうだ、忘れていたが俺は肌が赤くて、翼があって、眼が白目の化物なんだった!
ロップは直立して歩いてしゃべる謎のケモノなのだった!
ロップには昨夜リコーダーの破門(笛禁止)を言い渡したので、今はココエラさんと手をつないでタンバリンをシャリシャリしながら歩いている。ココエラさんに気に入られたらしい。
まあ俺の外見はすぐにどうにか出来るものじゃない。堂々としていよう!
しばらく歩くと、開けた畑区画に着いた。俺はココエラさんに聞いてみた。
「畑ではどんな作物を育てているんですか?」
「主食となるのは赤芋と黒芋ですじゃ。他にはピリピリの実やガンガスの根、
ロパスの実等も育てていますな」
「ちょっと見せて頂く事はできますか?」
「ロパスの実はまだ実ってないので無理ですな。他の物は倉庫にあるじゃろう」
案内された倉庫の中でそれぞれの作物を見せてもらった。
・赤芋:サツマイモを丸くした様な見た目、だが試食させてもらったら中身はジャガイモに酷似する味だった!これは是非欲しい!
・黒芋:外見は長いアボカドの様な感じ、試食させてもらったら中身は金時芋をねっとり濃厚にしたようなサツマイモだった!これは是非欲しい!
・ピリピリの実:はい、これは分かります、唐辛子ですね。勿論欲しいですよ。
・ガンガスの根:何か赤くて歪な形の根。試食させてもらったら、これは....。
ショウガだー!こんなに嬉しい事はないぞ!
今夜の会合でこれらの作物と、残りの塩や干物との交換を申し出てみよう。
ふふふ。
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弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
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男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
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転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
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※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
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Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~
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テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
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神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
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調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜
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サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
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