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ポンコツ夜話
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今日の晩飯は豪勢だぞ。スッポンの下拵えは大体前回と一緒だが、
今回は胃と腸も切り開いて中を洗った後、塩とカスレの実に漬けた。
ちなみに緑だったカスレの実は海で干しておいたので黒ずんで来ている。
完全に乾燥すればブラックペッパーだ。
そして今回は干し牡蠣と行者ニンニクのグンドゥルックも入れてみよう。
本当はシンプルにスッポン、水、酒、醤油、ショウガだけで炊きたいところだが
無い物は仕方ない。リリも色々手伝ってくれたので割と早く準備が出来た。
エーラは狩人らしく装備の手入れをしている。ロップは笛を吹いていたが、
エーラにうるさい!と怒鳴られると、不貞腐れてごろ寝を始めた。
現在17時。じきに暗くなるだろう。ロケットストーブに火を入れて俺はスッポン鍋を炊き始めた。
まだイジけているロップの側に4匹の茶鱒を入れたバケツをそっと置いておいた。
まだ8匹あるから明日は2匹ずつ食べよう。
そしてスッポン鍋が炊きあがった。プラ製の椀に均等にスッポン鍋をよそい、
頂きますをした。エーラには事前にリリが教えていたらしい、なんて有能な子だ!
そして実食だ。ハフハフ、干し牡蠣の出汁がいい感じでスッポン出汁とコラボしてるぞ!煮干しより断然牡蠣だな。ニンニク風味と胡椒風味もいい組み合わせだ。
またグンドゥルックの酸味も効いていて、エスニック風スッポン鍋って感じだ。
素晴らしいな、俺的には前回より美味い。
「レイ兄ちゃん、美味いだよ!前のよりずっと美味しいだ!」
「そうだろう!俺もそう思ってたんだ」
エーラを見ると椀にかぶりついて、ズルズルガツガツ食らっている。
スープをゴクゴク飲み干した後に、口を拭って俺に椀を差し出した。
「レイ兄ちゃん。おかわり!」
「もうねーよ!鍋の中見れば分かるだろ!」
「えー、だって、まだ汁が残ってるだろ」
「ダメ!これは明日の朝に食べるの!」
俺は残り汁をタッパーに入れて、茶鱒の氷バケツの中に突っ込んだ。
「でも、アタシまだ食い足りねーぞ。そうだ、今からちょっと黒熊を捌いて...」
「分かった!少しだけならオヤツをあげよう」
これから熊の解体とか勘弁だ。俺は緑イワシの煮干しを10匹ずつ皆に与えた。
エーラは最初ブーブー文句を言っていたが、ボリボリ齧っていると、
「うん、適度にしょっぱくて美味いぞレイ兄ちゃん、これは川のどの辺で採れるんだ?漁師衆に教えたら喜ぶぞ」
「エーラ姉ちゃん、これは海で獲った魚だ。川にはいないぞ」
エーラが目をくわっと見開いて食いついて来た!しまった、今後の展開が予想出来てしまう!
「レイ兄ちゃんは海に行けるのか!アタシも連れてけ!姉ちゃんとしての命令だ!」
予想通りだ、しかし何故兄ちゃんが姉ちゃんの命令に従わなければならないのか?
「まあ、落ち着けエーラ姉ちゃん、まずは村に行ってからだ。そのうち機会があれば連れてってやるよ」
ふふふ、日本人の"そのうち"とか"機会があったら"とかは"お断りします"という事
なのだよ。
ただでさえポンコツがいるのに、これ以上ポンコツを連れて海には
行きたくない、
「よし、そのうちだな!そのうちって何時だ?そうだな~明日は村に行くから、
明後日にしよう!いやその前にレイ兄ちゃんの家にも行きてーしな」
「ちょ、ちょっとエーラ姉ちゃん!一旦落ち着け!」
「よし明後日はレイ兄ちゃんの家に泊まって、次の日に海に行こう!ヒャッハー
楽しみだぜ!」
「一旦落ち着け!なんで止まんねーんだよ」
俺が怒鳴るとビクッとして項垂れた。
「....うん、ごめんレイ兄ちゃん」
俺がバカだった、日本人的な感覚なんて日本人にしか通じないしな。
鬼人族の、しかも底抜けのポンコツに通じる訳がない。でもコイツは俺の家にも
来るつもりか?嫌だぞ。リリに洗って貰ったから黒髪もサラサラで、
だまってりゃ美人なんだけどな。中身が残念極まりない。
「あ~、エーラ姉ちゃん。俺は明日極めて重要な提案をしに村へ行こうと思って
るんだ。だから海とかの話は一旦置いといてくれないか?
俺はまずエーラ姉ちゃんの村の状況を前もって知って置きたいんだ」
「村の状況?リリから聞いてねーか?村の南の山は塩が掘れるんで、
定期的に10人位で塩を掘りに行ってたんだよ。でもいつまで経っても、
戻らねーから、狩人衆から5人探索隊を送ったんだ。でも戻って来たのは、
全身が爛れたケルロフ一人だけだった。ケルロフも翌日死んじまったよ。
ケルロフの話じゃデカい六本足の変な動きをするトカゲの魔物で、
口と全身から毒を撒き散らすらしいぜ」
いつの間にかロップが側に来ていたので、聞いてみた。
「ロップ、俺の見立てではバシリスクだと思うんだが?」
「多分そうっすね。今のレイ様では相当厳しいっすよ。戦い方次第では何とかなるかも知れないっすけど、相手もレイ様を殺傷する力があるって事は覚えていて欲しいっす」
ちょっと様子見だな、俺も無茶はしたくない。俺は本題を切り出した。
「村はリリが食べ物を貰えなくなるくらい食料が足りない状況なのか?」
「そうだねー、アタシら狩人にとっては、南の獲物が沢山いた狩場が魔物のせいで狩りが厳しくなったぜ。川狩人衆も一緒だ。南の大きい川に行けなくなったからな。だからアタシは危険な北の森に狩りに来たんだ。この森は危険なんだぜ、
レイ兄ちゃん。黒熊とか黒狼とかウヨウヨいるんだ。リリがこんなとこまで来れたのは奇跡だと思った方がいいぜ」
何、ここってそんな怖い所だったの!
「ロップ、ダイアベアはさっき見たけど、ダイアウルフはどんな魔物だ?」
「レイ様一人なら問題ないっすよ。ただ数が多い場合があるんで、誰かを守りながらだと厄介っすよ」
うーん?エーラがどれだけ強いのかはいまいち分からん。ロップはエレメンタルだから大丈夫だろう。心配の種はリリだ。
「大丈夫だ!アタシに任しときな!この【黒熊殺し】のエーラ姉ちゃんにな!」
ほう、それは頼もしい、今日は調子が悪かっただけかもしれないな。
「エーラ姉ちゃんは今までに何頭黒熊を倒したんだ?」
「レイ兄ちゃん、何言ってんだ?今日がアタシの初の黒熊狩りだぜ!
もっと褒めてもいいぜ、レイ兄ちゃん」
....だから倒したの俺だよね?血抜きしたのも俺だよね?運ぶの俺だよね?
まあいいか、コイツが熊さんの気を引いてくれなかったら、悠長に魔法なんか
使えなかったからな。
大分脱線したな。話を食料事情、特に塩の話に戻そう。
「今、村での塩の備蓄はどうなってるんだ?」
「カツカツだぜ。これまでは大勢で南の山に行って、何日か掛けて塩を掘ってから戻って来たんだけど、今はあの魔物がいるからなー、小人数の足の速い男衆が魔物がいる地域を駆け抜けて少しずつ採ってる状態らしいぜ」
俺の作った塩程度じゃ足り無さそうだな。まあエーラに見せてみよう。
「なあ、エーラ姉ちゃん、俺は村へのお土産として海で塩を作って来たんだ。
この位の量でも村の人達は喜んでくれるか?」
俺は塩を詰めた土嚢袋を開けて見せた。エーラが無言で袋の中を見ている。
「なんかサラサラしてて、アタシが知ってる塩と違うけど、今塩を採りに行ってる男衆の3回分位の量はあると思うぜ。これを村にくれるのか?レイ兄ちゃん」
「ああ、条件により追加の塩も出す。ただし村の人達全てに行きわたるようにしたい。俺は海に行けば幾らでも塩を作れるんだ。村のお偉いさんだけが独占するようなら、俺は二度と村には来ないとエーラ姉ちゃんから村のお偉いさんに説明して貰えないか?」
「レイ兄ちゃん、分かったぜ!アタシはココ婆様とは仲良いんだ。
ゴレロフのおっさんもココ婆様には頭上がんないんだぜ!アタシに任せろ!」
おお!ここまでポンコツアマゾネスが頼もしいとは!任せたぞポンコツ!
リリがリコーダーをおねだりしてきた。そうだなエーラにも聞かせてやろうか、ロップとの違いを分かって頂こう。
80'sの洋楽で吹けそうなのを適当に吹いた、あくまで適当にだ。
俺は叔父の影響でこういう音楽ばっかり聴いていたのだ。
二人はキャッキャキャッキャはしゃいでいたが、姉妹が在籍して姉がボーカルを務める老舗バンドの有名曲を俺がしんみり吹き始めると、
二人してボロ泣きし始めた。
リリ「ぐすぐす、何かオラ胸に詰まってきて我慢できなかっただ」
エーラ「ビエーン!」
....このポンコツに明日の交渉を任してもいいのだろうか?ロップは不貞腐れて煮干しを齧っている。
取り合えず今日はもう寝かせよう。今日は俺が寝ずの番だ、今回の海遠征ではそんなに寝ていない。夜は魔法の練習をしていたのだ。
「エーラ姉ちゃん、リリ、ロップ。テントで寝なさい。今日は俺が見張っているから」
「何言ってんだ!アタシも狩人の端くれだ!交代でレイ兄ちゃんも休め!」
「分かったよ。途中で起こすから取り合えずエーラ姉ちゃんは休んでくれ」
「わかったぜ。ちゃんと起こせよ!」
エーラには今日は休んで欲しい。俺はスリープを掛けた後に、ヒールを掛けた。
後片付けした後は食材をちょっと採取しよう。夜目が効くって最高だね。
ノビルと、あと茶色のデカいキノコがワサワサ生えてたので採集した。
エーラなら知ってるかもしれない。
その後、テントの前で胡坐を組み、剣スコップを抱えて魔法の練習を開始した。
目を閉じて魔力の循環に集中していると、廻りに魔力の気配がある。
眼を開けると赤い目の獣が森の中から睨んでいるのが見えた。
7匹か、何故か俺はこの時、魔物の数がすぐに把握出来た。この時の感覚はうろ覚えなんだが、修行を邪魔されてウゼーなコイツらって思ってたのは覚えている。
俺は剣スコップも置いて素手で森の中にむかった。
グウルルルと唸り声が聞こえた後、獣達が飛び掛かってきたが、最初の一匹は左手で首を掴んで握り潰した。そして次の獣は右手で首をキャッチして握り潰した。
以後、首の握り潰し×5、死骸は河原に積んでおいた。
獣の正体はロップかエーラに聞けば分かるだろう。さて修行続行だ!
翌朝、朝飯の準備をしていると、エーラがズカズカやって来た。怒ってるの?
「オイ、レイ兄ちゃん!見張りは交代って言っただろ!何で起こさねーんだ!
あと、あの黒狼の死体はなんだ?説明しろ!」
俺は素直に説明した。
「いや、昨夜修行してたら興が乗ってしまってね。起こすのを忘れてしまったよ。
あのケモノは修行の邪魔になったんで、ちょっとカッとなってやっちまったよ。
でも後悔はしてないよ」
エーラが怯えた目で俺を見てる。
「黒狼の群れを独りで倒すなんてレイ兄ちゃんはおっかねーヤツだな。
アタシはこれからレイ兄ちゃんを怒らせないようにしよう」
えー、結構トランス状態だったからあんま覚えてないんだけどな。
そんなにドン引きされると困る。
「えーと、このケモノは食えるのかな?これも村に持って行った方がいい?」
「黒狼の皮は色々なもんに使われてる。肉も持って行けるなら、
一応持って行った方がいいと思うぜ。とにかく村は食い物が足りねーんだ。
レイ兄ちゃん、出来れば血抜きもしてくれねーか?」
これ全部持って行けるか?コウエイ様の収納袋は熊で一杯だしな、でも俺の収納袋は漬物樽とかあるし、詰めればなんとかなるかもな。朝飯後に試してみよう。
午前6時。朝飯を開始した。茶鱒の塩焼きとスッポン様の煮凝りだ。
エーラもやはり雁木小僧だったね。頭からバリバリ食べてる、
本当にバリバリ音がするんだよ!
俺の食べ残しはエーラとリリがゲットしてバリバリ食べ尽くした。ロップの敗因は俺が昨晩、皆に教えたジャンケンのせいだ。ロップの猫手ではチョキが出せないのだ!
さてお片付けした後は狼の血を抜いて村に向かおう!
ちなみに昨晩採集したキノコはメリン茸といって干すと良い出汁がでるらしい。
7匹の黒狼の首を裂いて血を抜き、魔石も取っておいた。所有権のあやふやな熊さんと違って狼は完全に俺のモノだ!
なんとか俺の収納袋に梱包し、準備OKだ。
「さあ皆さん出発ですよ!」
俺が声を上げるとロップが逃げ出そうとしたが、エーラがムンずとロップの
首根っこをひっ捕まえた。
「待ちな、ロップ!アンタはこの袋の中に入るんだよ!」
「レイ様助けて下しゃい~。ボク、エーラちゃんが怖いっす」
ロップ我慢だ!俺はロップの訴えを無視した。ロップはもにゃもにゃ騒ぎながら
エーラのズタ袋に詰め込まれた。
エーラは背中に短槍を背負い、片手にロップ入りのズタ袋を持っている。俺はリリを抱えるから剣スコップは持てないが、エーラがいればなんとかなるだろう。
よいしょっと、ポンコツアマゾネスを肩車してリリを抱えて俺はフワリと浮き上がった。ロップはズタ袋でもがいているようだ。
「さて、村に向かおう、エーラ姉ちゃんに方向は任せていいな?」
「ヒャッハー!任せろレイ兄ちゃん!行くぜ、アタシ行くぜ!」
あの、俺の角をアクセルみたいに擦るの止めて貰えませんか?
こうして、俺達は鬼人族の村へ向かうのだった。
今回は胃と腸も切り開いて中を洗った後、塩とカスレの実に漬けた。
ちなみに緑だったカスレの実は海で干しておいたので黒ずんで来ている。
完全に乾燥すればブラックペッパーだ。
そして今回は干し牡蠣と行者ニンニクのグンドゥルックも入れてみよう。
本当はシンプルにスッポン、水、酒、醤油、ショウガだけで炊きたいところだが
無い物は仕方ない。リリも色々手伝ってくれたので割と早く準備が出来た。
エーラは狩人らしく装備の手入れをしている。ロップは笛を吹いていたが、
エーラにうるさい!と怒鳴られると、不貞腐れてごろ寝を始めた。
現在17時。じきに暗くなるだろう。ロケットストーブに火を入れて俺はスッポン鍋を炊き始めた。
まだイジけているロップの側に4匹の茶鱒を入れたバケツをそっと置いておいた。
まだ8匹あるから明日は2匹ずつ食べよう。
そしてスッポン鍋が炊きあがった。プラ製の椀に均等にスッポン鍋をよそい、
頂きますをした。エーラには事前にリリが教えていたらしい、なんて有能な子だ!
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またグンドゥルックの酸味も効いていて、エスニック風スッポン鍋って感じだ。
素晴らしいな、俺的には前回より美味い。
「レイ兄ちゃん、美味いだよ!前のよりずっと美味しいだ!」
「そうだろう!俺もそう思ってたんだ」
エーラを見ると椀にかぶりついて、ズルズルガツガツ食らっている。
スープをゴクゴク飲み干した後に、口を拭って俺に椀を差し出した。
「レイ兄ちゃん。おかわり!」
「もうねーよ!鍋の中見れば分かるだろ!」
「えー、だって、まだ汁が残ってるだろ」
「ダメ!これは明日の朝に食べるの!」
俺は残り汁をタッパーに入れて、茶鱒の氷バケツの中に突っ込んだ。
「でも、アタシまだ食い足りねーぞ。そうだ、今からちょっと黒熊を捌いて...」
「分かった!少しだけならオヤツをあげよう」
これから熊の解体とか勘弁だ。俺は緑イワシの煮干しを10匹ずつ皆に与えた。
エーラは最初ブーブー文句を言っていたが、ボリボリ齧っていると、
「うん、適度にしょっぱくて美味いぞレイ兄ちゃん、これは川のどの辺で採れるんだ?漁師衆に教えたら喜ぶぞ」
「エーラ姉ちゃん、これは海で獲った魚だ。川にはいないぞ」
エーラが目をくわっと見開いて食いついて来た!しまった、今後の展開が予想出来てしまう!
「レイ兄ちゃんは海に行けるのか!アタシも連れてけ!姉ちゃんとしての命令だ!」
予想通りだ、しかし何故兄ちゃんが姉ちゃんの命令に従わなければならないのか?
「まあ、落ち着けエーラ姉ちゃん、まずは村に行ってからだ。そのうち機会があれば連れてってやるよ」
ふふふ、日本人の"そのうち"とか"機会があったら"とかは"お断りします"という事
なのだよ。
ただでさえポンコツがいるのに、これ以上ポンコツを連れて海には
行きたくない、
「よし、そのうちだな!そのうちって何時だ?そうだな~明日は村に行くから、
明後日にしよう!いやその前にレイ兄ちゃんの家にも行きてーしな」
「ちょ、ちょっとエーラ姉ちゃん!一旦落ち着け!」
「よし明後日はレイ兄ちゃんの家に泊まって、次の日に海に行こう!ヒャッハー
楽しみだぜ!」
「一旦落ち着け!なんで止まんねーんだよ」
俺が怒鳴るとビクッとして項垂れた。
「....うん、ごめんレイ兄ちゃん」
俺がバカだった、日本人的な感覚なんて日本人にしか通じないしな。
鬼人族の、しかも底抜けのポンコツに通じる訳がない。でもコイツは俺の家にも
来るつもりか?嫌だぞ。リリに洗って貰ったから黒髪もサラサラで、
だまってりゃ美人なんだけどな。中身が残念極まりない。
「あ~、エーラ姉ちゃん。俺は明日極めて重要な提案をしに村へ行こうと思って
るんだ。だから海とかの話は一旦置いといてくれないか?
俺はまずエーラ姉ちゃんの村の状況を前もって知って置きたいんだ」
「村の状況?リリから聞いてねーか?村の南の山は塩が掘れるんで、
定期的に10人位で塩を掘りに行ってたんだよ。でもいつまで経っても、
戻らねーから、狩人衆から5人探索隊を送ったんだ。でも戻って来たのは、
全身が爛れたケルロフ一人だけだった。ケルロフも翌日死んじまったよ。
ケルロフの話じゃデカい六本足の変な動きをするトカゲの魔物で、
口と全身から毒を撒き散らすらしいぜ」
いつの間にかロップが側に来ていたので、聞いてみた。
「ロップ、俺の見立てではバシリスクだと思うんだが?」
「多分そうっすね。今のレイ様では相当厳しいっすよ。戦い方次第では何とかなるかも知れないっすけど、相手もレイ様を殺傷する力があるって事は覚えていて欲しいっす」
ちょっと様子見だな、俺も無茶はしたくない。俺は本題を切り出した。
「村はリリが食べ物を貰えなくなるくらい食料が足りない状況なのか?」
「そうだねー、アタシら狩人にとっては、南の獲物が沢山いた狩場が魔物のせいで狩りが厳しくなったぜ。川狩人衆も一緒だ。南の大きい川に行けなくなったからな。だからアタシは危険な北の森に狩りに来たんだ。この森は危険なんだぜ、
レイ兄ちゃん。黒熊とか黒狼とかウヨウヨいるんだ。リリがこんなとこまで来れたのは奇跡だと思った方がいいぜ」
何、ここってそんな怖い所だったの!
「ロップ、ダイアベアはさっき見たけど、ダイアウルフはどんな魔物だ?」
「レイ様一人なら問題ないっすよ。ただ数が多い場合があるんで、誰かを守りながらだと厄介っすよ」
うーん?エーラがどれだけ強いのかはいまいち分からん。ロップはエレメンタルだから大丈夫だろう。心配の種はリリだ。
「大丈夫だ!アタシに任しときな!この【黒熊殺し】のエーラ姉ちゃんにな!」
ほう、それは頼もしい、今日は調子が悪かっただけかもしれないな。
「エーラ姉ちゃんは今までに何頭黒熊を倒したんだ?」
「レイ兄ちゃん、何言ってんだ?今日がアタシの初の黒熊狩りだぜ!
もっと褒めてもいいぜ、レイ兄ちゃん」
....だから倒したの俺だよね?血抜きしたのも俺だよね?運ぶの俺だよね?
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「今、村での塩の備蓄はどうなってるんだ?」
「カツカツだぜ。これまでは大勢で南の山に行って、何日か掛けて塩を掘ってから戻って来たんだけど、今はあの魔物がいるからなー、小人数の足の速い男衆が魔物がいる地域を駆け抜けて少しずつ採ってる状態らしいぜ」
俺の作った塩程度じゃ足り無さそうだな。まあエーラに見せてみよう。
「なあ、エーラ姉ちゃん、俺は村へのお土産として海で塩を作って来たんだ。
この位の量でも村の人達は喜んでくれるか?」
俺は塩を詰めた土嚢袋を開けて見せた。エーラが無言で袋の中を見ている。
「なんかサラサラしてて、アタシが知ってる塩と違うけど、今塩を採りに行ってる男衆の3回分位の量はあると思うぜ。これを村にくれるのか?レイ兄ちゃん」
「ああ、条件により追加の塩も出す。ただし村の人達全てに行きわたるようにしたい。俺は海に行けば幾らでも塩を作れるんだ。村のお偉いさんだけが独占するようなら、俺は二度と村には来ないとエーラ姉ちゃんから村のお偉いさんに説明して貰えないか?」
「レイ兄ちゃん、分かったぜ!アタシはココ婆様とは仲良いんだ。
ゴレロフのおっさんもココ婆様には頭上がんないんだぜ!アタシに任せろ!」
おお!ここまでポンコツアマゾネスが頼もしいとは!任せたぞポンコツ!
リリがリコーダーをおねだりしてきた。そうだなエーラにも聞かせてやろうか、ロップとの違いを分かって頂こう。
80'sの洋楽で吹けそうなのを適当に吹いた、あくまで適当にだ。
俺は叔父の影響でこういう音楽ばっかり聴いていたのだ。
二人はキャッキャキャッキャはしゃいでいたが、姉妹が在籍して姉がボーカルを務める老舗バンドの有名曲を俺がしんみり吹き始めると、
二人してボロ泣きし始めた。
リリ「ぐすぐす、何かオラ胸に詰まってきて我慢できなかっただ」
エーラ「ビエーン!」
....このポンコツに明日の交渉を任してもいいのだろうか?ロップは不貞腐れて煮干しを齧っている。
取り合えず今日はもう寝かせよう。今日は俺が寝ずの番だ、今回の海遠征ではそんなに寝ていない。夜は魔法の練習をしていたのだ。
「エーラ姉ちゃん、リリ、ロップ。テントで寝なさい。今日は俺が見張っているから」
「何言ってんだ!アタシも狩人の端くれだ!交代でレイ兄ちゃんも休め!」
「分かったよ。途中で起こすから取り合えずエーラ姉ちゃんは休んでくれ」
「わかったぜ。ちゃんと起こせよ!」
エーラには今日は休んで欲しい。俺はスリープを掛けた後に、ヒールを掛けた。
後片付けした後は食材をちょっと採取しよう。夜目が効くって最高だね。
ノビルと、あと茶色のデカいキノコがワサワサ生えてたので採集した。
エーラなら知ってるかもしれない。
その後、テントの前で胡坐を組み、剣スコップを抱えて魔法の練習を開始した。
目を閉じて魔力の循環に集中していると、廻りに魔力の気配がある。
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7匹か、何故か俺はこの時、魔物の数がすぐに把握出来た。この時の感覚はうろ覚えなんだが、修行を邪魔されてウゼーなコイツらって思ってたのは覚えている。
俺は剣スコップも置いて素手で森の中にむかった。
グウルルルと唸り声が聞こえた後、獣達が飛び掛かってきたが、最初の一匹は左手で首を掴んで握り潰した。そして次の獣は右手で首をキャッチして握り潰した。
以後、首の握り潰し×5、死骸は河原に積んでおいた。
獣の正体はロップかエーラに聞けば分かるだろう。さて修行続行だ!
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あと、あの黒狼の死体はなんだ?説明しろ!」
俺は素直に説明した。
「いや、昨夜修行してたら興が乗ってしまってね。起こすのを忘れてしまったよ。
あのケモノは修行の邪魔になったんで、ちょっとカッとなってやっちまったよ。
でも後悔はしてないよ」
エーラが怯えた目で俺を見てる。
「黒狼の群れを独りで倒すなんてレイ兄ちゃんはおっかねーヤツだな。
アタシはこれからレイ兄ちゃんを怒らせないようにしよう」
えー、結構トランス状態だったからあんま覚えてないんだけどな。
そんなにドン引きされると困る。
「えーと、このケモノは食えるのかな?これも村に持って行った方がいい?」
「黒狼の皮は色々なもんに使われてる。肉も持って行けるなら、
一応持って行った方がいいと思うぜ。とにかく村は食い物が足りねーんだ。
レイ兄ちゃん、出来れば血抜きもしてくれねーか?」
これ全部持って行けるか?コウエイ様の収納袋は熊で一杯だしな、でも俺の収納袋は漬物樽とかあるし、詰めればなんとかなるかもな。朝飯後に試してみよう。
午前6時。朝飯を開始した。茶鱒の塩焼きとスッポン様の煮凝りだ。
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本当にバリバリ音がするんだよ!
俺の食べ残しはエーラとリリがゲットしてバリバリ食べ尽くした。ロップの敗因は俺が昨晩、皆に教えたジャンケンのせいだ。ロップの猫手ではチョキが出せないのだ!
さてお片付けした後は狼の血を抜いて村に向かおう!
ちなみに昨晩採集したキノコはメリン茸といって干すと良い出汁がでるらしい。
7匹の黒狼の首を裂いて血を抜き、魔石も取っておいた。所有権のあやふやな熊さんと違って狼は完全に俺のモノだ!
なんとか俺の収納袋に梱包し、準備OKだ。
「さあ皆さん出発ですよ!」
俺が声を上げるとロップが逃げ出そうとしたが、エーラがムンずとロップの
首根っこをひっ捕まえた。
「待ちな、ロップ!アンタはこの袋の中に入るんだよ!」
「レイ様助けて下しゃい~。ボク、エーラちゃんが怖いっす」
ロップ我慢だ!俺はロップの訴えを無視した。ロップはもにゃもにゃ騒ぎながら
エーラのズタ袋に詰め込まれた。
エーラは背中に短槍を背負い、片手にロップ入りのズタ袋を持っている。俺はリリを抱えるから剣スコップは持てないが、エーラがいればなんとかなるだろう。
よいしょっと、ポンコツアマゾネスを肩車してリリを抱えて俺はフワリと浮き上がった。ロップはズタ袋でもがいているようだ。
「さて、村に向かおう、エーラ姉ちゃんに方向は任せていいな?」
「ヒャッハー!任せろレイ兄ちゃん!行くぜ、アタシ行くぜ!」
あの、俺の角をアクセルみたいに擦るの止めて貰えませんか?
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