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リリに色々聞いてみた
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リリが泣いていたので、晩飯をしんみり終えた俺は洞窟の外の岩棚でロケットストーブに火を入れた。リリは俺やロップと違って夜目が効かないからな。
そういえば初めてだなロケットストーブ使うのは。
砂浜で集めた薪を割りながらリリに村の話を聞こうと思う。色々聞きたい事があるのだ。
ロケットストーブの廻りに2人を集めた。ロップがリバーシ!リバーシ!
と喚いていたが今晩は却下だ。
「なあリリ、リリは何歳なんだ?」
リリはきょとんとして首を傾げる
「オラ分かんね。なんさいって何だべ?」
え?歳とか数えないの?
「いやリリが生まれてから、どの位たったかって事なんだが」
リリは相変わらずきょとんとしている。
「そんなのオラが分かるはずねえべさ。何を言ってるだ?レイ兄ちゃんは」
どういう事?自分の歳が分からないの?
「ロップ、この世界では歳とか数えないのか?」
ロップも首を捻っている。
「いや、コウエイ様の領地で暮らす人達は、どんな種族でもみんな自分の歳は分かってたっすよ」
う~ん?ここは孤絶した環境だから暦とかの概念が無いのだろうな。
リリの身長は目算で130cm位だ、大体小学3年生位か?
でも鬼人族だからな~。ロップに聞こう。
「なあロップ、鬼人族って人族と比べて身体の大きさはどうなんだ?」
「そっすねー。人族よりは平均的に大きいっすよ。
男の人で大きい人は2メートル位っすね」
ん?メートル?度量衡とか地球と一緒なのか?
「ロップ!今メートルって言ったよな?この世界の度量衡って地球と一緒なのか?」
「なんか、【界審の儀】で転生した人族が決めたらしいっすよ。凄く頭が良い人だったみたいでマルク王国の宰相になったっす。100年前もその血筋は続いてて、確かどこかの侯爵だったっすよ」
成程、太陽系を移植した世界だもんな。まあ単位が前世と同じなら俺にも都合が良い。
そしてリリの事だ。鬼人族が人族の平均よりも大柄だって事はひょっとして小学1年位かもしれないな。現状確認する術はない。質問を続けよう。
「リリ、村の人達は普段どんな暮らしをして、何を食べてたんだ?」
「村のみんなは、女衆は畑で赤芋や黒芋とかを育ててただよ。男衆は川で魚捕ったり、黒猪を狩ったりしてただ。あとギギロフおじちゃんは器を焼いて作ってたし、ドルロフおじちゃんは鉄を叩いて道具を作ってただ」
ふーん。農業と狩猟、それに陶芸や鍛冶もやってるのか。赤芋と黒芋が気になるな、仲良くなって物々交換とか出来ないもんかね。だけど魔物が現れて食べ物が採れなくなったって言ってたよな。その辺を聞いてみよう。
「なあリリ、魔物が現れて食べ物を貰えなくなったって言ってたよな?どういう事なんだ?」
「オラも良く分からねえだよ。ただ魔物が出て南の山に行けねえって村のみんなが大騒ぎしてただよ。それから魚も黒猪も捕れなくなって、みんな赤芋や黒芋ばっかり食べるようになっていっただ。そんでオラも食べ物を貰えなくなっただよ」
そうか、その魔物が原因でリリが村を出なきゃならなくなったのか。
でもそもそも村での扱いが酷いよね。身体はガリガリだし明らかに栄養が足りない。今日はウチに泊めたがリリはこれからどうしたいんだろう。
「リリ、俺はしばらく面倒を見る。今のリリには食べ物が足りないんだ。元気になったら村を探して戻してやるよ。リリもそれでいいか?」
リリは暫く俯いて考えた後に答えた。
「オラ、あんな美味いもん食べたの初めてだ。オラにあんなに優しくしてくれたのは、村ではココエラ婆ちゃんしかいないだよ。レイ兄ちゃんはオラが嫌いなんか?オラここにいてえ!ロップちゃんとも、もっと遊びてえよ!オラちゃんとお手伝いするだよ。オラ、レイ兄ちゃんとロップちゃんと一緒にいてえ!」
ブルマー幼女が泣きながら俺に飛びついて来た、なんだこの背徳感!俺は前世では熟女好きだったんだよ!
何故かロップまで飛びついて来た。
「レイ様!リリちゃんが可哀そうっすよ!ヴァルク将軍はこういう子供達を引き取って育てていたっすよ!」
ぐしぐし泣いているリリの頭を撫でて宥めながら考える。取り合えずしばらくはリリの栄養状態の改善を目指そう。
「リリ、ココエラ婆ちゃんっていうのはどんな人なんだ?」
「ココ婆ちゃんは、村長ゴレロフさんの母ちゃんだ。足が弱いからたまにしか外に出なかったけんども、オラに出会ってもイジメたりしないで優しく頭を撫でてくれただよ。でもオラがココ婆ちゃんに会いに行こうとしても、いつもゴレロフさんに追っ払われただ」
キーパーソンはココエラ婆ちゃんだな。だが鬼人族が"角無し"に対しての差別意識がある限り、リリが鬼人族の村で幸せに暮らすのは厳しいかもしれない。
ん?待てよ。リリは角が無いから人族に見えるし、俺が島を出る時に一緒に連れていくっていう選択肢もあるかも。まあ、まずは鬼人族と接触してから考えよう。
だが鬼人族は俺を受け入れてくれるだろうか?リリも俺を初めて見たときにひっくり返ってたしな。
「なあリリ、俺は取り合えずリリの村の人達と話をしたい。村の人達はこの見た目の俺を受け入れてくれるかな?リリはもう俺を怖くないか?」
「最初はびっくりしたけんども、もう大丈夫だ。レイ兄ちゃんは優しいだ。羽があって赤いけど村の男衆とそんなに変わんねえだよ。ゴレロフさんの方がもっとおっかねえだ」
そうか、鬼人族の男は強面揃いらしい。俺の方が怖くなってきたぞ。俺の中身はブラック企業にも従順な、ただのSEだし。
「ところで、現れた魔物っていうのはどんな魔物なんだ?鬼人族の男衆でも敵わないのか?」
「オラも詳しくは知らねえだ。最初は南の山に塩を採りにいった男衆達が戻らなかっただよ。それで狩人の男衆達が探しに行っただ。でも戻って来たのは一人だけだっただよ。でも、その男衆も村に戻った次の日に身体がムラサキ色になって死んじまっただよ....」
南の山では岩塩が採れるんだろうな。だけど身体が紫色になって死ぬ?
前世でそんな症例があるかは知らないが、これは毒だろう。
「ロップ、どう思う?なんか毒っぽいよな?」
ロップが首を捻って答えた。
「う~ん?魔物を見てないからなんとも言えないっすよ。もしかしたら、
前に話したバシリスクとかコカトリスかもしれないっすね」
毒フルーツを嗜む俺でもヤバいという奴らか!
「なあロップ、地球の伝承ではバシリスクとかコカトリスとかって、毒を撒き散らすとか石化させるとか危険な存在だったんだよ。星母神様はこんな連中とも共存する事を願って世界を造ったのか?それに魔物って天空神の汚染を受けた連中だろ?」
「星母神様はそういう危険な存在とは、生活圏を分ける事で共存していく世界を目指したっす。人型の種族の生活圏と、辺境では異形の種族の生活圏。時には諍いがあるかもしれないっすけど。程よい刺激になるだろうって星母神様は言ってたっす。ただ辺境は天空神の汚染の度合いが酷くて魔物化している割合が多いっすね」
ここも辺境だよな?鬼人族は魔物化してないのか?
前に魔物化すると森小人はゴブリン、猪人族はオーク、人族はグールになるって言ってたよな。
「ロップ、鬼人族は魔物化しないのか?」
「してるっすよ。鬼人族が魔物化したのはオーガって呼ばれてたっす。
物凄く強い魔物っすよ。ただ今いる種族が突然魔物化するって事はないっす。
もう完全に別の種族って感じっすね」
そうか、リリが突然魔物化したらどうしようと思ったのだ。俺とロップが話しているとリリが眠そうにしている。
「リリ、眠いか。そろそろ寝ような」
「オラ難しい話は良く分かんねえだよ」
洞窟に銀マットを敷き、バスタオルを丸めて枕にした。
リリを横たえてブランケットを掛ける。
速攻でリリの寝息が聞こえ始めた。の〇太なみの就寝速度だな。
まあ子供なんてこんなもんか。
そして、俺にはもうちょっとやる事があるのだ。リリから引っ剥がした袋みたいな服?を洗濯する。鬼人族の村に連れて行くにしても今の体操服&ブルマー姿では流石に怪しいだろう。
貴重な洗剤を投入して手動洗濯機でぐるぐる洗濯&脱水を3回繰り返した後、取り出した服?を物干しに干した。これ綺麗になってるのか?ただの子汚い穴の開いた袋にしか見えない。まあ匂いが無くなったので良しとしよう。
ロップはリリとリバーシが出来なかったので不貞腐れて寝ている。コイツにはいずれ文句を言いたい処もあるが、まあ相談役だしな、今は我慢しよう。
そういえばリリはお手伝いをすると言っていたな、いい子だね~。
翌朝6時。銀マットでうつ伏せで寝ていた俺が目覚めると、背中が重たい&冷たい。起き上がるとリリがコロンと背中から転がり落ちた。
リリは俺の背中で寝ていたようだ。だがこの冷たいのは?まさかオネショか!
リリが目を擦りながら目覚めた。
「レイ兄ちゃんお早うなっす。今日は何をするんだべ?オラお手伝いするだよ」
朝起きてすぐにお手伝いをしようとするのは偉いと思う。だがオネショは怒らねばならない。
「リリ!お仕置きだべ~!なんで俺の背中で寝てオシッコするんだ!」
リリはポロポロ涙を零しながら謝った。
「許してくんろ!オラおっ父とおっ母の夢を見ただよ。オラも良く分かんねえだよ」
両親が出てくる夢を見て、寝ぼけて俺に抱きついてきてオネショした訳か。
まあ仕方がないか。
コウエイ様の遺品のをほじくり返してリリの着替えを発掘する。俺の分は前に洗濯したのがあるからな。
出て来たのは、またブルマーと体操着だ。コウエイ様のこだわりにドン引きしつつリリに着替えを渡した。
「リリ、お漏らしした服を脱いで川で身体を洗ってから着替えなさい。あまり深い所に行っては駄目ですよ。ロップ君もリリをちゃんと見といてあげるように」
「うん、分かっただよレイ兄ちゃん。ごめんなさいだよ」
「うにゃ~ボクがリリちゃんについてるから心配ないっすよ!」
ロップに任せるのはいささか心配だ。俺も上流の滝壺に飛び込んで身体を洗った後に着替えて洞窟に戻った。
今日の朝飯は昨日釣った残りの茶鱒だ。食事が終わった後、リリが不思議そうにプラ皿を眺めている。
「レイ兄ちゃん、昨日も思ったけんど、このお皿は何で出来てるだ?こんなに軽くてスベスベしてるお皿はオラ見たことねえだよ」
う~ん。これは説明が出来ないな。取り合えずスルーしてリリに聞き返そう
「リリの村ではどんな食器を使ってたんだ?」
「オラ、ギギロフおじちゃんの手伝いを良くしてただよ。泥を捏ねて紐みたいにこしらえて、ぐるぐる積み重ねて器さ作るだよ。その後に焼くと硬い器になるだ。
オラは泥を紐にするお手伝いを良くやってただよ。ギギロフおじちゃんはあんまりしゃべらないけど、オラをイジメなかったからギギロフおじちゃんは好きだ」
縄文式土器みたいな感じか。ギギロフさんは職人気質の人なんだろうな。ロップにも食器事情を聞いてみよう。
「ロップ、コウエイ様の領地では食器はどうだったんだ?」
「うにゃ~。木製とか金属製が多かったと思うっす。でも陶器もあったっすよ。
ガラムドさんがコウエイ様の資料に影響されて、陶器作りにハマってた時期が
あったっす」
「コウエイ様の資料?コウエイ様は陶芸が得意だったのか?」
「違うっす。コウエイ様が恩恵ポイントで持ち込んだモノっすよ。
コウエイ様は"まんが"って言ってたっす」
コウエイ様、何故マンガを買うんだ?だから必要な物が揃えられなかったんだろうが!俺の中でコウエイに対する評価はどんどん下がっている。
でも食器のレベルである程度文明の度合いが判断できるよな。この島はリリから聞いた感じでは縄文時代位か?大陸ではどうなんだろう。
17世紀位って天空神の使徒は言ってたが。
「それでガラムドさんはどんな食器を作ってたんだ?」
「うーん?ガラムドさんはあの時期は変だったっすよ。まあいつも変な人だったっすけどね。"まんが"に影響されて陶器の工房に入り浸ってたっす。ずっと工房に引きこもってるんで、コウエイ様がボクを使いとして派遣したんすよ。
そして窯に行くと、ガラムドさんが自分が作った陶器を睨んで唸ってたっす。
でもたまにボクの方をチラチラ見てるんすよ」
「そしてボクが近づいていくと、自分が作った陶器をハンマーで壊し始めたっすよ!ボクが慌てて、なんで壊すっすか!もったいないっすよ!って止めようとするとガラムドさんが...」
『陶芸家にとって気に入らない物を残すのは死ぬよりつらい事なんじゃよ。
分かるじゃろ?ロップ君』
「ボクはガラムドさんは鍛冶職人っすよね?ってつっこもうとしたっすけど。大暴れで自分の作った陶器を割りまくるガラムドさんが怖かったっす」
うん、なんかガラムドさんが影響受けたのはどのマンガなのか分かってきたよ。
しかしガラムドのオジキはマジキチか?探すのやめようかな。
なんかもう、どうでも良くなってきたよ。ガラムドさんがらみの話はあんまり参考にならない。まあ続けたまえ。
「でもガラムドさんお気に入りの一品があったっす。真っ黒い歪な形のお椀で、
血が垂れてるような怖い模様だったっす。ボクが気味が悪いっていうとガラムドさんが....」
『何を言ってるんじゃ!これは夕暮れの山が夕焼けに染まって行く光景を表現した傑作じゃ!このトロリと滴る赤い釉薬が夕焼けを表わしているのが分からないのか!』
「ボクは散々ガラムドさんに怒られた後、泣きながらコウエイ様の元に戻ったっすよ」
....ロップも大変だったんだね。リリが暇そうにしているので今日の予定を決めよう。
実は俺は既に昨夜のリリの話で決めていたのだ。鬼人族の村は食料不足らしいが岩塩が採れなくなった事も深刻だろう。
なら塩を大量に作って鬼人族の村へのおみやげにすれば仲良くなれるんじゃね?
よし海への再遠征だ!
そういえば初めてだなロケットストーブ使うのは。
砂浜で集めた薪を割りながらリリに村の話を聞こうと思う。色々聞きたい事があるのだ。
ロケットストーブの廻りに2人を集めた。ロップがリバーシ!リバーシ!
と喚いていたが今晩は却下だ。
「なあリリ、リリは何歳なんだ?」
リリはきょとんとして首を傾げる
「オラ分かんね。なんさいって何だべ?」
え?歳とか数えないの?
「いやリリが生まれてから、どの位たったかって事なんだが」
リリは相変わらずきょとんとしている。
「そんなのオラが分かるはずねえべさ。何を言ってるだ?レイ兄ちゃんは」
どういう事?自分の歳が分からないの?
「ロップ、この世界では歳とか数えないのか?」
ロップも首を捻っている。
「いや、コウエイ様の領地で暮らす人達は、どんな種族でもみんな自分の歳は分かってたっすよ」
う~ん?ここは孤絶した環境だから暦とかの概念が無いのだろうな。
リリの身長は目算で130cm位だ、大体小学3年生位か?
でも鬼人族だからな~。ロップに聞こう。
「なあロップ、鬼人族って人族と比べて身体の大きさはどうなんだ?」
「そっすねー。人族よりは平均的に大きいっすよ。
男の人で大きい人は2メートル位っすね」
ん?メートル?度量衡とか地球と一緒なのか?
「ロップ!今メートルって言ったよな?この世界の度量衡って地球と一緒なのか?」
「なんか、【界審の儀】で転生した人族が決めたらしいっすよ。凄く頭が良い人だったみたいでマルク王国の宰相になったっす。100年前もその血筋は続いてて、確かどこかの侯爵だったっすよ」
成程、太陽系を移植した世界だもんな。まあ単位が前世と同じなら俺にも都合が良い。
そしてリリの事だ。鬼人族が人族の平均よりも大柄だって事はひょっとして小学1年位かもしれないな。現状確認する術はない。質問を続けよう。
「リリ、村の人達は普段どんな暮らしをして、何を食べてたんだ?」
「村のみんなは、女衆は畑で赤芋や黒芋とかを育ててただよ。男衆は川で魚捕ったり、黒猪を狩ったりしてただ。あとギギロフおじちゃんは器を焼いて作ってたし、ドルロフおじちゃんは鉄を叩いて道具を作ってただ」
ふーん。農業と狩猟、それに陶芸や鍛冶もやってるのか。赤芋と黒芋が気になるな、仲良くなって物々交換とか出来ないもんかね。だけど魔物が現れて食べ物が採れなくなったって言ってたよな。その辺を聞いてみよう。
「なあリリ、魔物が現れて食べ物を貰えなくなったって言ってたよな?どういう事なんだ?」
「オラも良く分からねえだよ。ただ魔物が出て南の山に行けねえって村のみんなが大騒ぎしてただよ。それから魚も黒猪も捕れなくなって、みんな赤芋や黒芋ばっかり食べるようになっていっただ。そんでオラも食べ物を貰えなくなっただよ」
そうか、その魔物が原因でリリが村を出なきゃならなくなったのか。
でもそもそも村での扱いが酷いよね。身体はガリガリだし明らかに栄養が足りない。今日はウチに泊めたがリリはこれからどうしたいんだろう。
「リリ、俺はしばらく面倒を見る。今のリリには食べ物が足りないんだ。元気になったら村を探して戻してやるよ。リリもそれでいいか?」
リリは暫く俯いて考えた後に答えた。
「オラ、あんな美味いもん食べたの初めてだ。オラにあんなに優しくしてくれたのは、村ではココエラ婆ちゃんしかいないだよ。レイ兄ちゃんはオラが嫌いなんか?オラここにいてえ!ロップちゃんとも、もっと遊びてえよ!オラちゃんとお手伝いするだよ。オラ、レイ兄ちゃんとロップちゃんと一緒にいてえ!」
ブルマー幼女が泣きながら俺に飛びついて来た、なんだこの背徳感!俺は前世では熟女好きだったんだよ!
何故かロップまで飛びついて来た。
「レイ様!リリちゃんが可哀そうっすよ!ヴァルク将軍はこういう子供達を引き取って育てていたっすよ!」
ぐしぐし泣いているリリの頭を撫でて宥めながら考える。取り合えずしばらくはリリの栄養状態の改善を目指そう。
「リリ、ココエラ婆ちゃんっていうのはどんな人なんだ?」
「ココ婆ちゃんは、村長ゴレロフさんの母ちゃんだ。足が弱いからたまにしか外に出なかったけんども、オラに出会ってもイジメたりしないで優しく頭を撫でてくれただよ。でもオラがココ婆ちゃんに会いに行こうとしても、いつもゴレロフさんに追っ払われただ」
キーパーソンはココエラ婆ちゃんだな。だが鬼人族が"角無し"に対しての差別意識がある限り、リリが鬼人族の村で幸せに暮らすのは厳しいかもしれない。
ん?待てよ。リリは角が無いから人族に見えるし、俺が島を出る時に一緒に連れていくっていう選択肢もあるかも。まあ、まずは鬼人族と接触してから考えよう。
だが鬼人族は俺を受け入れてくれるだろうか?リリも俺を初めて見たときにひっくり返ってたしな。
「なあリリ、俺は取り合えずリリの村の人達と話をしたい。村の人達はこの見た目の俺を受け入れてくれるかな?リリはもう俺を怖くないか?」
「最初はびっくりしたけんども、もう大丈夫だ。レイ兄ちゃんは優しいだ。羽があって赤いけど村の男衆とそんなに変わんねえだよ。ゴレロフさんの方がもっとおっかねえだ」
そうか、鬼人族の男は強面揃いらしい。俺の方が怖くなってきたぞ。俺の中身はブラック企業にも従順な、ただのSEだし。
「ところで、現れた魔物っていうのはどんな魔物なんだ?鬼人族の男衆でも敵わないのか?」
「オラも詳しくは知らねえだ。最初は南の山に塩を採りにいった男衆達が戻らなかっただよ。それで狩人の男衆達が探しに行っただ。でも戻って来たのは一人だけだっただよ。でも、その男衆も村に戻った次の日に身体がムラサキ色になって死んじまっただよ....」
南の山では岩塩が採れるんだろうな。だけど身体が紫色になって死ぬ?
前世でそんな症例があるかは知らないが、これは毒だろう。
「ロップ、どう思う?なんか毒っぽいよな?」
ロップが首を捻って答えた。
「う~ん?魔物を見てないからなんとも言えないっすよ。もしかしたら、
前に話したバシリスクとかコカトリスかもしれないっすね」
毒フルーツを嗜む俺でもヤバいという奴らか!
「なあロップ、地球の伝承ではバシリスクとかコカトリスとかって、毒を撒き散らすとか石化させるとか危険な存在だったんだよ。星母神様はこんな連中とも共存する事を願って世界を造ったのか?それに魔物って天空神の汚染を受けた連中だろ?」
「星母神様はそういう危険な存在とは、生活圏を分ける事で共存していく世界を目指したっす。人型の種族の生活圏と、辺境では異形の種族の生活圏。時には諍いがあるかもしれないっすけど。程よい刺激になるだろうって星母神様は言ってたっす。ただ辺境は天空神の汚染の度合いが酷くて魔物化している割合が多いっすね」
ここも辺境だよな?鬼人族は魔物化してないのか?
前に魔物化すると森小人はゴブリン、猪人族はオーク、人族はグールになるって言ってたよな。
「ロップ、鬼人族は魔物化しないのか?」
「してるっすよ。鬼人族が魔物化したのはオーガって呼ばれてたっす。
物凄く強い魔物っすよ。ただ今いる種族が突然魔物化するって事はないっす。
もう完全に別の種族って感じっすね」
そうか、リリが突然魔物化したらどうしようと思ったのだ。俺とロップが話しているとリリが眠そうにしている。
「リリ、眠いか。そろそろ寝ような」
「オラ難しい話は良く分かんねえだよ」
洞窟に銀マットを敷き、バスタオルを丸めて枕にした。
リリを横たえてブランケットを掛ける。
速攻でリリの寝息が聞こえ始めた。の〇太なみの就寝速度だな。
まあ子供なんてこんなもんか。
そして、俺にはもうちょっとやる事があるのだ。リリから引っ剥がした袋みたいな服?を洗濯する。鬼人族の村に連れて行くにしても今の体操服&ブルマー姿では流石に怪しいだろう。
貴重な洗剤を投入して手動洗濯機でぐるぐる洗濯&脱水を3回繰り返した後、取り出した服?を物干しに干した。これ綺麗になってるのか?ただの子汚い穴の開いた袋にしか見えない。まあ匂いが無くなったので良しとしよう。
ロップはリリとリバーシが出来なかったので不貞腐れて寝ている。コイツにはいずれ文句を言いたい処もあるが、まあ相談役だしな、今は我慢しよう。
そういえばリリはお手伝いをすると言っていたな、いい子だね~。
翌朝6時。銀マットでうつ伏せで寝ていた俺が目覚めると、背中が重たい&冷たい。起き上がるとリリがコロンと背中から転がり落ちた。
リリは俺の背中で寝ていたようだ。だがこの冷たいのは?まさかオネショか!
リリが目を擦りながら目覚めた。
「レイ兄ちゃんお早うなっす。今日は何をするんだべ?オラお手伝いするだよ」
朝起きてすぐにお手伝いをしようとするのは偉いと思う。だがオネショは怒らねばならない。
「リリ!お仕置きだべ~!なんで俺の背中で寝てオシッコするんだ!」
リリはポロポロ涙を零しながら謝った。
「許してくんろ!オラおっ父とおっ母の夢を見ただよ。オラも良く分かんねえだよ」
両親が出てくる夢を見て、寝ぼけて俺に抱きついてきてオネショした訳か。
まあ仕方がないか。
コウエイ様の遺品のをほじくり返してリリの着替えを発掘する。俺の分は前に洗濯したのがあるからな。
出て来たのは、またブルマーと体操着だ。コウエイ様のこだわりにドン引きしつつリリに着替えを渡した。
「リリ、お漏らしした服を脱いで川で身体を洗ってから着替えなさい。あまり深い所に行っては駄目ですよ。ロップ君もリリをちゃんと見といてあげるように」
「うん、分かっただよレイ兄ちゃん。ごめんなさいだよ」
「うにゃ~ボクがリリちゃんについてるから心配ないっすよ!」
ロップに任せるのはいささか心配だ。俺も上流の滝壺に飛び込んで身体を洗った後に着替えて洞窟に戻った。
今日の朝飯は昨日釣った残りの茶鱒だ。食事が終わった後、リリが不思議そうにプラ皿を眺めている。
「レイ兄ちゃん、昨日も思ったけんど、このお皿は何で出来てるだ?こんなに軽くてスベスベしてるお皿はオラ見たことねえだよ」
う~ん。これは説明が出来ないな。取り合えずスルーしてリリに聞き返そう
「リリの村ではどんな食器を使ってたんだ?」
「オラ、ギギロフおじちゃんの手伝いを良くしてただよ。泥を捏ねて紐みたいにこしらえて、ぐるぐる積み重ねて器さ作るだよ。その後に焼くと硬い器になるだ。
オラは泥を紐にするお手伝いを良くやってただよ。ギギロフおじちゃんはあんまりしゃべらないけど、オラをイジメなかったからギギロフおじちゃんは好きだ」
縄文式土器みたいな感じか。ギギロフさんは職人気質の人なんだろうな。ロップにも食器事情を聞いてみよう。
「ロップ、コウエイ様の領地では食器はどうだったんだ?」
「うにゃ~。木製とか金属製が多かったと思うっす。でも陶器もあったっすよ。
ガラムドさんがコウエイ様の資料に影響されて、陶器作りにハマってた時期が
あったっす」
「コウエイ様の資料?コウエイ様は陶芸が得意だったのか?」
「違うっす。コウエイ様が恩恵ポイントで持ち込んだモノっすよ。
コウエイ様は"まんが"って言ってたっす」
コウエイ様、何故マンガを買うんだ?だから必要な物が揃えられなかったんだろうが!俺の中でコウエイに対する評価はどんどん下がっている。
でも食器のレベルである程度文明の度合いが判断できるよな。この島はリリから聞いた感じでは縄文時代位か?大陸ではどうなんだろう。
17世紀位って天空神の使徒は言ってたが。
「それでガラムドさんはどんな食器を作ってたんだ?」
「うーん?ガラムドさんはあの時期は変だったっすよ。まあいつも変な人だったっすけどね。"まんが"に影響されて陶器の工房に入り浸ってたっす。ずっと工房に引きこもってるんで、コウエイ様がボクを使いとして派遣したんすよ。
そして窯に行くと、ガラムドさんが自分が作った陶器を睨んで唸ってたっす。
でもたまにボクの方をチラチラ見てるんすよ」
「そしてボクが近づいていくと、自分が作った陶器をハンマーで壊し始めたっすよ!ボクが慌てて、なんで壊すっすか!もったいないっすよ!って止めようとするとガラムドさんが...」
『陶芸家にとって気に入らない物を残すのは死ぬよりつらい事なんじゃよ。
分かるじゃろ?ロップ君』
「ボクはガラムドさんは鍛冶職人っすよね?ってつっこもうとしたっすけど。大暴れで自分の作った陶器を割りまくるガラムドさんが怖かったっす」
うん、なんかガラムドさんが影響受けたのはどのマンガなのか分かってきたよ。
しかしガラムドのオジキはマジキチか?探すのやめようかな。
なんかもう、どうでも良くなってきたよ。ガラムドさんがらみの話はあんまり参考にならない。まあ続けたまえ。
「でもガラムドさんお気に入りの一品があったっす。真っ黒い歪な形のお椀で、
血が垂れてるような怖い模様だったっす。ボクが気味が悪いっていうとガラムドさんが....」
『何を言ってるんじゃ!これは夕暮れの山が夕焼けに染まって行く光景を表現した傑作じゃ!このトロリと滴る赤い釉薬が夕焼けを表わしているのが分からないのか!』
「ボクは散々ガラムドさんに怒られた後、泣きながらコウエイ様の元に戻ったっすよ」
....ロップも大変だったんだね。リリが暇そうにしているので今日の予定を決めよう。
実は俺は既に昨夜のリリの話で決めていたのだ。鬼人族の村は食料不足らしいが岩塩が採れなくなった事も深刻だろう。
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そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。
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最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。
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