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異世界にて……

6.人体急所<金的>(前)

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   私が泊まることになった道場の名前は、「全国空手道連盟捻転流」というものの本部だった。
   道場主はおよそ強者とは思えない体つきであったが、その雰囲気は圧倒的だった。
「ようこそ。私は金精 捻蔵」
「私は大石植原剛達だ」
「聞かない名前だが、旅のものか?  まぁ、数日は好きに休めばいい」
   金精はなれたように言った。

   食事等も提供してもらい、八日程たつと、私は怪我も治りすっかりよくなった。
   そして、私がよくなったのを確認した金精が私を道場に呼び出した。
「君は、旅のものだろう?  それなりには腕がたつようだが、すぐに出ていきなさい」
  彼は 威圧するようにそういいはなった。
「私の実力では不十分ですか?」
「君の戦った木村は、闘技者fighterの中でも実力は下の下だといっていいだろう。そして彼の柔道は本気ではなかった事はいうまでもないだろう?  君では不十分なのは明白だ」
   私は武道家だ。
   齢十七の若輩者ではあるが、これまでで自らを武道家と自負するだけの鍛練は積んできたつもりだ。
「私は、もっと強くなる。今でも強い」
   はっきりと言った。
「ならば、我々の会話はここまでだ。後はそうするしかないだろう……」
   金精はそう言うと、ゆったりと立ち上がり、構えた。
   身体を前屈させ、拳を構える……見たことのない構えだ。
   私は後屈立ちを選択した。

『構えとは、その者が使うものを如実に表す。ボクサーがグラップラーのクラウチングスタイルをとることはまずないだろう。では、見たことのない構えに出くわしたらどうするだろうか?  構えにはいくつかのポイントがあるが、ここでは制空権と重心について考えよう。まず制空権であるが、単純に言うと、手の位置である。ボクシングのように身体に手を密着させれば制空権は狭く(グローブで弾いたりすることができ、避けることが主体であるため)、空手の前羽の構えのように手を前に出せば、自分と相手の間に一枚壁を作り、制空権を広げる(実践の裸拳顔面ありを想定しているため、しっかりと相手の拳のベクトルをずらす、いなすといったことが必要。裸拳は大きさも小さく、グローブがついていないため当たると痛いので、受けるにもこつがいる)ことができる。これを見てわかるのは(必ずしもそうとは限らないが)相手が攻撃主体か防御主体かである。一般に攻撃主体であると手技の出しやすい制空権の狭い構えになる。逆に防御主体の構えであると小さい動きで相手の攻撃を捌く、また相手に攻撃をしにくくさせるため制空権は広くなる。そして、重心であるが、これは単純に前ならば攻撃主体、後ろならば防御主体と言えるだろう。右の場合、大石植原剛達は相手を攻撃だと判断し、見たことのない構えだったため危険と判断し、防御の後屈立ちを選択したといえる。』

「せやぁ」
   気合いと共に拳が飛んでくる。
   内受け、外受け、上げ受け、手刀受け、あらゆる受けで攻撃を受ける。
   主に人体急所を狙ったそのラッシュはカジュケンボを彷彿させた。
   私は、ファーストコンタクトを全て受けきった。
   その慢心もあったのだろうか。私は地獄を見た。
「フッシ、ュ」
   呼吸と共に再び攻撃が来る。
   いきなりの右ストレート……上げ受けで受けた後、重心移動を使った渾身の逆突き……
「ギャアッ」
   突然、私は激痛に襲われた……
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