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大石植原剛達、死す

2.知らない地にて

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「……お目覚めください」
   奇妙な声に目を覚ますと、そこには美しい大胸筋をちらつかせる大男がいた。
「貴様、誰だ!」
「私は、モハンメソッド・アシューリだ。君をここに呼ばせてもらった」
   男は静かにそう言った。
「ここは、どこだ」
「君の感覚で言えば異世界と言うことになる。君はこれからこの世界で生きていくことになるかもしれない……」
「異世界か……非科学的だが、まぁいい。それよりも、かもしれないとは、どういうことだ?」
「察しがいいね」
   そう言うと、男は構えた。
   拳闘ボクシングオーソドックス右構え、クラウチングスタイルだ。
   どうやら、やりあうらしい。
   私は、フルコンの構えをとった。
「実践空手の構えでいいのかい?  顔面ががら空きじゃないか。知ってるよ、別のも使えるんだろ? 」
   もう、耳を貸す必要はない。あとは強さがものを言う。
   何秒かの静寂のあと、相手が動いた。
   ジャブが、飛んでくる。
   私はそれを頭蓋骨で受ける。

『頭で拳を受けていいのか、格闘技に精通した人ならばもはや常識だろう。頭は、拳よりも硬い、まともにぶつかれば壊れるのは拳だ。実践空手が顔面を禁止するのは裸拳であると言うのが大きな要因だろう。』

   ジャブ程度なら拳のクラッシュは期待できないが、ノーダメージで受けられるだけで十分だ!  
   ジャブを引くと、男はすぐにストレートを打ち込んできた。拳闘の基本、所謂ワンツーだ。
   狙いは人中あたり。
   フルコン構えの私がとったのは、ダッキング等ではない。
   構えからの、上段上げ受け。
   そして、ストレートを上にそらし、空いた脇腹に中段突きをきめる。
「グアッ」
   短い悲鳴と共に、男は崩れ落ちた。
   極ったことを確信し、構えを緩める。
   しかし、男はすぐに立ち上がった。
   そして、笑いながら言った。
「ギリギリ及第点だね。とどめをさす動作があればよかったんですけどねぇ……」
   肋骨をへし折る勢いで極めた正拳が、効いていなかった。
   私が呆気にとられていると、男は喋り続けた。
「とりあえず、必要な知識はインプットしたよ。ここまでは転生したときのサービスとしてあるんだけど、他はなんもないから気を付けてね。それじゃあ、さようなら……」
   男がそう言うと、私は耐え難い眠気に襲われた……
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