断罪

宮下里緒

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二十四話 悪の契約

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率直なところ秋保勝生は反社会的人格の持ち主である。

これは、幼少時に親から激しい虐待にあいそれにより性格が歪んでしまったわけでも悪い出会いが有り悪に目覚めたわけでもない、これは元来の彼の性格、もともとサディスト気質であった彼がここまで異常な行動をとり始めたのは彼がまだ小学三年生の時に起した事件がきっかけだった。

三丸小学校鶏惨殺事件。

これがまだ当時八歳だった彼が世間にもたらした事件の名だった。

この事件の犯人は彼を含めた三人の子供達だった、彼らは放課後の学校へと戻り用意してきたカッターで鶏たちを殺した。

事件はもちろんすぐに発覚し勝生達の犯行だということも後日判明した。

変質者の正体が三人の子供だったことに大人たちは大いに驚き三人をそれぞれ親同伴の元個別に呼び出し事情を聞くことにした。

この際、勝生とともに犯行を犯した二人の少年は以下のように答えた。

『勝生にカッターを押し付けられて、鶏を刺さないとお前達を刺すと言われて、怖くなった鶏を刺しました』

この回答の真偽を確かめるため大人たちは直ちに勝生を呼び事情を聞いたのだが。

この時の光景を勝生は未だに昨日のことのように覚えている。



勝生が案内された校長室は何ともいえない革物の製品の臭いに満ちていた。

臭いの元は多分あの黒いソファーからだろう。

部屋の中央に鎮座するそのソファー席は向き合うように四席あり、入口側に勝生の母、秋保沙和香、その表情は不安に満ちている。

そしてその正面には担任の道号直人と三丸小の校長である兼嗣賢が神妙な顔で座っていた。

大人たちの顔つきはみんな真剣そのものそんな中、勝生だけは初めて入る校長室に浮かれ気味だ。

呼び出しの内容はもちろん例の事件について。

『ふたりは、君に脅されてやったと言っているがそうなのかな?』

校長先生が穏やかでありながらも鋭い視線で勝生にたずねる。

その妙に真面目な空気が面白くてそして自分が注目されていることが嬉しくて彼は得意げに答える。

『うん、うんそうだよ。俺がやったの俺がね。あいつらは怖がってたけど、俺は全然怖くなんかなかった。ねぇ!すごくない!』

嬉々として語る彼に教師は深い溜息を吐き、母親は涙を見せた。

その反応に勝生は少しの不満を覚える。

みんなもっと驚いてくれるかと思ったのにと。

『君はなんでこんなことをしたのかね』

それは、怒りよりも悲しみに満ちた声だった。

『なんで?やりたかったからだよ。ねぇねぇ知ってる?鶏にね包丁刺したらすごく変な声で鳴くんだよ!それにね刺したとき手にぐにゅって感じがあってね、とても気持ちよかったんだよ!それでね・・・』

結局、この話をした数日後、俺はとある病院へと送られることになった。

最初は病院に行くと聞いたとき自分がなんだか特別になれたような気がしてある種の優越感に浸っていたのだが、実際に通ってみるとつまらないことこの上ない、変な大人たちに変な検査、変な質問、変な日々それらに飽き飽きしていた頃、俺はアレにに出会った。



ヒル、そしてリリとの出会いは去年の夏のことだった。

『君はもっと大きなことができる人間です。違いますか?』

そんな風にいきなり声をかけられた。

『誰?』

『自分のことは・・そうですねヒルとでも呼んでください』

『ヒル?』

『ええ、それが自分にふさわしい名でしょう』

ヒルの傍らに立つもう一人の人物は名乗る気配はなく、それに気づいたヒルが代わりに紹介をする。

『こちらはリリと言いまして。まぁ、今回は話すこともないでしょうから無視してあげてください』

『はぁ、それで。そのヒルがいったい何の用なの?』

『アナタの手伝いがしたいと思いまして』

『手伝い?』

『ええ、貴方は特別になることを望んでいる、それに力を貸したいんです。貴方の物語が見たくなりまして』

絡みとるような目つきでそれこそ蛭のよう貼りつかんばかり視線はなんだかおぞましいものを感じる。

『うっ・・・』

『そんなに畏まらないでください。それではまるで小動物のようですよ。もっと堂々としていいのです。自分は単に貴方の手助けをしたいだけなんだから』

『だから何なんだよ、それ』

『貴方の願望を解き放ってあげます』

『解き放つ?』

『はい。貴方の願望は残念ながら今の社会には受け入れられにくいもの、けれどその世間から外れた人格を世間のルールに埋もれさせるのはもったいないそう思ったんです』

『どうしますか?このままただの凡人として本当の自分を隠していき続けますか?それとも自分とともに来て貴方の中にある衝動を欲望を思う存分に解き放ち真の貴方へと帰還しますか?さぁ、貴方の望みはなんですか?貴方は一体どうしたいのですか?それを口にするだけで望みは必ずかないます』

頭に直接語りかけられるような妙な感覚、そして自身の願望を見てくれる人がいることへの嬉しさもあり勝生は知らず知らずのうちにそのただれた欲望を口にしていた。

『人を、人を殺してみたい。誰でもいいから殺してみたい』

『いいですよ。それができる舞台を自分が整えることを約束します。だから自分についてきなさい、今こそ社会の鎖から抜け出して貴方のいた証をこの世界に刻みましょう。どうですか?』

穏やかな口調とともに差し出される手、自身の悪性など霞んで見えるほどの強大なる悪。

この手を握り返すということは自ら破滅に向かうことを受け入れるということ、そもそもこんな初対面の人物の言うことなんて信用できない、そういった理性なんていつの間にか無くなってしまい。

『握りましたね手を』

手を握ってしまった。

後はもう落ちていくだけこの血の味を知っているヒルの言われるがまま彼もまた誰かの血なしでは生きれれない害獣とその身を変貌させていくのみだった。
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