断罪

宮下里緒

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十六話 夏の日の朝

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ジリジリとなる機械音、のろのろとベッドから起き上がった七川浅利はけたましくなる自身の携帯のアラーム音をオフにした。

眠気まなこであたりをゆっくりと見わたす。

部屋は明るく白を基調とした壁紙は夏の朝日を浴びサンサンと輝いて見える。

部屋の中央に置いてある丸い白台に至ってはもう眩しいほどだった。

ふとベッドの横を見ると少女漫画が二冊ほど積まれていた。

「なおし忘れてたな」

浅利はそうつぶやくと本を手に取りベッド横の本棚にしまう。

再び携帯を手に取り時間を確認すると午前7時38分だった。

約束の時間までは約3時間半、そろそろ起きるべきだろう。

そう思い彼女は部屋をあとにしたのだった。



「ママ、おはよ」

「うん、おはよう浅利ちゃん」

未だ眠気まなこの浅利の気の抜けた挨拶に母である七川久江はにこやかに答える。

その手には洗いかけのお皿が握られており、部屋にはコーヒーの香りが漂っていた。

「パパは仕事?」

「ええ、三十分くらい前には出かけたわよ」

「ふ~ん、休日なのに大変だね」

「まぁ、この不景気に忙しいのはいい事なのかもしれないけどね。それよりあんたも今日は出かけるんでしょ?朝ごはんなんにする?」

「パパと一緒でいいよ」

そう言って出されたのは、昨日の残りのポテトサラダを食パンで挟んだサンドイッチだった。

あさりはそれを頬張りながら一緒に出てきたホットコーヒーを飲む。

ミルクが少なめなのでほろ苦かったが脳を覚醒させるにはちょうどいいきつけ薬になった。

「今日は何時ぐらいに出かけるの?」

久江は自分の分の食事を持ってきて、浅利の目の前に座り、テレビをつけた。

内容はよくわからない政治問題の報道だった。

「十時半には出るよ」

「帰りは?」

「わかんないけど、夕方くらいかな?」

「アンタ、遊ぶのはいいけど程々にしなさいよ。今の世の中平和ってわけじゃないんだから」

そう、いつになく真剣なに語る母の言葉を浅利は笑って流す。

「大丈夫だって、そんな簡単に危ない目なんかに合うわけないもん」

「アンタ、そう能天気だと本当に・・・」

「じゃあ、私準備あるから。ごちそうさま」

まだ何か言いたげな母を振り切り浅利は階段を駆け上がる。

(ママは心配性だよ。私だってちゃんと考えてるんだし。いつまでもうるさいんだから)

ボスリとベッドに勢いよく腰を下ろしながら不満げにそう思う。

前はさほど気にならなかった親のいいつけがここ最近はやけに煩わしく感じ、だんだんとストレスが溜まってきているのが自分でも感じられていた。

それに応じるように浅利の外出は増え続けそれにともない両親の小言は増えていくという悪循環に陥ってしまっているのだった。

「やめよう」

浅利はそう一言つぶやくと、家族への不満を無理やり胸の内へとしまいこんだ。

せっかく遊びに行くのにこんな暗い気持ちじゃ楽しめない。

そう心を入れ替えて浅利はお気に入りの白のワンピースに着替え始めたのだった。







灼熱の太陽とういスポットライトの下、ミンミンと盛大なる合唱を奏でるアブラゼミたち一体どこからそんな元気が湧いてくるのだろうか?

その元気を私にも分けてくれ、そんな愚痴をこぼしたくなるような暑い夏の日、浅利は待ち人の約束の場所、三丸公園のベンチに腰掛けていた。

つい五分ほど前に自販機で買ったファンタグレープは今やただのアキカンとかしている。

「暑っ」

本当にうだるような暑さだ、これで本当にまだ六月なのか。

せっかく心を切り替えて来たというのにこんな環境にさらされてはまた鬱憤が積もってしまう。

「全部地球温暖化のせいだ」

そんな愚痴をこぼしながら飲み終えたファンタグレープを近くのゴミ箱に投げ入れようとしてコーンと若い男にぶつかった。

「やば!」

咄嗟に目を背けるがもはや遅い、金髪の男は恐ろしい形相でズカズカトこちらに歩み寄ってくる。

(ああ、こっち来ちゃうよ。どうしよう)

自身に非があるとはいえ怖くてたまらず、不意に今朝の母の言葉を思い出し泣きそうになる。

周りには人もいるがみんな見て見ぬふり、もしくは本当にただ面白がって見ているだけの人だけ。

当然だ、多分立場が違ったら自分だってそうしただろうから。

誰だって自分が一番で、自分と無関係の事件なんかは野次馬心が湧くもの。

それは、私も例外じゃない。

それはわかっている、わかっているけど・・・。

(やっぱり怖いよ)

ギュッと唇をかみしめて、身を縮こませて固くする。

そんな時再び男の頭にスコーンと空き缶がぶつかった。

「痛っ!!誰だコラ!!!」

あたりの怒鳴り散らす男、けれど次の空き缶は人ごみからぶつけられたため誰だかわからない。

男は今度は人混みの方へと向かい怒鳴り散らし出す。

そんな様子を浅利が少し呆けた顔で眺めていると。

「行くよ!」

と、急にだれかに腕を引かれた。

「うぁ!」

驚きながら浅利は手の主を見る。

「恵子ちゃん!?」

「何してるの!早く逃げるよ!!」

そう、言われるがまま浅利は恵子に連れ去られる。

一体どれだけ走ったのだろうか?

細い路地裏を抜け人目がなくなったところで恵子はその足を止めた。

息も切れ切れの浅利に対し恵子は軽く頬が火照っている程度だった。

「もぉ!ビックリしたよ。浅利、アンタ、何絡まれてんの!?」

「い、いや、その、ってか、あの空き缶あてたの恵子ちゃんなの?」

驚きと、乱れた呼吸のせいでまだうまく言葉を発せない浅利が切れぎれにそう尋ねる。

「当たり前じゃん。じゃないとああも都合よく現れないでしょ。でもあんなことになるなら待ち合わせじゃなくて現地集合か家に迎えにでも行けばよかったね」

失敗したな~と、ぼやく恵子に浅利はブンブンと首を振る。

「そんなことないよ、待ち合わせにしようって言い出したのは私だし、私が悪いんだよ。恵子ちゃんさっきは本当にありがとう!!」

深々と頭を下げる浅利に恵子は少しだけ目を伏せ、

「いいよお礼なんて。ってか、そんなにかしこまらないでよ私まで恐縮するじゃん」

と苦笑を交え言った。

「うん、でもあのお兄さんには悪いことしたな」

「あんなの気にしない気にしない。別に怪我をさせたわけじゃないんだし、それにああしないとアンタがひどい目に遭ってたかもしれないんだから、自己防衛ってことでいいじゃん」

「いいのかな?」

「いいの!はい、これでこの話は終了です。それより浅利、今日の目的忘れてるわけじゃないよね」

手を胸の前でパンと叩く恵子、おそらく彼女なりの話題変更のためのパフォーマンスなのだろう、それに若干驚きつつ浅利が答える。

「もちろんわかってるよ」

「じゃあ、ちゃんとアレも用意した?」

こくりと頷く浅利、その反応に満足したのか恵子は大きく頷く。

「よし、なら急ごう!多分みんな集まってると思うから」

そして小走りで移動し始めた恵子に再び引っ張られるように浅利も新たな待ち合わせ場所へと移動を始めるのだった。

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