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一話 プロローグ
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その日いつもより早くバイトを切り上げることができた林田恵子はタクシーに乗り込み三丸病院へと向かっていた。
三丸病院は市街地にたたずむ古ぼけた病院である。
子供の頃からあそこには昔、女子トイレで病気を苦にして自殺した女の霊が女子トイレの窓から恨めし顔で通行人たちを見ているという噂が立ついわくつきの場所であった。
なんともバカバカしい話だが子供の頃はそれがとてつもなく恐ろしい話に思えて全く近寄ろうとはしなかった。
それが今では週に一回はこの場所に訪れているなんて昔の私が知ったら卒倒ものだろう。
ちなみに、私がこの病院に通いだしてから幽霊の類を見たということは一度もない。
当たり前と言えば当たり前の話、この世にはそんな奇妙奇天烈なものはいない、それが現実だ。
それに仮にいたとしてもそんな恐怖あの時の恐怖に比べれば微々たるものでしかないだろう。
キッーというタクシーのブレーキ音。
気づけばいつの間にか三丸病院の正面玄関に車体は停車していた。
運転手にここまでの料金九百六十円を支払うと正面入口に入る。
院内は、右手にカウンター左手にソファーが置いてあった。
ソファーには数人の来客が座っておりそのほとんどが老人だった。
カウンターの看護婦に会釈をし、足早に目的の場所へと向かう。
目的の病室は三階の301号室、一人部屋のその病室にはひとりの女性が横たわっていた。
黒のショートヘヤーにところどころ白髪が見える目尻に皺がより顔の肉が全体的に垂れ下がっていた。
その老婆のようないでたちとても36歳の女性には見えない。
そんな彼女に恵子は優しく微笑みかけた。
「こんにちは、京香さん。気分はどうですか?」
「・・・・」
返答はなく京香と呼ばれた女は視線だけをゆっくりとこちらに向けるだけであった。
意識はあるが、対象の判別ができない。
それが医師から告げられた彼女の症状だった。
従っていま恵子のしていることは無意味かもしれないが彼女を前にすると自然と口が開いてしまう。
「京香さん。私先日誕生日を迎えたんですよ。もう二十一です。少しは大人らしくなりましたか?」
「・・・・」
「京香さん、私いま京香さんみたいな大人になりたくてたくさん勉強しています。できれば京香さんみたいに施設で働ければいいと思っています。あっ、頑張ってるのは私だけじゃないんですよ、他のみんなもとても一生懸命で。まぁ、大志のやつは探偵なんてわけのわからない仕事をしてますけど。しかも全然売れてないんですよまったく、生活管理くらいしっかりしろってんですよね。あは」
「・・・・」
相変わらず独り言は続く。
なんだか無性に虚しくなり泣きたくなった。
「どうして、こんなことになったんですかね?あの頃はみんな幸せだったのに。戻りたいですね京香さん、あの頃に」
そっと彼女の右手に触れてみる反応一つない。
ただぼんやりと天井を眺めているだけだ。
もしかしたら京香は未だにあの日々の中にいるのではないだろうか?
ふとそんなことが頭をよぎった。
彼女の目に写っているものは現在ではなくあの過去の日々ではないのだろうか?
そんなことを思った。
だとしたらそれは・・・。
「そろそろお邪魔します。また、来ます」
ペコリと頭を下げ部屋を後にする恵子、そんな彼女に目をやることなく京香は相変わらず天井を眺め続ける。
けれどその眼球を通し脳裏に広がる映像は天井ではなく恵子の思った通り過去の映像、今から十二年前のとある施設の光景であった。
三丸病院は市街地にたたずむ古ぼけた病院である。
子供の頃からあそこには昔、女子トイレで病気を苦にして自殺した女の霊が女子トイレの窓から恨めし顔で通行人たちを見ているという噂が立ついわくつきの場所であった。
なんともバカバカしい話だが子供の頃はそれがとてつもなく恐ろしい話に思えて全く近寄ろうとはしなかった。
それが今では週に一回はこの場所に訪れているなんて昔の私が知ったら卒倒ものだろう。
ちなみに、私がこの病院に通いだしてから幽霊の類を見たということは一度もない。
当たり前と言えば当たり前の話、この世にはそんな奇妙奇天烈なものはいない、それが現実だ。
それに仮にいたとしてもそんな恐怖あの時の恐怖に比べれば微々たるものでしかないだろう。
キッーというタクシーのブレーキ音。
気づけばいつの間にか三丸病院の正面玄関に車体は停車していた。
運転手にここまでの料金九百六十円を支払うと正面入口に入る。
院内は、右手にカウンター左手にソファーが置いてあった。
ソファーには数人の来客が座っておりそのほとんどが老人だった。
カウンターの看護婦に会釈をし、足早に目的の場所へと向かう。
目的の病室は三階の301号室、一人部屋のその病室にはひとりの女性が横たわっていた。
黒のショートヘヤーにところどころ白髪が見える目尻に皺がより顔の肉が全体的に垂れ下がっていた。
その老婆のようないでたちとても36歳の女性には見えない。
そんな彼女に恵子は優しく微笑みかけた。
「こんにちは、京香さん。気分はどうですか?」
「・・・・」
返答はなく京香と呼ばれた女は視線だけをゆっくりとこちらに向けるだけであった。
意識はあるが、対象の判別ができない。
それが医師から告げられた彼女の症状だった。
従っていま恵子のしていることは無意味かもしれないが彼女を前にすると自然と口が開いてしまう。
「京香さん。私先日誕生日を迎えたんですよ。もう二十一です。少しは大人らしくなりましたか?」
「・・・・」
「京香さん、私いま京香さんみたいな大人になりたくてたくさん勉強しています。できれば京香さんみたいに施設で働ければいいと思っています。あっ、頑張ってるのは私だけじゃないんですよ、他のみんなもとても一生懸命で。まぁ、大志のやつは探偵なんてわけのわからない仕事をしてますけど。しかも全然売れてないんですよまったく、生活管理くらいしっかりしろってんですよね。あは」
「・・・・」
相変わらず独り言は続く。
なんだか無性に虚しくなり泣きたくなった。
「どうして、こんなことになったんですかね?あの頃はみんな幸せだったのに。戻りたいですね京香さん、あの頃に」
そっと彼女の右手に触れてみる反応一つない。
ただぼんやりと天井を眺めているだけだ。
もしかしたら京香は未だにあの日々の中にいるのではないだろうか?
ふとそんなことが頭をよぎった。
彼女の目に写っているものは現在ではなくあの過去の日々ではないのだろうか?
そんなことを思った。
だとしたらそれは・・・。
「そろそろお邪魔します。また、来ます」
ペコリと頭を下げ部屋を後にする恵子、そんな彼女に目をやることなく京香は相変わらず天井を眺め続ける。
けれどその眼球を通し脳裏に広がる映像は天井ではなく恵子の思った通り過去の映像、今から十二年前のとある施設の光景であった。
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