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11話
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今回二人が宿を取った民宿『神山』は民宿を営む秋瀬夫婦の自宅を改装したものらしい。
民宿は渡り廊下を境として秋瀬夫婦宅と客室に分けられている。
そして今二人はその秋瀬夫婦宅へ訪れていた。
昔ながらの和室通され座布団に座る二人。
部屋にあるのは木製のテーブルに食器棚と最低限の生活用品それと飾られている家族写真。
映ってるのは若い男女とその二人に抱えられている赤ん坊。
女性は秋瀬夫人で間違いないようだ。
なら隣に写る男性が夫か。
いつの頃に撮影したものかはわからないが、目の前の彼女も写真の中同様まだ二十代前半ほどに見える。
違いは今は髪をポニーテールで纏めているくらいか。
「今日のお客さんがアナタ達だけでよかった」
「今日だけじゃないんでしょ?こんなところに来る物好き私たちぐらいだと思うけど。こんなところに民宿経営するのも恵子さんたちくらいだけだと思うけど」
意地悪な笑みを浮かべそう指摘する綾音に秋瀬夫人は乾いた笑みを漏らす。
「ハハ。アナタすごいわね。その年でそんなにズケズケと。そうね、アナタの言う通りお客はアナタたちが3ヶ月ぶり。まぁ趣味でやってる民宿だから経営難とかはないんだけど、やっぱりあの事件以来人はこの地を避けるようになった」
それはあの断罪事件のことを言っているのだろう。
「あの、秋瀬さんで良いかい?」
翼が念のため名前を確認すると秋瀬夫人はコクリと頷く。
「秋瀬恵子、あの本もう一度よく見せてもらえない?」
恵子がそう切り出すと綾音が承知してかのようにカバンから本を取り出す。
恵子はそれを躊躇うことなく手に取る。
「黒絵聖那、やっぱり同じ作者」
「この作者に覚えが?」
翼が尋ねると恵子が頷く。
「タイトルは違うけれど、以前同じ作者のものが町の図書館にあったわ」
「そのタイトルは?」
「断罪への道」
ああ、その本かと翼は納得する。
綾音もすぐにカバンを漁り例の本を取り出した。
『断罪への道』そう書かれた本を前にして恵子の体が固まる。
「どうしてこの本をアナタたちが?」
「叔父の部屋にありました。それでこの本を読んで例の断罪事件とのつながりに気がついてこの街に来た」
綾音が簡潔にここにきた理由を述べる。
補足として今起きている自殺事件と『首切り姫』の関連性を翼が告げる。
その話を聞き恵子は頭を抱える。
「アイツはまだ繰り返してるの」
その呟きに綾音の目が煌めく。
「ねぇ、アイツって誰?恵子さんは何か事件のこと知ってるの?」
けれど恵子から帰ってきたには厳しい眼差しだった。
「アナタたち帰りなさい!こんなことに関わっちゃいけない!」
バンと机を叩きながら身を乗り出す恵子に翼は少し退くが綾音は一切微動だにしない。
むしろ不敵に笑ってみせた。
「何か知ってるみたいですね。翼さんこの人から聞き出しましょう」
笑みがだんだんと邪悪になってくる綾音、このままだと良い展開にならないと翼が割って入る。
「秋瀬さん。何か知っているなら教えていただきたい、この通りです」
頭を下げる翼だが恵子は決して首を縦に振らない。
「このまま帰るのがアナタたちの為なんだよ。アレに人が関わるべきじゃない」
そう顔を背けてしまう。
「叔父が失踪してるの。お願い知ってることがあるなら教えて。お願い」
先程までの悪魔的な笑みはどこへやたら。
一転してしおらしい綾音の態度。
瞳にはすでに涙が溜まっていた。
その姿に恵子も翼もギョッとした。
「叔父さんが?」
恵子の顔に同情の色が浮かぶ。
それを見逃す綾音ではない。
今が攻め時だと身を乗り出した。
「この件が大変なことは承知です。恵子さんが私たちを心配してくれるのは嬉しですけど、私たちも同じくらい叔父が心配なんです。お願いだから知ってること教えてください」
溜まっていた涙はすでに頬を伝い出している。
恵子は少しの沈黙の後深く息を吐くと。
「少しだけ待ってもらえる?この件について私より詳しい人がいる。その人に聞くのが一番だと思うから」
と部屋を出て行った。
恵子の足跡が遠ざかると同時に綾音は涙をハンカチで拭った。
「器用なもんだなぁ。涙ってそんな簡単に出るものかい?」
感心するように翼が言うと綾音はニタリと嗤う。
「練習したんですよ。今回みたいに役に立つこともあると思ったんで。強行手段より情に訴えた方が上手くいくこともあると学びましたから」
「それにしても泣き落としとはね。嘘でも君の涙なんて初めて見たから度肝抜かれたよ。直前まで恵子さんに脅迫まがいなことでもしそうな雰囲気だったしさ」
それについては否定できない。
実際、綾音はどう恵子の身動きを封じ尋問しようかと考えていた。
けれど直後の翼の行動が彼女を止めた。
「翼さんが頭を下げてまで荒事を避けようとしたんだ。アレくらいの演技するよ」
ぷいと顔を背けて言い放つ綾音。
この少女はたまに本当に年相応の姿を見せる。
そのギャップが彼女の魅力でもあった。
民宿は渡り廊下を境として秋瀬夫婦宅と客室に分けられている。
そして今二人はその秋瀬夫婦宅へ訪れていた。
昔ながらの和室通され座布団に座る二人。
部屋にあるのは木製のテーブルに食器棚と最低限の生活用品それと飾られている家族写真。
映ってるのは若い男女とその二人に抱えられている赤ん坊。
女性は秋瀬夫人で間違いないようだ。
なら隣に写る男性が夫か。
いつの頃に撮影したものかはわからないが、目の前の彼女も写真の中同様まだ二十代前半ほどに見える。
違いは今は髪をポニーテールで纏めているくらいか。
「今日のお客さんがアナタ達だけでよかった」
「今日だけじゃないんでしょ?こんなところに来る物好き私たちぐらいだと思うけど。こんなところに民宿経営するのも恵子さんたちくらいだけだと思うけど」
意地悪な笑みを浮かべそう指摘する綾音に秋瀬夫人は乾いた笑みを漏らす。
「ハハ。アナタすごいわね。その年でそんなにズケズケと。そうね、アナタの言う通りお客はアナタたちが3ヶ月ぶり。まぁ趣味でやってる民宿だから経営難とかはないんだけど、やっぱりあの事件以来人はこの地を避けるようになった」
それはあの断罪事件のことを言っているのだろう。
「あの、秋瀬さんで良いかい?」
翼が念のため名前を確認すると秋瀬夫人はコクリと頷く。
「秋瀬恵子、あの本もう一度よく見せてもらえない?」
恵子がそう切り出すと綾音が承知してかのようにカバンから本を取り出す。
恵子はそれを躊躇うことなく手に取る。
「黒絵聖那、やっぱり同じ作者」
「この作者に覚えが?」
翼が尋ねると恵子が頷く。
「タイトルは違うけれど、以前同じ作者のものが町の図書館にあったわ」
「そのタイトルは?」
「断罪への道」
ああ、その本かと翼は納得する。
綾音もすぐにカバンを漁り例の本を取り出した。
『断罪への道』そう書かれた本を前にして恵子の体が固まる。
「どうしてこの本をアナタたちが?」
「叔父の部屋にありました。それでこの本を読んで例の断罪事件とのつながりに気がついてこの街に来た」
綾音が簡潔にここにきた理由を述べる。
補足として今起きている自殺事件と『首切り姫』の関連性を翼が告げる。
その話を聞き恵子は頭を抱える。
「アイツはまだ繰り返してるの」
その呟きに綾音の目が煌めく。
「ねぇ、アイツって誰?恵子さんは何か事件のこと知ってるの?」
けれど恵子から帰ってきたには厳しい眼差しだった。
「アナタたち帰りなさい!こんなことに関わっちゃいけない!」
バンと机を叩きながら身を乗り出す恵子に翼は少し退くが綾音は一切微動だにしない。
むしろ不敵に笑ってみせた。
「何か知ってるみたいですね。翼さんこの人から聞き出しましょう」
笑みがだんだんと邪悪になってくる綾音、このままだと良い展開にならないと翼が割って入る。
「秋瀬さん。何か知っているなら教えていただきたい、この通りです」
頭を下げる翼だが恵子は決して首を縦に振らない。
「このまま帰るのがアナタたちの為なんだよ。アレに人が関わるべきじゃない」
そう顔を背けてしまう。
「叔父が失踪してるの。お願い知ってることがあるなら教えて。お願い」
先程までの悪魔的な笑みはどこへやたら。
一転してしおらしい綾音の態度。
瞳にはすでに涙が溜まっていた。
その姿に恵子も翼もギョッとした。
「叔父さんが?」
恵子の顔に同情の色が浮かぶ。
それを見逃す綾音ではない。
今が攻め時だと身を乗り出した。
「この件が大変なことは承知です。恵子さんが私たちを心配してくれるのは嬉しですけど、私たちも同じくらい叔父が心配なんです。お願いだから知ってること教えてください」
溜まっていた涙はすでに頬を伝い出している。
恵子は少しの沈黙の後深く息を吐くと。
「少しだけ待ってもらえる?この件について私より詳しい人がいる。その人に聞くのが一番だと思うから」
と部屋を出て行った。
恵子の足跡が遠ざかると同時に綾音は涙をハンカチで拭った。
「器用なもんだなぁ。涙ってそんな簡単に出るものかい?」
感心するように翼が言うと綾音はニタリと嗤う。
「練習したんですよ。今回みたいに役に立つこともあると思ったんで。強行手段より情に訴えた方が上手くいくこともあると学びましたから」
「それにしても泣き落としとはね。嘘でも君の涙なんて初めて見たから度肝抜かれたよ。直前まで恵子さんに脅迫まがいなことでもしそうな雰囲気だったしさ」
それについては否定できない。
実際、綾音はどう恵子の身動きを封じ尋問しようかと考えていた。
けれど直後の翼の行動が彼女を止めた。
「翼さんが頭を下げてまで荒事を避けようとしたんだ。アレくらいの演技するよ」
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