悪魔の足跡

宮下里緒

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「ごめん、ちょい遅れた後朝も」
「いいよ混んでたんだし。遅刻しなかった?」
嬉しそうに笑みを浮かべながら私の心配をしてくる公男はやはりどこか仔犬ぽっい。
「ママに送ってもらったからギリセーフだった。公男は?大丈夫だった?」
私が彼にメッセージを送ったのは8時頃、いつもの待ち合わせ場所である公園から学校までが10分ほどなので普通に行けば間に合うはずだけど。
「大丈夫だよ朝礼には間に合ったから」
「良かった。私のせいで遅れたりしたら流石に悪いもんね」
そう安心する私の耳に心底不快だとでもいいような舌打ちが聞こえてきた。
「アホかお前。三年は始業前の10分間に毎日小テストをしてんだ。お前のせいで栗見は遅刻だ」
いきなりの罵倒と、その声の主が誰だかわかり私は身を縮こめさせる。
「海峡、いいんだよ別に。一度受け損なったからって何かあるわけじゃないし」
公男はなんだかかばうようなことを言ってるけど、今の私は目の前のもう1人の男から目が離せないでいる。
同じ動物で表したとして公男のような可愛らしい子犬ではなく狐を彷彿させるような意地の悪そうな顔。
横にいる公男と見比べても細く小柄な女性のような体格なのに私を睨みつける瞳には肉食獣のような獰猛さが覗いている。
公男に注意されて口は閉じたけどその目は射抜くように私を睨みつけている。
正直言って怖い。
本当に嫌だこの人。 
隠れるように公男にしがみつくと、その鋭い視線はより一層鋭くなった気がした。
「校内でベタベタするな。人目ぐらい気にしろ」
今度は注意するような口調だけどやっぱり刺々しさを感じてして恐怖感は拭えない。
「その、すみません」
特に悪いと思っているわけじゃないのについ反射的に謝罪してしまう。
でもその声もすごくこもっていてまるで私の声じゃないみたい。
この人を前にすると私は自分らしさを殺されてしまう。
こんな惨めな姿公男に見せたくない。
本当なら今すぐこの場から逃げたいのに逃げるという行為が嫌でそれもできないでいる。
「海峡少しうるさい」
私を守るように前に立つ公男に海峡先輩は眉をひそめると帰るわとだけ告げてその場を去った。
後に残るのはなんだか後味の悪い空気だけ。
「良かったの?喧嘩になったんじゃない?」
その空気に耐えかねて公男に尋ねるとやけに優しい声で大丈夫だよって言ってくれた。
その優しい声色に少しぞくりとする。
「海峡が不機嫌になるのはいつもの事だからそんなに気にする事じゃないさ。互いに本気で怒ってるわけじゃないしね。ただ、星美に対してもあんな風に言うとは思わなかった。基本的に他人に無関心なんだけどな」
それじゃあどうしてああも私に突っかかるの?
ついそう叫びたくなった。
けどそんな弱さを見せるのは嫌だったから。
「たまたま機嫌悪かっただけでしょ。あのくらいどうでもないよ」
ついそう強がった。
「ごめんね。嫌な思いさせて」
するりと私の腕に手を絡めてくる公男。
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そう嗜めると、公男は少し残念そうに腕を離した。
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