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9話
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「で、具体的に何をするんですか?」
なんにしても、まず方針からだろう。
闇雲に動いたって何かわかるとは思えない。
事件を調べると言い出したんだしどう動くくらいは栗見さんも考えているだろう。
「うーん、とりあえずわかってる情報を共有しようか。話しているうちにお互いに気付けることもあるかもだし」
「とは言っても僕からじゃ特に情報ないですよ。ほぼ初対面ですし」
彼女が事件に巻き込まれる人柄だったかも僕にはわからない。
「じゃあ、私の話すことで何か気づくことがあったら言ってよ」
僕はコクリと頷く。
「まぁ私が知ってることも限られてはいるんだけどね。それでも今日いつもと違う点はいくつかあったよ」
栗見さんはソファーに深く腰掛け直すとすっと人差し指を立てて僕に向けた。
「まず一つめ。桐子は今日学校に来なかったんだ」
それで気づく、ああその指は一つめの手がかりという意味だったのかと。
なんだろう本当に探偵にでもなった気でいるのだろうか?
女子高生探偵か意外と似合いそうだな。
ホームズのような探偵服に身を包む栗見さんを想像すると異様に似合ってることに気づいた。
栗見さんがホームズならさながら今の僕はワトソンだろうか?
そんな役が自分に務まるとは思えないけれど、とりあえず気になった点は直ぐに尋ねてみることにする。
「いつもと違うってことは山村先輩が休むのは珍しいことだったんですか?」
「ああ、桐子は私と違って真面目だったからね。どちらかと言うと体調が悪くても無理して来て早退するタイプだった」
それは真面目ではなくて普通だ。
そんなツッコミはあえて飲み込んだ。
「それに二つめのおかしな点だけど、仮に休む場合桐子はいつも私に連絡をくれていた今日はそれがなかった」
指を2本に増やし栗見さんはそう言う。
「そして一番おかしな点だけど、学校に来ていない桐子がなんで学校で飛び降り自殺をしてるんだ?」
ズイっと突きつけられる3本の指、目にも突き刺さりそうな危ないそれを右手で払い除ける。
栗見さんはその乱暴な態度を特に気にした風でもなく、僕に何か気になることは?と尋ねた。
「もともと学校で死ぬつもりだっただから学校にいたそれだけでは?」
「それは何故?なんでわざわざ死ぬために学校に来るの?それこそ家でも、どこでも死に場所はあるのに。わざわざ制服まで着て学校に死にに来る理由はなに?」
それには明確な答えなど出ない。
そんなのあげれるわけがない。
僕は山村先輩じゃないんだからこんなの全部僕の妄想に過ぎない。
黙りこくる僕に業をにやしたのか栗見さんはため息を吐くと僕を指さす。
「もー、黙ってたじゃ私一人で考えてるのと一緒じゃない。なんか言ってくれないと」
ホレホレとまるでペットでも呼ぶかのように指をクイクイ動かす栗見さんは僕を挑発しているようだ。
じゃあと、僕はあくまで自分の考えだけどと付け加えた上でオズオズと発言する。
「学校じゃないといけない理由があったとか?」
「ふっん?」
栗見さんは興味を持つようにニヤリと笑う。
「山村先輩は今日休みだったなのに学校に来ていた。それってやっぱり、何かしらの理由があったと思うんです。それこそよっぽど特別な」
「まぁそうだろうね。ズル休みならわかるけど、嘘ついて休んで学校に来るのって意味わからないもん」
栗見さんは頷き同意をする。
「それって誰にも知られたくない事なく学校来たかったって事ですよね?僕はそれが自殺だったんじゃないかなって思うんです」
それが話を聞きながら思った僕の考えだった。
やや強引でもあるし謎も残るけどありえない話でもないと思う。
そんな考えを聞いて栗見さんは何を思ってるのか、しばらく考え込んでいるのだろう。
難しい顔をしながら空中に視線を流した後スッと僕に向き直った。
「千草くんは、その何かしらの理由が自殺の原因だと思ってるんだ。そしてそれが場所を学校にした理由でもあると?」
「ただの想像だけど」
そうねんを推す。
「じゃあさ、その理由に心当たりがあるって言ったら興味湧かない?」
ニヤリと意地悪い笑み、栗見さんはまた楽しそうにしている。
「え?」
驚きのあまり声が裏返り随分素っ頓狂な反応をしてしまう。
「心当たりあるんですか?」
コクリとと栗見さんは頷く。
「とは言っても、それが本当に理由なのかはわからないけれど、私は可能性が高いと思う」
「なんですか、その心当たりって?」
「んー、千草くんには残念な話かもだけどね桐子には実は付き合ってる人がいたんだ」
「はぁ」
それは別に変な話ではない。
あれだけ綺麗な人だったんだむしろ自然な気もする。
何故ここでそんな話を持ち出すのか、いや考えるまでもないか。
「その恋人に何か訳ありなことがあるんですか?」
「さぁ?なんか口止めされてたみたいであまり詳しくは聞いてないから」
そう肩をすくめる栗見さんに僕は力が抜ける思いがする。
「なんですか?結局は何もわからないのに何でそんな話出したんですか?」
落胆にも似た感情を抱く僕だが栗見さんはまだ何か楽しげだ。
「そうカリカリしないで。口止めはされてたみたいだけど、桐子は話しがってたみたいで断片的には聞いてるから」
「断片的?」
「そう、桐子は本当にその相手のことが好きだったみたいだから私に話したくて仕方がなかったみたいだったの」
馬鹿でしょ?
栗見さんはまるでそう言いたげに鼻で笑ってみせた。
「ところでさ、付き合ってることを彼女に口止めするってどんな彼氏なんだろうね?」
それは疑問というより、まるで僕にクイズを出しておるような言い方だった。
「うーん、目立つのが嫌いとか?山村先輩美人ですしどうしても注目されるから」
「へぇ~いい線かもね」
望んで回答だったのだろう栗見さんは気分良さげだ。
「じゃあさ、目立つのが嫌な人ってどんな奴だと思う?」
また質問。
あくまで予測しかできないこの手の思考は苦手だ。
答えが正解なのか知ることもできないし全く的外れな考えをしている可能性だってある。
どこまで行っても考えは想像の域を出ない。
けど、そんな泣き言言っても仕方がない。
さっきの言葉からして今のところ僕の考えと栗見さんの考えは合っているみたいだし、栗見さんの考えを聞くためにも今は想像を巡らさなければ。
まず、単に性格の問題それも考えられる。
単純に色々と聞かれたりするのが嫌だったと。
でも、学生同士の恋愛だ友達関係からすぐにばれそうだけれども。
現に山村先輩は栗見さんに話をしてしまっている。
そういえば、どうして山村先輩はこんな中途半端に話をしたんだろう?
栗見さんの言う様に話したくて仕方がなかったからだろうけど、なら全部話して仕舞えばいい。
所詮誰かに話したなんてわからないだから。
それなのに口をつぐんだということは、その関係がバレるのがそもそも不味い相手だから?
「もしかして相手は付き合うこと自体が世間的に良くない相手だった」
ひらめきと共に考えが口から出ていた。
そうだ、それなら相手が口止めする理由も山村先輩が口を閉ざしたのもわかる。
「やっぱりそう思う?まぁ可能性のうちの一つだけど、私はそれが本命だと考えてる」
それが、栗見さんの考え。
「だとしても、そんな相手一体誰なのかわからないですよ」
「そんな事ないよ。とっても大きなヒント桐子が残してくれてるじゃない」
「?」
僕は首を傾げる。
そんなヒントどこにあっただろうか?
山村先輩は遺書も残していない、それとも何かメッセージを残してたのだろうか?
「言っとくけど、秘密のメッセージとかはないよ」
僕の内心を読んだかの様に栗見さんが告げた。
「死体は語るってね。ヒントは桐子の飛び降りた場所、なんで桐子はわざわざ学校に隠れてきたのか?」
それはもう答えの様なものだった。
「つまり相手は学校の関係者って事ですか?それも世間的に交際を隠さないといけない相手は多分、教師」
それが答えなのか?
栗見さんはそうだと頷いている。
ありえないなんて事は思わない、けれどやっぱり現実感はわかない。
うちの教師って一体誰と?
次々と教壇に立つ男たちの姿を思い浮かべる。
思い浮かぶのはどれもこれも中年のくたびれた男たちの姿だけ。
まさかそんな男たちの誰かと山村先輩が?
加齢臭漂う男とあの美人の先輩がそう考えると気分が悪くなる。
「そんな、嘘でしょ?」
「君にはショックな話かい?」
クスクスと栗見さんは口元を押さえ煽る様に笑っている。
教師が相手?
でもそれなら色々と悩みもあったはず。
しかも簡単に相談できることでこない。
もしかしてそれを苦に自殺を?
「動機はあったってことですよね自殺の」
「そうね、でもコレは殺人の動機にも繋がると思うの」
「・・・どうしても、そこに繋げようとしますね」
「自殺、まぁなくはないと思うよ。桐子悩んだる風には見えなかったけど、本心を隠してただけかもしれない。学校でってのも相手への当て付けと考えれば筋も通る」
「じゃあなんで?」
どうしてそこまで殺人だと考えるのか?
そこまで言うんだ何か引っかかる事があるのだろう。
「学校の屋上。千草くんは行ったことがある?」
「いいえ」
僕はすぐに首を振る。
「それはどうして」
「どうしてって別に用もないですし、そもそも行くの禁止されてますし」
「優等生な答えだね」
少し馬鹿にされたかの様な言い方にカチンとくる。
と言うか話が脱線してないだろうか?
話してて思うけれども栗見さんは話が突然飛躍する。
まるで荒波に様に新しい情報をこちらに送ってくるからその波に乗るのがとても大変だ。
「栗見さんはあるんですか行ったこと」
「うん、あるよ」
随分と正直に答える。
まぁでも栗見さんらしいといえばらしい。
屋上に佇む姿はそれはそれでまた様になりそうだ。
「でも屋上には鍵がかかってて入れなかったんだ」
「まぁ、禁止するくらいだから鍵もかけますよね」
「じゃあさ、桐子はどうやってあそこに入ったんだろ?」
その言葉は頭を叩かれたかの様な衝撃だった。
そうだ、なんでそんな当たり前のことに思い当たらなかったのだろう。
マヌケが!
頭の中で自身に喝を入れる。
「山村先輩が鍵を持ち出してってありえないですよね?」
「授業中だからって職員室も無人じゃない生徒が入った時点で目につくでしょ。どっちにしろ生徒が入った時点で目につくし、そんなリスキーありえないと思うけど?」
栗見さんはなぜそんなことを指摘するのかわからないと言いたげに首を傾げる。
そうだよ、ありえないよな。
わざわざ学校ズル休みして隠れて登校した山村先輩がそんな目立つことするとは思えない。
じゃああそこの鍵を開けたのは誰か?
そんなの答えは一つだ。
職員室にいても目立つことない人物。
「鍵を持ち出したのは教師でその教師が山村先輩の彼氏、そして山村先輩を殺した犯人って考えですか?」
「そうゆうこと!」
よく分かりましたそう言わんばかりに栗見さんは身を乗り出し向かいに座る僕の頭に手を伸ばしてくる。
多分頭を撫でられる、そう思った瞬間右手で栗見さんの手を払いのけた。
「やめて下さい」
そう抗議の声をあげると、栗見さんは少し残念そうに「右手か」と小さく呟いた。
その言葉に一体なんの意味があるのか分からず、困惑してしまう。
「いや、ごめんごめん急に。ちょっとテンション上がった。でも私が今回の事件殺人だと考えるのも理解できたでしょ?」
僕の払い除けた手など気にもしていない様に話がまた戻る。
その方がありがたいけれど、なんて激しい話の方向転換なんだろう。
今度はそのことに驚いて困惑してしまう。
まぁそんな僕の気持ちなんて届く事もなく話はどんどん進行していく。
「教師なら職員室にもちろんいるし、鍵を持ち出そうとしても誰も気にしない」
その時思い起こされたのは職員室にある鍵の保管場所だ。
入り口から広がる職員室の風景を思い浮かべる。
廊下側から平行線状に三列並ぶ教師たちの机。
そこには書類などが散乱していて職場という雰囲気が漂っている。
まぁ悪くいえば汚いだけだが。
まず目に入るのは対面にある前面に広がる窓ガラス。
その向こうには校庭の風景が見えている。
初めて職員室に入った時薄暗い廊下から来たせいでそのガラス窓から差し込む光に目をくらまされた覚えがある。
確かその時、目を逸らした先。
入り口横の壁にフックに吊るされた数々に鍵があった覚えがある。
あそこに屋上への鍵があったかは定かじゃないけど、もしかしたら鍵が無くなったのを覚えている教師が居るかも知れない。
その事を指摘すると栗見さんはうーんと眉間に皺を寄せ悩む素振りを見せる。
「鍵なんてどれも似ているからね取った後違う鍵をつけていたら違和感を感じる人なんていないと思うけど。まぁ、犯人がそうしたとも限らないし運良く鍵を取る瞬間を見た人がいるかも知れないか」
意見というより独り言をブツブツと呟く事数秒。
「確かに聞いてみないと話が進まないか、うん。その方向で進めよう」
まるで捜査方針を決める刑事の様に僕に指示をする栗見さん。
もうここでの僕の立ち位置は彼女の部下で決まりの様だ。
「でも、話を聞くって一体誰に?」
「それはもちろん、あの鍵置き場に一番近い位置に座ってる教師。数学担当教師、島津赤也でしょ」
なんにしても、まず方針からだろう。
闇雲に動いたって何かわかるとは思えない。
事件を調べると言い出したんだしどう動くくらいは栗見さんも考えているだろう。
「うーん、とりあえずわかってる情報を共有しようか。話しているうちにお互いに気付けることもあるかもだし」
「とは言っても僕からじゃ特に情報ないですよ。ほぼ初対面ですし」
彼女が事件に巻き込まれる人柄だったかも僕にはわからない。
「じゃあ、私の話すことで何か気づくことがあったら言ってよ」
僕はコクリと頷く。
「まぁ私が知ってることも限られてはいるんだけどね。それでも今日いつもと違う点はいくつかあったよ」
栗見さんはソファーに深く腰掛け直すとすっと人差し指を立てて僕に向けた。
「まず一つめ。桐子は今日学校に来なかったんだ」
それで気づく、ああその指は一つめの手がかりという意味だったのかと。
なんだろう本当に探偵にでもなった気でいるのだろうか?
女子高生探偵か意外と似合いそうだな。
ホームズのような探偵服に身を包む栗見さんを想像すると異様に似合ってることに気づいた。
栗見さんがホームズならさながら今の僕はワトソンだろうか?
そんな役が自分に務まるとは思えないけれど、とりあえず気になった点は直ぐに尋ねてみることにする。
「いつもと違うってことは山村先輩が休むのは珍しいことだったんですか?」
「ああ、桐子は私と違って真面目だったからね。どちらかと言うと体調が悪くても無理して来て早退するタイプだった」
それは真面目ではなくて普通だ。
そんなツッコミはあえて飲み込んだ。
「それに二つめのおかしな点だけど、仮に休む場合桐子はいつも私に連絡をくれていた今日はそれがなかった」
指を2本に増やし栗見さんはそう言う。
「そして一番おかしな点だけど、学校に来ていない桐子がなんで学校で飛び降り自殺をしてるんだ?」
ズイっと突きつけられる3本の指、目にも突き刺さりそうな危ないそれを右手で払い除ける。
栗見さんはその乱暴な態度を特に気にした風でもなく、僕に何か気になることは?と尋ねた。
「もともと学校で死ぬつもりだっただから学校にいたそれだけでは?」
「それは何故?なんでわざわざ死ぬために学校に来るの?それこそ家でも、どこでも死に場所はあるのに。わざわざ制服まで着て学校に死にに来る理由はなに?」
それには明確な答えなど出ない。
そんなのあげれるわけがない。
僕は山村先輩じゃないんだからこんなの全部僕の妄想に過ぎない。
黙りこくる僕に業をにやしたのか栗見さんはため息を吐くと僕を指さす。
「もー、黙ってたじゃ私一人で考えてるのと一緒じゃない。なんか言ってくれないと」
ホレホレとまるでペットでも呼ぶかのように指をクイクイ動かす栗見さんは僕を挑発しているようだ。
じゃあと、僕はあくまで自分の考えだけどと付け加えた上でオズオズと発言する。
「学校じゃないといけない理由があったとか?」
「ふっん?」
栗見さんは興味を持つようにニヤリと笑う。
「山村先輩は今日休みだったなのに学校に来ていた。それってやっぱり、何かしらの理由があったと思うんです。それこそよっぽど特別な」
「まぁそうだろうね。ズル休みならわかるけど、嘘ついて休んで学校に来るのって意味わからないもん」
栗見さんは頷き同意をする。
「それって誰にも知られたくない事なく学校来たかったって事ですよね?僕はそれが自殺だったんじゃないかなって思うんです」
それが話を聞きながら思った僕の考えだった。
やや強引でもあるし謎も残るけどありえない話でもないと思う。
そんな考えを聞いて栗見さんは何を思ってるのか、しばらく考え込んでいるのだろう。
難しい顔をしながら空中に視線を流した後スッと僕に向き直った。
「千草くんは、その何かしらの理由が自殺の原因だと思ってるんだ。そしてそれが場所を学校にした理由でもあると?」
「ただの想像だけど」
そうねんを推す。
「じゃあさ、その理由に心当たりがあるって言ったら興味湧かない?」
ニヤリと意地悪い笑み、栗見さんはまた楽しそうにしている。
「え?」
驚きのあまり声が裏返り随分素っ頓狂な反応をしてしまう。
「心当たりあるんですか?」
コクリとと栗見さんは頷く。
「とは言っても、それが本当に理由なのかはわからないけれど、私は可能性が高いと思う」
「なんですか、その心当たりって?」
「んー、千草くんには残念な話かもだけどね桐子には実は付き合ってる人がいたんだ」
「はぁ」
それは別に変な話ではない。
あれだけ綺麗な人だったんだむしろ自然な気もする。
何故ここでそんな話を持ち出すのか、いや考えるまでもないか。
「その恋人に何か訳ありなことがあるんですか?」
「さぁ?なんか口止めされてたみたいであまり詳しくは聞いてないから」
そう肩をすくめる栗見さんに僕は力が抜ける思いがする。
「なんですか?結局は何もわからないのに何でそんな話出したんですか?」
落胆にも似た感情を抱く僕だが栗見さんはまだ何か楽しげだ。
「そうカリカリしないで。口止めはされてたみたいだけど、桐子は話しがってたみたいで断片的には聞いてるから」
「断片的?」
「そう、桐子は本当にその相手のことが好きだったみたいだから私に話したくて仕方がなかったみたいだったの」
馬鹿でしょ?
栗見さんはまるでそう言いたげに鼻で笑ってみせた。
「ところでさ、付き合ってることを彼女に口止めするってどんな彼氏なんだろうね?」
それは疑問というより、まるで僕にクイズを出しておるような言い方だった。
「うーん、目立つのが嫌いとか?山村先輩美人ですしどうしても注目されるから」
「へぇ~いい線かもね」
望んで回答だったのだろう栗見さんは気分良さげだ。
「じゃあさ、目立つのが嫌な人ってどんな奴だと思う?」
また質問。
あくまで予測しかできないこの手の思考は苦手だ。
答えが正解なのか知ることもできないし全く的外れな考えをしている可能性だってある。
どこまで行っても考えは想像の域を出ない。
けど、そんな泣き言言っても仕方がない。
さっきの言葉からして今のところ僕の考えと栗見さんの考えは合っているみたいだし、栗見さんの考えを聞くためにも今は想像を巡らさなければ。
まず、単に性格の問題それも考えられる。
単純に色々と聞かれたりするのが嫌だったと。
でも、学生同士の恋愛だ友達関係からすぐにばれそうだけれども。
現に山村先輩は栗見さんに話をしてしまっている。
そういえば、どうして山村先輩はこんな中途半端に話をしたんだろう?
栗見さんの言う様に話したくて仕方がなかったからだろうけど、なら全部話して仕舞えばいい。
所詮誰かに話したなんてわからないだから。
それなのに口をつぐんだということは、その関係がバレるのがそもそも不味い相手だから?
「もしかして相手は付き合うこと自体が世間的に良くない相手だった」
ひらめきと共に考えが口から出ていた。
そうだ、それなら相手が口止めする理由も山村先輩が口を閉ざしたのもわかる。
「やっぱりそう思う?まぁ可能性のうちの一つだけど、私はそれが本命だと考えてる」
それが、栗見さんの考え。
「だとしても、そんな相手一体誰なのかわからないですよ」
「そんな事ないよ。とっても大きなヒント桐子が残してくれてるじゃない」
「?」
僕は首を傾げる。
そんなヒントどこにあっただろうか?
山村先輩は遺書も残していない、それとも何かメッセージを残してたのだろうか?
「言っとくけど、秘密のメッセージとかはないよ」
僕の内心を読んだかの様に栗見さんが告げた。
「死体は語るってね。ヒントは桐子の飛び降りた場所、なんで桐子はわざわざ学校に隠れてきたのか?」
それはもう答えの様なものだった。
「つまり相手は学校の関係者って事ですか?それも世間的に交際を隠さないといけない相手は多分、教師」
それが答えなのか?
栗見さんはそうだと頷いている。
ありえないなんて事は思わない、けれどやっぱり現実感はわかない。
うちの教師って一体誰と?
次々と教壇に立つ男たちの姿を思い浮かべる。
思い浮かぶのはどれもこれも中年のくたびれた男たちの姿だけ。
まさかそんな男たちの誰かと山村先輩が?
加齢臭漂う男とあの美人の先輩がそう考えると気分が悪くなる。
「そんな、嘘でしょ?」
「君にはショックな話かい?」
クスクスと栗見さんは口元を押さえ煽る様に笑っている。
教師が相手?
でもそれなら色々と悩みもあったはず。
しかも簡単に相談できることでこない。
もしかしてそれを苦に自殺を?
「動機はあったってことですよね自殺の」
「そうね、でもコレは殺人の動機にも繋がると思うの」
「・・・どうしても、そこに繋げようとしますね」
「自殺、まぁなくはないと思うよ。桐子悩んだる風には見えなかったけど、本心を隠してただけかもしれない。学校でってのも相手への当て付けと考えれば筋も通る」
「じゃあなんで?」
どうしてそこまで殺人だと考えるのか?
そこまで言うんだ何か引っかかる事があるのだろう。
「学校の屋上。千草くんは行ったことがある?」
「いいえ」
僕はすぐに首を振る。
「それはどうして」
「どうしてって別に用もないですし、そもそも行くの禁止されてますし」
「優等生な答えだね」
少し馬鹿にされたかの様な言い方にカチンとくる。
と言うか話が脱線してないだろうか?
話してて思うけれども栗見さんは話が突然飛躍する。
まるで荒波に様に新しい情報をこちらに送ってくるからその波に乗るのがとても大変だ。
「栗見さんはあるんですか行ったこと」
「うん、あるよ」
随分と正直に答える。
まぁでも栗見さんらしいといえばらしい。
屋上に佇む姿はそれはそれでまた様になりそうだ。
「でも屋上には鍵がかかってて入れなかったんだ」
「まぁ、禁止するくらいだから鍵もかけますよね」
「じゃあさ、桐子はどうやってあそこに入ったんだろ?」
その言葉は頭を叩かれたかの様な衝撃だった。
そうだ、なんでそんな当たり前のことに思い当たらなかったのだろう。
マヌケが!
頭の中で自身に喝を入れる。
「山村先輩が鍵を持ち出してってありえないですよね?」
「授業中だからって職員室も無人じゃない生徒が入った時点で目につくでしょ。どっちにしろ生徒が入った時点で目につくし、そんなリスキーありえないと思うけど?」
栗見さんはなぜそんなことを指摘するのかわからないと言いたげに首を傾げる。
そうだよ、ありえないよな。
わざわざ学校ズル休みして隠れて登校した山村先輩がそんな目立つことするとは思えない。
じゃああそこの鍵を開けたのは誰か?
そんなの答えは一つだ。
職員室にいても目立つことない人物。
「鍵を持ち出したのは教師でその教師が山村先輩の彼氏、そして山村先輩を殺した犯人って考えですか?」
「そうゆうこと!」
よく分かりましたそう言わんばかりに栗見さんは身を乗り出し向かいに座る僕の頭に手を伸ばしてくる。
多分頭を撫でられる、そう思った瞬間右手で栗見さんの手を払いのけた。
「やめて下さい」
そう抗議の声をあげると、栗見さんは少し残念そうに「右手か」と小さく呟いた。
その言葉に一体なんの意味があるのか分からず、困惑してしまう。
「いや、ごめんごめん急に。ちょっとテンション上がった。でも私が今回の事件殺人だと考えるのも理解できたでしょ?」
僕の払い除けた手など気にもしていない様に話がまた戻る。
その方がありがたいけれど、なんて激しい話の方向転換なんだろう。
今度はそのことに驚いて困惑してしまう。
まぁそんな僕の気持ちなんて届く事もなく話はどんどん進行していく。
「教師なら職員室にもちろんいるし、鍵を持ち出そうとしても誰も気にしない」
その時思い起こされたのは職員室にある鍵の保管場所だ。
入り口から広がる職員室の風景を思い浮かべる。
廊下側から平行線状に三列並ぶ教師たちの机。
そこには書類などが散乱していて職場という雰囲気が漂っている。
まぁ悪くいえば汚いだけだが。
まず目に入るのは対面にある前面に広がる窓ガラス。
その向こうには校庭の風景が見えている。
初めて職員室に入った時薄暗い廊下から来たせいでそのガラス窓から差し込む光に目をくらまされた覚えがある。
確かその時、目を逸らした先。
入り口横の壁にフックに吊るされた数々に鍵があった覚えがある。
あそこに屋上への鍵があったかは定かじゃないけど、もしかしたら鍵が無くなったのを覚えている教師が居るかも知れない。
その事を指摘すると栗見さんはうーんと眉間に皺を寄せ悩む素振りを見せる。
「鍵なんてどれも似ているからね取った後違う鍵をつけていたら違和感を感じる人なんていないと思うけど。まぁ、犯人がそうしたとも限らないし運良く鍵を取る瞬間を見た人がいるかも知れないか」
意見というより独り言をブツブツと呟く事数秒。
「確かに聞いてみないと話が進まないか、うん。その方向で進めよう」
まるで捜査方針を決める刑事の様に僕に指示をする栗見さん。
もうここでの僕の立ち位置は彼女の部下で決まりの様だ。
「でも、話を聞くって一体誰に?」
「それはもちろん、あの鍵置き場に一番近い位置に座ってる教師。数学担当教師、島津赤也でしょ」
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