21 / 29
第21話 数十年ぶりの王都
しおりを挟む
街並みは変わってはいなかったけど、商店に置かれている商品はあの頃とは明らかに異なっていた。カサンドラ姉さんが開発したであろう品が全体の半分以上を占めていた。ただ洋服店に限って言えばヴィヴィアン姉さんが着用していたアクセサリーや衣類、それに姉さんが自らデザインした衣服が全体の八割を占めていた。
私は姉さんたちの手腕に感心しながらも、ニールが用意してくれたメモを片手に歩みを進めた。メモを見るために片手でハンドル操作をしないといけないのが少しだけ面倒くさい。
また王都に出向くことがあったら、次は門番にママチャリを預かってくれないか相談してみるとしよう。さすがにママチャリなしで樹海から王都を踏破するのはしんどい……歩きとかマジで勘弁。
このメモには門から目的地までのアクセスルートが書かれている。これを見ながらじゃないと確実にたどり着けない自信がある。魔女としてはまだまだ若輩者だけど、それでも百歳越えてからの迷子はなかなか心にクルものがある……それだけはなにがなんでも回避しないと。
私は大勢の行き交う人々に目が回りそうながらも、なんとかメモを頼りに目的地に到着した。
「えっ……ほんとにここ?」
私は手元のメモと目の前の建物を何度も往復し目視で確認した。さらに周囲を見回して、再度確認してみたけど……やっぱり目的地はここで合っているらしい。
王都で最古の宿屋だと紹介されても納得できるほどに、歴史を感じさせるレンガ造りの建物だった。ただその歴史うんぬんとは正反対に全窓からは、ランタンによる自然の灯りではない、電灯を用いた人工の明かりが零れていた。その電灯は建物内だけじゃなくて、あちこちの外壁にも設置されていた。屋外用のものは玄関前や建物に通ずる街路に向けて照らされていた。
王都内にある街灯でも場所によっては、まだランタンや松明を使用しているし、商店や民家ですらまだ電気も通っていない地区があるにもかかわらず、ここは真っ昼間から電灯をこれでもかと点けていた。
これほどの照明……電力はどうやって確保しているのだろうか。
私の場合は、霊峰に流れ落ちる滝からの水力発電と屋根に設置した風見鶏による風力発電の二つから電力を得ている。メインは水力発電で、サブの風力発電は何というか観賞用になり果てている。それでも普通に生活するだけなら問題ない。ただ夏と冬だけは少し我慢しないと、すぐに電力不足に陥ってしまう。
ただその問題も解決の兆しがある、カサンドラ姉さんが太陽光発電なるものを絶賛開発中だからだ。太陽の熱を利用して電力を蓄えることができるらしい? 水車や風車が回転することで、発電するのはなんとなく理解できるけど、熱による発電ってどういうことなのか。
私は往来する人々の邪魔にならないよう建物に向かって平行にママチャリを仮置きした。
電灯の明かりが反射して鈍い光を放つ獅子の頭を模したドアノックを掴むと、振りかぶり無骨な鉄製の両扉に三度叩きつけた。こういうのに慣れていないため、どれぐらいの力加減ですればいいのか全然分からなかったので、聞こえないよりかはマシかと思って強めにしておいた。
「……これでいいのよね?」
それからしばらくすると、ガチャっと開錠する音が聞こえた後、ゆっくりと扉が開いていった。
扉の先には――私が最も恐れて、最も尊敬した先生の姿があった。
先生はあの頃と同じ裾が白い修道服を身にまとい、縁の白い頭巾をかぶっていた。
あの時の変わらない慈愛に満ちた眼差し、包み込まれるように微笑みを私に向けていた。
私はその笑顔がとても心苦しいかった……なぜなら、私は教会から……先生から逃げ出したのだから。
その後、先生から快く迎え入れられた私は建物内を案内してもらった。その際、運び入れたママチャリは玄関口に停めておいた。
私は姉さんたちの手腕に感心しながらも、ニールが用意してくれたメモを片手に歩みを進めた。メモを見るために片手でハンドル操作をしないといけないのが少しだけ面倒くさい。
また王都に出向くことがあったら、次は門番にママチャリを預かってくれないか相談してみるとしよう。さすがにママチャリなしで樹海から王都を踏破するのはしんどい……歩きとかマジで勘弁。
このメモには門から目的地までのアクセスルートが書かれている。これを見ながらじゃないと確実にたどり着けない自信がある。魔女としてはまだまだ若輩者だけど、それでも百歳越えてからの迷子はなかなか心にクルものがある……それだけはなにがなんでも回避しないと。
私は大勢の行き交う人々に目が回りそうながらも、なんとかメモを頼りに目的地に到着した。
「えっ……ほんとにここ?」
私は手元のメモと目の前の建物を何度も往復し目視で確認した。さらに周囲を見回して、再度確認してみたけど……やっぱり目的地はここで合っているらしい。
王都で最古の宿屋だと紹介されても納得できるほどに、歴史を感じさせるレンガ造りの建物だった。ただその歴史うんぬんとは正反対に全窓からは、ランタンによる自然の灯りではない、電灯を用いた人工の明かりが零れていた。その電灯は建物内だけじゃなくて、あちこちの外壁にも設置されていた。屋外用のものは玄関前や建物に通ずる街路に向けて照らされていた。
王都内にある街灯でも場所によっては、まだランタンや松明を使用しているし、商店や民家ですらまだ電気も通っていない地区があるにもかかわらず、ここは真っ昼間から電灯をこれでもかと点けていた。
これほどの照明……電力はどうやって確保しているのだろうか。
私の場合は、霊峰に流れ落ちる滝からの水力発電と屋根に設置した風見鶏による風力発電の二つから電力を得ている。メインは水力発電で、サブの風力発電は何というか観賞用になり果てている。それでも普通に生活するだけなら問題ない。ただ夏と冬だけは少し我慢しないと、すぐに電力不足に陥ってしまう。
ただその問題も解決の兆しがある、カサンドラ姉さんが太陽光発電なるものを絶賛開発中だからだ。太陽の熱を利用して電力を蓄えることができるらしい? 水車や風車が回転することで、発電するのはなんとなく理解できるけど、熱による発電ってどういうことなのか。
私は往来する人々の邪魔にならないよう建物に向かって平行にママチャリを仮置きした。
電灯の明かりが反射して鈍い光を放つ獅子の頭を模したドアノックを掴むと、振りかぶり無骨な鉄製の両扉に三度叩きつけた。こういうのに慣れていないため、どれぐらいの力加減ですればいいのか全然分からなかったので、聞こえないよりかはマシかと思って強めにしておいた。
「……これでいいのよね?」
それからしばらくすると、ガチャっと開錠する音が聞こえた後、ゆっくりと扉が開いていった。
扉の先には――私が最も恐れて、最も尊敬した先生の姿があった。
先生はあの頃と同じ裾が白い修道服を身にまとい、縁の白い頭巾をかぶっていた。
あの時の変わらない慈愛に満ちた眼差し、包み込まれるように微笑みを私に向けていた。
私はその笑顔がとても心苦しいかった……なぜなら、私は教会から……先生から逃げ出したのだから。
その後、先生から快く迎え入れられた私は建物内を案内してもらった。その際、運び入れたママチャリは玄関口に停めておいた。
10
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
王宮の片隅で、醜い王子と引きこもりライフ始めました(私にとってはイケメン)。
花野はる
恋愛
平凡で地味な暮らしをしている介護福祉士の鈴木美紅(20歳)は休日外出先で西洋風異世界へ転移した。
フィッティングルームから転移してしまったため、裸足だった美紅は、街中で親切そうなおばあさんに助けられる。しかしおばあさんの家でおじいさんに襲われそうになり、おばあさんに騙され王宮に売られてしまった。
王宮では乱暴な感じの宰相とゲスな王様にドン引き。
王妃様も優しそうなことを言っているが信用できない。
そんな中、奴隷同様な扱いで、誰もやりたがらない醜い第1王子の世話係をさせられる羽目に。
そして王宮の離れに連れて来られた。
そこにはコテージのような可愛らしい建物と専用の庭があり、美しい王子様がいた。
私はその専用スペースから出てはいけないと言われたが、元々仕事以外は引きこもりだったので、ゲスな人たちばかりの外よりここが断然良い!
そうして醜い王子と異世界からきた乙女の楽しい引きこもりライフが始まった。
ふたりのタイプが違う引きこもりが、一緒に暮らして傷を癒し、外に出て行く話にするつもりです。
冷酷無比な国王陛下に愛されすぎっ! 絶倫すぎっ! ピンチかもしれませんっ!
仙崎ひとみ
恋愛
子爵家のひとり娘ソレイユは、三年前悪漢に襲われて以降、男性から劣情の目で見られないようにと、女らしいことを一切排除する生活を送ってきた。
18歳になったある日。デビュタントパーティに出るよう命じられる。
噂では、冷酷無悲な独裁王と称されるエルネスト国王が、結婚相手を探しているとか。
「はあ? 結婚相手? 冗談じゃない、お断り」
しかし両親に頼み込まれ、ソレイユはしぶしぶ出席する。
途中抜け出して城庭で休んでいると、酔った男に絡まれてしまった。
危機一髪のところを助けてくれたのが、何かと噂の国王エルネスト。
エルネストはソレイユを気に入り、なんとかベッドに引きずりこもうと企む。
そんなとき、三年前ソレイユを助けてくれた救世主に似た男性が現れる。
エルネストの弟、ジェレミーだ。
ジェレミーは思いやりがあり、とても優しくて、紳士の鏡みたいに高潔な男性。
心はジェレミーに引っ張られていくが、身体はエルネストが虎視眈々と狙っていて――――
行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される
めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」
ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!
テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。
『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。
新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。
アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
寵愛の檻
枳 雨那
恋愛
《R18作品のため、18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。》
――監禁、ヤンデレ、性的支配……バッドエンドは回避できる?
胡蝶(こちょう)、朧(おぼろ)、千里(せんり)の3人は幼い頃から仲の良い3人組。胡蝶は昔から千里に想いを寄せ、大学生になった今、思い切って告白しようとしていた。
しかし、そのことを朧に相談した矢先、突然監禁され、性的支配までされてしまう。優しくシャイだった朧の豹変に、翻弄されながらも彼を理解しようとする胡蝶。だんだんほだされていくようになる。
一方、胡蝶と朧の様子がおかしいと気付いた千里は、胡蝶を救うために動き出す。
*表紙イラストはまっする(仮)様よりお借りしております。
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる