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第18話 恐ろしき行動力
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魔女の私が契約に基づきニールの婚約者になってから早一か月が経過した。
今日も私は新しい目覚まし時計によって目覚めさせられた。
寝ぼけまなこで上半身を起こし軽く息を吐くと、部屋の外でけたたましく鳴り響く目覚まし時計に声をかけた。
「おはよう……ニール。あなたも飽きないわね。もうかれこれ一か月よ、一か月。あなたもたまには休んだら?」
「おはようございます、アリシャ。僕のことなら気にしなくて大丈夫です。僕がそうしたいからしているだけなので、それではまた明日。あと、今日は楽しんできてください」
「あ、ありがとう? また明日ね。はぁ~、ここって私の家よね? こんな簡単に皆勤賞ができるほど樹海って楽な場所だったっけ?」
私は彼を甘くみていた……あの契約を交わしてから何度目のため息だろう、何度目の疑問だろうか。
毎日、毎日、彼は同じ時間に私に会いに来る、一分の誤差もなく必ず同じ時刻……朝の八時に私を起こすためだけに来るのだ。彼は私が起床したのを確認するや否や、先ほどのように一言だけ話して王宮へ帰っていく。
王宮から王都内にある家に通うとかではなくて、樹海にある私の家に毎日かかさずに通っている。王都から樹海の入口まで大人の足でも半日はかかる。さらにそこから樹海に入って、私の家にたどり着くまで最短でも三日はかかる。
その間、一秒も休まずに走り続けられるような体力があるのであれば、到着時間は短くなるかもしれないが、そんな化物じみた人間などそうそういない。もしいたとして、それを一か月間ずっと行い続けられる人間などいるだろうか……。
さっきまで目の前に実行してそうな人がいたから……少々信憑性にはかけるけど、普通に考えたらあり得ないことだ。
樹海を知り尽くしている私でさえも、ママチャリがなければ一日で樹海を抜けることは体力的にも難しい。ママチャリに乗ったとしても、踏破するのに数時間はかかる。いまはバッテリーを装備した改良ママチャリなので、その半分以下の時間で移動できる。だけど、その改良ママチャリは私たち姉妹しか持っていない。
通常のママチャリであれば、市場に流通しているのでそれに乗って来ているとしても、一日の大半は往復するだけで終わってしまうほどの絶望的な距離だ。
その上、彼は一応あんなんでもこの国の王位継承序列一位の王子である。その彼が日がな一日そんなことばかりしている暇なんてあるはずがない。国の法律を変えられるような地位にいる彼が、一体どうやってそんな時間を捻出しているのだろうか。
その実態を知るために何度か彼を尾行したことがある。だが、そのたびにいつの間にか彼の姿が手品のように消え去る。直接問い詰めようかとも思ったけど、それをしたら負けな気がして未だにできていない。
樹海の魔女の名に関する樹海で撒かれる……そんな情けない事実を認めるわけにはいかない。一度でもそれを彼の前で口にしてしまえば、白状したも同然なので……私は口を閉ざし何事もなかったかのように振舞っている。
私は寝間着から私服に着替えるためクローゼットを開けた。
「ふあぁ~、今日の服は~っと、これだったわね」
七個あるハンガーの中から左端のハンガーを選び手早く着替えを済ませた。
私の服装はいつも同じである。同じ服を着まわしているという意味ではなくて、同じデザインの服を日替わりで着ている。
明日は右隣のハンガーにかかっている服を、明後日はさらにその右隣という感じで、見た目は同じだけど毎日違う服を身につけている。
お揃いの三角帽子に、姉さんたちがデザインして仕立ててくれた私の瞳の色と同じ金の刺繍が入った黒基調のドレス、見た目以上に頑丈な黒一色のレース手袋と夏は涼しく冬は暖かい黒ブーツ。
もうかれこれ百年弱はずっとこの服装だ。もうこのドレスじゃないと違和感する覚えてしまうほどに着なれてしまった。なにをするにもこのドレスじゃないとしっくりこないし、着替えないとやる気スイッチならぬ……魔女スイッチが入らない。
今日も私は新しい目覚まし時計によって目覚めさせられた。
寝ぼけまなこで上半身を起こし軽く息を吐くと、部屋の外でけたたましく鳴り響く目覚まし時計に声をかけた。
「おはよう……ニール。あなたも飽きないわね。もうかれこれ一か月よ、一か月。あなたもたまには休んだら?」
「おはようございます、アリシャ。僕のことなら気にしなくて大丈夫です。僕がそうしたいからしているだけなので、それではまた明日。あと、今日は楽しんできてください」
「あ、ありがとう? また明日ね。はぁ~、ここって私の家よね? こんな簡単に皆勤賞ができるほど樹海って楽な場所だったっけ?」
私は彼を甘くみていた……あの契約を交わしてから何度目のため息だろう、何度目の疑問だろうか。
毎日、毎日、彼は同じ時間に私に会いに来る、一分の誤差もなく必ず同じ時刻……朝の八時に私を起こすためだけに来るのだ。彼は私が起床したのを確認するや否や、先ほどのように一言だけ話して王宮へ帰っていく。
王宮から王都内にある家に通うとかではなくて、樹海にある私の家に毎日かかさずに通っている。王都から樹海の入口まで大人の足でも半日はかかる。さらにそこから樹海に入って、私の家にたどり着くまで最短でも三日はかかる。
その間、一秒も休まずに走り続けられるような体力があるのであれば、到着時間は短くなるかもしれないが、そんな化物じみた人間などそうそういない。もしいたとして、それを一か月間ずっと行い続けられる人間などいるだろうか……。
さっきまで目の前に実行してそうな人がいたから……少々信憑性にはかけるけど、普通に考えたらあり得ないことだ。
樹海を知り尽くしている私でさえも、ママチャリがなければ一日で樹海を抜けることは体力的にも難しい。ママチャリに乗ったとしても、踏破するのに数時間はかかる。いまはバッテリーを装備した改良ママチャリなので、その半分以下の時間で移動できる。だけど、その改良ママチャリは私たち姉妹しか持っていない。
通常のママチャリであれば、市場に流通しているのでそれに乗って来ているとしても、一日の大半は往復するだけで終わってしまうほどの絶望的な距離だ。
その上、彼は一応あんなんでもこの国の王位継承序列一位の王子である。その彼が日がな一日そんなことばかりしている暇なんてあるはずがない。国の法律を変えられるような地位にいる彼が、一体どうやってそんな時間を捻出しているのだろうか。
その実態を知るために何度か彼を尾行したことがある。だが、そのたびにいつの間にか彼の姿が手品のように消え去る。直接問い詰めようかとも思ったけど、それをしたら負けな気がして未だにできていない。
樹海の魔女の名に関する樹海で撒かれる……そんな情けない事実を認めるわけにはいかない。一度でもそれを彼の前で口にしてしまえば、白状したも同然なので……私は口を閉ざし何事もなかったかのように振舞っている。
私は寝間着から私服に着替えるためクローゼットを開けた。
「ふあぁ~、今日の服は~っと、これだったわね」
七個あるハンガーの中から左端のハンガーを選び手早く着替えを済ませた。
私の服装はいつも同じである。同じ服を着まわしているという意味ではなくて、同じデザインの服を日替わりで着ている。
明日は右隣のハンガーにかかっている服を、明後日はさらにその右隣という感じで、見た目は同じだけど毎日違う服を身につけている。
お揃いの三角帽子に、姉さんたちがデザインして仕立ててくれた私の瞳の色と同じ金の刺繍が入った黒基調のドレス、見た目以上に頑丈な黒一色のレース手袋と夏は涼しく冬は暖かい黒ブーツ。
もうかれこれ百年弱はずっとこの服装だ。もうこのドレスじゃないと違和感する覚えてしまうほどに着なれてしまった。なにをするにもこのドレスじゃないとしっくりこないし、着替えないとやる気スイッチならぬ……魔女スイッチが入らない。
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