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第4話 あわや大惨事
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うっ……こんな匂いだったわ。早く飲ませて、さっさと封しないと……。
私は異臭で目と鼻がやられそうになりながらも、小瓶を傾けてスプーンに粘度のある液体を垂らしていった。そしてスプーンが一杯になったところで、まだ半分ほど残っている液体が零れないように、慎重に慎重を期して小瓶をテーブルに戻した。
小瓶を手放したことで空いた左手で子供の口を開かせて、スプーンの中で波打つ禍々しい薬液を放り込んだ。
それから蓋と小瓶を手にして急ぎ部屋を出た。その際、右手に持っていたスプーンは小瓶に差し込んでおいた。スプーンに残った厄災から寝室を守るための防衛手段。
私はその足でキッチンに向かいスプーンを洗い場に投げ入れると、その手で蛇口を回し洗剤を注いだ。ひとまずこれでスプーンは解決したので、やっとこれで安心して厄災を封じ込めることができる。
そもそもの話、今回スプーンが必要になったのは飲ませる相手が子供だったからだ。この気付け薬は効能が強すぎる分、大人はともかく子供やお年寄りは、通常の三分の一程度に抑えておかないと、服用した際に身体が耐えきれずに絶命してしまう。一歩間違えれば劇薬にもなり得る妙薬。
私は蓋を小瓶の口に合わせると、力いっぱいに蓋を閉めた。一片の隙間もないほどに、あとあと必要な時に開けられなくて困る可能性があることなど、一切考慮することもなく全力で閉めた。
「はぁはぁはぁ……これでよし。あとはこれを戻して終わりね。う~ん、あれやっぱ使おうかな……どうしよっかな?」
その後、気付け薬を薬棚に置くと、悩みに悩んでいた消臭スプレーを手にして家中に噴射して回った。
このスプレーにはオクタヴィア姉さんお手製の消臭剤が入っている。気付け薬を屋内で使用した時の緊急処置として用意された、ありとあらゆる物の匂いを完全にこの世から消し去る魔法の液体。十年に一度だけしかも、たったの一時間しか咲かない花の蜜など希少品を調合して作られている。
そのため数も自然と限られる、販売もしてない完全な非売品。姉妹で公平に分けても一人百ミリにも満たない極少量しか手に入らない。また人体に無害のため希釈して口臭ケアとしても使用可能だ。
私は三十年かけて満タンにした消臭スプレーの七割近くを消費して家を丸ごと清浄化した。
私は澄んだ空気をめいっぱい吸い込みやり切った達成感と満足感に浸っていた。
「すーはー、あの地獄がウソのようだわ。ここは天国、そうまさに約束された地!」
そんな感じでソファーに腰を下ろして一人ではしゃいでいましたよ……あのことをすっかり忘れてね。
三分ほど満喫したところで、私は思い出した。気付け薬を飲ませたあの子供のことを……。
容量用法さえ守れば外傷のみならず死に至る病魔でさえも必ず治る。その絶対的な信頼もあってか、記憶の片隅に置き去りにしたのかもしれない。
急いで寝室に戻り子供の様子を確認すると、顔色は前よりもだいぶよくなっていた。ただ呼吸は未だに浅いままだった、それにどこか息苦しそうにしていた。
さらによく観察してみて、やっとその原因が分かった。どろっとした薬液の一部が喉にへばりついているようで、それが呼吸の妨げとなっているようだ。
あれ……これって、結構マズくない? 呼吸できないと、どれだけ身体が健康になろうとも死ぬくない? 考えろ、考えろ私! 要はあのへばりついたのが無くなればいいのよね。あ~え~、水よ。そうだわ、水で流せばいいんだわ。
そう結論付けた私は冷蔵庫から水差しを取り出し、コップを片手に本日何度目かの往復をした。
コップに水を注ぎ子供の口に流し込もうとするが、水を飲もうとせずにそのまま口から溢れベッドを絶え間なく濡らしていく。
「あっ、えっ⁉ なんで飲まないのよ、飲まないと死ぬかもしれないのよ? あなた分かってる?」
まだ意識が戻っていないのだから、自分の意志で飲むことなど無理に決まっている。冷静に考えれば、すぐに分かることなのだが、この時の私はパニックになってそれどころではなかった。
だけど、こういう時に限ってまた良案が浮かんだりするのもまた事実。
飲めないであれば飲ませればいいじゃないってね。
私は子供を抱き起こして、背中を何度も叩き口に溜まった水を吐き出せた。
「さて、上手くいくかしら……」
私はコップに入った水を口に含むと、子供に口づけしゆっくりと流し込んでいった。
どうやら今度は成功したようで、ゴクンゴクンと喉を鳴らしながら飲む様子が見て取れた。
呼吸が平常に戻ったのを確認すると、子供をベッドに寝かしつけて部屋を出た。
「はぁ~、やっとリフレッシュできたと思ったのに、またどっと疲れたわ。掛け布団も水でびしょびしょだから、これも替えないとだし……まだご飯も作ってない。もういいや、今日は缶詰でいいや!」
キッチンで水差しとコップを持って、万歳お手上げとジェスチャーをしたのち、それぞれ所定の位置に戻した。
その後、手早くお昼ご飯を済ませると、午前中に口にした数々の言葉を実行していった。
有言実行が完遂できた頃には、あたりはすっかり暗くなっていた。
晩ご飯は缶詰にパンを追加したお昼よりも気持ちカロリーの高い献立にしておいた。あとデザートとしてリンゴのシロップ漬けを数枚口にしたけど、これはご褒美だからいいのです。
そして私はいつもより二時間ほど早く就寝した――。
私は異臭で目と鼻がやられそうになりながらも、小瓶を傾けてスプーンに粘度のある液体を垂らしていった。そしてスプーンが一杯になったところで、まだ半分ほど残っている液体が零れないように、慎重に慎重を期して小瓶をテーブルに戻した。
小瓶を手放したことで空いた左手で子供の口を開かせて、スプーンの中で波打つ禍々しい薬液を放り込んだ。
それから蓋と小瓶を手にして急ぎ部屋を出た。その際、右手に持っていたスプーンは小瓶に差し込んでおいた。スプーンに残った厄災から寝室を守るための防衛手段。
私はその足でキッチンに向かいスプーンを洗い場に投げ入れると、その手で蛇口を回し洗剤を注いだ。ひとまずこれでスプーンは解決したので、やっとこれで安心して厄災を封じ込めることができる。
そもそもの話、今回スプーンが必要になったのは飲ませる相手が子供だったからだ。この気付け薬は効能が強すぎる分、大人はともかく子供やお年寄りは、通常の三分の一程度に抑えておかないと、服用した際に身体が耐えきれずに絶命してしまう。一歩間違えれば劇薬にもなり得る妙薬。
私は蓋を小瓶の口に合わせると、力いっぱいに蓋を閉めた。一片の隙間もないほどに、あとあと必要な時に開けられなくて困る可能性があることなど、一切考慮することもなく全力で閉めた。
「はぁはぁはぁ……これでよし。あとはこれを戻して終わりね。う~ん、あれやっぱ使おうかな……どうしよっかな?」
その後、気付け薬を薬棚に置くと、悩みに悩んでいた消臭スプレーを手にして家中に噴射して回った。
このスプレーにはオクタヴィア姉さんお手製の消臭剤が入っている。気付け薬を屋内で使用した時の緊急処置として用意された、ありとあらゆる物の匂いを完全にこの世から消し去る魔法の液体。十年に一度だけしかも、たったの一時間しか咲かない花の蜜など希少品を調合して作られている。
そのため数も自然と限られる、販売もしてない完全な非売品。姉妹で公平に分けても一人百ミリにも満たない極少量しか手に入らない。また人体に無害のため希釈して口臭ケアとしても使用可能だ。
私は三十年かけて満タンにした消臭スプレーの七割近くを消費して家を丸ごと清浄化した。
私は澄んだ空気をめいっぱい吸い込みやり切った達成感と満足感に浸っていた。
「すーはー、あの地獄がウソのようだわ。ここは天国、そうまさに約束された地!」
そんな感じでソファーに腰を下ろして一人ではしゃいでいましたよ……あのことをすっかり忘れてね。
三分ほど満喫したところで、私は思い出した。気付け薬を飲ませたあの子供のことを……。
容量用法さえ守れば外傷のみならず死に至る病魔でさえも必ず治る。その絶対的な信頼もあってか、記憶の片隅に置き去りにしたのかもしれない。
急いで寝室に戻り子供の様子を確認すると、顔色は前よりもだいぶよくなっていた。ただ呼吸は未だに浅いままだった、それにどこか息苦しそうにしていた。
さらによく観察してみて、やっとその原因が分かった。どろっとした薬液の一部が喉にへばりついているようで、それが呼吸の妨げとなっているようだ。
あれ……これって、結構マズくない? 呼吸できないと、どれだけ身体が健康になろうとも死ぬくない? 考えろ、考えろ私! 要はあのへばりついたのが無くなればいいのよね。あ~え~、水よ。そうだわ、水で流せばいいんだわ。
そう結論付けた私は冷蔵庫から水差しを取り出し、コップを片手に本日何度目かの往復をした。
コップに水を注ぎ子供の口に流し込もうとするが、水を飲もうとせずにそのまま口から溢れベッドを絶え間なく濡らしていく。
「あっ、えっ⁉ なんで飲まないのよ、飲まないと死ぬかもしれないのよ? あなた分かってる?」
まだ意識が戻っていないのだから、自分の意志で飲むことなど無理に決まっている。冷静に考えれば、すぐに分かることなのだが、この時の私はパニックになってそれどころではなかった。
だけど、こういう時に限ってまた良案が浮かんだりするのもまた事実。
飲めないであれば飲ませればいいじゃないってね。
私は子供を抱き起こして、背中を何度も叩き口に溜まった水を吐き出せた。
「さて、上手くいくかしら……」
私はコップに入った水を口に含むと、子供に口づけしゆっくりと流し込んでいった。
どうやら今度は成功したようで、ゴクンゴクンと喉を鳴らしながら飲む様子が見て取れた。
呼吸が平常に戻ったのを確認すると、子供をベッドに寝かしつけて部屋を出た。
「はぁ~、やっとリフレッシュできたと思ったのに、またどっと疲れたわ。掛け布団も水でびしょびしょだから、これも替えないとだし……まだご飯も作ってない。もういいや、今日は缶詰でいいや!」
キッチンで水差しとコップを持って、万歳お手上げとジェスチャーをしたのち、それぞれ所定の位置に戻した。
その後、手早くお昼ご飯を済ませると、午前中に口にした数々の言葉を実行していった。
有言実行が完遂できた頃には、あたりはすっかり暗くなっていた。
晩ご飯は缶詰にパンを追加したお昼よりも気持ちカロリーの高い献立にしておいた。あとデザートとしてリンゴのシロップ漬けを数枚口にしたけど、これはご褒美だからいいのです。
そして私はいつもより二時間ほど早く就寝した――。
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