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第3話 目覚めの気付け薬

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 ゴンっという衝撃音と後頭部に走る激痛によって、私は目を覚ました。

「いった~い! なに、なにが起こったの⁉ あぁ、そっか。私寝てたんだっけ……うぅ絶対にこれ、たんこぶができてるって……」 

 どうやらドアに勢いよく後頭部をぶつけたようで、手でさすってみると予想通り大きなたんこぶができていた。

 目を閉じる前までは帽子をかぶっていたんだけど、一体どこに消えてなくなったのやら。もしその帽子をかぶったままだったなら、この痛みを味わうことはなかったのかもしれない。

 そんなことを思いつつ周囲に目を向けてみると、右手側にギリギリ手が届かない位置に帽子が置かれていた。

「慣れって怖い……」

 無意識のうちに私は帽子を脱いで、あそこに避難させたのだろう。あの勢いでぶつかっていたら、帽子のつばは酷い折れ方をしていたかもしれない。そのことを考えてしまうと、ズキズキと響く痛みよりも、帽子が無事だったことに安堵してしまった。 

 姉さんたちに教えてもらった魔女の習わしは、ちゃんと身体に沁み込んでいると再認識するいい機会となった。

 ほんとすっごく痛かったので、そう思い込まないとやっていけそうになかったというのもある。

 何時間ぐらい眠っていたのか分からないけど、体力はそこそこ回復していた。問題なく立ち上がることもできたし、帽子を拾う時もよろけずに腰をかがめることができた。

 窓から零れる日差しに照らされたことで、帽子はほんのりと暖かくなっていた。

 私は帽子をかぶると現時刻を確認するため主柱おもばしらに据え付けた振り子時計に目を向けた。

「いまの時刻が十時七分だから、大体一時間ぐらい眠っていたようね。さてと、お昼ご飯の用意をしないとだけど……まずその前に」

 頭突きによる騒音であの子供が起きていないか、ドアをそっと開けて部屋を覗いた。
 子供は私がベッドに寝かしつけた時の姿勢のまま静かに眠り続けていた。

「あの爆音で起きないとは……あれ、もしかして⁉」

 私はふと嫌な予感した。見つけた時も、おんぶして運んだ時も、ベッドに寝かせた時も、ずっとぐったりしていて反応がなかった。
 背中越しから弱々しくも鼓動は伝わっていたから、まだ大丈夫だと思っていたけど、いまドア越しから様子を見て思うことは、結構危ないかも? 顔色は真っ青だし、呼吸も浅く今にも途切れそうな感じだ。

 せっかく私がここまで頑張って助けたってのに、こんなあっさりと終えるなんて許さない。
 私が何が何でも黄泉から引っ張り上げてあげるから、ちょっとだけ待ってなさいよ。

 私は急ぎ一階に下りて薬棚に向かった。黒ずんだ緑色の液体が入った小瓶を掴み、階段を駆け上がり部屋の中に入ると、手にした小瓶をベッド横のテーブルに置いた。また部屋に戻る前に食器棚に寄ってスプーンを確保しておいた。

「あなたには今からオクタヴィア姉さんお手製の気付け薬を飲んでもらうわ。聞こえていないかもしれないけど、ほんとすごい味だから……覚悟しておいてね。でも、その分効能もすごいから!」

 わざわざこんな忠告を言ったのは、私自身も覚悟を決める必要があったからだ。

 この気付け薬は死者をも蘇らせるとうたわれるほど、凄まじい効能があるのだけど『良薬は口に苦し』という言葉を体現したかのように苦い。何度口をゆすごうが取れることのない苦みが数日間も続く。それよりも問題なのは、この気付け薬がただ苦いだけじゃなくて、とてつもなく臭いのだ。

 私がこの気付け薬を飲む時は必ず家の外に行く、蓋を開けるのも閉じるのも全て外で行う。絶対に家の中ではしない、もし壁や家具に一滴でもかかってしまえばもう終わりだ。ただ家の中で蓋を開けただけでも、窓を全開にした状態でも一週間以上は匂いが残る。それほどまでに強烈なのだ、ほんと笑えないぐらいにすごいんだって……。

 私は今晩の寝床はどこにしようかなと思いつつ蓋を開けた。
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