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第四章 魔導書実装編
第五十八話 シークレットミッション前編
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タクト達と入れ替わりセーフティエリアに入ったシノマツリは、足元に展開した魔法陣によって別の場所に転送されてしまっていた。
シノマツリが転送された先は草原。それも見渡す限り草しか生えていない広大な草原だった。
ここに存在するもので、一番高いのはシノマツリと断言するレベルで本当に何も無い。
またシノマツリの身長は山河まつりとほぼ変わらず140cmちょいとなっている。
「えっ……ここは?タクト!修羅刹!バカ兄!みんなどこにいるです?」
シノマツリは辺りを歩き回り雪月山花の面々を探そうとするが、それどころか人っ子一人見つける事が出来なかった。
探し疲れたシノマツリはその場にぺたんと座り込む。
「誰もいないです……出口も見つからないです。マツリはどこに飛ばされてしまったのです?」
シノマツリは誰もいない草原でひとり問いかける。もちろん誰も問いに答えてくれるはずもなく、風の中にただ静かに消えていった。
シノマツリは焦る気持ちを落ち着かせようと目を閉じ、何度も何度も自分に『大丈夫』だと言い聞かせる。
最後に深呼吸を済ませると目を開けた。
「何も見えない……音も聞こえない。マツリはこんな場所知らない!!!!」
シノマツリは大声で叫んだ。それが何の解決策にもならない事など分かっている。だけど、それでもシノマツリは叫ばずにはいられなかった。
目を瞑るまでは日が燦々と当たる草原にいた。なのに、今は自分の手すら見えない暗闇にいた。
自分がいまどこにいるのか、一歩でも前後左右動いただけで、奈落に落ちるんじゃないかという恐怖がシノマツリの心を蝕んでいく。
暗闇で自分以外の音が聞こえるのも恐怖を掻き立てる。その逆、何も聞こえない全くの無音もまた恐怖を掻き立てるのだ。
その恐怖にシノマツリは何度か心が折れそうになるが、勇気を振り絞り立ち上がる。
シノマツリは暗闇で何も見えない中、この空間から脱出する方法はないかと、それでも目を凝らし周囲を観察していた。
すると、最初はこの状況におかれた事による動揺や恐怖で気づかなかったが、前方にほんの小さな明かりが見えた。
この空間は光を完全に遮ってしまうのか、その一点のみしか照らしていなかった。
シノマツリはその米粒のような明かりを頼りに、一歩また一歩と恐怖で竦む足を前に出し続ける。
「これぐらいでマツリがギブアップすると思ったら大間違いです!」
5分ほど光を目指して歩き続けるが、一向に近づいている気がしない。
さらに歩き続ける事……5分。
「あ~、あの光に全然近づけないです!ちょっとイライラしてきたです!いい加減ここから出せです!!!」
シノマツリは歩いても歩いても一向に変化がない空間に苛立ちを覚える。ただ苛立ちが先行した事が幸いし、シノマツリは暗闇による恐怖を克服する事が出来た。
それからさらに5分ほど歩いていると、急に光までの距離が近くなった気がした。
やっと光に手が届くほど距離まで近づいたシノマツリは、自分の頬をトントンと叩き困惑していた。
その光は卵の形をしていた。大きさは鶏卵そのものだった。
「……で、これをどうすればいいのです?」
光をいろんな角度から観察してみるが特にこれといった反応がない。
「もうどうにでもなれです!!!」
シノマツリは意を決し、光を右手で掴む。形だけじゃなくて殻の硬さもほとんど同じだった。
握り締めてから数秒経過しても何も変化がなく、ただ指の隙間から明かりが漏れるだけだった。
触れる事で何か変化が起こると期待していたシノマツリは肩を落とす。
「困りましたです……」
もう残された手段は一つしかない。
シノマツリは右手にグッと力を入れた。
グググググ……グシャ。
その瞬間、目がくらむほどの閃光が右手から溢れ出した。シノマツリはその眩しさに耐え切れず目を閉じた。
そして次に目を開いた時にはまた別の場所に飛ばされていた。
「なにここ!?」
シノマツリが次に飛ばされた場所は天と地の境が存在しない空間だった。
見下ろすと透き通った海が鏡のように反射し空を映している。見上げると青く澄んだ雲ひとつない空が広がっている。
シノマツリはとても神秘的で綺麗な不思議な光景に目を奪われていた。
「そこの可憐なお嬢さん、こちらでお茶でも一杯どうだい?」
どこからかシノマツリを呼ぶ声が聞こえた。
「えっ……?」
「こっちだよ、こっち!」
さっきまでどの方向から声が聞こえて来るのか分からなかったが、その声が『こっち』といった瞬間、右側からハッキリと聞こえるようになった。
シノマツリが声の方に向くと、そこには先ほどまで何も無かった場所に、テーブルと二人分のイスが用意されていた。
そして片方のイスに初期装備である麻布セットを着た少年が膝を組んで座り、こっちに向かって手招きしていた。
その少年の服装こそ村人装備なのだが、それに相反するように両手全ての指に黄金に輝く指輪をはめていた。
怪しさ満点の誘いではあるが、他に選べる選択肢が無いシノマツリは警戒しつつ少年のもとに近づいた。
「よく来たね!ささこっちに座りなよ」
少年はそう言いつつシノマツリの顔を見ずに足元を見ている。
シノマツリは少年の視線を追いかけるように視線を落とした。そこにはフリルドレスの奥に隠れた白と青のストライプ模様の下着が、海に反射してクッキリと見えていた。
「この変態!!!!」
シノマツリは振りかぶりグリモワールの角で少年を強打した。
シノマツリが転送された先は草原。それも見渡す限り草しか生えていない広大な草原だった。
ここに存在するもので、一番高いのはシノマツリと断言するレベルで本当に何も無い。
またシノマツリの身長は山河まつりとほぼ変わらず140cmちょいとなっている。
「えっ……ここは?タクト!修羅刹!バカ兄!みんなどこにいるです?」
シノマツリは辺りを歩き回り雪月山花の面々を探そうとするが、それどころか人っ子一人見つける事が出来なかった。
探し疲れたシノマツリはその場にぺたんと座り込む。
「誰もいないです……出口も見つからないです。マツリはどこに飛ばされてしまったのです?」
シノマツリは誰もいない草原でひとり問いかける。もちろん誰も問いに答えてくれるはずもなく、風の中にただ静かに消えていった。
シノマツリは焦る気持ちを落ち着かせようと目を閉じ、何度も何度も自分に『大丈夫』だと言い聞かせる。
最後に深呼吸を済ませると目を開けた。
「何も見えない……音も聞こえない。マツリはこんな場所知らない!!!!」
シノマツリは大声で叫んだ。それが何の解決策にもならない事など分かっている。だけど、それでもシノマツリは叫ばずにはいられなかった。
目を瞑るまでは日が燦々と当たる草原にいた。なのに、今は自分の手すら見えない暗闇にいた。
自分がいまどこにいるのか、一歩でも前後左右動いただけで、奈落に落ちるんじゃないかという恐怖がシノマツリの心を蝕んでいく。
暗闇で自分以外の音が聞こえるのも恐怖を掻き立てる。その逆、何も聞こえない全くの無音もまた恐怖を掻き立てるのだ。
その恐怖にシノマツリは何度か心が折れそうになるが、勇気を振り絞り立ち上がる。
シノマツリは暗闇で何も見えない中、この空間から脱出する方法はないかと、それでも目を凝らし周囲を観察していた。
すると、最初はこの状況におかれた事による動揺や恐怖で気づかなかったが、前方にほんの小さな明かりが見えた。
この空間は光を完全に遮ってしまうのか、その一点のみしか照らしていなかった。
シノマツリはその米粒のような明かりを頼りに、一歩また一歩と恐怖で竦む足を前に出し続ける。
「これぐらいでマツリがギブアップすると思ったら大間違いです!」
5分ほど光を目指して歩き続けるが、一向に近づいている気がしない。
さらに歩き続ける事……5分。
「あ~、あの光に全然近づけないです!ちょっとイライラしてきたです!いい加減ここから出せです!!!」
シノマツリは歩いても歩いても一向に変化がない空間に苛立ちを覚える。ただ苛立ちが先行した事が幸いし、シノマツリは暗闇による恐怖を克服する事が出来た。
それからさらに5分ほど歩いていると、急に光までの距離が近くなった気がした。
やっと光に手が届くほど距離まで近づいたシノマツリは、自分の頬をトントンと叩き困惑していた。
その光は卵の形をしていた。大きさは鶏卵そのものだった。
「……で、これをどうすればいいのです?」
光をいろんな角度から観察してみるが特にこれといった反応がない。
「もうどうにでもなれです!!!」
シノマツリは意を決し、光を右手で掴む。形だけじゃなくて殻の硬さもほとんど同じだった。
握り締めてから数秒経過しても何も変化がなく、ただ指の隙間から明かりが漏れるだけだった。
触れる事で何か変化が起こると期待していたシノマツリは肩を落とす。
「困りましたです……」
もう残された手段は一つしかない。
シノマツリは右手にグッと力を入れた。
グググググ……グシャ。
その瞬間、目がくらむほどの閃光が右手から溢れ出した。シノマツリはその眩しさに耐え切れず目を閉じた。
そして次に目を開いた時にはまた別の場所に飛ばされていた。
「なにここ!?」
シノマツリが次に飛ばされた場所は天と地の境が存在しない空間だった。
見下ろすと透き通った海が鏡のように反射し空を映している。見上げると青く澄んだ雲ひとつない空が広がっている。
シノマツリはとても神秘的で綺麗な不思議な光景に目を奪われていた。
「そこの可憐なお嬢さん、こちらでお茶でも一杯どうだい?」
どこからかシノマツリを呼ぶ声が聞こえた。
「えっ……?」
「こっちだよ、こっち!」
さっきまでどの方向から声が聞こえて来るのか分からなかったが、その声が『こっち』といった瞬間、右側からハッキリと聞こえるようになった。
シノマツリが声の方に向くと、そこには先ほどまで何も無かった場所に、テーブルと二人分のイスが用意されていた。
そして片方のイスに初期装備である麻布セットを着た少年が膝を組んで座り、こっちに向かって手招きしていた。
その少年の服装こそ村人装備なのだが、それに相反するように両手全ての指に黄金に輝く指輪をはめていた。
怪しさ満点の誘いではあるが、他に選べる選択肢が無いシノマツリは警戒しつつ少年のもとに近づいた。
「よく来たね!ささこっちに座りなよ」
少年はそう言いつつシノマツリの顔を見ずに足元を見ている。
シノマツリは少年の視線を追いかけるように視線を落とした。そこにはフリルドレスの奥に隠れた白と青のストライプ模様の下着が、海に反射してクッキリと見えていた。
「この変態!!!!」
シノマツリは振りかぶりグリモワールの角で少年を強打した。
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