魔法が存在しない世界でパリィ無双~付属の音ゲーを全クリした僕は気づけばパリィを極めていた~

虎柄トラ

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第四章 魔導書実装編

第五十話 はじめてのイベントダンジョン

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 ふたり揃ってテンパるという謎の現象から時間は進み、サンと修羅刹もギルドハウスに戻って来ていた。

 その後、イベントダンジョンに向け準備を整えた僕達は噴水広場のポータルを抜け、各ダンジョンに通じるポータルがあるドーム状の空間にいた。

 通常は中央に青色の帰還用ポータル、右側に緑色のマルチダンジョン用ポータル、左側に赤色のソロダンジョン用ポータル。今回はその三つのポータルに加えもう一つ、緑のポータルの隣に黄色のポータルが増えていた。

「んじゃ、みんな準備はいいか?」

 サンは振り向き僕達に向かって声をかける。

 僕達はそれぞれ肯定の意思表示をする。

「しゅっぱ~つ!俺様に続けぇー!!」

 サンは声高々にポータルを通り抜ける。僕達もサンの後を追いイベントダンジョンに潜る。

 イベントダンジョンの内部構成は11階層に似た感じの石造りのダンジョン。シノマツリはまだそこまで進んでいない事もあって、初めて見る光景に目をキラキラさせている。僕とサンは「うん、うん」と頷き、シノマツリに過去の自分を投影しつつ、過去に挑戦したダンジョンの雰囲気を懐かしむ。

 そんな中ひとり修羅刹だけは僕達と違い、すぐに戦闘態勢に入るのだった。

 両腰にぶら下げている二つのユニーク武器を手に取り拳にまとわせる。

「ではでは、一番槍は拙僧にお任せあれ!!」

 僕とサンは「「はい」」とだけ返事を済ませると、各々剣を鞘から引き抜く。

 僕達の反応を見ていたシノマツリはすぐさま背中に手を回し、腰に括り付けた本を左手で掴むと、勢いよくベルトから抜き取る。

 ガッチガチにベルトで固定されている本を、片手でスッと引き抜くなどあり得ない。縦に一本とかではなく十字、しかも位置的に腰に付いている大きなリボンと干渉している。

 ただそれは些細な事、別に気にする必要もない。なぜなら僕達も肩関節を外しても引き抜けないような状態の剣を、さも当たり前のように毎回引き抜いている。

 こっちの剣と違いあっちの本の取り方は、次元を超えていそうではあるが気にしたら負け。

 サンに一番最初にポータルを通られたのがショックだったのか、今度は修羅刹が先頭となりダンジョンを進んで行く事になった。

 色々と考慮した結果、進む順番は先頭が修羅刹、次に僕、真ん中がシノマツリで最後がサン。

 修羅刹はもう固定変更不可、次は僕かサンで少し悩んだが僕が二番手となった。これは単純に速さで選んだ。修羅刹が敵を取りこぼす事などないとは思うが、もしもの時すぐに対応するためこの順番にした。

 三番手はシノマツリ、これについてはもう最初から決めていた。これなら前方からでも後方からでもシノマツリを守る事が出来る。

 5階層突破したとはいえシノマツリは武器も防具もまだ一度も強化していない。未強化の防具ではかすり傷でさえ致命傷になりかねない。そのリスクを回避するために考えついたのがこの位置。

 そして最後は僕達の中で一番防御力があるサン。コタロウとの試合では瞬殺されていたが、あれは鎧の関節部を一寸の狂いもなく、正確に斬ったコタロウの腕がヤバいだけ……。

 背後から襲われた時に壁となる役。とは言ってもサンも60階層までは到達しているので、背後からその階層よりも上のボスが奇襲でもしてこない限り全然余裕だろう。

 先頭を行く修羅刹も65階層まで進んでいるし、正直なところ僕の出番は一切ないかもしれない。それぐらいまで安心感がある布陣だったりする。

 その分、僕はシノマツリを守る事に専念出来るって訳だ。

 さすがはイベントダンジョンといったところだろうか、1階層目からオーガ、サイクロプス、ケンタウロスが配置されていた。

 一番弱いケンタウロスですらソロダンジョンの36階層に出現する魔物。オーガとサイクロプスに至ってはそれぞれ35階層と40階層のボス。

 それらが1階層からワラワラと途切れずに列をなして襲ってくる。それも天井も壁も石で囲われ逃げ道がない場所でだ。だが、そんな事お構いなしに我らが一番槍は、ことごとく返り討ちにしていく。

 時にはボディブローであばらを砕き、時にはフックで顎を揺らし、時にはストレートで膝を折り、時にはアッパーで天井にめり込ませ、魔物を次々と光り輝く粒子に変えていった。

「はぁ~、もうちょい殴りがいがある魔物はいないの?これじゃ準備運動にもならないわよ!!」

 修羅刹はこの程度じゃ物足りないと逆ギレしながらドンドン前に進んで行く。

「つってもよ、まだ1階層だぜ。俺様からすると1階層で、この感じはなかなかだと思うけどな」

「僕もサンの意見に賛成。まだ僕達は2階層への階段すら見つけていない。なのにもう100体を超えそうな勢いで魔物倒してるぞ」

「まだたった100体でしょ?」

「俺達で100体ならその反応であってるかもしれないが、それ修羅刹ひとりでだからな?俺様達はまだ1体も倒してない、それどころか戦ってすらいねぇよ!」

「あれ……そうだっけ?」

「はい、修羅刹しか戦ってないです」

 とぼける修羅刹にシノマツリは淡々と答えていた。

 シノマツリの反応になぜか焦りを感じた修羅刹はある提案を口にする。

「えと、えと!じゃ~、階層ごとに先頭を変えるってのはどう?次はタクト、次はシノマツリみたいな感じで!!」

 その提案を聞いた僕とサンは拒否しようとしたが、シノマツリの一言によってすぐに可決された。

「はい、大丈夫です」

「決まりね!という事で、ここをクリアするまではまだ拙僧が一番前だからね!!」

 修羅刹は意気揚々と大手を振って奥に進んで行った。

 まだ初心者だから守ってあげないととか理由を付け戦わせないようにしていた。だけど、一番重要な事を僕もサンも忘れていた。

 それはシノマツリ本人がどうしたいかという事だ。この世界では自分の好きなようにプレイ出来る。その事を一番よく知っている僕達が規制しちゃダメだ。

 それに……あんなに嬉しそうにグリモワールをめくり、自分が考えた魔法を見ているシノマツリに戦うなとは言えない。

 ただそれで死なれたら元も子もないので、全力でシノマツリをフォローしよう。

 密かに僕とサンによるシノマツリを陰で支えようミッションが開始した。

 なぜかこのあたりからシノマツリは言葉の末尾に『です』を付けるようになった。
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