魔法が存在しない世界でパリィ無双~付属の音ゲーを全クリした僕は気づけばパリィを極めていた~

虎柄トラ

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第四章 魔導書実装編

第四十七話 山河家の家族会議

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 キャベツを千切りしながら強くなると心に誓ったあの日から数週間が経過した。

 月明りと揺らめくロウソクの灯のみしか光源が存在しない朽ち果てた武家屋敷。

 人によってはトラウマになるであろう空間で僕はひとり、ホコリだらけの畳にだらんと両足を伸ばして座っていた。

「ソロでここ進むのはあいつにはちょっとキツイかもな。まぁ物理が効く魔物ばっかだし、大丈夫だとは思うけど、たぶん」

 この階層では鬼や夜叉といった人型の魔物が多く出現する。そしてその魔物全てが刀や弓といった日本古来の武器を使用する。その上、防御面でこそ敵わないが攻撃面に関しては50階層のボス、デュラハンを軽く凌駕する性能。それがゴブリン、コボルトのように数体で連携を取って襲ってくるので、こっちとしてはたまったもんじゃない。

 だからこそ、その分ここの階層のボスと対峙した時、一対一で誰にも邪魔されずに戦えるのが嬉しかった。

 80階層のボスは酒呑童子しゅてんどうじ直垂ひたたれ姿の大太刀をかついだ全長2mほどある鬼。その体格に似合わず動きは俊敏、大太刀を羽根のように軽々と振り回す剛力。猛攻をかいくぐって攻撃に転じたとしても、熟練した太刀捌きによって、ものの見事にいなされてしまう。

 その戦闘スタイルは僕やコタロウと同じカウンタータイプ。相手の攻撃をパリィしたり、捌いたりして相手が体勢を崩した時に一撃を加える。

 ただそれでもコタロウには到底及ばない。あの太刀筋を経験した後では、酒呑童子の太刀筋を見切る事など朝飯前だった。

 いなされるのを前提に攻撃を仕掛け、酒呑童子がまんまと僕の罠に引っ掛かったところを、全力で叩き切るだけの簡単なお仕事。

 ただ80階層のボスという事だけあって一撃で撃破とまではいかなかった。

「次の階層がどんなダンジョンなのか、非常に気になる……気になるが。今日はもうこれで切り上げるとしよう。そろそろ時間だしな」

 僕は81階層へと続く階段を上りたい衝動に駆られながらも、街に戻るためポータルを潜り抜ける。
 
 街に戻った僕は集合場所であるママの酒場に向かった。どうやら僕が一番最後だったようで、酒場にはもうすでにみんな集まっていた。

 その中にひとり『こっちの世界』で、はじめましての人がいた。

 なぜ今日集合する事になったのか、それは一週間前までさかのぼる。

 ピロロロン、ピロロロン、ピロロロン、ピロロロン!!

 その日、僕は自分で設定したアラームではなく、山河のコールによって起こされた。

「はい……もしもし」

「こんな朝早くに起こして悪いな」

 電話越しに聞こえる山河の声はいつもよりワントーンもツートンも低かった。

「どうした?」

「あのさー、拓斗。今日って何か予定あるか?」

「いや、特に何も無いけど」

「じゃ~さ、今日俺の家来ないか?ちょっと相談に乗って欲しくてな」

「別にいいけど、それで何時頃にそっちに行けばいい?」

「あ~、そうだな。10時ぐらいで」

「そこそこ早いな、分かった」

「じゃ、また後でな!」

 そんな朝の出来事から数時間が経過し、僕はいま山河の部屋にいる。

「んで、僕に相談って?」

「あ~、それはだな。俺の妹がな……」

 山河家は父の力一、母の夏未、兄の聖陽、妹のまつりの四人家族。あと、わたあめという茶トラのオス猫を飼っている。

 山河まつりは兄の山河聖陽と歳が4つ離れた中学一年。幼馴染の妹という事もあり、自然と僕や蘇芳院も山河と同じように接するようになった。

 僕はまつりちゃんについて、渋って話そうとしない山河を問い詰める。

「山河、まつりちゃんがどうしたんだ?」

「それが……な。まつりもアーティファクト・オンラインを遊びたいらしいんだ」

「らしい?」

「今週、まつりの誕生日だろ。その誕生日プレゼントにVRデバイスが欲しいって、親父にお願いしたんだよ。アーティファクト・オンラインの箱を見せて、これがやりたいからってさ」

「アーティファクト・オンラインの箱を見せて?」

「まつりのやつ、小遣いを貯めて自分で買ったんだってよ。まぁ17歳以上とかじゃなければ、別に年齢証明とかもせずにゲーム買えるからな」

「あ~、僕達も何度かやってるな、それ」

「だろ。で、問題はその次……この事を親父もまつりも母さんに言ってないんだわ」

 アーティファクト・オンラインのプレイ年齢制限は12歳以上となっている。なので、年齢で判断するならば、山河まつりも問題なく普通にプレイ出来るはずなのだが……そうは問屋が卸さない。

 何となく山河が何を相談したいのか分かってきた。山河の親父さんは娘のまつりちゃんを超がつくほど溺愛している。そしてそんな父親を監視しているのが母親の夏未さんだ。

 夏未さんに相談なく娘に買い与える事は、例え誕生日プレゼントだろうが言語道断。それほどまで力一さんには前科があった。

「はぁ……山河の言いたい事が分かった。あれだろ?山河家の家族会議に僕も参加しろって事か。まつりちゃんにアーティファクト・オンラインをプレイさせてあげるために」

「そういう事だ。わりぃんだけどさ、まつりのために一肌脱いでくれないか。さすがに俺達だけじゃ、今回の件は無理だわ。負ける未来しか見えん……」

 山河はそう言って僕に頭を下げる。

「僕がいたところであまり役には立てないかもしれないけど、まつりちゃんのためだし、出来るだけ頑張ってみるよ」

「拓斗、マジでありがとうな!」

 山河は僕の右手を両手で全力で握り締める。握手するだけなら何の問題もないのだが、僕より20cm以上デカく筋肉もある山河からの力いっぱい握手。それはもう握手と呼べるものではなく、ただの拷問とかしていた。

 ミシミシと右手から軋む音がする。

「痛い!痛い!痛い!分かったから、さっさとその手を離せ!手が潰れる!!」

「わりぃ、拓斗。またやっちまった……」

 その言葉と同時にやっと解放された右手をグー、パーと動かして無事かどうか確かめる。痛みはそれほどないが、ただ左手に比べると少しだけ赤くなっていた。

「で、その交渉日はいつの予定なんだ?」

「あ~、うんとな。この後すぐにでもしようかと……」

「マジで?」

「マジで!」

「当日にやって、まつりちゃんの誕生日を台無しにする訳にもいかないし……やるしかないか」

「わりぃな、拓斗」

「いいよ別に。それはそうと、まつりちゃんの誕生日プレゼントの事なんだけどさ。今年もアレで本当にいいのか?」

「あー、まつりもそれがいいって言ってるし今年もよろしく頼む」

 アレと言うのは誕生日ケーキの事で、なぜか山河家も蘇芳院家も誕生日ケーキを購入せず、毎年僕の手作りケーキで祝おうとする。年に一度の誕生日だというのに、素人じゃなくてプロが作った方でいいんじゃないかとつい考えてしまう。

 それでも毎年、みんな本当に美味しそうに完食してくれる。だからこそ、毎年不安こそあれ結構楽しみにしていたりもする。

 山河は重い腰を上げドアノブに手をかける。

「んじゃ拓斗。行こうぜ!」

「りょうかい」

 僕と山河は夏未さんが待つリビングに向かうのだった。
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