魔法が存在しない世界でパリィ無双~付属の音ゲーを全クリした僕は気づけばパリィを極めていた~

虎柄トラ

文字の大きさ
上 下
33 / 63
第二章 エインヘリャル最強決定戦編

第三十三話 二つのお祝い

しおりを挟む
 第一回エインヘリャル最強決定戦が開催されてから数日後……。

 僕はいま自宅で山河と蘇芳院のふたりからお祝いされている。

 理由としてはまず一つ目は今日が僕の誕生日だという事、二つ目はあの大会で僕が優勝した事。

 山河は右手に持ったグレープジュースが入ったグラスを頭の位置まで上げた。僕と蘇芳院もそれに同調しグラスをかかげる。

 そして三人で声を合わせ乾杯するのだった。

「「「かんぱ~い!!!!」」」

 それぞれ手に持ったグラスを軽く当てると心地よい音が響いた。

「たくとぉ~!優勝アンド誕生日おめでとう!!」

「拓斗君!大会優勝そして誕生日おめでとう!!」

「あ~、ふたりともありがとう」

 ふたりから祝福されるのは少し照れくさいとこもあるけど、嬉しい事には変わりない。ただ……いまはその嬉しさよりも最後どうやってコタロウとの試合に決着がついたのか、その記憶がぼんやりとしか思い出せない事の方が残念で心残りだった。

 決勝戦以降の出来事などはちゃんと覚えている。

 優勝賞品のユニーク武器はプレイヤーがメインで使用している武器種から自動で選ばれるようになっていた。なので、僕は使用していたショートソードと同じ片手剣のテュルフィングを受け取った。

 テュルフィングは全長1mほどのショートソードよりも少し長い剣で黒一色、剣身も同じ黒色だが刃の部分のみ金色の加工がされていた。

 僕以外のプレイヤーは武器強化素材やリィンなどを順位に応じて受け取っていた。

 その後、本戦出場者16名全員がコロシアム中央に集められ観客から盛大な拍手が送られた。

 閉会式が終わった後は僕達が初日からお世話になっているあの酒場に、コタロウ達を招いてちょっとした打ち上げをした。みんなに優勝おめでとうと祝福されたけど、自分自身の力でコタロウに勝てた気があまりせず、心の底から喜ぶ事は出来なかった。

 それにしてもあの時、僕が発動したユニークスキル、【全てを見通し支配するヨグソトース者】とは何だったのか……。

 ユニークスキルは通常のスキルのようにポイントで覚えるというものではなく、何か特別な条件を満たした場合のみ習得する事が出来る。またユニークスキルは唯一無二、同じ能力をもったものは存在しない。そのためユニークスキルを習得したプレイヤーから条件を教えてもらったとしても、それが役に立つという事はないらしい。

 あの試合中に達成した条件とは何だったのだろうか、全く見当がつかない。

 全てを見通し支配するヨグソトース者の習得条件、アーティファクト・リズムを全てパーフェクトで尚且つ誰よりも最速でクリアする事。

 そしてパーフェクトを出した時と同等以上の集中力が発揮された場合に使用許可が下りる。それ以降は特に制限もなく使用可能となる。

 この事実を拓斗が知る事は一生ない。それはなぜか……拓斗が寝ている間に実績解除と共にアーティファクト・リズムがアンインストールされた事で、二度とその条件を確認する事が出来なくなったからだ。

 通常のスキルと違ってユニークスキルには、クールタイムがなく連続して発動する事が可能、ただし一日に発動できる回数に制限がある。

 僕が習得した全てを見通し支配するヨグソトース者は使用回数1、つまり一日に一度しか発動する事が出来ない。このゲームの仕様上、使用回数が少ないという事はそれだけ能力も強い。通常のスキルのクールタイムが長ければ長いほど強いのと同じ理論。

 その能力とは一定時間相手の動きが手に取るように分かるようになる。またあらゆる物体に干渉する事が可能となる。

 このゲームは全体的に説明が簡略すぎて実際に使ってからじゃないと、どんな能力なのかどんな性能なのか判断に困ってしまうのが難点ではある。まぁ逆に言えばそれがこのゲームの魅力だったりもする訳だけど……。

 このスキル発動後、コタロウの残像のようなものが見えたのは覚えているが、どうやって桜滅一刀流を破って勝利する事が出来たのか、その肝心な部分が記憶から抜け落ちていた。

 結局僕は最後の最後まで【桜滅一刀流奥義朔耶】がどういう技だったのか、理解する事も体験する事もなくコタロウに勝ってしまった。それは僕としても不本意だし全力を出してくれたコタロウにも申し訳ない。

 そういう事もあってコタロウじゃないけど、僕もこのチートのようなユニークスキルは封印する事に決めた。

 ユニーク武器であるテュルフィングにも使用回数3のユニークスキルが付与されていた。こちらは【三度の願いは貴方の命で叶えましょう】というスキル名だが、そのまま読まずに武器名を発声すると発動する。

 つまりヨグソトースと同じようにテュルフィングと声に出せばいいだけ。

 こっちの能力は対象を指定して発動するスキルで、攻撃力が大幅に上昇し羽根のように軽くなる。そして効果時間はその対象を倒すまでずっと効果が続くため、ボス攻略時に重宝している。ただこのスキルには大きなデメリットがある。それはスキル名どおり限度の3回使用するとプレイヤーは死亡する。

 このゲームでのデスペナルティは毎日ログインしている僕にとって致命的なもので、その内容は24時間ログイン不可になるというものだ。

 山河が言うのには他のVRMMOに比べてかなりぬるい調整らしい。前に山河がプレイしていたものは死亡すると装備品が消えたり、一週間ログイン出来なかったりと色々な仕様があったらしいが、その中でも一番辛かったのは丹精込めて育てたキャラが削除された事だそうだ。

 毎日2回までで止めておけば何ら問題もないので、それほど気にする事もないかもしれない。

 そんな感じでここ最近の出来事について振り返っていた僕に向けて、対面に座っている山河が空になったお茶碗を差し出しているのに気づいた。

「拓斗~!ご飯おかわり~!!」

「はいはい」 

 僕は山河からお茶碗を受け取るとご飯をよそうために席を立ち、炊飯器があるキッチンに向かおうとした時だった。もうひとりの食いしん坊も僕に向かってお茶碗を差し出しているのが見えた。

「わたしもおかわり~!」

「りょうかい」

 僕は手に持った二個のお茶碗を見つめながら、おかずを黙々と食べるふたりに問いかけた。

「あのさ~、一応念のために聞くけど今日は僕をお祝いするために集まったんだよな?」

 ふたりはゴックンと飲み込んだ後、平然と僕の質問に答えた。

「それ以外に何があるんだよ」

「変な質問してどうしたのよ。そんなの当たり前じゃない」

「……あ~、そうだな」

 まぁ美味しそうに食べてくれているし別にいいんだけど、ただ今日は僕が主役のはずなんだけどなぁと少しモヤモヤする紫乃月拓斗だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

戦国時代の武士、VRゲームで食堂を開く

オイシイオコメ
SF
奇跡の保存状態で頭部だけが発見された戦国時代の武士、虎一郎は最新の技術でデータで復元され、VRゲームの世界に甦った。 しかし甦った虎一郎は何をして良いのか分からず、ゲーム会社の会長から「畑でも耕してみたら」と、おすすめされ畑を耕すことに。 農業、食堂、バトルのVRMMOコメディ! ※この小説はサラッと読めるように名前にルビを多めに振ってあります。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

処理中です...