魔法が存在しない世界でパリィ無双~付属の音ゲーを全クリした僕は気づけばパリィを極めていた~

虎柄トラ

文字の大きさ
上 下
22 / 63
第二章 エインヘリャル最強決定戦編

第二十二話 楓御前と凪太郎

しおりを挟む
 シャドーエッジは短剣用のスキルで、装備している武器を投影をする事によって、実体化した影が対象に向かって真っすぐ飛んで行くスキル。これのいいところはソニックブレイドと同じクールタイムが1分。それと影を相手に向かって投げるだけなので、実際にいま装備している武器を手放さずに済む事だ。

 これでソニックブレイドのクールタイムが終了していなくても、同じ遠距離攻撃が出来るシャドーエッジで、何とか対応出来るだろうという作戦。まぁいまのように同時に発動したら、その作戦は台無しになる。その分瞬間火力は上がるので場合によりけりではあるが、選択肢としては存外悪くないと思う。

 その後もバトルロイヤルは続き……乱戦で生き残ったプレイヤーは、僕を含めた三人だけとなった。

 僕以外のプレイヤー2名は、両方とも日本古来の甲冑らしき装備を身にまとっていた。片方は打刀と脇差による二刀流で、もうひとりはロングボウを装備していた。ロングボウなどの弓矢を好んで使っているプレイヤーは、このゲームではかなり少数なため彼女がどんな戦い方をするのか少し興味を持った。

 このゲームで遠距離攻撃するには、ソニックブレイドなどのスキルを使用するか、もしくはジャベリンやトマホークといった元から投擲可能な武器を装備するか、またはロングボウのように最初から離れた敵を射抜く武器を装備するかの三択のみ。

 そのなかで弓矢を選ぶのは、かなり腕に自信がないと選ぶ事は出来ないだろう。なぜならこのゲームは白兵戦主体のゲームだからだ。接近戦に持ち込まれる可能性大のため剣や槍などを装備していないと、相手の攻撃を防ぐことも反撃する事も出来ずに一方的に倒されてしまう。そのため大半のプレイヤーは、いまの僕と同じように白兵戦主体だけど、一応遠距離戦も対応出来るようにスキルを習得している事が多い。
 
 投擲可能武器を選んでいるプレイヤーもスキルで遠距離戦に対応するか、武器で遠距離戦に対応するかだけの違いで、考え方にさほど大きな違いはない。
 
 だが、この弓矢だけは他のふたつとは明らかに違う。それは弓矢は両手武器で、尚且つ遠距離戦特化のため白兵戦との相性が極端に悪い。そのうえ凄まじく使用難易度が高い。弓を引くだけでも難しいのに、さらに狙いを定め矢を射るともなれば大概のプレイヤーは、弓矢を諦めて他の武器を選ぶ。

 やっと矢を射れたとしても正確に相手を射抜く事が出来なければ、そこら辺の落ちている石を投げた方が効率もいいし威力もある。

 そんな武器をわざわざ選んでいるという事は、それほど彼女は相当弓に自信があるのだろう。

 それにしても背格好や装備している甲冑といい、それに顔立ちも非常によく似ている。ふたりの髪がそれぞれ金銀と違う事や装備などを実際に、いま見比べているからまだ別人だと分かるが、もしそうじゃなかったら楓御前かえでごぜん凪太郎なぎたろうという2名のプレイヤーを見分けるのは、相当難しいかもしれない。

 それぐらいに本当にうり二つなのだ。それにちょいちょい親しげに会話をしているのも見て取れる。という事はもしかするとこの後、僕ひとりであのふたりを相手取らないといけないのか。あのふたりが戦っているところをもっと見ておけば良かった。そうすれば対応策も講じる事が出来たかもしれないのに……。

 白兵戦をしながら飛んでくる矢にも気を付けないとダメなのか、そんな事を考えていると急に凪太郎と楓御前が大声で言い争いはじめた。

 呆気に取られた僕は、両手に構えていたショートソードとダガーを鞘に戻し、成り行きを見守る事にした。

「だ~か~ら~、何度も言ってんじゃん!!ナギが先にあの兄ちゃんと戦うんだって!!」

「ダメ!カエデと一緒に戦うの!!じゃないとタクトくんには勝てない!!」

 タクト……くん?……おかしいな……僕、君達とははじめましてのはずなんだけど……。

「い~や~だ!ナギがひとりで兄ちゃんと戦う!!」

「だ~か~ら~!ダメだって言ってるでしょ!コタロウくんにも言われたでしょ!タクトくんと戦う時はふたりで協力するようにって!!」

 コタロウ?……あのギルド設立費用を立て替えてくれた、あのコタロウの事を言っているのか。

 コタロウとはあの一件以来、メッセージのやり取りやコールで通話したりなど、ごく普通に友達として接しているが、彼の口から楓御前と凪太郎という名前が出た事など一度もなかった。なのにあのふたりは、コタロウの事も僕の事も会話の内容を聞く限りだと知っているように思える。

 もしかしたらそもそも僕が思い浮かべているプレイヤーのコタロウではなくて、別人のコタロウの事を言っているのかもしれない。ただそうなってくると、今度はなぜ僕の事を知っているのという疑問が出てくるわけだが……。 

 どちらも自らの主張を取り下げようとはせず、平行線のまま……さらにヒートアップしていく楓御前と凪太郎。

 このままでは埒が明かない……それにこれ以上続けたら、本当に喧嘩がはじまってしまうのではという心配が先に立ってしまう。大会に参加している以上、それで勝手に双方で争い合って自滅してくれるのであれば、それはそれで越したことはないのだが、こんな結果で予選通過したとしても全く嬉しくない。それに僕としても今後コタロウにどんな顔で会えばいいのか分からなくなる、そろそろやめさせるとしよう。

 僕はふたりの会話をバッサリ中断するように横槍を入れた。

「はい!ふたりともそこまでにしようか!!それで僕の事を知っているようだけど、君達は桜花爛漫おうからんまんのコタロウの知り合いなのかい?」

 急に僕から質問されたふたりはピタッと口を閉ざし、暫く経ってから楓御前が僕の質問に答えてべく口を開いた。

「はい、カエデもナギもコタロウくんと同じ桜花爛漫に所属してます。あっ……申し遅れました。姉のカエデと弟のナギです」

 楓御前がペコっとお辞儀をすると隣にいる凪太郎も姉に連動してお辞儀をしてくれた。僕も楓御前と凪太郎に続いてふたりに向け頭を下げる。

「これはどうもご丁寧に、僕は雪月山花のタクトです。で……楓御前さん、凪太郎くん。ふたりの会話を盗み聞きする気はなかったんだけど、聞こえたからさ……それで僕もひとつ提案していいかな?」

 ふたりは首を縦に振る。

「ありがとう。楓御前さんが良ければなんだけど、まずは凪太郎くんと僕で1対1で戦おうと思うんだ」

 僕の話をさえぎるように楓御前が言葉を発する。

「でも!それじゃコタロウくんとの約束が!!」

「なので、そこでは模擬訓練っぽい感じで双方の力量を測る程度で刃を交えるだけにして、その次に楓御前さんも参加して2対1で戦うってのはどうかな?」

「でも……それだとタクトくんだけが余計に体力を消耗して不利になります」

「まぁそれはそうなんだけど、僕としても凪太郎くんとちょっと1対1で戦ってみたいんだよね。ダメかな……楓御前さん?」

「兄ちゃんもナギと戦いたいって言ってるんだし、いいだろカエデ!!」

 楓御前は目をつむり眉をひそめ、僕の提案を受け入れるべきかどうか悩んでいるようだ。隣ではそんな姉の肩を両手で掴み揺さぶり懇願している弟の姿があった。

 ゆっくりと目を開いた楓御前は、早速結論を伝えるため口を開いた。

「それでよろしくお願いします……タクトくん。ナギのわがままに付き合ってくれてありがとうございます」

「いやいや、こちらこそありがとう。楓御前さん」

「やったぁぁぁ!!カエデありがとうなぁぁぁ!!ひゃっほ~~~~~い!!!!」

 姉の楓御前から許可を得た凪太郎は、懇願するために納刀していた打刀と脇差を即座に抜刀して、ぴょんぴょん飛び跳ねている。

「あと……カエデとナギを呼ぶ時は楓御前、凪太郎ではなくカエデ、ナギと呼んでくれると嬉しいです」

「そうだぜ!兄ちゃん!!コタロウの友達って事はナギの友達でもあるんだからな!そんな他人行儀な呼び方やめてくれよな!!」

「分かったよ。今後ともよろしく!カエデ、ナギ」

「よろしくな、兄ちゃん」

「よろしくお願いします、タクトくん」

 挨拶も終えにこやかな雰囲気の中、楓御前はタクトと凪太郎の邪魔にならないように後方に下がっていった。

 楓御前が十分に離れた事を確認した僕は、ショートソードとダガーをゆっくり鞘から引き抜き、戦闘態勢にはいるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

戦国時代の武士、VRゲームで食堂を開く

オイシイオコメ
SF
奇跡の保存状態で頭部だけが発見された戦国時代の武士、虎一郎は最新の技術でデータで復元され、VRゲームの世界に甦った。 しかし甦った虎一郎は何をして良いのか分からず、ゲーム会社の会長から「畑でも耕してみたら」と、おすすめされ畑を耕すことに。 農業、食堂、バトルのVRMMOコメディ! ※この小説はサラッと読めるように名前にルビを多めに振ってあります。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

処理中です...