魔法が存在しない世界でパリィ無双~付属の音ゲーを全クリした僕は気づけばパリィを極めていた~

虎柄トラ

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第一章 正式サービス開始編

第十八話 5階層のその先へ

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 5階層のボスであるゴブリンファイターを倒した事で閉じられていた扉が開いた。

 足元を見下ろすとゴブリンファイターが倒れていた場所に、煌びやかに赤く光り輝く石が落ちていた。僕はその石を拾い上げインベントリーに収容した。この拾った石が装備を強化するために必要な素材、正式名称は魔石という。魔石にはそれぞれドロップした魔物の名前が前につくようになっている。今回はゴブリンファイターからドロップした魔石なので【ゴブリンファイターの魔石】となるわけだ。

 それにしても装備を強化するのに、どれぐらい魔石が必要なのだろうか。費用としてリィンも必要だろうし、まぁダンジョンを進んで行けば、魔石もリィンも知らないうちにたまっているはず、別に今はそれほど気にしなくても大丈夫という事にしておこう。

 6階層へ続く扉を通り抜けた先は、ついさっきまでいたセーフティエリアと全く一緒だった。ただ一か所違うところがあるとすれば、こっちには街に帰還するためのポータルが用意されている事ぐらい。そのポータルはドーム状の建物にあるポータルと同じで、青色の靄が内部を覆っていた。

 僕は街に戻らずにこのまま6階層に向かうべく、階段を上がろうとした時だった。

 ピロロロン、ピロロロン、ピロロロン、ピロロロン……と着信音が聞こえた。

 そして僕の眼前には『修羅刹』とだけ書かれた文字が表示されている。ゲーム内でコールされるとこんな感じになるのか。これがゴブリンファイターと戦っている時じゃなくて本当に良かった。ブロードソードを振り下ろされてる最中に着信音が鳴ってたら、間違いなくパリィ出来ずにバッサリいかれてたわ。

 前に修羅刹が手を使わずにコールに出ていた事があった。だいぶ昔の事になるが、山河がキャラ作りに時間をかけ過ぎて僕と修羅刹のふたりで、先にダンジョンにもぐりに行った時にしていたはず……。確か真っすぐどこかを見つめたまま山河からのコールに出ていたような気がする。そこで僕はピン!ときた。早速は僕はポップアップした文字に視線を合わせてみる事にした。

「あっ……タクト~!いま戦闘中だった?」

「いや、そっちがかけてくる直前に何とか終わったよ」

「あ~、そうだったのね。コールに出るのが遅かったから、てっきり戦闘中だと思ったわ」

「それはだな……コールの出方が分からなかっただけですが何か?」

「あれ?タクトとゲーム内で通話した事ってなかったっけ??」

「ないよ。つうかそれ以前にクローズドベータテストの頃を思い出してみ?僕達三人ずっと一緒にいただろ。真横にいるのにコールする必要ないじゃん」

「あ~~~~、そういやそうか。それでねぇ…………」

 やばい……修羅刹の『それでねぇ』は無駄に話が長くなる前兆だ。こうなると話に花が咲いてしまう、それどころか咲き乱れる。そうなってしまうと、僕はただの相づちするだけの人形と化してしまう。まぁ僕が話を切り替えてしまったのがはじまりなのだが、目の前に6階層への階段が見えているのにここで足踏みをするわけにはいかない。

 通話しながら戦えなくもないが、鬱陶しい事この上ない。それにパリィが使えるようになったとはいえ、少しでも気が緩めば失敗する可能性がある以上、出来るだけ不安材料は取り除いておかないと……。

「で、わざわざコールしてきたって事は何か用があって、かけてきたんだよな?」

「そうそう、そうなのよ!タクト、ちゃんとダンジョン進めてる?わたしはねぇ……いま4階層に来たところよ」

「ふむ、どんな用件かと思っていたら、そんな事かよ!?まぁいいけど、えっと僕はいま6階層に行くため、階段を上がろうとしているとこ」

「へぇ~、そうなのねぇ…………6階層!?タクトいま6階層って言ったの!!!!」

 修羅刹は僕の返答に対し、自分自身に疑問を投げかけたあと今度は驚愕していた。僕自身もまだ夢じゃないかと思う瞬間はあるけど、そこまで驚かなくても良くないですか……修羅刹さん。

「言いましたけど……それが何か?」

「お、おお、おめでとう!タクトォ~~~~~!!今日はタクトの家でパーティね!!はじめてのボス撃破記念の!!あ~、あ~、サンにも教えてあげないと!!」

「やめ~い!!恥ずかしいわ!!!そんなんでパーティなど開かんでいいわ!!!!」

「そぉ……残念ね。本当に残念だわ……。また何かあったらコールするわね、じゃ~ね!」

「おぅ……」

 通話が終わると目の前に表示されていた『修羅刹』の文字も消えていった。僕は修羅刹からのコールにより、中断していた6階層に進むという目的を実行するため、階段を一段一段踏みしめ上がっていく。

 6階層に到着した僕の一番最初の感想は「あれ、これ一緒じゃね……」という何とも愛想のないものだった。5階層のボスを倒してやっと念願の6階層に上がって来たというのに、ダンジョンの雰囲気が5階層までの洞窟と瓜二つだった。強いて言うならさらに湿度が増してジメっとしている事、洞窟を照らしている照明が前回よりも暗くなっていた事。このたった二点の変化によって、慣れ親しんだ洞窟が少しだけ恐ろしく感じたぐらいで本当に微々たる変化だった。

 それから僕はただがむしゃらにダンジョンを進み続けた。

 6階層から9階層ではゴブリン以外にもホブゴブリンという、5階層のボスだったゴブリンファイターよりも、さらに図体のデカいゴブリンがいた。ただこのホブゴブリンは身体が大きくなった分、力はあるが動作が遅いため普通のゴブリンよりも戦いやすかった。

 10階層のボスはレッドキャップという赤い帽子をかぶったゴブリンだった。レッドキャップは両手に小さめの斧を持っているのだが、これをひらすら投げ続けてくるボスだった。距離を詰めようとすると反対側に全力で逃げるし、いつか途切れるだろうと思って斧をパリィし続けた事もあったが、ボスの特権ってやつだろうか。どこからともなく延々と斧を補充するのですぐにこの作戦はやめた。

 結局どうやって倒したかというと、まずエアリアルステップでカバディの要領でレッドキャップを端っこに追い詰める。次にもう逃げられないと悟ったレッドキャップが、両手に持った斧で斬りかかってきたのでパリィでそれを弾き返す。斧を弾かれた衝撃で仰け反り無防備になったレッドキャップめがけて、レイジングスラッシュでオーラを付与した状態のソニックブレイドをゼロ距離で放つ事で倒した。

 その後11階層を探索していたところ、夜の6時に設定していたアラームが鳴った。

 ピピピピピッ!ピピピピピッ!ピピピピピッ!ピピピピピッ!

 せっかくさっきまでの洞窟とは違う雰囲気の場所に来れたというのに、残念だけど一旦ここでゲームを中断しないと、そのためにもまずは11階層の入口まで帰らないといけないか。僕は来た道を戻りポータルを見つけるとすぐに飛び込んだ。

 街に戻ると日が落ちあたりはすっかり暗くなっていた。僕は噴水広場前にあるベンチに座ると、すぐにサンと修羅刹両方にメッセージを送った。

〈晩御飯の準備やらするから一旦ログアウトする。〉 

 メッセージを送ってから数秒後にふたりから息を合わせたように〈今日のご飯はなに?〉というメッセージが届くのだった。
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