魔法が存在しない世界でパリィ無双~付属の音ゲーを全クリした僕は気づけばパリィを極めていた~

虎柄トラ

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第一章 正式サービス開始編

第十五話 三か月ぶりのダンジョン

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 今後、僕達はみんなで協力し合いながら進んで行くマルチダンジョンには挑まず、まずはそれぞれ個人でソロダンジョンの100階層を目指す。それにこのゲームがクローズドベータテストの時と仕様が変更されていないのであれば、どちらにせよまずはソロダンジョンを攻略しておいた方が良かったりもする。

 アーティファクト・オンラインはVRMMORPG。という事はこのゲームにもレベルという概念が存在する。ただこのゲームは通常のRPGのように敵を倒して経験値を稼いで、レベルアップするというものではなく、ソロダンジョンの到達階層がこのゲームでの僕達プレイヤーのレベルになる。

 つまりどれだけマルチダンジョンをクリアしようが、ソロダンジョンを1階層もクリア出来ていないのなら、そのプレイヤーのレベルは1という事。

 じゃー、マルチダンジョンをする意味はあるのか?という話になるのだけど、単純にパーティを組んで挑戦するから魔物を倒す速度、数がソロの時と比べて倍以上は差が出る。効率重視のパーティーだと数倍以上かもしれないが……。

 魔物を倒せばその魔物に応じたアイテムをドロップする事がある。それを武器、防具の強化に使用したりも出来るが、売却してお金を稼ぐことも出来る。つまり簡単に言うとマルチダンジョンは、みんなでお金稼ぎをするためだけのダンジョン。

 またこのゲームでレベルアップしてもステータスが上昇する事はない。その代わりに1階層クリアごとにスキルポイントが1つ付与される。そのスキルポイントを消費して、自分が使用している武器のスキルを取得していくという少し特殊なものとなっている。

 前回のクローズドベータテストでの成績はというとソロダンジョンの5階層までだった。正確にはクリア出来たのは4階層まで……。5階層ごとに毎回ボスが用意されているのだが、何度挑んでもその最初のボスですら倒せませんでした。ふたりはそこら辺のゴブリンとあんまり変わらないようで普通に倒していたけどな。

 修羅刹はギルドハウスの扉に手を当て、僕とサンに話しかける。

「ふたりとも~、忘れ物はないわね?ではでは、三か月ぶりのダンジョンに出発よ!!」

「やる気満々なのはいいけどさ、こういうのって普通ダンジョンに入るポータル手前とかで言うんじゃないのか?」

「だよな……俺様もそう思う。ここからあの噴水広場まで、言うてもそこそこ距離あるぞ」

「ふたりとも~、忘れ物はないわね?ではでは、三か月ぶりのダンジョンに出発よ!!!!」

 修羅刹は僕達が一言もしゃべっていないていにして、また同じ台詞を発するとそのまま外に出て行った。僕もサンも修羅刹の後を追うようにギルドハウスから外に出た。

 こうして僕達は三か月ぶりのソロダンジョンに赴くのであった。

 各ダンジョンに通じるあのドーム状の建物は、クローズドベータテストの時と変わらず、真ん中に街に戻るためのポータル、その左右にはそれぞれソロダンジョン、マルチダンジョンに行くためのポータルが配置されていた。

 久々にこの距離感が狂う建物に入った僕は、ふとクローズドベータテストの時には存在しなかった仕様が追加されているのに気づいた。それは僕達三人以外にもたくさんのプレイヤーがいた事だ。クローズドベータテストでは、フレンド登録などをしたプレイヤー同士でしか同じ建物に入る事は出来なかった。

 例え同時にポータルを通ったとしてもそれぞれ別の建物に転送されていた。それが今回からある一定数までのプレイヤーを一括りにして建物に転送する仕様になったようだ。

 ただその仕様だとフレンドやギルドメンバーと一緒にマルチダンジョンに挑もうとした時、同じ建物に転送されずに仲間外れになるプレイヤーも出るのではないかと思ったが、そこはちゃんと考えて作られているようで、フレンドやギルドメンバーは優先的に同じ建物に転送されるようだ。

 なぜそんな事を知っているのかというと、ふたり組のプレイヤーが床に座り込んで楽しそうに会話していた内容にその事が含まれていたから……。あと一応言っておくが僕は盗み聞きなど断固としてやっていない。これはあくまで自然と耳に入ってきただけ、そう街を歩いていると聞こえてくる環境音と同じ。

 ソロダンジョン行きのポータルを通る前に、サンや修羅刹から意気込みのようなものが発せられるかと思っていたが、そんな事は一切なくあのふたりは、帰宅するかのようにソロダンジョンに向かって行った。

 僕もふたりの後を追いポータルを通り抜ける。ポータルを通り抜けた先に広がる光景は、ジメジメとしたあの懐かしい洞窟。もちろんセーフティエリアも健在なようで、ポータル周辺にはゴブリンのゴの字も存在しなかった。

「さてと……あのふたりと競争すると言った手前、最低でも5階層のボスぐらいは倒せるようにならないとな」

 僕は背負っているショートソードを右手で掴んでそのまま鞘から真っすぐ引き抜いた。次に左手で腰に括り付けたダガーを逆手で引き抜く。

 ショートソードとダガーの位置は、腰骨あたりで鞘同士が丁度十字に重なるようになっている。

 腰のダガーはまだリアルでも鞘から抜く事は出来そうだけど、この背中のショートソードは体の構造上、どう考えても完全に引き抜く事は不可能だろう。

 ショートソードは全長80cmである。それに対して天井にめがけて真っすぐ腕を伸ばし、肩から指先までの長さを測ったとしても60cmぐらいが限界だろう。さらにそこからショートソードを掴んで、そのまま真っすぐに天に向かって引き抜く動作を加えていくと、最初に測った腕の長さからさらに短くなる。

 ショートソードですらこれなのだから、ショートソードよりもさらに長いロングソードを僕と同じように、背負っているサンなどもう無理ゲーの部類だろう。そうならないようにこのゲームではある程度引き抜くだけで、あとはスルッと何の障害もなく、剣を収めていた鞘すら最初からなかったように綺麗に引き抜けるようになっている。剣を収める時も同じ要領で大体の位置さえあえば、あとはスッと見事に鞘に入ってくれる。

 僕は左右の手で握られた相棒に目をやると次に軽く素振りしてみた。アーティファクト・リズムで三か月間使い続けた事もあり、前以上に手に馴染んだ。

 僕はひとり「行くとしますか!」と自分を鼓舞するように呟くと、セーフティエリアから外に出た。そして5階層のボスを目指してダンジョンを突き進むのだった。

 次の階層まであと半分ほど進んだ時だった。3mほど先の曲がり角にゴブリンが息を殺し隠れているのに気づいた僕は足を止めた。この待ち伏せ戦法はゴブリンの常套手段じょうとうしゅだんで、2階層まではゴブリンが1体で待ち伏せしているが、これが3階層以上になると2体またはそれ以上で待ち伏せしている事が多い。

 ただこの待ち伏せ戦法で僕がやられた事は一度もない……もう一度言うが、この僕でさえもやられた事が一度たりともない。それほどまでにお粗末な戦法なのだ。なんか言ってて悲しくなってきたわ。

 この洞窟は松明などの照明がないにもかかわらず、洞窟全体が明るい。明るいという事はそこにものがあれば、必然的に影が生まれる。それは僕もゴブリンも例外ではない。曲がり角などで待ち伏せするのはいいのだが、毎回ゴブリンの影がハッキリと壁や地面に映っているため、僕は一度も引っかかった事がないというわけだ。
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