魔法が存在しない世界でパリィ無双~付属の音ゲーを全クリした僕は気づけばパリィを極めていた~

虎柄トラ

文字の大きさ
上 下
7 / 63
第一章 正式サービス開始編

第七話 新たなるはじまり

しおりを挟む

 メルリアとの話は一応の帰結を見た。
 とにかくその『試練』を乗り越えなければ、メルリアの協力を得られないということが確定した。

 ユーヒはすでに腹をくくっている。
 もし仮に、『試練』に耐えきれず、命を落としてしまったとしても、もう、そこは受け入れるしかない。

 「クインジェム」に来てからまだ数日しか経っていないとはいえ、実際に身をもって経験したこの世界は、とても美しい世界で、とても過酷な世界だと知った。

 一歩間違えれば、いつでも「死」が隣り合わせにあると実感した。
 しかし、その反面、人々は息づき、日々懸命に生きているし、なにより、多くの人の笑顔が眩しい。

 これまでに訪れた街々の人々の明るく活気と希望に満ちた情景は、元居た世界では普段は見受けられないものだった。

(自画自賛だけど、よくぞここまで作り上げられたものだ――。いや、ちがうな。この世界の人たちがここまで作り上げてきたんだ。僕が作ったのはあくまでも、その「種」に過ぎない)

 「種」が芽吹き、茎をのばして葉をつけ、やがて花を咲かせ実を結ぶ。

 それは決して、作り上げた者の成果ではなく、あくまでも、その「種」自身の生命の結実――「彼」自身の力によるものだ。

 「種」自身が、生きたい成長したいと望み、周囲の環境や仲間たち、天からの恩恵を自力で集めて成長した結果、「実を結ぶ」のだ。
 もしかしたら、その過程において、隣にいる「仲間」がしおれて倒れてゆくのを見るかもしれない。
 それでも、諦めず希望を持って生きたいと願ったものが、大地に根を張り、新たな生命を生む者にまで成熟することができる。

(僕はもうこの世界では、ただの一粒の「種」に過ぎないんだ。芽をだし茎をのばし葉をつけ花を咲かせ実を結ぶ――そういうことを意識して生きなければ、恐らく想いを果たせないまま「死」を迎えることになるのだろう)

 自分がこの世界の住人であるという事実を、ユーヒはもう否定しなくなっている。

 何の因果かわからないが、前の世界の記憶が残っている状態でここにきてしまったがために混乱しているのだと言ってもいい。
 もし、この世界にユーヒが元からいて、そこに滑川夕日の記憶が植え付けられただけだと、そう考えれば、このユーヒ・ナメカワなる「少年」にとっては、たまらない災厄に違いないのだ。

 そういうところをはっきりさせたいという思いが実のところ、元の日本に帰りたいという思いよりも強くなっている。

 エリシアに会って確かめたいのは、元の世界に帰る方法というより、「僕自身」がいったい何者なのかということの方だと思い始めているのだ。
 

「それじゃあ、俺も付いていくしかねぇな――」

 ユーヒの隣でルイジェンが不敵に笑ってそう言った。

「「え――?」」

 と、ユーヒとメルリアの両方が同時に声を出す。

「――だって、そういう契約だろ? お前がエリシアさまと会うまで、俺はお前に雇われた「案内人ガイド」で「護衛ガード」だからな。お前が行くところにはついて行かないといけないってわけだ」

 そう言ってルイジェンはこちらに微笑んで見せる。
 いつものことだが、その吸い込まれるような笑顔と瞳には「男」ながらにほれぼれする。

「――それはダメです。といっても、は聞かないのでしょう。ルイジェンはそういう性格ですから――」

 メルリアがそう言った。

「え? ええっ!? 今なんて――」
ユーヒは今のメルリアの言葉に聞き捨てならない言葉が紛れていることに驚愕した。

「ああ、言いそびれていましたが、ルイジェンは私のの一人です。いえ、正確に言えば、「だった」、でしょうね。が私の元を離れてから、もうかれこれ数十年は経ちますから――」

「いえ、そうじゃなくて、え? 「彼女」? ルイは男の子じゃ――。え? ええっ!? もしかして、ルイって、「おんなのこ」? だった、の?」

 ユーヒはおそるおそる隣のルイジェンの方に視線を移す。いったい「彼女」がどういう表情をしているのか、ひじょーに気まずい。

 ユーヒが視線を向けると、ルイジェンは恥ずかしそうに頬を赤らめて、視線をそっぽへ向けている。

 そして、

「お、俺は自分が男だなんて、一言も言ってないからな! お、お前が勝手にそう思い込んでいただけだ! だから、俺は悪くない!」

 と、言い放った。

「いや、そう言われればそうだろうけど――。はあ、なんてことだ。急に恥ずかしさが込み上げてきた――」
と、ユーヒも返す。

「は、恥ずかしいのはこっちだ! お前、完全に俺を男だと思ってただろ? 疑いもしなかっただろ!? そんなやつに、俺は女だなんて、言えるわけないだろ――!」

 ルイジェンは顔を真っ赤にして怒り心頭だ。

 そんなやり取りをする二人を前にしたメルリアだけが、穏やかに微笑んでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

戦国時代の武士、VRゲームで食堂を開く

オイシイオコメ
SF
奇跡の保存状態で頭部だけが発見された戦国時代の武士、虎一郎は最新の技術でデータで復元され、VRゲームの世界に甦った。 しかし甦った虎一郎は何をして良いのか分からず、ゲーム会社の会長から「畑でも耕してみたら」と、おすすめされ畑を耕すことに。 農業、食堂、バトルのVRMMOコメディ! ※この小説はサラッと読めるように名前にルビを多めに振ってあります。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

処理中です...