魔法が存在しない世界でパリィ無双~付属の音ゲーを全クリした僕は気づけばパリィを極めていた~

虎柄トラ

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序章 クローズドベータテスト編

第五話 輪っかはダンジョンへの転送装置

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 僕はインベントリーからレザーアーマーをドラッグして今装備している麻布の服の位置で離す。

 先ほどまで装備していた麻布セットがインベントリーに移され、新たにレザーアーマーが装備される。

 初期装備の麻布セットは上下で分かれていたが、このレザーアーマーは上下でセットのようで、上半身でも下半身でもどちらか片方装備しただけで両方ともレザーアーマー装備になっていた。

 レザーアーマーはベストのように胴体部を保護しているだけで、そこ以外の箇所は下に着ている少し柔らかめの生地で仕立てられた白いシャツが、レザーアーマーの恩恵を一切受けずにそのまま露出している。

 またズボンはシャツよりも硬めの生地で色は紺色、靴はすねを守るように長めのレザーブーツになっている。

 防御面では多少不安は残るが、これ以上重量がある防具だとそれだけで身動きが取れなくなりそうだし、逆に軽いと一回攻撃が当たっただけで死にそうだしなぁ。

 あと頭部は革の帽子を装備しておいた。それと頭部だけは装備していても見えないように出来るらしいので、あとでそれも設定しておこう。

 僕はその場で飛び跳ねたり軽く歩き回ってみた。傍から見たらヤバいやつかもしれないが、安心して欲しい……買い物した人たち全員、僕と同じ事をしているから。

「うん……悪くない。防具はこれで行くとしよう」

 僕の声を聞いた蘇芳院も「結構似合ってるわよ、タクト」と賛同してくれた。

「武器は戦いながら選ぶ事にするよ。あとさ修羅刹、武器も防具も買ったけどまだ何か買い忘れている物とかってある?」 

「あとは……そうねぇ、回復アイテムぐらいじゃない?でも、なぜかこれだけは無料じゃなくて有料なのよね。それも結構するのよ……ポーション。まぁわたしが何個か持ってるから、それ使えばいいわ」

「回復アイテムだけは有料でしかも高いのか。極力使わないで済むように頑張ってみるよ」

「ふふふ、期待しているわよ。タ~ク~トくん♪」

 僕は「はいはい……」と味気ない返事をして会話を終えた。

 ポーションの値段までは蘇芳院から聞き出していないが、何個もすでに持っているとか、どれほどの敵を倒せばいいのだろうか……全く見当もつかない。

 それにしても僕がログインしてから10分は経過しているが、まだ山河からログインしたという連絡が来ない。

 とりあえずこのエリアで手に入れられる物は全て手に入れた事だし、山河がいつログインして来ても大丈夫なように一度噴水広場に戻るべきか。それともまだキャラ作成に時間がかかると判断して、このエリアでまだ行っていない場所を探索してみるか……さてどうしたものか。
 
 一応蘇芳院にも聞いておくとしよう。

「なぁ修羅刹このあとどうする?僕としては選択肢としてはふたつあるんだけど、ひとつは噴水広場であいつを待つ。もうひとつはこのエリアを探索」

「その二択だけで選ぶとするなら、わたしは断然エリア探索ね。でもねタクト、わたしとしてはこのふたつ以外から選びたいなと思うんだけど」

「あれ?まだあったか??」

「このゲームのメインと言っても過言ではない場所……それは魑魅魍魎ちみもうりょう跳梁跋扈ちょうりょうばっこする場所!!そうダンジョンね!!!!」

 そう断言し僕を指差して目をキラキラさせる蘇芳院。

 分かっていた……分かっていたさ……だから、ここに来る時に蘇芳院に聞いたじゃないか、敵を殴りに行かないのかと。

 どうせなら山河をいれた三人で初ダンジョンに挑戦してみたかったんだけど、あ~なってしまうと僕では止められない。山河なら暴走した彼女を止められるかもしれないが、あいつは未だにキャラ作成が終わっていない。

 まぁどうせその内行く事にはなっていただろうし、山河には悪いが先に楽しませてもらうとするか。

 僕の返答を今か今かと目をジッと見つめ待っている蘇芳院。

「分かった、分かりました。ダンジョンに行くよ。ただし、あいつから連絡が来たらすぐに外に出るからな」

「分かってるわよ。それじゃ早速今すぐ行きましょう!!」

 蘇芳院は僕の手を掴み走り出す。

 どこに僕は連れて行かれるのだろうかと思いながら、そして何度も足がもつれてこけそうになりながら目的地にたどり着く。

 目的地は案外近い場所にあった。というか噴水広場に帰って来ているんだけど、これはどういう事だろうか。

 本当にここで合っているのかと疑問に感じたけど、僕をここに案内した当の本人は実に満足気な顔をしている。

「タクト、こっちよ。わたしについて来て!」
  
「あぁ……分かった」

 蘇芳院はそう言うと、噴水広場の奥にあるあの巨大な輪っかに向かい歩きはじめ、そのまま輪っかを通り抜けた。

 強大な輪っか内部はやっぱりもやがかかっているみたいに見通しがとても悪く、そのため向こう側にいる蘇芳院の姿を確認出来ない。

 僕は恐る恐る輪っかに近づいていく、そしてあと一歩の距離まで近づいたところで、再度内部を確認してみるが、この距離でさえ奥に何があるのか判断出来ないほどにぼんやりとしている。

 輪っかを越えるため一歩前に踏み出す。

 暗転し暗闇が訪れる。そしてすぐに今度は眩い光に包まれ、気づいた時には全く違う場所にいた。

 あの輪っかは転送装置のようで僕はドーム状の建物内部に転送されたようだ。

 ここはとても不思議な空間でざっと見た感じ直径40mあるかないかぐらい。大きめの体育館ぐらいの広さがあるように思えるが、なぜかそれよりも狭いようにも逆にもっと広いようにも感じる。

 空間がねじ曲がっているのか、近づけば広がり離れれば狭くなるというか、何とも説明し辛い感覚に陥る。

 この空間は窓がひとつもない、外に通じるドアらしきものない。ある物といえばここに来る時に通り抜けた、あの巨大な輪っかをそのまま縮小したやつが三個見えるだけ。
 
 街にあった輪っかは直径5mぐらいで、こっちはその半分ぐらいかもしれない。

 輪っかは全部で三つあり、ドームの中央に横並びに設置されている

 全て街にあった輪っかと同じように内側は靄がかかっているように奥が見えない状態。ただ街にあったものと違う箇所があり、靄にそれぞれ色が付いている。

 真ん中は青色、右側は緑色、左側は赤色と三色で色分けされている。どうやら転送先を間違えないようにするため色分けしているようだ。

 あと……今になって気づいたけど、ここは照明らしきものがひとつもないはずなのに、なぜか明るく視界の確保が出来ている。

 どこかに照明装置が隠されていないか、キョロキョロ周囲を見渡していると、呆れた表情でこちらを見ている蘇芳院と目が合う。

 この空間の事ばかり気になって、すっかり忘れていた。ここに来た肝心の目的を……。

 早速僕は目的を忘れていない事を蘇芳院にアピールする。

「それで!ダンジョンにはどうやって行くんだ?」

「中央にある輪っかからダンジョンに入れるのよ。真ん中の青い輪っかを潜ると街に帰れて、右側の緑がマルチ用のダンジョンで左の赤がソロ用のダンジョンよ。わたしたちが今から行くのは右側マルチの方ね」

「へぇ~、ダンジョンにも種類があるんだな。それにしてもソロって事はこっちはひとりでダンジョンを進んで行くんだよな。いきなりそっちを選ぶ人がいたら、もうそれだけで尊敬対象になるわ。この手のゲームはあまりやらないから、初回でソロは僕にはハードルが高い」

「…………!?じゃぁ、わたしは崇拝対象って事ね!!」

 そうだった……電話越しにずっと聞こえていた、あの断末魔を作り出していた張本人がこいつだったのを完全に忘れていた。

 どうやら僕は自分が思っている以上にこの世界に魅了されているのかもしれない。だって、そうだろ……たかだか30分前の出来事ですら、頭の片隅から抜け落ちてしまっているんだから。

 ただある程度戦えるようになったら、ソロにもチャレンジしてみたい。高難易度は無理だとしても、低難易度ぐらいなら僕でもクリア出来るはずだ。

 あと蘇芳院よ……僕は尊敬はしているとは言ったが崇拝はしていないぞ、秒で改ざんするんじゃない。

「アー、ソウカモシレナイナ。ヨロシクタノムヨ」

「わたしに任せておきなさい!!それじゃ敵を殴りに行くわよ!!」

 拳を振り上げぐるぐる回しながら蘇芳院は右側のマルチ用の輪っかを通り抜けて行った。

 上機嫌な蘇芳院の後を追って僕も輪っかを通り抜けた。
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