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第十五話 双子の神具
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クランのためになるお話は十分ほどで終わった。
「――ということなんだよ。リーティア、分かった?」
「えっと……つまりあれでしょ。昔の人が何十年かけて、すっごくがんばってここを作ったのよね!」
「あ~、うん。話をギュッとまとめるとそういうことだね……」
あたしはクランに満面の笑みでそう返すと、彼は苦い顔をしながら首を縦に振った。
それを隣で見ていたクアンは力強く弟の肩を二回叩いた。
「おい、クラン。諦めてんじゃねぇよ……こいつ、お前の説明ほとんど理解してねぇぞ」
「でもさ、兄さん……リーティアにしてはちゃんと理解できた方じゃない?」
「いやまぁ、それはそうかもしれねぇが……」
その言葉を最後にクアンは口を閉ざし、二度とこのことについて話すことはなかった。
クランの話だとこの空洞や中心にある建物は昔の人が掘ったりして作ったもので、あの簡素なテントは盗賊が雨風を凌ぐように作ったものらしい。
幹部たちはドーム状の建物内で生活し、部下たちは点在するテントで生活しているようだ。
クランたちのやり取りがひと段落したところで、リーガルは地面に転がっていたナイフを拾い上げ、逆手に持つとすぐに戦闘態勢に入った。
「冗談はそれぐらいにして、そろそろ行くっすよ。みんな、ギフトを出すっす」
あたしたちはリーガルの指示に従い、それぞれギフトを発動し神具を顕現させた。
あたしが短剣ほどではないにしろ剣と呼ぶには少し刃が短めの剣を手にした時、クアンたちも同様に黄金に輝く剣を握り締めていた。
今日のギフトはフラガラック――この剣を一言で説明すると、勝手に飛び回って敵を切り裂く剣といったところだろうか。
フラガラックには殺意感知、自動防衛、意思操作と大まかに三つ能力が付与されている。
まず一つ目の殺意感知はその名の通り、あたしに向けられている殺意がどこから来ているのか方角や距離を認識することができる。
次に二つ目の自動防衛はあたしが危害を受けそうになると、あたしの手を離れて銃弾と同等以上の速さで飛行しその原因を物理的に取り除く。
そして最後の意思操作はあたしが頭の中で考えた通りに剣がひとりでに動いてくれる。なので、あたしはこのフラガラックを自分の手で一度も振るったことは無い。
「あっ、今日はフラガラックだったんだ……ぼく、ここに残って見張っとくよ」
「それなら俺とクランがここに残った方が良くねぇか。ほら、これ見てみろよ……目立ちまくりじゃねぇ?」
クアンは手首を返し剣をこっちに向けながら周囲を見渡す。
あたしも彼に追随して周りを見渡した。
「あっ……なんていうか松明を点けていた時よりも明るいかも」
「だよな、俺だけじゃなくてクランのもあるから余計に輝いてるしな」
クアンたちの剣自体は光を放ってはない、ただ月明りを剣がただ反射しているだけ。ただそれだけのことなのに昼間かと錯覚するほど辺りを眩しく照らしていた。
不思議なことに太陽が昇っている時間帯は光の反射が弱まるようになっている。夜でさえこんなに明るいのに昼も同じように反射すれば眩しすぎて目も開けられないだろう。
またこの剣は見た目が豪華なだけではなく切れ味も抜群。岩に刃先を当てるだけであとは剣の重さによって、岩は紙のようにスパっと斬れる。その切れ味はあたしのフラガラックに匹敵するほどだ。
そして兄の神具コラーダ、弟の神具ティソーンもまた双子のように形も瓜二つだったりする。
あとこれは余談になるけど、彼らは独立遊撃部隊に入ってからほとんど神具を出しっぱなしにしている。ここまでの流れで何となく予想はついているとは思うけど、ランプの代わりとして使用されている。
あたしも深夜トイレに行く時とか、廊下に置かれたコラーダやティソーンに何度助けられたことか。
リーガルはあたしたちの手元をチラッと見たあと、おもむろに口を開いた。
「そうっ……すね。んじゃ、自分とリーティアが親玉をやってくるんで、クアンとクランは出入り口を抑えておいて欲しいっす。あと、事前に言ったとおり歯向かうやつはやっても構わないっすけど、降参したやつはできるだけ生かしておいて欲しいっす」
「え~、ぼくも見張りがいいんだけど……?」
「了解だ。お前はリーガルと一緒に行って来い。俺とクランで見張っといてやるからよ」
「そうだよ、リーティア。それにここは出入り口が二か所あるから、どっちにしろリーティアだけ残ったとしても二か所は守れないし、二人ずつで別れるのが丁度いいんだよ」
「……えっ、ここの出入り口ってあそこだけじゃないの?」
あたしはその場で振り向き、いままで通って来た真っ暗闇を指差す。
あたしの行動を見た三人は顔を見合わせ、次に息を吸うと「はぁ~」と思いっきりため息をついた。
「あのね……リーティア。一か所しか出入り口がなかったら、攻め込まれた時に逃げられないよね。だから、こういった拠点には必ず複数出入り口が用意されているのが普通なんだよ」
「へぇ~、そういうものなのね」
「そういうものだよ、まぁそれでもここは少ないけどね。もし僕がここを拠点にするなら、最低でも四方にそれぞれ外に通じるルートを作るけどね。あとあの天井からも出れるように梯子でもぶら下げるかな。それにね――」
このままだとまたあの授業がはじまると察したリーガルは、クランの話を止めるべく横やりを入れた。
「クラン、申し訳ないっすけど、その話もまた帰った時にでもしてもらっていいっすか?」
「あっ、すいません……今はこんな話をしている場合じゃなかったですね」
「いいっす、いいっす。んじゃ、今度こそみんな準備はいいっすか?」
あたしたちはリーガルの顔を見ながらコクッと頷く。
「それじゃ、お仕事開始っす」
リーガルのかけ声に合わせてクランは壁に沿って右側へ移動し、あたしは先行するリーガルのあとを追った。
「――ということなんだよ。リーティア、分かった?」
「えっと……つまりあれでしょ。昔の人が何十年かけて、すっごくがんばってここを作ったのよね!」
「あ~、うん。話をギュッとまとめるとそういうことだね……」
あたしはクランに満面の笑みでそう返すと、彼は苦い顔をしながら首を縦に振った。
それを隣で見ていたクアンは力強く弟の肩を二回叩いた。
「おい、クラン。諦めてんじゃねぇよ……こいつ、お前の説明ほとんど理解してねぇぞ」
「でもさ、兄さん……リーティアにしてはちゃんと理解できた方じゃない?」
「いやまぁ、それはそうかもしれねぇが……」
その言葉を最後にクアンは口を閉ざし、二度とこのことについて話すことはなかった。
クランの話だとこの空洞や中心にある建物は昔の人が掘ったりして作ったもので、あの簡素なテントは盗賊が雨風を凌ぐように作ったものらしい。
幹部たちはドーム状の建物内で生活し、部下たちは点在するテントで生活しているようだ。
クランたちのやり取りがひと段落したところで、リーガルは地面に転がっていたナイフを拾い上げ、逆手に持つとすぐに戦闘態勢に入った。
「冗談はそれぐらいにして、そろそろ行くっすよ。みんな、ギフトを出すっす」
あたしたちはリーガルの指示に従い、それぞれギフトを発動し神具を顕現させた。
あたしが短剣ほどではないにしろ剣と呼ぶには少し刃が短めの剣を手にした時、クアンたちも同様に黄金に輝く剣を握り締めていた。
今日のギフトはフラガラック――この剣を一言で説明すると、勝手に飛び回って敵を切り裂く剣といったところだろうか。
フラガラックには殺意感知、自動防衛、意思操作と大まかに三つ能力が付与されている。
まず一つ目の殺意感知はその名の通り、あたしに向けられている殺意がどこから来ているのか方角や距離を認識することができる。
次に二つ目の自動防衛はあたしが危害を受けそうになると、あたしの手を離れて銃弾と同等以上の速さで飛行しその原因を物理的に取り除く。
そして最後の意思操作はあたしが頭の中で考えた通りに剣がひとりでに動いてくれる。なので、あたしはこのフラガラックを自分の手で一度も振るったことは無い。
「あっ、今日はフラガラックだったんだ……ぼく、ここに残って見張っとくよ」
「それなら俺とクランがここに残った方が良くねぇか。ほら、これ見てみろよ……目立ちまくりじゃねぇ?」
クアンは手首を返し剣をこっちに向けながら周囲を見渡す。
あたしも彼に追随して周りを見渡した。
「あっ……なんていうか松明を点けていた時よりも明るいかも」
「だよな、俺だけじゃなくてクランのもあるから余計に輝いてるしな」
クアンたちの剣自体は光を放ってはない、ただ月明りを剣がただ反射しているだけ。ただそれだけのことなのに昼間かと錯覚するほど辺りを眩しく照らしていた。
不思議なことに太陽が昇っている時間帯は光の反射が弱まるようになっている。夜でさえこんなに明るいのに昼も同じように反射すれば眩しすぎて目も開けられないだろう。
またこの剣は見た目が豪華なだけではなく切れ味も抜群。岩に刃先を当てるだけであとは剣の重さによって、岩は紙のようにスパっと斬れる。その切れ味はあたしのフラガラックに匹敵するほどだ。
そして兄の神具コラーダ、弟の神具ティソーンもまた双子のように形も瓜二つだったりする。
あとこれは余談になるけど、彼らは独立遊撃部隊に入ってからほとんど神具を出しっぱなしにしている。ここまでの流れで何となく予想はついているとは思うけど、ランプの代わりとして使用されている。
あたしも深夜トイレに行く時とか、廊下に置かれたコラーダやティソーンに何度助けられたことか。
リーガルはあたしたちの手元をチラッと見たあと、おもむろに口を開いた。
「そうっ……すね。んじゃ、自分とリーティアが親玉をやってくるんで、クアンとクランは出入り口を抑えておいて欲しいっす。あと、事前に言ったとおり歯向かうやつはやっても構わないっすけど、降参したやつはできるだけ生かしておいて欲しいっす」
「え~、ぼくも見張りがいいんだけど……?」
「了解だ。お前はリーガルと一緒に行って来い。俺とクランで見張っといてやるからよ」
「そうだよ、リーティア。それにここは出入り口が二か所あるから、どっちにしろリーティアだけ残ったとしても二か所は守れないし、二人ずつで別れるのが丁度いいんだよ」
「……えっ、ここの出入り口ってあそこだけじゃないの?」
あたしはその場で振り向き、いままで通って来た真っ暗闇を指差す。
あたしの行動を見た三人は顔を見合わせ、次に息を吸うと「はぁ~」と思いっきりため息をついた。
「あのね……リーティア。一か所しか出入り口がなかったら、攻め込まれた時に逃げられないよね。だから、こういった拠点には必ず複数出入り口が用意されているのが普通なんだよ」
「へぇ~、そういうものなのね」
「そういうものだよ、まぁそれでもここは少ないけどね。もし僕がここを拠点にするなら、最低でも四方にそれぞれ外に通じるルートを作るけどね。あとあの天井からも出れるように梯子でもぶら下げるかな。それにね――」
このままだとまたあの授業がはじまると察したリーガルは、クランの話を止めるべく横やりを入れた。
「クラン、申し訳ないっすけど、その話もまた帰った時にでもしてもらっていいっすか?」
「あっ、すいません……今はこんな話をしている場合じゃなかったですね」
「いいっす、いいっす。んじゃ、今度こそみんな準備はいいっすか?」
あたしたちはリーガルの顔を見ながらコクッと頷く。
「それじゃ、お仕事開始っす」
リーガルのかけ声に合わせてクランは壁に沿って右側へ移動し、あたしは先行するリーガルのあとを追った。
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