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第九話 憧れの王国騎士団
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それからまた暫くの間、二人と談笑していると今度はドアをノックする音が聞こえた。
ドアを開けるとそこには試験官の人でも受験者でもなく、あたしたちが対峙したあの鎧を身にまとった王国騎士が立っていた。
「おまたせ、それじゃ行くとしましょうか」
「……行くってどこにですか?」
「どこって、あなたたちがこれから寝泊まりする兵舎よ。さ、行くわよ」
ヘルムで顔は見えないが声で判断するにこの人は男性だろう。だけど、話し方や態度は完全に女性だ、何というかあたしよりも女性だ。いや、王国騎士なんだから男性なのは当たり前か。
あたしたちは案内してくれる彼のあとについて行った。
物置小屋からそのまま訓練場の外まで出ると、隣接している兵舎に向かった。
兵舎も訓練場と同じように四方をフェンスで囲い、不審者が侵入できないようになっていた。
あたしたちは正面出入口の門を王国騎士のあとをついて行き堂々と通り抜ける。
兵舎は五階建てだった。クアンに指差されたあの時計は三階と四階の中間にあった。
日光を反射しキラキラと光り輝く真っ白な壁に、今の天気のように曇り一つない澄んだ空色のドア。
窓もピッカピカに磨かれていて指紋の一つもついていない。
このドアの向こう側にはあたしが憧れた王国騎士の世界が広がっている。
あたしは兵舎の中を見たいという衝動に駆られ、無意識に獅子を模ったドアノックに手を伸ばす。
ドアノックに手が届く直前、あたしの野望は王国騎士の言葉によって、あっさりと打ち砕かれた。
「あなたたちの兵舎はここじゃないわよ」
「……えっ?」
「あっちよ、あっち!」
あたしたちが案内されたのは五階建て兵舎の影に隠れて、ひっそりと佇む建物だった。
外観だけで判断すると兵舎というよりもあたしが泊っていた宿屋に近い。
「ちょっと、団長を呼んでくるからそこでちょっと待っててね」
そう言うと彼はあたしたちを置いて、一人兵舎の中に入っていった。
頭を整理する時間ができたことで、ふと本当に来て良かったのかと不安が過った。あたしはその不安を少しでも払拭するため二人に話しかける。
「ここまでついて来ちゃったけど、やっぱりこれってあた……ぼくたち騙されてない?」
「んだよな~、俺もさすがに怪しく思えてきたぜ」
「僕は大丈夫だと思う……ただ」
「ただ?」
「ううん……何でもないよ、何でも。あっ、二人とも来たみたいだよ」
クランは話を逸らすように兵舎の方を指差した。
鎧を脱いで身軽になった王国騎士と団長らしき人物が、ゆっくりとこちらに向かって歩いて来る。
「みんな、おまたせ。この人が団長のアレン・クラレンツよ。挨拶が遅れちゃったけど、わたしはエミリオ・リーズロッド。ここの副団長としてるわ、よろしくね」
「私が団長のアレン・クラレンツだ。ふむ、あの試験を合格した者が三人も出たと聞いて驚いたが、なるほど……悪くない。では、やるとしよう」
「やっぱあれやるの……団長」
「勿論だ。やはり実際に体験してみないと分からないこともあるからな。どちらにせよ、まだ少し時間がかかる。それまでは別に遊んでも問題ないだろ」
「団長がただ体を動かしたいだけでしょう……ごめんね、みんな。ちょっとだけ、団長の我がままに付き合ってくれないかしら?」
副団長からお願いされた以上、きっと断ることはできない。
あたしは二人の意見を聞くため視線を向けた。二人はただ黙って何度も頭を上下に振っていた。そのジェスチャーを見た瞬間、二人もあたしと同じ考えなのだとすぐに分かった。
あたしは三人を代表して「はい」と答えた。
副団長エミリオ・リーズロッドは青い髪に黄緑の瞳、肌は雪のように白い。
それに加えてあの話し方をするので、年上のお姉さんと接しているような感覚になる。
団長アレン・クラレンツはこの国でもかなりめずらしい黒い髪に黒い瞳をしていた。
その髪や瞳も気になったけど、それよりも団長の名前になんか聞き覚えがあるような……。
こうしてあたしたちはアレン団長と『遊ぶ』ことになった。
案内されたその遊び場はあたしが試験した訓練場の一画と同程度で、動き回って遊ぶには十分の広さだった。
前に兵舎の正面で遊んだ時に、他の王国騎士の目に留まり強制終了させられたことがあるらしい。
その時点でその遊びというものがどういったものか何となく想像できる。
きっと訓練場でやるようなことをここでやったのだろう。
そこでアレン団長は死角になりやすい場所に遊び場を作ったそうだ。
それがいまあたしがいる場所、兵舎の真後ろにあるフェンスに似せた板で囲った空間。
兵舎が建っている場所は隅っこでフェンスにかなり近い。そしてこの兵舎には団員以外あまり近寄らない。多少フェンスの位置がずれたとしても誰も気づかない。
あたしは兵舎前まで近づいても気づかなかったけどね。
アレン団長は板に立てかけてあった刃こぼれした剣を手にすると、一番目の遊び相手としてクアンを指定した。
「まずはクアンから試すとしよう。それと分かっているとは思うが、君たちは自分のギフトを使用するように」
「そっちはなまくらで、こっちはギフト。冗談だよな、アレン様?」
「冗談かどうか試してみればいい。あと、私を呼ぶ際は団長と呼ぶように」
「分かったよ、アレン団長。で、本当にギフトを使っていいのか?」
「あぁ構わない。それくらいハンデがないと遊びにすらならないからな」
「どうなっても知らねぇぞ……ギフト」
アレン団長との遊びもとい模擬戦がはじまるのだった。
ドアを開けるとそこには試験官の人でも受験者でもなく、あたしたちが対峙したあの鎧を身にまとった王国騎士が立っていた。
「おまたせ、それじゃ行くとしましょうか」
「……行くってどこにですか?」
「どこって、あなたたちがこれから寝泊まりする兵舎よ。さ、行くわよ」
ヘルムで顔は見えないが声で判断するにこの人は男性だろう。だけど、話し方や態度は完全に女性だ、何というかあたしよりも女性だ。いや、王国騎士なんだから男性なのは当たり前か。
あたしたちは案内してくれる彼のあとについて行った。
物置小屋からそのまま訓練場の外まで出ると、隣接している兵舎に向かった。
兵舎も訓練場と同じように四方をフェンスで囲い、不審者が侵入できないようになっていた。
あたしたちは正面出入口の門を王国騎士のあとをついて行き堂々と通り抜ける。
兵舎は五階建てだった。クアンに指差されたあの時計は三階と四階の中間にあった。
日光を反射しキラキラと光り輝く真っ白な壁に、今の天気のように曇り一つない澄んだ空色のドア。
窓もピッカピカに磨かれていて指紋の一つもついていない。
このドアの向こう側にはあたしが憧れた王国騎士の世界が広がっている。
あたしは兵舎の中を見たいという衝動に駆られ、無意識に獅子を模ったドアノックに手を伸ばす。
ドアノックに手が届く直前、あたしの野望は王国騎士の言葉によって、あっさりと打ち砕かれた。
「あなたたちの兵舎はここじゃないわよ」
「……えっ?」
「あっちよ、あっち!」
あたしたちが案内されたのは五階建て兵舎の影に隠れて、ひっそりと佇む建物だった。
外観だけで判断すると兵舎というよりもあたしが泊っていた宿屋に近い。
「ちょっと、団長を呼んでくるからそこでちょっと待っててね」
そう言うと彼はあたしたちを置いて、一人兵舎の中に入っていった。
頭を整理する時間ができたことで、ふと本当に来て良かったのかと不安が過った。あたしはその不安を少しでも払拭するため二人に話しかける。
「ここまでついて来ちゃったけど、やっぱりこれってあた……ぼくたち騙されてない?」
「んだよな~、俺もさすがに怪しく思えてきたぜ」
「僕は大丈夫だと思う……ただ」
「ただ?」
「ううん……何でもないよ、何でも。あっ、二人とも来たみたいだよ」
クランは話を逸らすように兵舎の方を指差した。
鎧を脱いで身軽になった王国騎士と団長らしき人物が、ゆっくりとこちらに向かって歩いて来る。
「みんな、おまたせ。この人が団長のアレン・クラレンツよ。挨拶が遅れちゃったけど、わたしはエミリオ・リーズロッド。ここの副団長としてるわ、よろしくね」
「私が団長のアレン・クラレンツだ。ふむ、あの試験を合格した者が三人も出たと聞いて驚いたが、なるほど……悪くない。では、やるとしよう」
「やっぱあれやるの……団長」
「勿論だ。やはり実際に体験してみないと分からないこともあるからな。どちらにせよ、まだ少し時間がかかる。それまでは別に遊んでも問題ないだろ」
「団長がただ体を動かしたいだけでしょう……ごめんね、みんな。ちょっとだけ、団長の我がままに付き合ってくれないかしら?」
副団長からお願いされた以上、きっと断ることはできない。
あたしは二人の意見を聞くため視線を向けた。二人はただ黙って何度も頭を上下に振っていた。そのジェスチャーを見た瞬間、二人もあたしと同じ考えなのだとすぐに分かった。
あたしは三人を代表して「はい」と答えた。
副団長エミリオ・リーズロッドは青い髪に黄緑の瞳、肌は雪のように白い。
それに加えてあの話し方をするので、年上のお姉さんと接しているような感覚になる。
団長アレン・クラレンツはこの国でもかなりめずらしい黒い髪に黒い瞳をしていた。
その髪や瞳も気になったけど、それよりも団長の名前になんか聞き覚えがあるような……。
こうしてあたしたちはアレン団長と『遊ぶ』ことになった。
案内されたその遊び場はあたしが試験した訓練場の一画と同程度で、動き回って遊ぶには十分の広さだった。
前に兵舎の正面で遊んだ時に、他の王国騎士の目に留まり強制終了させられたことがあるらしい。
その時点でその遊びというものがどういったものか何となく想像できる。
きっと訓練場でやるようなことをここでやったのだろう。
そこでアレン団長は死角になりやすい場所に遊び場を作ったそうだ。
それがいまあたしがいる場所、兵舎の真後ろにあるフェンスに似せた板で囲った空間。
兵舎が建っている場所は隅っこでフェンスにかなり近い。そしてこの兵舎には団員以外あまり近寄らない。多少フェンスの位置がずれたとしても誰も気づかない。
あたしは兵舎前まで近づいても気づかなかったけどね。
アレン団長は板に立てかけてあった刃こぼれした剣を手にすると、一番目の遊び相手としてクアンを指定した。
「まずはクアンから試すとしよう。それと分かっているとは思うが、君たちは自分のギフトを使用するように」
「そっちはなまくらで、こっちはギフト。冗談だよな、アレン様?」
「冗談かどうか試してみればいい。あと、私を呼ぶ際は団長と呼ぶように」
「分かったよ、アレン団長。で、本当にギフトを使っていいのか?」
「あぁ構わない。それくらいハンデがないと遊びにすらならないからな」
「どうなっても知らねぇぞ……ギフト」
アレン団長との遊びもとい模擬戦がはじまるのだった。
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