上 下
3 / 24

第三話 神の贈り物

しおりを挟む
 その後、あたしは授かったギフトを確認するため協会から外に出ていた。
 二人は自分のギフトが何か分かっているから、例え協会内で顕現したとしても問題ないかもしれない。だけど、あたしはその授かった瞬間の記憶が無い。
 授かったギフトが大きなものだったら、祭壇やベンチなどを壊してしまうかもしれない。

 あたしは日光を浴びながらググっと腕を伸ばし凝り固まった体をほぐす。
 肩からポキポキと小気味いい音が鳴っている。

 ギフトを顕現させる方法は単純で、神具を持ちたい方の手を広げ『ギフト』と唱えるだけ。
 ただ少しだけ不安な点もある。それはあたしが本当にギフトを授かっているのかということ。
 二人のようにギフトを授かる瞬間をハッキリと覚えているのが普通。

 あたしのように途中で気を失う人もたまにいるらしいけど、それでもギフトを授からなかった人は、今のところ誰一人としていないので大丈夫なはず。だって、あくまで何の信憑性もないただの噂話なんだから。

 あたしは一応念のため二人に離れるように伝えた。

「どんな神具が出てくるか分からないから、二人ともあたしから離れておいて」
「りょうかい。まぁ何かあれば俺のフランキスカで止めてやるよ」
「わたしもこのミトンで押さえつけるわ」
「なんか暴走する前提になってませんか……お二人とも?」

 リッザの神具はフランキスカという片手で扱える手斧。
 ライミの神具はミトンと呼ばれる防火性能のある手袋。

 この二人は何か理由を付けて手に持った神具をただ振り回したいだけなのでは、という不埒な考えが一瞬頭を過った。

 ふぅっと軽く息を吐いて呼吸を整える。 
 あたしは二人が見守る中、右手を広げ三文字の言葉を発する。

「――ギフト」

 右手が光に包まれると同時に手のひらに棒状の持ち手が現れた。
 それから数秒待ってみたけど、持ち手部分よりも先が構築されることはなかった。

 不完全な神具を授かってしまったのかと不安になり二人に視線を送ると、二人は空いている方の手で何度もギュッと握る動作を繰り返していた。

 あたしは二人の行動を真似して出現した持ち手を握る。
 その瞬間、光が消えると同時にあたしは一本の剣を握り締めていた。

 あたしの髪と同じ火のように真っ赤な剣。一部分だけ赤いとかでもなく刀身から柄頭まで全部が赤かった。

 リッザとライミは目をキラキラさせながら駆け寄ってくる。

「かっけぇー、なんだその剣!」
「リーティア、よく似合っているわよ。それでその剣の名前は何て言うの?」
「えっと……名前はレーヴァテイン」

 ライミから剣の名前を聞かれたあたしはすんなりと答えていた。
 一度も手にしたことも見たこともないはずの剣の名前を。

「レーヴァテイン、名前もカッコいいのかよ。だがまぁ俺のフランキスカも負けてねぇ」
「レーヴァテイン。うん、名前も見た目もリーティアにピッタリね」
「リッザのフランキスカもライミのミトンも二人にとても合ってるわよ」

 あたしたち三人は自分の神具を自慢し合いながら、それぞれの家に帰るのだった。

 家に帰ると母さんがお昼ご飯の準備に取り掛かっていた。
 食材を見る限り今日のお昼ご飯はパンとあたしの大好物である具だくさんのスープのようだ。

「母さん、ただいま~」
「おかえり。リーティア、あんた嬉しいのは分かるけど家の中ではそれ消しなさい」

 母さんは帰宅したあたしを見るや否や、すぐに手に持ったレーヴァテインを家に持ち込まないように忠告してきた。

「え~、授かった記念として今日ぐらいはいいじゃない」
「ダメです。それにその剣には鞘がないでしょ。ずっと持つわけにもいかないし、立て掛けておいて倒れたりでもしたら危ないでしょ。その剣先がそのお気に入りの服に向くかもしれないのよ?」
「でも~」
「リーティアそれ以上言うとお昼ご飯無しになるけど?」
「くっ……分かりました。ギフト」

 あたしはお昼ご飯のため渋々レーヴァテインを手放した。
 もう一度ギフトと声に出せば神具を消せることは、帰りの道中で二人から聞いて知っていた。
 ただ実際に消すのは今回がはじめてだった。

 母さんは少しだけ気恥ずかしそうにあたしに話しかける。

「よろしい。ちょっと小言を最初に言っちゃったけど、リーティアおめでとう。あなたの真っすぐな心を具現化したような綺麗な剣ね」

 それからあたしは協会で気を失ったことや二人のギフトのことなど、今日の出来事を母さんに話した。
 あたしの話を聞きながらも母さんはテキパキと料理を作っていた。
 しばらくすると、村の守備隊長をしている父さんが帰ってきた。

 父さんは元王国騎士でそこそこ偉い人だったらしい。本人は昔の話をしたがらないので、その情報が正しいのか不明だけど、王子を護衛する近衛兵だったとかなんとか。

「それじゃ二人ともスープが冷めないうちに召し上がれ」
「いっただきまーす」
「いただきます」

 あたしは母さんの手料理に舌鼓を打ちながら、子供の頃から抱いていた夢を両親に話すタイミングを見計らっていた。
 もし自分のギフトが戦闘用の神具だったら、あの人のような王国騎士を目指したいという夢。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

【百合】男装の麗人にして悪役令嬢ですが困ってます

鯨井イルカ
恋愛
 乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった彼女が、日々ヒロインに悩まされる短い話。  ※基本的にコメディですが、百合ものです。  ※かなりの不定期更新になる予定です。

【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~

次元謄一
ファンタジー
タイトル変更しました→旧タイトル 「デッドエンドキングダム ~十五歳の魔剣使いは辺境から異世界統一を目指します~」 前世の記憶を持って生まれたオスカーは国王の落とし子だった。父の死によって十五歳で北の辺境王国の統治者になったオスカーは、炎を操る魔剣、現代日本の記憶、そしてなぜか生まれながらに持っていた【千里眼】の能力を駆使し、魔物の森や有翼人の国などを攻略していく。国内では水車を利用した温泉システム、再現可能な前世の料理、温室による農業、畜産業の発展、透視能力で地下鉱脈を探したりして文明改革を進めていく。 軍を使って周辺国を併合して、大臣たちと国内を豊かにし、夜はメイド達とムフフな毎日。 しかし、大陸中央では至る所で戦争が起こり、戦火は北までゆっくりと、確実に伸びてきていた。加えて感染するとグールになってしまう魔物も至る所で発生し……!? 雷を操るツンデレ娘魔人、氷を操るクール系女魔人、古代文明の殺戮機械人(女)など、可愛いけど危険な仲間と共に、戦乱の世を駆け抜ける! 登場人物が多いので結構サクサク進みます。気軽に読んで頂ければ幸いです。

婚約破棄された親友の悪役令嬢に成り代わり王太子殿下に果たし合いします!

家紋武範
恋愛
王太子リック、その婚約者である公爵令嬢ライラ、そして王太子剣術指南ジンの三人は親友同士。 普段は仲の良い三人。ジンは将来夫婦になるであろうリックとライラを微笑ましく見ていた。 だが、リックは正式な場でライラに対し婚約破棄を言い渡す。 ジンはライラに成り代わり、リックに決闘を申し込むも返り討ちにあい押し倒されてしまう。 そして、気持ちを伝えられるのだ。男装の麗人ジンへの恋心を。

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

処理中です...