関西訛りな人工生命体の少女がお母さんを探して旅するお話。

虎柄トラ

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はじめての坑道探索その4

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 リアムは力加減を間違い自らの手で何度か崩落させそうにしながらも無事、鉱山跡地を抜け新天地に足を踏み入れた。腕時計に視線を落とすと、時刻は十七時を指していた。IDカードを通してゲートを開放させてから気づけば八時間が経過していた。

 リアムは背後の通ってきたゲートを見ながら、ここまでの経緯を振り返っていた。坑道内でのジメっとした湿気や動くたびに舞い上がるホコリ。出口付近では照明が点灯していない箇所もあって、腕時計の明かりだけを頼りに機械兵器を倒すのだけは少々骨が折れた。
 倒した機械兵器はそのまま放置してある、あとでウィルたちが回収しに来る手はずとなっていたからだ。無力化しているため危険もないため彼らだけでも問題ない。ただ一つ難点があるとすれば、ウィルに連絡する手段がないためいつ制圧できたのかを彼らが知るすべがないことだろうか。というか、あとでウィルがここに来るのなら、別に魔宝石もここに置いていってもいいのでは、彼女はそんな迷案を思いつく。

「そうやんな、どうせ来るんやったらここに置いてったらいいやんか!」

 リアムは腰ポケットとベルトポーチに収納していた四十個もの魔宝石を、ウィルたちがすぐに発見できるようにと認証機を囲うようにばら撒いた。

「あぁ~スッキリした。歩くたびにガシャガシャとうるさかったから、ほんま捨てれてよかったわ」
「チュー……」
「なにか文句でもあるん?」
「チュ~」
「次の集落で使えばいいやんかって? う~ん、確かに一理ある。だけど、リアムは絶対に持っていかない。ポケットは角ばるし、ベルトポーチもパンパンになるしで、不快感極まりない!」

 リアムはそう言い放つと、満足げな表情を浮かべ本来の目的地を目指して移動を開始した。

 死の山脈を境に西と東では全く違った光景が広がっていた。ただとても懐かしい光景でもあった。
 西側は自然豊かな大地でありながらも道路は整備され、夜中であったとしても迷うことなく各都市にたどり着ける。さらに道路沿いには点々と案内板やモーテルもあったりと、旅人からすればこの上ないほどの親切設計。ただこれは過去の世界での姿ではあるが、荒廃した今の世界においてもその恩恵を授かることはできる。それだけでもここはまだ生活がしやすい環境だといえる。

 それに対して東側は彼女の故郷、特にノリスの集落周辺の枯れた大地に類似していた。風に弱々しく揺らされる草木に、水分の一滴すらなく無残にもひび割れた地面ばかりで、人工物と呼べるものは何一つとして存在しなかった。だが、それでも故郷のほうがまだ幾分だけマシだった。向こうは少なからず野草や木の実といった食料を手に入れることができた。しかし、この大陸にはそれすら見当たらない、死の山脈を越えた先にあったのは、その名を引き継いだかのような死の大地。死の山脈もまた西側とは異なる様相を呈していた。翠巒とは程遠い禿山、こっち側から見た人間がこの山を死の山脈と命名したのかもしれない。

 そして、リアムが大陸を縦断したどり着いた集落で、一生忘れることのない出会いをすることになる。
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