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はじめてのモーテルその1

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 地下四階へと通じる緊急脱出口は、未だに封鎖されたままで通ることは不可能となっているにも関わらず、彼が急いでいるのには理由があった。リアムの手によってこじ開けられた正面扉、ただ通り抜けられるようになっただけであれば、これほど焦ることはなかった。警報を止めるために制御盤をいじったことで、監視防衛機能も完全停止させてしまっていた。不法侵入者をハチの巣にする天井に取り付けられた監視自動銃が機能しておらず、今なら誰でも入り放題というザル警備となっていた。そのおかげでウィルは無傷で通り抜けられたわけだが、だからといってお宝を他人にかすめ取られるのは話が違ってくる。

 リアムの爆走に振り落とされないようにウィルは、二時間近く死に物狂いで彼女の背にしがみついた。集落に到着する頃には、握力はほとんど無くなり両手の感覚も薄れていた。

 リアムとしてはウィルの心境など知ったことではないのだが、彼が報酬として提示したものが思いのほか興味をそそった。それは次の目的地に最短最速でたどり着くためのルートを作成してくれるというものだった。発掘者はありとあらゆる場所を探索することで、その土地について自然と詳しくなる。その独自ルートに加えて、イデアのようにお母さんに関する情報を入手したら、随時報告してくれるというおまけ付き。

 ウィルの集落は三車線の車道に隣接するように建設された平屋のモーテルだった。第一印象は防護柵なども特になく、誰が見ても襲撃し放題な不用心この上ない集落。自警団どころか外には見張りの一人も立っていないし、各部屋は施錠されておらず出入り自由な環境。道沿いにあるため利便性はいいかもしれないが、その分ならず者どもに見つかる可能性も非常に高い、今まで訪れた集落の中でも、かなりハイリターンハイリスクな部類に入る。
 だが、ウィルたちはこれでいいらしい。発掘者全員がそういうわけではないが、発掘者の中には渡り鳥のように拠点を持たずに、転々と移動しながら仕事をする人間たちがいる。そのため彼らとしては一時だけしか使用しないのだから、防衛する必要性を感じないらしい。

 その話を聞いたリアムは睡眠中に襲われたらとか不安に感じないのかと、仲間の一人に質問を投げかけた。人間は脆く弱い、ウィルも例にもれずちょっと転んだだけで歩けなくなるほど軟弱だった。そんなウィルの仲間なのだから、彼らも同類であろうと思っていたが、予期せぬ答えが返ってきた。

「その程度の運も引き寄せられないんなら、俺たちはそこまでの人間だったってことさ。さてと、俺もウィルの話を聞きに行ってくるから、あんたはウィルの言われたようにあの部屋で待っててくれ」

 彼はL字奥にある角部屋を指さすと、反対側の部屋に移動していった。

 人間とは命を尊ぶ生物だと思っていたリアムはただただ驚いた。それと同時にこの発掘者たちに興味を持った。ウィルといいさっきの人間といい、彼らの目には旧遺産しか映っていない。その狂気じみた行動がどこか自分に似ていると、無意識のうちに感じ取ったからかもしれない。
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