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はじめての救出その4
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その信じ難い話を聞いたウィルは暫しの間、目をぱちくりし口をぽかんと開けたまま動かなくなった。眼前にいる少女が機械の一つも使わずに、素手であの正面扉や天井に穴を空けた。確かに彼女は手にも何も持っていなかったし、唯一の持ち物であるベルトポーチも小さい、扉や天井を貫通させるような掘削機がそこに入っていたとも考えにくい。リアムの表情や声からもウソをついているようにも思えない。
彼は回答するとすぐに背を向け天井を見つめるリアムに、自分が正しく理解できているか答え合わせをした。
「……えっと、あの正面扉とそこの天井を素手で殴って穴を空けたという認識で合ってる?」
「合ってる、リアムはそう発言した」
「あ~、やっぱりそれで合ってるんだ……分かった、質問に答えてくれてありがとう」
「――問題ない」
リアムは興味なさそうにそう返すと、自分が空けた天井の真下を目指して歩き始めた。ウィルの話と照らし合わせて思ったのが、この施設にはこれ以上地下は存在しない。その地下四階に何もないのであれば、これ以上ここにいても時間の無駄だ。お母さんに関する情報が入手できなかったのは非常に残念だったけど、久々にストレス発散ができたことだけは良かった。そんなことを考えながら歩いていると、話を終えたはずのウィルから呼び止められた。
「ちょっと待ってくれ! リアム、君はどこに行こうとしてるんだ?」
「――何処って、地下三階」
「地下三階に行く? 梯子もないのに一体どうやって?」
リアムは不思議そうに尋ねるウィルに向かって「こうやって」と、その場で跳躍し地下四階から脱すると、呆然とする彼を高所から見下ろし「簡単」と自慢げに呟いた。
「そんなんできるかぁ~!」
実際にリアムの驚愕的な身体能力を目の当たりにしたウィルは心からの叫び声をあげるのだった。
その後、ウィルはリアムの手を借りて何とか脱出することに成功した。自分よりも身長差三十センチもある小柄な少女におんぶされるという、そんな最悪な絵面ではあった。
地下三階に上るために何度か梯子や脚立といったものがないかとリアムに頼んだが、探す手間よりも自分が運んだほうが早く済むという理由で却下されていた。また地下三階に到着した時点で、おんぶは終了するはずだった。
しかし、彼自身の不注意によって、拠点にしている集落にたどり着くまでの間、ずっとこのまま移動することになる。恥ずかしさに耐えかねたウィルが、リアムの背から飛び降りるように離れた時にそれは起こった。足元にあったプリント用紙を踏んだことで、体勢を崩してしまい盛大に転んで、足をくじいてしまった。足を引きずりながらであれば、多少痛みはあるものの歩くことはできたが、彼は恥を忍んででもおんぶしてもらうことを選んだ。そもそも痛みが引くまでの間、この施設で休憩するという選択肢もあった。だが、彼はここに宝の山が眠っていることを伝えるために、一刻も早く仲間のもとへ戻らなくてはいけなかった。
彼は回答するとすぐに背を向け天井を見つめるリアムに、自分が正しく理解できているか答え合わせをした。
「……えっと、あの正面扉とそこの天井を素手で殴って穴を空けたという認識で合ってる?」
「合ってる、リアムはそう発言した」
「あ~、やっぱりそれで合ってるんだ……分かった、質問に答えてくれてありがとう」
「――問題ない」
リアムは興味なさそうにそう返すと、自分が空けた天井の真下を目指して歩き始めた。ウィルの話と照らし合わせて思ったのが、この施設にはこれ以上地下は存在しない。その地下四階に何もないのであれば、これ以上ここにいても時間の無駄だ。お母さんに関する情報が入手できなかったのは非常に残念だったけど、久々にストレス発散ができたことだけは良かった。そんなことを考えながら歩いていると、話を終えたはずのウィルから呼び止められた。
「ちょっと待ってくれ! リアム、君はどこに行こうとしてるんだ?」
「――何処って、地下三階」
「地下三階に行く? 梯子もないのに一体どうやって?」
リアムは不思議そうに尋ねるウィルに向かって「こうやって」と、その場で跳躍し地下四階から脱すると、呆然とする彼を高所から見下ろし「簡単」と自慢げに呟いた。
「そんなんできるかぁ~!」
実際にリアムの驚愕的な身体能力を目の当たりにしたウィルは心からの叫び声をあげるのだった。
その後、ウィルはリアムの手を借りて何とか脱出することに成功した。自分よりも身長差三十センチもある小柄な少女におんぶされるという、そんな最悪な絵面ではあった。
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しかし、彼自身の不注意によって、拠点にしている集落にたどり着くまでの間、ずっとこのまま移動することになる。恥ずかしさに耐えかねたウィルが、リアムの背から飛び降りるように離れた時にそれは起こった。足元にあったプリント用紙を踏んだことで、体勢を崩してしまい盛大に転んで、足をくじいてしまった。足を引きずりながらであれば、多少痛みはあるものの歩くことはできたが、彼は恥を忍んででもおんぶしてもらうことを選んだ。そもそも痛みが引くまでの間、この施設で休憩するという選択肢もあった。だが、彼はここに宝の山が眠っていることを伝えるために、一刻も早く仲間のもとへ戻らなくてはいけなかった。
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