上 下
62 / 84

はじめての工場見学その5

しおりを挟む
 おもちが起きていれば何か知恵を授けてくれるかもしれないが、一度眠りに入ると自分で起きようとしない限り、爆音を鳴らそうが激臭を嗅がせようが衝撃を与えようが、ありとあらゆることをしても目覚めない。何度か自分ひとりで考えて行動しなければならない、こういう状況に陥ったことがある。その度に彼女は悪態をつきながら解決していった。
 二人の解決方法には剛と柔のように相反する。おもちが策を巡らせて解決する頭脳派とすれば、リアムは力でねじ伏せ解決する脳筋派。ただ例外も存在しないわけでもない、過去に訪れた集落で起きた出来事のような彼女に害が及びそうになった場合は、即解決できる手段を選ぶ。そういった点においては、この兄妹はよく似ているともいえる。

「階段でもエレベーターでも行けない。音的にはこの下っぽいんよな。きっとこの壁もあのドアに近い耐久やと思うんやけど、ただ厚さが分からんのよな。まあ掘ってみれば分かることか」

 何度も金属音を聞き続けたことで、リアムはいま座っている位置から直径五メートル以内に、発生源があると目星をつけた。ならば、やることはただ一つ道がないなら作ればいい。ドアを穿った時よりも気持ち力を込めると、彼女は立ち上がり床に向かって拳を振り下ろした。
 衝撃音とともに破片が飛び散り粉塵が舞ったが、一撃では床を貫通することはできず、一メートルほどのクレーターができたのみだった。思った以上に厚い壁に覆われていることを知ったリアムは、不満を漏らしつつも半円の中心部めがけて、さらにもう一撃を繰り出した。二撃目は見事に床を貫通したのだが、自分がどこに立っているのかというのを忘れていた。

「あ~、床を壊したらこうなるやんな? いや、分かっとったし!」

 リアムは床だったものと一緒に落下しながら自問自答しては、あえてそうしたと自分に言い聞かせた。地下四階にたどり着いたはいいが、舞った粉塵により視界が確保できない。粉塵が落ちるまでの間、ハウスダスト満載な環境下で待機していても彼女としては何の支障もないが、ただその大人しく待っている時間がいまは惜しい。

「こういう時はアレに限る!」

 リアムはおもむろに両手を広げてフゥーと息を吐くと、腕を伸ばしたままパチンと勢いよく手を叩き合わせた。ただ手を叩くという単純動作だが、音速にも近い速度で行われるそれは全くの別物。そよ風は暴風に微音は轟音となる、衝撃により足元に転がっていた瓦礫は壁沿いに拡散し、視界を妨げていた粉塵も四散したことで、やっと周囲の状況を確認することができた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

魔術師のロボット~最凶と呼ばれたパイロットによる世界変革記~

MS
SF
これは戦争に巻き込まれた少年が世界を変えるために戦う物語。 戦歴2234年、人型ロボット兵器キャスター、それは魔術師と呼ばれる一部の人しか扱えない兵器であった。 そのパイロットになるためアルバート・デグレアは軍の幼年学校に通っていて卒業まであと少しの時だった。 親友が起こしたキャスター強奪事件。 そして大きく変化する時代に巻き込まれていく。 それぞれの正義がぶつかり合うなかで徐々にその才能を開花させていき次々と大きな戦果を挙げていくが……。 新たな歴史が始まる。 ************************************************ 小説家になろう様、カクヨム様でも連載しております。 投降は当分の間毎日22時ごろを予定しています。

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

美少女アンドロイドが空から落ちてきたので家族になりました。

きのせ
SF
通学の途中で、空から落ちて来た美少女。彼女は、宇宙人に作られたアンドロイドだった。そんな彼女と一つ屋根の下で暮らすことになったから、さあ大変。様々な事件に巻き込まれていく事に。最悪のアンドロイド・バトルが開幕する

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

❤️レムールアーナ人の遺産❤️

apusuking
SF
 アランは、神代記の伝説〈宇宙が誕生してから40億年後に始めての知性体が誕生し、更に20億年の時を経てから知性体は宇宙に進出を始める。  神々の申し子で有るレムルアーナ人は、数億年を掛けて宇宙の至る所にレムルアーナ人の文明を築き上げて宇宙は人々で溢れ平和で共存共栄で発展を続ける。  時を経てレムルアーナ文明は予知せぬ謎の種族の襲来を受け、宇宙を二分する戦いとなる。戦争終焉頃にはレムルアーナ人は誕生星系を除いて衰退し滅亡するが、レムルアーナ人は後世の為に科学的資産と数々の奇跡的な遺産を残した。  レムールアーナ人に代わり3大種族が台頭して、やがてレムルアーナ人は伝説となり宇宙に蔓延する。  宇宙の彼方の隠蔽された星系に、レムルアーナ文明の輝かしい遺産が眠る。其の遺産を手にした者は宇宙を征するで有ろ。但し、辿り付くには3つの鍵と7つの試練を乗り越えねばならない。  3つの鍵は心の中に眠り、開けるには心の目を開いて真実を見よ。心の鍵は3つ有り、3つの鍵を開けて真実の鍵が開く〉を知り、其の神代記時代のレムールアーナ人が残した遺産を残した場所が暗示されていると悟るが、闇の勢力の陰謀に巻き込まれゴーストリアンが破壊さ

発作ぐらい、ハンデと思ってね

ブレイブ
SF
生まれつき病弱な少女、壊七。彼女は病弱でありながら天才でもある、壊七はエージェント組織、ディザスターに所属しており、ある日、任務帰りに新人エージェントと出会ったが、その新人は独断行動をする問題児であった。壊七は司令官から問題児である新人エージェントの指導を任された

処理中です...