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はじめての腕時計その3

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 リアムからも特にこれ以上話すことはないようで、両者の沈黙は品定めを終えたおもちが彼女のもとに戻って来るまで続いた。

 一時間ほどかけておもちが選んだものは、文字盤がディスプレイ型の腕時計だった。機械兵器と同時代に流通していたとされるスマートウォッチ。現存していたことにも驚きを覚えたが、それが未だに稼働し時を刻んでいた。改良が施されているらしく、動力源はバッテリーではなくて魔宝石に変更されていた。スマートウォッチのケース側面には、はめ込まれた五ミリほどの魔宝石が輝いていた。ただ時計としての役割を求めるのであれば、別にこれじゃなくてもいい。時計以外に備わった各機能のほうこそが重要だった。
 リアムは特に欲しいとは思わなかったが、おもちが今後どうしても必要になると言うので、仕方なく購入することにした。支払いはもちろん物々交換である。どこで情報を入手したのか不明だが、イデアはポーチの中身を見ることもなくタブレットを要求してきた。交渉により支払いはタブレット三錠ということになった。彼女の手にその腕時計が渡った時には、魔宝石はさらに輝きを増していた。灯篭を稼働させた時に使用した、あの魔宝石と同等の輝きを放っていた。
 リアムは右腕を顔の位置まで上げて腕時計を見ながら「で、これの何がいいん?」と、自分の頭頂部で寝そべり頬杖をつくおもちに問いかけた。それに対しての回答は、手首を返して文字盤を正面に向けて『フラッシュライト』と、声に出せば分かるというものだった。リアムは首を傾げながらも「フラッシュライト」と発声した。

「お~何これ! めっちゃ光ってる。これがあれば夜でも、暗いとこでも歩けるやん!」
「チュ~、チュ?」
「これやったら持ち歩かんでもいいから楽やろって? なんやおもちも色々と考えとってんな。フラッシュライト、フラッシュライト、フラッシュライト」

 リアムはこの機能が余程気に入ったようで、おもちが止めろと言うまでの間、この腕時計は延々と点滅し続けた。

 おもちがこの腕時計を選んだ一番の理由は、このフラッシュライト機能が備わっていたことだった。ただ他のスマートウォッチでも同様の機能は備わっているが、この腕時計は他にも重要な点があった。それは強度、耐久が他を凌駕する圧倒的な性能だったからだ。数百メートルの深海に数年単位で沈めようが、雲海で遮られて地上が見えないような高所から落とそうが、焼却炉に放り込もうが宇宙に投げ捨てようが、故障一つせずに時を刻み続けたという名品。

 このハムスターがなぜこのスマートウォッチの仕様を知っていたのかというと、それはもちろん創造主が収集した本からである。時計の歴史図鑑という世界各国のありとあらゆる時計を網羅した一冊。リアムも本棚にあった一万冊読破しているため、どこかで一度は目にしているはずなのだが、現状を見る限りどうやら全く記憶には残っていないらしい。またコスト度外視で品質のみを求めたことで、百個ほどしか作られたなかったこの腕時計は、一生の友人という意味を込めてタフネスメイトと名づけられた。
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