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はじめての腕時計その2
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リアムが部屋を出るタイミングに合わせたかのように、あれほど五月蠅かった音はピタリと止んだ。騒音が止んだ場所はリアムがついさっきまでいた建物の裏側。なぜそこで機械兵器が停止したのか、疑問に思いつつも急ぎ向かった。建物を曲がった先で彼女が見たものは、想像していたものとは違っていた。新型であることは間違いないが、これは機械兵器ではなくて人間を乗せて移動するための機械、車両が停車していた。しかもこれは荷物を運搬するために改良されたトラック。開いたウイングからは食料品、日用品に銃器まで多種多様なものが積み込まれていた。
ただ本で読んだものには、トラックにあんな重火器は取り付けられてなかった。記憶違いかと首をひねり頭を悩ませる彼女の前に、また可笑しな装いをした人間が車両の影から姿を現した。
「どうも初めまして、私は行商人をしているイデアと申します。ここで会ったのも何かの縁でございますし、よろしければ商品を見ていきませんか?」
「――お店?」
「はい、さようでございます。もし何か欲しいものがございましたら、私に言っていただけますと御持ちいたします」
イデアはそう言うと、荷台に近づくようにリアムを手招きした。
リアムとしては何一つそそられなかったが、おもちが見てみたいというので、仕方なく怪しさ満点な行商人の誘いに乗ることにした。荷台に近づくと、おもちは胸ポケットから飛び出し、陳列された商品を一つ一つ興味深そうに見始めた。
リアムは商品よりもこのイデアという人間のほうに興味を持った。人間とのたび重なる交流経験を経て、九割以上の確率で人間の性別を見分けられるようになったが、この行商人だけはその判別が全くできなかった。頭部はフルフェイスのガスマスクをかぶり顔は見えない、男とも女とも判別できない中性的な声。シルエットで判別しようと思っても、体型が出にくい衣類を身に纏っている。ただこれに関しては、ノリスの件があるため確率は前述に比べてガクッと下がる。
性別の他にリアムが気になったのはイデアの装備であった。防弾チョッキにタクティカルベスト、タクティカルグローブ、タクティカルブーツ。この四点の時点で、各集落を守護する自警団よりも防具が整っている、彼らがこれを見れば、喉から手が出るほど欲しい防具だろう。この四点を身に着けるだけで、相当なヘマをしない限り死ぬことはない。腰にはハンドガンが左右に一丁ずつぶら下がり、アサルトライフルを背負い、足にはコンバットナイフ、ベストには予備マガジンが各ポケットに入っていた。行商人は各集落で何度か見たことはあるが、イデアほど過度な武装をした人物はいなかった。
「イデア、質問がある」
「はい、なんでございましょうか?」
「その過度な武装はなに?」
「あ~、これはですね。他の商人のように護衛を雇ったりせず、私一人で商いをしておりますので、そのための防衛策といいますか。昔はこんな物騒じゃなかったんですよ? ただちょっとその時に何度も強盗に遭いまして、色々と試行錯誤した結果、これが一番皆様が大人しくなってくれましたので、それ以降ずっと変わらずこの装備ですね」
「――イデア話が長い」
「さようでございますか……」
イデアはその言葉を最後に口を閉ざした。
ただ本で読んだものには、トラックにあんな重火器は取り付けられてなかった。記憶違いかと首をひねり頭を悩ませる彼女の前に、また可笑しな装いをした人間が車両の影から姿を現した。
「どうも初めまして、私は行商人をしているイデアと申します。ここで会ったのも何かの縁でございますし、よろしければ商品を見ていきませんか?」
「――お店?」
「はい、さようでございます。もし何か欲しいものがございましたら、私に言っていただけますと御持ちいたします」
イデアはそう言うと、荷台に近づくようにリアムを手招きした。
リアムとしては何一つそそられなかったが、おもちが見てみたいというので、仕方なく怪しさ満点な行商人の誘いに乗ることにした。荷台に近づくと、おもちは胸ポケットから飛び出し、陳列された商品を一つ一つ興味深そうに見始めた。
リアムは商品よりもこのイデアという人間のほうに興味を持った。人間とのたび重なる交流経験を経て、九割以上の確率で人間の性別を見分けられるようになったが、この行商人だけはその判別が全くできなかった。頭部はフルフェイスのガスマスクをかぶり顔は見えない、男とも女とも判別できない中性的な声。シルエットで判別しようと思っても、体型が出にくい衣類を身に纏っている。ただこれに関しては、ノリスの件があるため確率は前述に比べてガクッと下がる。
性別の他にリアムが気になったのはイデアの装備であった。防弾チョッキにタクティカルベスト、タクティカルグローブ、タクティカルブーツ。この四点の時点で、各集落を守護する自警団よりも防具が整っている、彼らがこれを見れば、喉から手が出るほど欲しい防具だろう。この四点を身に着けるだけで、相当なヘマをしない限り死ぬことはない。腰にはハンドガンが左右に一丁ずつぶら下がり、アサルトライフルを背負い、足にはコンバットナイフ、ベストには予備マガジンが各ポケットに入っていた。行商人は各集落で何度か見たことはあるが、イデアほど過度な武装をした人物はいなかった。
「イデア、質問がある」
「はい、なんでございましょうか?」
「その過度な武装はなに?」
「あ~、これはですね。他の商人のように護衛を雇ったりせず、私一人で商いをしておりますので、そのための防衛策といいますか。昔はこんな物騒じゃなかったんですよ? ただちょっとその時に何度も強盗に遭いまして、色々と試行錯誤した結果、これが一番皆様が大人しくなってくれましたので、それ以降ずっと変わらずこの装備ですね」
「――イデア話が長い」
「さようでございますか……」
イデアはその言葉を最後に口を閉ざした。
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