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はじめての靴屋その5
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「試してみろとは言ったが、開幕全力で来るとは思いもしなかったぜ。まああの程度で傷むような雑な仕事はしてねぇけどな。で、どうだったよ?」
「――ウェッジ天才。完璧な仕上がり」
「だろ? じゃ靴の修理として、例のアレ貰っていいか?」
「承知した。前回と同様?」
「おぅ、その一升瓶に入れてくれ」
リアムはポーチからタブレットケースを取り出すと、ウェッジが指定した一升瓶にタブレットを一錠だけ落とした。ウェッジにスニーカーを渡した翌日、靴の修理費は何で支払うのかと質問された際に、彼女はポーチの中身をブルーシートにばら撒いた。そのなかでウェッジが提示したものは、筆記用具でも手帳でもなく、ましてや母親のメガネでもなかった。まさかのタブレットケース、しかもケース丸ごとというわけでもなくて、たったタブレットを一錠だけを要求した。
このタブレットはお母さんが開発した完全栄養食で、一日一錠摂取するだけで人間に必要な栄養素を確保できる。これをウェッジは酒に溶かして飲んでいる。彼曰くこうやって飲むと、二日酔いになるどころか、目覚めの良い朝を迎えられるらしい。靴の修理費としてなぜこのタブレットを選んだのかと、別の日に尋ねたことがある。すると、彼は気恥ずかしそうに「他のは選べねぇよ」と答え仕事を再開した。
リアムがこのタブレットを持ち歩いているのは、お母さんと再会した時に食料として提供するためだ。なので、スニーカーの修理費だとしてもたった一錠だけでも減るのは嫌だったが、旅を続けるなかで、彼女の心境はほんの少しだけ変化していた、それはタブレットばかり摂取していたお母さんに、人間が食べている料理を振る舞ってあげたいと思うようになっていた。そのための手帳でもある、レシピを書き忘れたとしても、相棒のハムスターが記憶しているという安心安全の二段構え。
リアムがタブレットケースをポーチに収納していると、ウェッジが一升瓶の首を持って左右に振りながら「ローファーはどうする?」と聞いてきた。てっきり、このまま返却するものだと思っていたリアムは、思いがけない言葉に動揺し「えっ?」と聞き返していた。
「この靴、気に入ったんだろ? 初回サービスってことで欲しいんならやるぜ?」
「――所望、だけどリアムは二足も履けない。持って移動もできない」
「そういうことなら、俺が預かっておいてやるよ」
「――承知、感謝する。スニーカー壊れたら、取りに来る」
「そのスニーカーが壊れたらか……つうことは、最短でも五年後ぐらいはかかるな。了解だ、別にこれといってやることもねぇし、嬢ちゃんが取りに来る日を気長に待っておくさ」
「ありがとう、ウェッジ。あと嬢ちゃんじゃない、リアム」
ウェッジは「おっと……そうだったな、リアム」と返事をしつつ、一升瓶の口にキャップを沿わせ一気に押し込むと、まだ酒瓶が占領していないブルーシート上に置いた。両手が開いた途端、今度はどこからともなくダンボール箱を取り出すと、そこにローファーを仕舞った。最後にガムテープで封をして、上面に『リアムのローファー』と油性ペンで書き込んでいた。
「――ウェッジ天才。完璧な仕上がり」
「だろ? じゃ靴の修理として、例のアレ貰っていいか?」
「承知した。前回と同様?」
「おぅ、その一升瓶に入れてくれ」
リアムはポーチからタブレットケースを取り出すと、ウェッジが指定した一升瓶にタブレットを一錠だけ落とした。ウェッジにスニーカーを渡した翌日、靴の修理費は何で支払うのかと質問された際に、彼女はポーチの中身をブルーシートにばら撒いた。そのなかでウェッジが提示したものは、筆記用具でも手帳でもなく、ましてや母親のメガネでもなかった。まさかのタブレットケース、しかもケース丸ごとというわけでもなくて、たったタブレットを一錠だけを要求した。
このタブレットはお母さんが開発した完全栄養食で、一日一錠摂取するだけで人間に必要な栄養素を確保できる。これをウェッジは酒に溶かして飲んでいる。彼曰くこうやって飲むと、二日酔いになるどころか、目覚めの良い朝を迎えられるらしい。靴の修理費としてなぜこのタブレットを選んだのかと、別の日に尋ねたことがある。すると、彼は気恥ずかしそうに「他のは選べねぇよ」と答え仕事を再開した。
リアムがこのタブレットを持ち歩いているのは、お母さんと再会した時に食料として提供するためだ。なので、スニーカーの修理費だとしてもたった一錠だけでも減るのは嫌だったが、旅を続けるなかで、彼女の心境はほんの少しだけ変化していた、それはタブレットばかり摂取していたお母さんに、人間が食べている料理を振る舞ってあげたいと思うようになっていた。そのための手帳でもある、レシピを書き忘れたとしても、相棒のハムスターが記憶しているという安心安全の二段構え。
リアムがタブレットケースをポーチに収納していると、ウェッジが一升瓶の首を持って左右に振りながら「ローファーはどうする?」と聞いてきた。てっきり、このまま返却するものだと思っていたリアムは、思いがけない言葉に動揺し「えっ?」と聞き返していた。
「この靴、気に入ったんだろ? 初回サービスってことで欲しいんならやるぜ?」
「――所望、だけどリアムは二足も履けない。持って移動もできない」
「そういうことなら、俺が預かっておいてやるよ」
「――承知、感謝する。スニーカー壊れたら、取りに来る」
「そのスニーカーが壊れたらか……つうことは、最短でも五年後ぐらいはかかるな。了解だ、別にこれといってやることもねぇし、嬢ちゃんが取りに来る日を気長に待っておくさ」
「ありがとう、ウェッジ。あと嬢ちゃんじゃない、リアム」
ウェッジは「おっと……そうだったな、リアム」と返事をしつつ、一升瓶の口にキャップを沿わせ一気に押し込むと、まだ酒瓶が占領していないブルーシート上に置いた。両手が開いた途端、今度はどこからともなくダンボール箱を取り出すと、そこにローファーを仕舞った。最後にガムテープで封をして、上面に『リアムのローファー』と油性ペンで書き込んでいた。
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